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18禁 BL小説です。主に拷問・凌辱等ハード系。 こういう小説に興味の無い方、嫌悪感がある方はご遠慮ください。サイトマップより一気読み出来ます
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華燭の城 - 140

ガルシアの部屋へ続く廊下を、
オーバストの後ろに並び付く形で、ラウは歩いていた


ガルシアの部屋なら 案内などされずとも知っている

それなのにオーバストはわざわざ 付いて来いと言い
今も無言で前を歩き続けている

そもそも何故、ガルシアが自分を・・・・?


抱く為ならば、自室ではなく 今まで通りあの部屋へ呼ぶだろう・・・・

もし仮にそうだったとしても・・・
では、なぜこの男が一緒にいるのか・・・
どういう事だ・・・・


ラウは胸のざわつきを押さえる事ができなかった





だが、その不穏な予感は
ガルシアの部屋に入ったとほぼ同時に 解けることになった



「連れて参りました」 

オーバストが頭を下げると
ガルシアは 「ご苦労」 とだけ短く返事をし、すぐにラウに向かい


「昨夜は鼠賊(そぞく)のような真似までして
 色々と頑張ったようだな」

いきなりそう言ったのだ




ラウの顔に緊張が走る





昨日の深夜・・・ いや、日付は変わっていたから まだ今朝の事だ・・・
自分が薬品庫に忍び込み、無断で器具や薬を持ち出したことを
ガルシアはもう知っている



「私を・・・ 監視していたのか・・・・?」

ラウの視線が 一緒に部屋に入ったオーバストに・・・
自分の斜め前に立つ男に向く

だがオーバストは素知らぬ顔で、黙って立ち
ガルシアを見たまま、ラウの声に振り返ろうともしない



「オーバスト!・・・・・質問に答えろ!」

ラウが再び声を上げ、その肩に手を伸ばそうとした時

「ワシの城で、ワシが何をしようと自由だ」
ガルシアが言い放った




「オーバスト、お前はもういい、下がれ」

「はっ・・」

「・・・待て!」


ガルシアに一礼し、部屋を出ようとするオーバストを
引き留め様と手を伸ばす
が、ラウの声にも、男はチラと一瞥(いちべつ)しただけで、
背を向けそのまま出て行った






「クッ・・」

ラウが唇を嚙み、そのままガルシアに体を向けた



後(あと)をつけられていた事に 全く気が付かなかったのは自分の失態だ
だが、それでも・・・・

「陛下!
 私を監視とは・・・
 いったいこれは・・・ どういうおつもりなのですか!」

そう言わずには居られなかった




「どういう・・・  ・・か・・・    ・・そうだな・・・」



ガルシアは ラウの目の前まで来ると
いきなり手に持っていた杖を奪い取り
その杖で ラウの肩を思い切り打ち据えた



「・・・・ンッ・・!」


よろめき片膝をついたラウの顔を、杖の先でグイと引き上げる

ガルシアの恐ろしく冷酷な目がじっとラウを見据えていた


「そういう態度だ
 最近の、
 お前の、
 そういう言動が・・・
 どうもシュリに傾倒しているように思えてな
 まさか自分の仕事を忘れた訳では無いだろうなと・・・
 ほんの少し、心配になっただけの事よ
 なぁ、ラウム・・・・
 ここで生き延びる術は、もう嫌と言う程 教えてやったはずだぞ
 もう忘れたか・・・?」



トントンと杖でラウの右足を軽く叩きながら発するその声は
視線とは正反対に、ゾクリとするほど優しかった

その声にラウの表情が強張った




冷たい眼光に射貫かれ抗えず(あらがえず)
ラウはゆっくりと膝を立て直し、ガルシアの前に跪き頭を下げる




「報告もせず・・・・ 勝手な事を・・・致しました・・・・
 ・・・・申し訳ありません・・・」

「判っているなら、それでいい
 ワシとて、まだお前を失いたくはないからな」



ガルシアはそう言うと
今度は杖ではなく 自身の手でラウの顔を上げさせた

そしてそのラウの唇を塞ぐ様に 自分の口を押し付けた



「・・・・っ・・」
ラウが目を閉じる


ガルシアの生温かい舌がラウの口内に滑り込み、
舌を絡ませ、貪る(むさぼる)様に嘗め回す




「・・・んっ・・・・・・・・・・っ・・」

呼吸が出来なくなる程のその動きに
ラウは苦し気な呻きを漏らした

ガルシアはそれを楽しむかの様にラウの舌を追い回していたが
ふいにその唇を解放し、ふぅと溜息を付いた



「このまま抱きたいところだが・・・
 あの小僧が やっと国へ帰る気になった
 一応、帝国皇太子だ
 形だけでも、見送りぐらいはしてやらねばならん」


ガルシアは部屋の大きな柱時計に目をやる


「1時間後だ、正面門にシュリを連れて来い」






華燭の城 - 141 に続く
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華燭の城 - 139

足元で、そっと全裸のシュリの脚を開かせる

その内腿にも同じ傷があった
あの小男がガルシアに渡した針で 同じ様に灼かれた傷


医学書によれば灼かれた傷は比較的、出血は少ないと記されている
だが実際の シュリのこの傷は違う

灼かれたにもかかわらず、血は一向に止まろうとはしない

原因はあの時の薬・・・ 劇薬・・・
あれが使われているであろうこの傷も
このまま放置するわけには行かなかった





「シュリ、もう少しだけ・・・」

そう言うとラウは その白く薄い皮膚の、内腿の傷にもプツ。と針を通す



「・・・ンッァ・・!」

新たな部位での痛みに シュリは再び体を捩った

体を仰け反らせると、
所詮は素人の粗技でしかない縫合したばかりの胸の傷は引き攣り
縛られた悪魔が、これを解け と咆哮する様に
歪(いびつ)な傷が更に歪む



それでも手を止める訳には行かなかった

拘束していない脚を懸命に動かし、
その痛みから無意識に逃れようとするシュリを押さえつけ、針を進めた






窓の外から薄い陽が差し始める頃
ようやくラウはその顔を上げ、力を抜いた
握っていた器具を置いても尚、その手の震えは止まらなかった



「シュリ・・・・ 終わりました・・・」

そう言いながら縛っていた拘束を解き、咥えさせていた布を取ると
シュリは苦し気に一度だけ大きく息を吸い込んだ


血に染まった手を洗い、温めた布でシュリの身体の血と汗を
そっと拭いながら

「・・・ シュリ・・・・申し訳ありません・・・
 全て私が悪いのです
 私が・・・・ もう少し・・・・ もう少し早く・・・・」

ラウは独り言の様に呟き、頭を下げ続けた







「・・・・ 違・・・・ う・・・・・ ラ・・ウ・・・」

シュリの小さな声にラウは顔を上げた


「シュリ・・・・ 
 気が・・・ 付かれたのですね・・・・よかった・・・・」

そっと覗き込む様に顔を寄せる



「お前の・・ せいでは・・・・・・・・ い・・・・
 ・・・・・ガルシアは・・・・
 ・・・いつか・・・・同じ ことを・・・
 ・・・ 今でなくても・・・いつか・・・ 私に・・・・・・・ この印を・・・・
 お前のせいでは・・・・・絶対にない・・・・・」


それだけ言うとシュリは 力尽きた様に目を閉じ深い眠りに落ちていった


その横で、ラウはぐったりと床に座り込んだ
どうしようもない感情が自分の中に渦巻いていた









どこか遠くで扉がノックされる音



その音でラウはゆっくりと頭を上げ、広い部屋を見渡した

時間と場所の感覚がない
ほんのわずかだろうが、座り込んだまま眠っていたのかもしれない



そこはシュリの部屋
宴が始まる前の、酷く荒れた状態のまま・・・

シュリが目を覚まし、これを見たら・・・
その前に片付けなければ・・・・
辛い現実を思い出させる物は 少しでも消しておいてやりたい・・・・

漠然とそんな事を思い、重い体で立ち上がろうとした時だった




再びノックの音で、ラウは完全に目を覚ました




手を伸ばし、椅子に掛けた上着を掴む
内ポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認しながら
少しだけ扉を開けた


シュリの部屋に来る者は限られている
そこにいたのは やはりあのオーバストだった



陽は昇ってはいるが、まだ午前の早い時間
ガルシアがシュリを呼びつける時間ではない



「何か・・・・」

「ラウム、陛下が部屋でお呼びだ」

訝しむ(いぶかしむ)ラウを他所にオーバストはそう言った




「私を・・?」

「ああ、お前をだ、付いて来い」

それだけ言うと踵を返す




「あ・・・おい・・・・」

ラウが言い返す間もなくオーバストはどんどんと廊下を進んでいく




室内を振り返ると、シュリはまだ目を覚ましていない
一晩中、痛みと戦っていたのだ
もう暫くは起きないはずだ・・・・
暖炉の薪も まだ大丈夫だろう・・・
それを素早く確認して、ラウは静かに扉を閉め
オーバストの後を追った






華燭の城 - 140 に続く
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華燭の城 - 138

”もう少し頑張ってください・・・”

そう言ってシュリを部屋に連れ帰ったものの
ラウには処置する手立てが何も無い


大粒の汗をかき、肩で息をしながら苦しむシュリの横で
ラウは自室から運んだ医学書のページを必死に捲っていた


探していたのは、傷の縫合の仕方・・・
その為に必要な器具と後の処置・・・・




それらを一通り頭に叩き込んで、ラウは暖炉に薪を足すと
城内にある薬品庫へと向かった

その手には、以前ガルシアから受け取った倉庫の鍵が
しっかりと握られている





シュリを医師に託すことができないのなら
自分でやるしかない・・・・

ラウはそう覚悟を決めていた




薬品庫には 薬草、薬と一緒に医療用の器具もあるはずだ
以前、城の医師達が それらを持って出て行くのを見た事がある
それを使うつもりだった

だが、いくら薬師といえども、
医者ではない自分が、医療用の器具まで持ち出すのは おかしな話だ
見つかれば怪しまれる・・・



かといって、倉庫番に事情を説明する訳にも行かず、
それならばと、ガルシアに正式な使用許可を求めたところで
また交換条件だのと言い出すことは目に見えていた








足音を忍ばせ、そっと、周囲を伺う様に深夜の薬品庫に忍び寄り
持っていた鍵を大きな錠前に差し込み、ゆっくりと回す

ガチャリ・・・ と低い音を響かせ開いた部屋に倉庫番の姿はない


ホッとしながら小さく息を吐く
そもそもこんな時間なのだ、居なくて当たり前かもしれない・・・

ラウは自分の臆病さに自嘲しながら、目的の物を物色し始めた





誰もいない、深夜の薬品庫

中央の机に大きな金属の箱を置き
そこへ次々と目当ての物を入れていく

医学書にあった縫合用の糸・針、それらを扱う為の器具
消毒液、ガーゼ、包帯、追加の薬を調合するための薬剤、薬草等・・・


持ち出した物は報告しろ。
そう言っていたガルシアの顔が一瞬 脳裏を掠めるが
シュリの事を他に漏らす訳にはいかないのだ

この期に及んで・・・・と 頭を振ってその顔を消し払い
今、考えつくあらゆる物を揃えてラウは倉庫を後にした




こうしている間にもシュリが苦しんでいる・・

・・・もしや、もう・・・・
そんな考えがラウの不自由な足を急がせた








部屋に戻った時、シュリはまだ意識もはっきりとしないまま
蒼白の身体をベッドに横たえていた


その呼吸を確かめ安堵すると、
ラウは部屋にある全ての明かりを集め、傷口を照らす様に並べる

傷を押さえていた血に染まる布も全て取り去った





そしてラウは シュリの耳元に顔を寄せた


「シュリ・・・・ これから傷口を縫合をします
 麻酔の薬草はありますが、この傷に効果があるのか・・・・ 
 正直、私にはわかりません・・・
 お体に・・・・ 針を刺します
 ・・・・この部屋の声は・・・あの部屋とは違い、外に漏れますから
 舌を噛まれない様に、少しだけ我慢してください・・・」


その声に返事をする者はいない
苦し気に、かろうじて浅い息をするシュリが 頷いたのかさえ判らない


それでもラウはシュリの口を開かせ、
そこへ 持ってきた清潔な布を咥えさせると
暴れない様にシュリの腕にも布を巻き、ベッドの脚へと縛り付けた



そして自分も上着を脱ぎシャツの袖を捲り、
持ち帰った本のページを、側に開き並べる

入念に手と器具を消毒し、改めてシュリを見た





灯りで照らされ、全裸で横たわるシュリの身体
今までつけられてきた無数の傷跡

その胸の中央で・・・・斬られ灼かれた あの悪魔の印が
未だにトロトロと血を吐きながら、嗤う(わらう)様にハッキリとそこにあった



目を閉じ、一度大きく深呼吸をする

そして 医学書の図解、その見様見真似で
シュリの胸の傷口に 震える手でプツ。と針を刺した



「・・んンッ・・・・・・!」


シュリの体がビクンと跳ね
思わず手に持ったハサミ様の・・・ 針を挟む道具を落としそうになる


だが縛られているシュリの体は それ以上動く事は無く
その声も、くぐもった呻きにしかならなかった



ラウは噛み締めた唇の端から 細く息を吐くと
ゆっくりとシュリの体に刺した針を引き上げる

人間の体内を貫通していく糸の、ズルズルという不快な感覚を手に感じながら、
自身を落ち着かせる様にしてもう一度、目を閉じた


そして再び深呼吸をし、
意を決した様に シュリの体に針を刺す




「・・ンッッッ・・・!」

シュリの、絞り出す様な悲痛な声にも
ラウの手は もう止まる事はなかった






揺れる明かりの元でどれほど同じ作業を繰り返したのか・・・
胸の糸を結び止め、ラウが顔を上げた時には
閉め切ったカーテンの向こうは、わずかに明るくなっている様だった

そして、シュリの胸の悪魔は 歪(いびつ)ながらも糸で縛られ
ようやく諦めた様に血を吐くことを止めていた


ラウは自分の額の汗をグッと腕で拭うと
そのまま椅子から立ち上がり、ベッドへと上がった






華燭の城 - 139 に続く
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華燭の城 - 137

背中で重い扉が閉まり、広間の喧噪が一瞬で静寂に変わると
シュリの身体はグラリと揺れ、ズルズルと壁に沿う様に倒れ込んだ



「・・・! シュリ・・・!」

咄嗟にラウが横から支え、周囲に目を配る


王族用の廊下は、あの騒ぎの直後と言う事もあって
ヴェルメを引き連れて行ったのだろう
守護の兵も出払っているのか、静まり返っていた



ハァ・・・ 
・・・・ハァ・・・ ・・・・ハァ・・・・

誰もいない廊下で、
肩で激しく息をするシュリの苦しそうな息遣いだけが響く

かろうじて目は薄く開けているものの、その焦点は虚ろで
手も顔も蒼白のままにも関わらず、
その体は服の上から触れただけでも判るほどに熱く
意識の糸も途切れかけている





「シュリ・・・・・ シュリ・・!」

「・・・・呆れた・・・・ 茶番・・・ ・・・だ・・・」

名を呼ぶと、苦しそうなシュリが何かを呟いていた




「シュリ? 何ですか?
 ・・・・私がわかりますか?!」

「・・・ この国の王に・・・  ・・・なりたいだの・・・と・・・・
 ・・・・・・誰が・・・・ ・・・・ンッ・・・・!」

「殿下を救うためです、ご立派でした
 ・・・・・でも今は・・・ もうお話にならないで・・・・
 傷を見せて下さい」




立って居られなくなり、壁に寄りかかり座り込んだシュリの
漆黒の上着のボタンに手を掛けた

「・・・・わるな・・・・」

ボタンに手を掛けるラウの手を、シュリの震える左手が押さえた
 



「・・・ 私に・・・ 触るな・・・・・・」

「・・・・・?
 ・・・何を仰っているのです?
 ・・・・傷を見せて下さい、早くお部屋に・・・・」

シュリはラウの手を押さえたまま、わずかに首を振った




「・・・ ダメだ・・・ ラウ・・・
 もう・・・ これ以上・・ 私に・・・触るな・・・・・
 ・・・・・私の血は・・・ 穢(けが)れている・・・・・・・・
 お前まで・・・・穢れてしまう・・・・・」


「この様な時に 何を馬鹿な事を・・・!
 今、その様な戯言は止めてください
 ・・・・ 失礼します!」


ラウは 押し止めるシュリの、力ない手を振り解き
開けたボタンから服の中へと手を差し入れた


「・・・んっ・・・・・」
シュリが痛みで小さく呻く



その手にヌルリと血の感覚が伝わる
また相当量の出血をしていることは確かだった




「・・・・またこんなに・・・・」

「・・・・もう・・・・ いい・・・・」

「何が良いのですか!
 ジーナ様の為に生きると決められたのではないのですか!?」

「・・・・・・」

「殿下だけを救って、ジーナ様はもうよろしいのですか!?
 お見捨てになりますか!」

「・・・ジーナ・・・・・」

「ご自分の為が嫌なら、ジーナ様の為に生きてください!」




そのままシュリは力尽きた様に ぐったりと目を閉じた

あれほど荒かった呼吸も、もうしているのかどうかさえも
薄暗い廊下では分からない程 弱くなっていた




「くそっ・・・」

ラウは唇を噛むと、自分の上着の内ポケットから小さな小瓶を取り出した
それは宴の前に、シュリの部屋で拾い ねじ込んだ気付け薬の瓶だ

本来なら専用の液で相当量に希釈して用いなければならないその薬の原液を
ラウは躊躇なく自分の口へと含み込んだ


ビリビリと痛みにも似た刺激が口内を襲う
だが、ラウはそんな事で惑いはしなかった




意識のないシュリの顔を上向かせると、
その口を塞ぐ様に唇を重ね、そこから少しずつシュリの口へと送り込んだ


・・・・ シュリ・・・ お願いです・・・飲んで・・・

わずかな量を口移しては、頬や喉に指で刺激を与える
左手をさすり、肩に触れ・・・・ 唇端から零れる薬を指で拭きながら、
ラウはそれを冷たい廊下で幾度も繰り返した


飲み込めなくとも、刺激になれば・・・ わずかでも体内に入れば・・・



小さな瓶の薬も空になりかけた時
シュリの肩が一度だけ大きく上下した


「シュリ・・! いい子です
 もう少し頑張ってください・・・・」


ラウはシュリを抱き上げると足早に部屋へと向かった






華燭の城 - 138 に続く
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華燭の城 - 136

「・・・・連れていけ」


そのシュリの声に、ガルシアが盾に捕まえていた兵の首を突き放すと
兵はよろめきながらも前に出て、
膝をついたヴェルメの腕を 「来い!」 と鷲掴む




数人の兵に腕を取られ、広間からヴェルメの姿が消えると
シュリはクルリと振り返った


そこには・・・ ラウがシュリの前に恭しく跪いていた



シュリは 無言のまま、
ラウの前に 剣を握った左手をスッと差し出す


ラウも黙って一礼すると 跪いたままシュリの手から
親書と剣を受け取った

・・・・正確には・・・
握ったまま 既に開く力さえ無くなったシュリの手から、剣を外し取った



そのままラウは立ち上がり、
シュリの前で一礼すると腰の鞘も手に取る

奉剣を鞘に、親書を筒に・・・ 両手できちんと収め直すと
それらを携えたまま、再びシュリの一歩後ろへと下がり、片膝を付いた




蒼白の美しき気を纏う神の子と、それに寄り添う黒髪の従者

そこまでの一連の無言の行動は 何かの儀式の様に美しく
その場に居た人々は、
神降臨の儀でも見つめるかの様に息を呑んで見つめていた






「よくやった、シュリ」

静まり返る人々の感嘆の息の中に響いたガルシアの声で
広間は氷が解けた様に動き出す



「おおおおおーーー!」

「なんと素晴らしい!!!」

「今、まさに神が降臨されたぞ!」

堰を切った様に 人々から大きな歓声があがる







「殿下、急にご無理を言いました
 親書をお返しします」

シュリがそう言うと、ラウは筒に収め直した親書を両手に乗せ
跪いたまま、頭を下げてそれを差し出した




「いや、シュリ・・・・
 俺・・・・・   私も色々言ったが・・・・
 今、ここでお前の覚悟、ハッキリと見せてもらった
 お前がこの国の王となる事を望んでいるのなら、
 私は何も言うことはない
 出来る限り応援させてもらう
 そして その親書が少しでもお前の役に立つなら
 それはお前の物だ」

ナギはそう言うと、シュリの横にいたガルシアにも視線を移す





「帝国皇帝閣下から預かった親書は、確かに渡したぞ、ガルシア
 これからはシュリと共に 国の繁栄と安泰に力を尽くせ」

「有難きお言葉、肝に銘じます」


ナギの前で ラウから親書を受け取ったガルシアが首を垂れた
それに続きシュリも頭を下げると広間に拍手が沸き起こる

新聞記者のカメラのシャッター音と、フラッシュを焚く光が3人を包み込む







「さてと・・・
 一仕事終わった事だし、私はそろそろ国へ帰るよ、シュリ
 いろいろと世話になったな
 今度はお前が遊びに来い、いつでも歓迎する」

「ありがとうございます・・・」


シュリの方へ向き直ったナギが握手を求め右手を差し出したが、
シュリはそれには全く気付かぬフリで
視界全てが床に覆われるまで深々と頭を下げた



そして、頭を下げたまま
「父上・・・・ 私も少々身なりを整えて参ります
 退出の許可を」

そうガルシアに告げた




「ああ、よかろう」


ガルシアはそう言うと、未だにシュリ達から目を離さず
その一挙手一投足に心を奪われている会場に向かって

「これでナギ殿下とシュリは退場するが、宴はこれからだ!
 皆、思う存分楽しんでくれ!」

親書を手に入れ、目的を達したガルシアが満足の声を上げた






受書という大任を終えた帝国皇太子と
騒乱の場を見事に収めてみせた美しき皇子に
惜しみない賞賛を送ろうと、広間に再び盛大な拍手が巻き起こる




「・・・・・行くぞ、ラウム」

「・・はっ」

ラウムが立ち上がりシュリの後ろに立つと
ナギとウィルも 会場の皆に軽く手を挙げて正面の扉に向かった


出て行く2人を見届け、シュリは反対側にある王族用の扉へと歩き出した
その後を、シュリの剣を持ったラウが続く






 

再び楽団の奏でる音楽が鳴り響き始めた



人々は まだ興奮冷めやらぬ様子で、部屋を出て行くシュリの後ろ姿に見入り
その姿が近衛によって開けられた扉の向こうに消えるまで
熱い眼差しで見つめ続けた


そして姿が見えなくなると今度は満面の笑みで話に興じ
今、目の当たりにしたばかりの美しき皇子の勇敢さと強さ
そしてその行動を 口々に褒め称え続け、宴は再開された






華燭の城 - 137 に続く
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華燭の城 - 135

しかし、退くにも限度があった

ヨロヨロと後退る(あとずさる)ヴェルメは
自分を取り巻く群衆の輪に 背中でドンとぶち当たった



「・・・・・ヒッ・・!」

驚き振り返ったヴェルメが見たのは、まるで自分を罪人の様に・・・・
シュリに差し出す様に、背中を押し返そうとする無数の腕だった



「・・・や・・・・やめろっ・・・・!」



「・・ 父・・・ 上・・・・・・っ・・」


その背中に、今にも泣き出しそうな心細げな息子の声が微かに届いた

聞き間違うはずなど無い
次の王となる誰よりも大事な我が子
自分を 王父 という輝かしい地位に誘う(いざなう) はずの愛しい子・・・
その為だけに育ててきたのだ

ここで終わらせては、今までの苦労が全て水の泡





・・・・・ 剣を握る自分の手を見た

・・・・・ 目の前に居るシュリと ガルシアを見た・・・・



この王に どんな嫌味を言われようが ひたすらに平服し、
媚びを売り、この息子が王座に就く日だけを待ち続けたのだ


なのに・・・   ・・・・どうしてこうなった・・・?


どうして・・・・?





混乱の中で ヴェルメは再び奇声と共に剣を振り上げていた


しかしその剣は空で止まり、斬る付ける事はおろか
下げる事も出来はしなかった


腕を振り上げたままのヴェルメの鼻先に
シュリの剣が突きつけられていた




「・・・クッ・・・・・・!」

身を固めたまま動けなくなったヴェルメの目前で
シュリは左手の剣を、今度は払う様に 鋭く横に薙いだ(ないだ)



斬られる・・・・!


ヴェルメは  「ヒィ・・」 と小さく息を吸い
肩をすくめ、強く目を閉じた





だが、いくら歯を食い縛り 待っていても
斬られる痛みは一向に襲って来ない



・・・そっと片目を開けた


その目の前に・・・
シュリの左手に 剣と共に握られていた親書が開かれていた





「ヴェルメ、よく聞け
 これは皇帝閣下からの親書だ
 ここに次期王はこの私、シュリ・バルド=ランフォードだと書いてある
 閣下は私をお認めになったのだ
 私がどこで生まれ、育とうと関係は無い
 お前一人が認めずとも・・・・
 誰が、どんな異を唱えようとも・・・ これはもう覆される事はない
 抗う事の出来ない事実だ
 この剣に、次に名を刻まれるのは私だ」

シュリが今どんな気持ちでこの言葉を告げているのか・・・
ラウがグッと目を閉じる


ヴェルメの目にも、鼻先に突きつけられた剣に刻まれた歴代王 9名の名と
親書に大きく押された帝国の王印がハッキリと見えていた




「お前が・・・ あの日ここで
 父王ガルシアにどんな仕打ちを受けたのか、私も知っている
 ・・・だが、お前も爵位を得る程に 一度は父から信頼を受けた身
 ならば、その爵位に恥じる行いは控えろ」



シュリの低く響く声には
何人(なんびと)にも有無を言わせぬ強さと迫力があった


その声の主は自分の息子よりも・・・・
今、人垣の後ろで震えている息子よりも まだ年下なのだ




これが、一国の王となるべく・・・
いや、神となるべくして生まれた男の天賦・・・



それを改めて思い知った時、ヴェルメの振り上げていた腕が下がり
握っていた剣が カランと乾いた音を立てて床に転がった

震えていた膝は力なくガクンと折れ
シュリの前に崩れ落ちる様に跪く






「ヴェルメ、しばらく自邸で謹慎し、頭を冷やせ
 そしてこれからも 変わらぬ忠誠を誓え
 これは命令だ、いいな?
 ・・・・父上も・・・ これでよろしいですね」



ヴェルメの頭が
ゼンマイ仕掛けの人形の様に、何度も上下にコクコクと動き
ガルシアはそんなヴェルメを見下ろしながら、傲然(ごうぜん)と頷いた






華燭の城 - 136 に続く
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華燭の城 - 134

剣を抜き、全身から氷の如き冷たい気を纏うシュリの姿に
近くに居た人の垣が割れた


ざわめいていた場内は 湖面に落ちた波紋の様に
シュリの周囲から急速に静まり返っていく


その波を追いかけるようにして
シュリの前にザッ・・ と道が開く



その光景は あの旧約聖書に描かれた一場面の様で
その姿はあまりにも美しく、神々しくさえ見えていた






人々の息を呑む音まで聞こえてきそうな静寂の中を
シュリのコツコツという靴音だけが響く

シュリはそのまま・・・・ 兵を盾にするガルシアさえ見ることなく
真っ直ぐにヴェルメの前へと歩み出た





既に鞘から抜かれた抜き身の剣を持ち、
自分の前に現れたシュリを見て ヴェルメの身体がビクンと震える


「・・シ・・・・ シュリ・・・・・
 ・・・・・・ぁぁあああ・・・・・・ゥゥわあああーーー!!!!!」


ガルシアに睨まれ続けていたヴェルメの精神は
そのシュリの姿に、堰き止めていたモノが一気に崩壊した様に
叫びとも、呻きとも判らない奇声をあげた



「く・・・ 来るな・・・こっちに・・来るな・・・ 
 ・・・・来るなぁぁああーー!!!
 ・・・ガルシアを殺すぞーーーーー!」


そして再び剣を振り上げ、
盾にされた兵共々、元凶であるガルシアを斬り捨てんと飛び掛かった



「うぁあああ!! 死ねー!!ガルシアーー!」



キャア!!!と再び広間に悲鳴が響く








・・・・・カンッ!



だがそれは、一度の高い金属音と共に、
簡単にシュリの剣で去なされて(いなされて)いた


「・・・なっ・・・!!!」

ヴェルメはグッと唇を嚙んで 正面に立つシュリを見た

自分を見る ひどく冷たい、それでいて高貴な視線・・・・
背中に冷水を浴びた様にゾクリと寒気が走り、
真っ赤だった顔が一気に青ざめていく




ヴェルメは居竦まり(いすくまり)そうになりながら
思わず後ろを振り返る・・・

そこには人垣に隠れる様にして 
ガタガタと身を震わせながらも自分を見ている愛しい息子の姿があった


・・・・父上・・・・・・

両手を握り締め、祈る様にしながら自分を見ている・・・
その姿を見たヴェルメは、今にも千切れそうな心臓を押さえ込む様に
剣を握る拳に 再び力を込める
そして意を決した様に 再びガルシアに向け斬り掛かった

・・・・今更、引けなかった



・・・カンッ!
・・・・・カンッ・・!
・・・・・・・・ カンッ!


2度・・・ 3度・・・


だが、それら全てが同じ音と共に 同じ結果となり
空を斬るだけで終わっていく



「ほう・・・」

ガルシアは盾にした兵を手放すことなく、
自分を庇う(かばう)様に剣を振い続けるシュリの姿を見て
ニヤリと笑った








シュリには、このヴェルメの剣・・・
子供が力任せに振り回す程度の無法の剣など
遊び相手にもならなかった

持っているのが真剣ではなく、奉剣の模造であったとしても
それが立っているのさえ苦しい今の状態であっても・・・・

幼い頃から修練し、身体に沁みついた剣だった

右手が使えない事も・・・・ そもそも双剣を振るうシュリは
左右どちらも利き手であり、この程度の相手ならば影響などあるはずもない





簡単に捌かれ続ける自分の剣に 驚いた様にヴェルメは目を見開くと
そのまま一歩後ずさる



それをシュリが一歩追い詰める






怒りにのみ支配されていたヴェルメの中で
今、はっきりと 恐怖という名の感情が大きくなっていく

余りに冷たいそのシュリの気に 自らが喰われて行く感覚・・・
それを自身の中で認識した途端、
ヴェルメにはもう 判断というものは出来なくなっていた



「シュ・・・・ シュリ・・・・・・お前が・・・
 ・・・お前さえ来なければ良かったんだ・・・!
 美味い所だけを、横から掻っさらいやがって!! 
 クソっーー!
 ・・・・・お前さえ・・・・  ・・・お前さえ・・・・・!!
 ・・・・・・許さん!!!」



そう叫んだ時だった




「・・・ヴェルメ、控えろ、無礼だぞ」




シュリの凛と響く低い声
自分を見つめる血の気の無い冷たい視線に
ヴェルメはハッと口を噤む(つぐむ)
そして首を振りながら もう一歩・・・ 二歩・・・・と後退った






華燭の城 - 135 に続く
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華燭の城 - 133

「お前の息子が王だと?
 笑わせるな」


「う、うるさいのは・・・・ お前だガルシア!
 この国で生まれ育った者にこそ この国の王となる資格がある!
 あんな他国の皇子など・・・・
 この国の事を何も知らないシュリなど・・・・
 横からいきなり現れて、次期王だと!?
 そんな事、絶対に認めんぞ!
 ・・・我が息子こそ 王に相応しいのだ!」


「どこで生まれようが、お前の出来損ないの息子に、
 王の資格など微塵もあるものか」


「なんだと・・・・っ!!!!」



ぐっと唇を噛み締め、ガルシアを睨んだままのヴェルメの顔が
髪と同じ銅赤になった

剣を握った腕が高く振り上がる



と、その瞬間 ガルシアの腕も動いていた


目の前に居た自兵を捕まえ、
グイと盾にして自分の前に突き出したのだ




「へ・・っっ・・! 陛下っ・・・!!?」

いきなり首根を捕まれ 人間盾にされた兵の、悲鳴にも似た声が上がった





「こ、この卑怯者め!
 ・・・・それがお前の本性だ!!」

振り上げた剣を下ろす事も出来ないまま、ヴェルメが叫ぶ



「うるさい、王を守るのが兵の役目だ」

鼻で笑うガルシアとヴェルメは、その兵を挟んで睨み合った








「おい、どうなってるんだ・・・」

シュリを見つけ、ゆっくりと歩み寄ってきたナギが
小さな声で囁いた


だがその質問にシュリは答えなかった


睨み合ったまま膠着(こうちゃく)状態に入った二人と
盾にされている兵を 真っ直ぐに見ながら
代わりにただ一言 
「殿下、親書を持って来て下さい」 と、それだけをナギに告げた




「え・・・  あ・・・・ああ、わかった」

いつもとは明らかに違うシュリの冷たい声に ナギは何も聞き返せず
後ろのヴィルに無言で頷いた







ヴィルが親書の筒を持って 再び広間に戻って来た時もまだ
ガルシア達の睨み合いは続いていた




「シュリ、持ってきたぞ」

「失礼します」

ラウがナギの差し出す親書の入った筒を
シュリの代わりに両手で恭しく(うやうやしく)受け取る

そして筒を開け、中の親書を取り出すと シュリの耳元で囁いた




「シュリ・・・・ 親書が来ました・・」

シュリはそのラウの声にだけ頷くと

「ラウ・・・
 剣を・・・ 私の左手に握らせてくれ」 そう呟いた




「何をなさるつもりですか・・・・ そのお身体では・・・・」

言いかけて、すぐ後ろにいるナギ達に気づき、言葉を飲み込んだ




「・・・・早くしろ・・・  まだ私が歩けるうちに・・・・」

そう言うシュリの鬼気迫る声にラウも逆らう事ができなかった




「判りました・・・ 失礼致します」

それだけを言うとラウはシュリの正面に立ち、
左腰に携えられていた剣をスラリと抜き取った

王位継承の奉剣・・・・
その刃部分には、この国の歴代王の名が刻まれている
いわば模造の剣だ

その剣を跪いたラウが、シュリの左手にしっかりと握らせる







「お・・・・ おい・・・・ シュリ・・・・何を・・・
 ・・・・ 相手は真剣だぞ・・・・」

「俺が行こう・・・!」

驚いたナギに続き、
ヴィルが咄嗟に自分の腰の剣に手を添え一歩前へ出た




「申し訳ないですが・・・・ 足手纏いです・・・・
 ・・・・それにこれは・・・ 次期王たる私の仕事・・・・」


「しかし、シュリ殿!」


食い下がるヴィルの申し出も、困惑するナギの制止の声も
ラウが無言のまま、小さく首を振って止めさせる





「・・・・ 親書も持たせてくれ・・・」

そのシュリの指示で ラウは丸められたままの親書を
剣を握るシュリの左手親指に握らせ、
書の端に付いていた紙止めの房を小指に巻き付けた



「これでよろしいですか? 絶対に落とさない様に」

その声にシュリは小さく頷くと、剣を握る左手を口元へ持って行き
小指に巻かれた房の端を唇で噛むと、キッ・・と更に引き締めた

そして顔を上げ、未だ睨み合うガルシアの元へゆっくりと歩き出した






華燭の城 - 134 に続く
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華燭の城 - 132

立食形式の宴で 給仕係が人波を華麗にすり抜け
高価な酒を惜しみなく振る舞い、豪華な料理を配っていた

専属の楽団が2階スペースから
優雅な曲を繰り返し奏で、雰囲気を盛り上げる


ガルシアとシュリの入場により広間には歓声が上がり
益々熱気を帯びた




その人混みの中で、シュリは今にも倒れそうな身体と必死に戦っていた

人々の話し声が、ひどく遠くに聞こえる

意識を失わなかったのは、あの胸の印と脚の痛みがあったからだ
一歩、歩く度に、激痛はシュリを襲った

その痛みで、意識は身体から離れることはなく
また現実へと引き戻されていた






遠くに聞こえていた人々の声が一段と大きくなった

「殿下のお出ましだ!」


・・・殿下・・・
・・・・ナギ・・・・

親書を・・・ 受け取らなければ・・・・


何か策があるわけでもない
そんな事を考える余裕もない・・・・

ただ受け取らなければ、
ナギを国に帰す事ができないという意識だけはハッキリとあった
そして、ジーナの命さえも・・・・


殿下の側へ・・・・ 無意識下でそう思った時だった



ザワッ・・・ と今までとは異なる周囲の騒めきに
シュリは立ち止った






霞む視界の先、大きな広間の中で
その騒めきの中心が何であるのかはよくわからない

だがそれは入り口の扉付近
そこで誰かが一際大きく 喚いて(わめいて)いる声がしていた




「・・・・て来い!!
 ・・・ガルシア!! ・・・・よくも私・・・・!
 何十年お前に・・・・
 ・・・・とめんぞ! 絶対に認めん!!」



その異様な声に シュリはゆっくりと扉へと近付いていった

「シュリ・・・・」
その後を慌ててラウも追う




騒ぎに近付くにつれ、次第に大きくなったその奇声は
シュリの耳にも届くようになっていた

そしてその声には 聞き覚えがあった

それは以前の宴の席で、
ガルシアに罵倒されたあの赤毛の官吏、ヴェルメの声だ





「ガルシア! よく聞け!
 この国の後継者は我が息子だ!
 そのために私は 何十年もお前に仕え、息子にも教育をしてきたのだ!
 それをあのような恥ずかしめ・・・・
 私は絶対にお前を許さん!!
 ・・・・シュリも認めん!!
 この国の10代目王は絶対に我が息子だ!!
 文句がある奴は出て来い! ここで斬り殺してやる!!」


キャアーと来賓の女性達の悲鳴が上がったのは
本当に剣を抜いたのだろう



途端にザザザッ・・・ と人が逃げ動く足音と共に、
広間にぽっかりと空間が開く



その空間の中央で あの赤毛のヴェルメが
右手に剣を握り、ブンブンと力任せに振り回しているのが
シュリの目にも見える様になっていた

酒にでも酔っているのか、足取りもかなりおぼつかない

止めようとする守衛兵達も、
その剣の、余りにも闇雲な無秩序さになかなか手出し出来ず
振り回される切っ先に誤って触れぬ様
ただ遠巻きに取り囲み様子を伺うのみだ






「うるさいぞ!!」

その騒ぎを一喝したのは、ガルシアだった



一瞬で広間が静まり返る




「またお前か・・・」

ガルシアはシュリの横を抜け、歩み出ると
ヴェルメを取り囲む兵の手前で立ち止った






華燭の城 - 133 に続く
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華燭の城 - 131

上着を取りに戻ったラウが シュリの部屋で見たのは驚く光景だった


「・・・・  これは・・・・・・」
一瞬 茫然と立ち尽くす


乱れたシーツ、割れたグラス・・・
枕元に置いてあった薬品の箱は床に転がり、物が散乱している

ベッド横の床には 無造作に捨て置かれた血の付着した包帯・・・・
自分が巻いた物だ・・・

交換用に置いてあった新しい包帯は、
バラバラに解け床に転がっている



ご自分で取り替えたのか・・・


あの動かない手で、宴の途中に出血しないよう
きっと自らの身体をギリギリと締め上げたに違いない


シュリがあの体で・・・
たった1人で 重い正装に着替えを済ませるのに
どれ程の体力を必要としたのか・・・・
この部屋を見ればその壮絶さは一目瞭然だった


シュリ・・・ 


ラウは怒りさえ覚えながら ベッド脇の上着を掴み広間へ戻ろうとした





その時、ラウの視界の端に
クシャクシャになった白い紙が落ちているのが入った


これは・・・・・

指で拾い上げる




それはあの薬湯を粉にした薬を包んでいた紙だった
それがいくつも捨てられている


まさか・・・・・・


慌てて転がった床の箱を拾い上げた
中にあった瓶も、あの薬の包みも、何一つ残っていない
全てが空になっている



まさか・・・ あの量を全部一度に飲んだと言うのか・・・・!


床に転がり 水のわずかに残るグラスと空になった水差しが
それが真実だと教えていた



馬鹿な・・・!!!
なんて無茶を・・・・・!!



ラウはバラバラに転がった薬の中から小指程の瓶を拾うと
それをポケットに捻じ込んで大広間へと踵(きびす)を返した








廊下で待つガルシア達の元に戻って来たラウは
シュリの顔を見るなり、その両肩を正面から強く掴んでいた


「シュリ! あれはいったい何なのです!!
 なんて無茶をされたのです!!」

だがその声に シュリは黙って下を向き目を閉じたまま
返事をしようともしない




「・・・・シュリっ!!」

ラウの取り乱した様子に、
戻って来ていた側近達が不信そうに顔を見合わせ
何事かと囁き合う


ガルシアは そんなラウに視線だけを向けると
細い目で見下ろし、小さく呟いた


「ラウム、うるさいぞ、たかがあの程度の事
 本人は大丈夫だと言っている」

「たかが・・・・  ・・・陛下、あれがどんなに・・・・・!」

「・・・ ラウ・・・ 黙れ・・・・」


声を荒げるラウに 
肩を掴まれたままのシュリの静かな声が届いた



「・・・ シュリ・・・っ!」

「ラウ・・・・ 無茶だとわかっているなら・・・・・・ 
 ・・・これ以上・・・  体力を使わせるな
 ・・・・・私が行かなければ・・・・ ナギは殺される」 



これから始まる長丁場・・・・ 
親書を手に入れるまで、終わる事はない宴・・・
その為に少しでも体力は温存しておきたかった
そして目的を達成しなければ、
帝国皇太子は生きてこの城からは出られないのだ・・・


立っているだけで足が震える
呼吸をするだけで傷が激しく痛み、意識が飛びそうになる

ここで ラウと言い争っている余力など もう残ってはいない



「・・・・クッ・・!」

ラウは悲痛な表情のまま小さく頭を下げた

「・・・も・・・ 申し訳ありません・・・
 出過ぎた事を ・・・・・ お許しください・・・・」


シュリの肩を掴んでいた手が 名残惜しそうに引かれる
宙で一瞬、指が迷うように動きかけたが
その拳はグッと 空だけを掴みゆっくりと下された





そんな2人をガルシアは 冷たく見ていた
そして 側に居たオーバストの耳に、顔を寄せて呟いた


「暫く・・・ ラウムも監視しろ」


ガルシアの脳裏に、
あの石牢で自分の鞭音に身を震わせたラウムの姿が蘇る
幼少から、あれだけ仕込んだのだ
問題は無いはずだが・・・・


「ラウム・・・ですか?」

「ああ、そうだ」

「承知致しました」




短く小さなやり取りのあと、ガルシアは シュリを見て鼻で嗤った

「・・・フンッ・・・・ 痴話喧嘩は終わったか?
 時間だ、行くぞ」


選ばれた数人の側近と、シュリ、ラウを従えたガルシアの声で 扉は開かれた
楽団が一層、華やかな音楽を響かせる






華燭の城 - 132 に続く
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華燭の城 - 130

驚き振り返ったラウの方へ向かって、シュリが歩いて来ていた
その姿にラウは息を呑んだ



オーバストが持って来ていたあの正装を ピシリと身に付けている


漆黒の正装の左手に、あの継承の剣を握り
左肩の銀の勲章を留め金にして純白のストールが腰まで流れる

そのストールの中で 
シュリは右腕で腹を押さえる様にして傷口を塞いでいるのだろうか・・・
腫れ上がっていた右手も上手く隠し
外からは全く 窺い(うかがい)知る事は出来ない

右肩と胸に揺れる 国旗と同じ文様を象った金銀の飾りや勲章・・・
それらが一段暗い廊下であっても、わずかな光を集め
蒼白のシュリの顔が 一層美しく際立っていた







「・・・・シュリっ! 何をしているのです!
 そんな体で・・・・!!
 ・・・・無理です! まだ動いてはいけません!
 傷が塞がっていないのですよ!」



まだ血が止まらないというのに、あれほど重い服を・・・・・!
・・・・無茶だ!




思わず駆け寄ろうとしたラウに、シュリの左手がスッと動いた

無言のまま、継承の剣を握り
その剣先をラウの右肩に突き付けたのだ


「・・・・・・!」

ラウの表情が変る
ハッと身を硬くした後、すぐにその場で足を止め
突き付けられた右肩の剣に操られる様に、片膝を付き
シュリの前に跪いた
そのまま静かに頭を垂れ、右手を左胸に当てて最礼を尽くす


それは、鞘に収めたままとはいえ、
我の前に服従し忠誠を誓え・・・・という
主たる者が臣下に対し行う儀礼だった






そんなラウを見下ろしたまま

「ラウ、お前にそんな事を頼んだ覚えはない
 勝手な真似をするな」

シュリの低く冷たい声が飛んだ



下を向いたままのラウの体がビクンと震えた
あの体でこんな声が出るはずがないのだ・・・・・


「・・・・・シュリ・・・・ 様・・・・・
 ・・・・・申し訳・・・ございません・・・・・」



「・・・ほう? 大丈夫そうではないか?
 死ぬだの なんだのと・・・・ 大袈裟に言っていたが・・・・」

ガルシアは現れたシュリの美しい姿を舐める様に眺め
満足そうに頷いた



「ガルシア・・・・ 
 ・・・ 今のラウの話は無しだ
 約束は・・・ 弟の約束は、必ず守ってもらう・・・・・・」

シュリがラウから ガルシアに顔を向ける




「あぁ、よかろう
 お前が出て来たのなら何も問題はない 
 その代り・・・ 今日は必ずあの親書を手に入れろ
 何としてもだ・・・
 出来ない場合は・・・・・」


「・・・わかっている・・・・・・・・」


ラウムを跪かせたままのシュリを見ながら ガルシアがニヤリと笑い
「ではそろそろ行こうか」  と、その視線が扉へと移る





「シュリ・・・様っ・・・!
 ・・・・待ってください・・・・!!!」

無言で頷き、ガルシアと共に広間へ入って行こうとするシュリを
ラウが引き留め叫んだ

跪いたまま、悲痛な表情で手を伸ばす 



「・・・・・・行ってはいけません・・・・ シュリ様・・・・
 ・・・・その御身体では・・・ 無理です・・・・!」

そのラウの声に、小さく振り返ったシュリの額には
既に大粒の汗が浮かんでいる




「うるさいぞ!ラウム!!
 本人が大丈夫だと言っているのだ! 引っ込んでいろ!」


「では・・・・! ・・・では私も中へご一緒させて下さい!」



いつも宴の時は廊下で控えているラウが叫んだ



「この様な大事な場で、皇子に従者が居ても何の差支えもないはず!
 それに・・・・ 
 シュリ様の御体を知る私が側に居た方が、もしもの時は・・・・ 
 もし・・・・ 
 途中で倒れられでもしたら、困るのは陛下ではないのですか!」


その気迫にガルシアが 「ふん・・」 とラウを睨み付けた




「よかろう・・・・ 今夜だけ特別に許可する
 10分だけ待ってやる、着替えて来い!」


「は、はいっ・・・・・・・   シュリ様・・・暫くお待ちを・・・」




ラウは、傷口を押さえる様にして壁に寄りかかり、
必死に立つシュリの方を見て一礼すると
杖をつきながら廊下へと消えて行った






華燭の城 - 131 に続く
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華燭の城 - 129

「遅いぞ! ラウム!!! 何をしていた!」

側近を脇に押し退け、ガルシアが怒鳴った



ラウは ガルシアをじっと見つめたまま側まで来ると 
小さな声で 「お人払いを・・・」 そう告げた

「んん・・!?」


一緒に居るはずのシュリの姿が無い事に怪訝そうなガルシアが
顎を杓って(しゃくって) 側近達に離れる様に促すと
側近達も怒りの矛先をラウが引き受けたのを幸いに 
そそくさとその場を離れて行く

そしてガルシアは、一人残ったオーバストにも 視線で「行け」と告げた








誰も居なくなり、静まり返った廊下で
ラウはいきなり杖を床に置き、ガルシアの前に跪いた


「陛下・・・・! 今のシュリ様に宴など無理です!」

「・・・何だと?」

足元のラウを見下ろしながらガルシアが怠そうに首を傾げる




「シュリ様は・・・・ 
 昨夜の責めで未だ意識もハッキリとせず・・・・
 起きる上がる事も出来ません
 そればかりか出血が止まらず・・・・・・」


「おい、ラウム ・・・・何を言っている?
 お前は薬に詳しいのだろう?
 それを なんとかするのが・・・・・・ 
 ・・・・・   ・・・お前の、仕事だろうがっ!」


全てを言い終わる前に
ガツッ! と ガルシアの足がラウの腹を蹴り上げた



「ンッ・・・!・・・・・・・・
 ・・・・・・・・しかしっ!!」

腹を押さえたまま ラウが食い下がる


「・・・・しかし!
 私には外科の知識も技術もなく・・・・
 あのシュリ様の傷を塞ぐ手立てがありません!
 ・・・・医師を・・・!
 お願いです、陛下!
 どうか医師を呼んでください!! このままでは・・・・・」


「このままでは・・・ 何だ? 
 死ぬとでもいうのか?」


ガルシアが 頭を下げ続けるラウの顔を、横からジロリと覗き込んだ







「・・・・・・・・・・悪くすれば・・・・ それも・・・・・・」

ラウがボソリと答える


「・・・・・・っ・・」

そのラウの力無い声に、ガルシアはギリ・・・ と唇を噛むと
床をガン!と足で踏み鳴らした



「・・・・あれが死ぬだと!?
 その様な勝手な事は、絶対に許さんっ!」


「でしたら陛下! ・・・・すぐに医師を!
 本当にこのままでは危険なのです!!
 今、こうしている間にも・・・・  ・・・もしやの事が・・・・・
 ・・・・ そうなれば・・・ 
 ・・・もう親書も手に入らなくなるのですよ!」


「・・・・・・っ・・!!」


”親書が手に入らない”  ラウの放った最後の切り札に
ガルシアは 悔し気に顔を歪ませる

怒りのぶつけ所を探す様に そのまま苛々と周囲を見渡し
つま先だけを激しく上下させ、カツカツと忙しく床を蹴った

が、いくら思い巡らせても、自分の望む答えは出てこない





「くそっ! ・・・・・・・好きにしろ!」

怒りが思考を超えていた


「医師でも何でも呼んで、この宴だけはなんとかしろ!
 引き摺ってでも ここにシュリを連れて来い!
 ・・・・このワシが 皆の前で二度も恥を掻くなど・・・・・!
 ・・・いいか!!!
 この受書の式だけは何としても行う!
 何があっても! 必ず今夜中に親書を手に入れる!!」


「あ・・・・  ・・・ありがとうございます!」


深々と頭を下げるラウの耳には
もう宴や親書の事など入っていなかった

ガルシアの許しを得て、シュリを医師に診せる事が出来る・・・
これでシュリを救えるかもしれない・・・・ ただそれだけだった

緊張で強張っていた肩が すっと落ちる



「・・・では、すぐに・・!」

立ち上がろうとするラウに ガルシアが思い立った様に言葉を重ねた



「ああ!! ・・・・そうだ! ラウム!
 例のー・・・・・
 シュリの弟の所へ行かせるはずの医師がいたな?
 あれにしろ! 
 あれなら口も堅いし、優秀なのだろう?
 その代わり弟の所は無しだ!
 これは元々、取引きだったのだからな? 異存は無いな!?」

そう言うと酷薄な嗤いを浮かべた


「そんな・・・・」

ラウは反論しかけたが、後に続く言葉は出てこなかった

異国の弟皇子とシュリ・・・・
どちらか一方しか助けられないのなら・・・・





「・・・・わかりました・・・・ すぐに手配を・・・・・」


頭を下げ、そう言いかけた時・・・・




「・・・・ラウ! 勝手な事は許さん!」

廊下の奥から凛とした声が響いた






華燭の城 - 130 に続く
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華燭の城 - 128

ナギは再び黒雲に覆われた空を 貴賓室の大窓から見上げていた

何か考え事をしているのか、もう1時間以上も一向に動かない主に
ヴィルはとうとう痺れを切らし、声をかけた



「おい、どうした?」

「・・・ ああ・・・なぁ、ヴィル・・・・
 昨日の馬駆けだが 何か気が付かなかったか?」

「何かと言われてもなぁ・・・・ 
 お前が居なくなった騒動で 何も考える暇など無かったが?」

「ああ・・・・っと・・・」



墓穴を掘ったと言わんばかりに、ナギが居心地悪そうに視線を泳がす


「冗談だ
 ・・・・で? 気が付いた事って何だ?
 何が引っかかっているのか判ったのか?」




以前はただぼんやりと おかしい、とだけ言い
肝心な ”何か” が判らないと言っていたナギだった


「ああ、なんとなくだが・・・・ 1つ不思議に思う事があって・・・
 それをお前に調べて欲しい」


そう言うとナギは手招きをして ヴィルを近くへ呼んだ
この部屋には二人しか居なかったが、
それでも大きな声で話すのは憚られる(はばかられる)気分だった


「何でも言ってくれ」

手近にあった椅子を一つ掴み、ナギの横へ置くと
ヴィルは、窓枠に頬杖をついたままの主へ顔を向けた


「1つは・・・・・」

囁く様に指示を出すと、ヴィルは大きく頷いた




「あともう1つ・・・・ お前が、以前 言っていたガルシアの・・・・・」

「・・・わかった、直ぐに行って来よう」

ヴィルが座っていた椅子から腰を上げる




「・・・いや、今夜はまた宴があるそうだ
 俺も招待を受けている
 絶対に出てこいと・・・な・・・
 だから調べるのは、それが終わってからでいい」

「ナギ!」


聞くや否や、ヴィルがいきなり大声を上げた


「あのな!
 ”絶対に出てこい” は招待とは言わないぞ!?
 それは ”命令” って言うんだ!
 くそガルシアめ!
 帝国皇太子を何だと思っている!」

ヴィルが怒りを露わにし、立ち上がったばかりの椅子を蹴り上げた


そんなヴィルを見ながら
ナギはクスリと笑い、再び視線を窓の外へと向けた















夕刻間近、
城の大広間は既に千は超えるであろう人々で賑わっていた




「今日はまた、豪勢だな! いつも凄いが今日はいったい!」

官吏の1人が 普段に増して一層豪華な広間で感嘆の声を上げる


側にいた者が 喧噪に負けじと大声で 「お前、知らないのか!?」 と
興奮気味な顔を更に紅潮させ、優越の表情で笑った


「今日はとうとう 帝国閣下の親書が
 我が陛下へ渡される、受書の式が執り行われるのだぞ!」

「前回は引き延ばしになったが、今夜は必ずだそうだ」

「これで我が国はまた一歩、帝国との絆を深める訳だ!!
 今まではただデカイだけの国などと 陰口を叩く近隣の国もあったが
 これからはそうはさせんぞ!
 この国に仕える官吏としての我らの地位も一層上がる!」

「おおっ!そうだったのか! 
 それで今宵は外国からの客人も、新聞記者も一際多いのか!」

「そうよ! 我が国の力を見せつけなければな!」


そんな話題に どこからともなく歓声も上がる


「さすが我が陛下! 万歳だ!」








歓喜に湧く大広間の外
王族用の入り口前の廊下で入場の時を待つガルシアは
喜ぶ官吏達とは逆に ひどく苛立っていた


床をカツカツと踏む靴音が 途切れることなく、忙し(せわし)なく響き渡る
これは気分を害している時や、考え事・・・・
中でも特に負の気の時に見せるガルシアの癖だ



「おいっ!!! シュリはまだか!!!!」

近くに控えていた側近に 掴みかからんばかりに大声を上げた


その声に側近達の多くが慌てて頭を下げる中

「確かに 午後、お伝えししました
 ですが、ナギ殿下もまだお見えになっておりませんし、
 暫くの時間の猶予はあるかと・・・・・・・・・」

冷静に答えたのはオーバストだ



「・・・・イライラさせおって!!」






その時、廊下の奥からコツコツと杖音をさせ
現れたのはラウだった






華燭の城 - 129 に続く
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華燭の城 - 127

午後近くになった頃、部屋の扉がノックされた


その音にラウは、シュリを起こさない様にそっと扉へ歩み寄り

「・・・・誰だ?」
扉を開けないまま 中から小さく返事をした


「ラウム、居たのか
 シュリ様へ届け物だ、扉を開けろ」

その声はオーバストだった





ラウは仕方なく鍵を外すと 扉をわずかに開け
その隙間から するりと抜ける様に廊下へ出た


ガラスが割れ、血の付いた布が散乱する荒れた部屋
そこで未だ苦し気に 浅い呼吸を繰り返す瀕死のシュリの姿を
見られるわけにはいかなかった





「・・・・どうしたラウム、そんな恰好で」

皇子の世話をするというのに上着も着ず
シャツの袖を肘まで捲り上げたその姿・・・

いつも隙なく、端然(たんぜん)としているラウにしては珍しく
疲れ切ったその姿に、オーバストは怪訝な表情を見せた



「・・・・ 今・・・・ 少し片付け物をしていた」

ラウが袖元を直しながら答える




「そうか・・・
 今日の正装だ
 今夜の宴は 受書の式が行われる大事な宴だからな
 これを召すようにと陛下の命令だ」

そう言って両手に載せた大きな盆の様な物をラウに手渡そうとする


杖を付くラウが一瞬 その杖の始末に戸惑った



「・・・ 俺が中へ運ぶ」

オーバストが盆を渡さずに一歩前へ出るのを見て 
ラウは慌ててそれを体で止めた


「いや・・・・ 大丈夫だ・・・ 私が・・・」
杖を壁に立てかけ、両手を差し出した


「大丈夫なのか? かなり重いぞ? 落すなよ?」



盆には大きな白い布が掛けられていたが 
その端から 王位継承の証、奉剣の鞘がわずかに覗いている

他にも 勲章の類も多く入っているのだろう
動かすとわずかに金属同士がぶつかり合う音がする盆はズッシリと重い




それを両腕で受け取り
「今、忙しいので・・・・」 と中へ戻ろうとするラウを

「ああ・・・ そういえば・・・・」
オーバストが引き留めた




「今朝はシュリ様の朝食も 取りに行ってないらしいな?
 そんなに忙しいのか?」

男の目が 何かを探るように鋭く光る






側近の仕事は多様にあった

ガルシアの身の安全を守る兵としての勤めは最優先だが
それ以外にも 城の全てに・・・
ウラのウラ・・・ まで目を行き届かせることも重要な仕事だった


多くの者が働くこの城
とりわけ地下・・・・ 最下層と呼ばれる場所では
いつ不満分子が現れないとも限らない


そうなった時、
それらがクーデターなどを起こす前に、完全に始末する
そして 常より、皆がガルシアへの忠誠心を持っているかどうか
それを密かに監視しているのだ


その為には地下の噂話なども、重要な要素となる
今朝はシュリの朝食が届けられていない事も、そこで耳にしたのだろう






「今朝は・・・・・ 私の作った料理をお出しした
 ・・・シュリ様のご要望だ」

「料理だと?」
その答えに オ-バストは呆れた様にフンッ・・ と鼻を鳴らした



「食事まで作るとは、お前もすっかり気に入られたものだな
 使用人の身分で皇子付にまで成り上がるとは・・・ 
 権力など全く意に介せぬ様な涼しい顔をしておきながら・・・・
 ・・・・いったい何を武器にしたんだ・・・?」


オーバストの目が ラウの姿を上から下まで舐める様に動く
だが今のラウは、その程度の嫌味など 取り合う気にもなれなかった
端から聞いてもいない


全く動じもせず、顔色一つ変えないラウに
オーバストは挑発するのを諦めたのか、肩をすくめた


「・・・ まぁいい・・・
 宴は夕刻だ、絶対に遅れるな」

そう言って背を向けた 







部屋に入り 背中で扉を閉めると、渡された盆をテーブルに置き
ラウは大きく息をついた
オーバストの言葉にではない

部屋の最奥・・・・ ベッドの上のシュリだった

呼吸は少しはマシになったとは言え、まだ大粒の汗を浮かべ、
痛みに耐えながら苦しんでいる


側へ寄り、跪くとそっと汗を拭った
体に巻かれた包帯には また血が滲み出していた




多くの薬をまとめた箱を手元に引き寄せ
包帯を外し、また止血の作業を始める・・・・

だが幾度 繰り返しても、傷は塞がる様子を見せなかった






こんな状態で宴など・・・・・・・・
両拳で床を叩きつけた






華燭の城 - 128 に続く
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華燭の城 - 126

「・・・シュリっ!!?」



どこか遠くで ラウの叫ぶ声が聞こえた気がした


「・・・ラ・・・・・・・ウ・・・
 ・・・・・・・ラウ・・・・・・・・・・」



医学書と薬を抱えて戻ったラウが見たのは壮絶な光景だった

鏡の前で膝立ちになり、
ゆっくりとこちらへ振り返ったシュリの胸には
ガラスの破片が無数に突き刺さっている


「シュリっ! ・・・いったい何を!!!」


駆け寄るラウの目の前で、
シュリはゆっくりと血溜まりの中に倒れ込んだ








抱き起こされるとシュリは、ラウを嫌がり、拒否する様に必死に抵抗した
胸の出血が酷くなり 脇腹を伝った血が床の血溜まりを大きくしていく

それでも 何か言葉にならない声をわずかに発しながら
全てを拒否するかの様に 激しく首を振り続けた




「離・・・せ・・・ 
 ・・・・・・ 離・・・  ・・・・ラ・・ウ・・・・
 ・・・・悪魔が・・・
 ・・・・・・魔が・・・私の・・・・中に・・・・」


「シュリ・・・・ いけません! シュリ!
 力を抜いて! 血が止まらなくなります!
 大人しくしてください!
 死んでしまいます!」


「・・・・・ いい・・・
 もう・・・私は・・・・・・・・ない・・・・
 魔に・・・・     ・・・要らない・・・・・触る・・・な・・・・ラウ・・・・」


「シュリ!何を言うのです!!
 死ぬおつもりですか!!!
 貴方がそんな事を言って・・・  ジーナ様はどうなるのです!」



止まらない血を掌で押さえながら、ラウの悲痛な叫びが響く



「・・・・ ジーナ・・・・・・」
 
それだけを呟き、次第にシュリの顔は蒼白になった

ラウの体を押し退け様としていた手からも 力が失われていく





「・・・シュリ! しっかりしてください! 
 医者を・・・・・・!
 誰か! 医者を・・・・・!  
 ・・・・・  頼む・・・・・・・・誰か・・・・・・・・・早く・・・・」


だが 叫ぶラウの声も徐々に小さくなった

現実的に考えて、この様な皇子の姿を 他の者に診せる訳にはいかないのだ





ラウはグッと唇を噛むと、
気を失ったのか、動かなくなったシュリを抱きかかえ、再びベッドへ運ぶと
部屋から持ってきた数種の薬を取り出し、
ベッドの横に医学書と一緒に重ね置いた


そして明かりを引き寄せ・・・・ 思わず眉根を寄せた



そこに照らし出されたシュリの体は酷い有様だった

ガルシアに刻まれた印の中に 
シュリが自ら握ったガラスが無残に突き刺さり、
粉々になった破片は口を開けた傷の中で 血と混交し呑み込まれている



「クッ・・・」
ラウは部屋を見回し立ち上がると、
食事の準備をする為の棚から数本のフォークを掴み取った

今、ここに専用の器具など何も在りはしないのだ
手に入る物でやるしかなかった・・・・






シュリの横に椅子を引き、念入りにフォークを消毒する
そして、それを・・・・ 傷の中に突き入れた・・・



「ンッ・・・・・・・・!!!ンッッァッ……・・・・・・・・・・・・・・・!!!」


意識も薄いはずのシュリの体が
痛みに反応しビクンと震え、身を捩り暴れる

そんなシュリを押さえつけたまま、大きな破片を抉り(えぐり)出していく
細かい物はガーゼを切る為の細いハサミで探り、摘み取る



それを繰り返し、見えるだけのガラスの破片を
やっとの思いで取り出した

だが、ラウに出来るのはその程度だった


薬の知識はあるものの、
医師ではないラウにはこの傷を直接 塞ぐ手立てがない

自分には圧倒的に 医学の・・・・外科の知識が足りなさすぎる・・・・
湧く様に増えていく出血を見ながら そう思い知らされ
ラウは悔しさに拳が白くなる程 握り締めた







それでも、シュリの命を諦める訳にはいかなかった


顔を上げると、ベッド横のあの箱が目に入る
あの、いつもの薬・・・・
あれならば、少しはこの痛みを和らげてやれるかもしれない・・・
だが・・・ もうあれは使えない・・・・
既に、容量を遥かに越えているのだ・・・


ラウは持って来た薬瓶から
痛み止めや 止血作用のある錠剤を数種、選び出した

自分の口内でカリカリと噛み砕いた後、わずかな水を含み
シュリの顎に指を添え、蒼白の唇を小さく開けさせると
そこへ口移しで落とし込む


「・・・ッ・・・・・・・・ゴホッ・・・・・・・・」

小さく咳き込みシュリの喉が動く・・・

「少しでも効いてくれれば・・・・」





シュリの横で額の汗を拭いながら、
ラウは柔らかいガーゼで傷を押さえ続けた

全裸のまま 何も纏う事の出来ないシュリの体温が下がらぬ様に
暖炉の火を焚き続け、その作業は一晩中繰り返された

だがそれはすぐに鮮血に染まる



連日の様にガルシアの責めを受けたシュリの身体は酷く弱っていた
体力が落ちているところでのこの仕打ちは 
精神共に深く傷つけたに違いない



「主よ・・・・ どうかシュリを・・・・・・・ この神の子を・・・・」

ラウの祈りと共に空が白む頃
ようやくシュリの呼吸は静かになっていった






華燭の城 -127 に続く
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華燭の城 - 125

精神が崩壊しそうな程の叫びを上げながら
シュリは何度も自分の胸に斬り付けた

「・・・ンッ・・・・・・ッ!!!
 ・・・・・!!!   ・・・・・・・・・ンッッ!!!!」


あの神儀の双剣で 百鬼を切り裂いて来たのと同じ様に
忌々しいこの印を・・・ その印に巣食う魔を消滅させる為に・・・




感覚はあった
胸にも左手にも、確かに手ごたえはあった

だが、不思議と痛みは感じない


・・・ どう  ・・・して・・・・・ 
 
・・・・・・・何故・・・・・


そう呟きながら、シュリは痛みを感じないまま
何度もそのガラスを自分の体に突き立てる


・・・なぜだ・・・


この程度のガラスでは この悪魔には傷も付けられないのか・・・
あの、自分の双剣でなければ、無理なのか・・・


いや・・・ 
違う・・・・
ガルシアに穢された(けがされた)この自分の身体では
もうそれさえも出来ないのだ・・・・



・・くそっ・・・・ッ・・・!!



床に飛び散る自分の血を漠然と見つめながら
シュリは全て流れ出てしまえば良い・・・そう思った



穢れた(けがれた)血など要らない・・・・
穢れた魔の血は、他の者をも巻き込んでいく・・・・

自分が魔に堕ちたのなら・・・
もうその存在はあってはならない・・・

印が消えないなら、自分ごと消えてしまわなければ・・・・



塞がった喉で叫びながら、何度も何度も斬り付け続けた












自室へ戻ったラウは、必死に医学書を探していた

あの時、ガルシアは 「劇薬を出せ」 と確かにそう言った・・・・


劇薬・・・・・
もちろんラウも薬師だ
劇薬と呼ばれる物の事は知っている

薬について学んだ時も、
その危険性については幾度も繰り返し教わった

人体に対し非常に高い脅威を持つ薬、
その取扱い、保存には最大限の注意を要する・・・
もし皮膚に付着した場合は、すぐに清潔な布で拭き、水で洗い流す

・・・・だが、流して良い物といけない物がある・・・
中には水と反応し、更に酷い損傷を負わせる物もある・・・・


部屋に連れ帰ったシュリの傷・・・・
あの苦しみ様から、傷の中には まだ薬があり、浸潤し続けている事は確かだ
だが、それをラウが洗い流せなかった理由がそれだった





先に 使用された物が何なのか・・・・それを特定しなくては・・・・
それさえ判れば、対処できる方法があるかもしれないのだ

だが、あの時使われていたのは無色、匂いも無かった・・・
どんなに記憶を引き出しても、あの石牢での記憶はそれだけだ



勿論、探す書物の中には 不明な薬物の判別方も書いてある
だがそれらのほとんどは、
『鑑定したい薬品を数本の清潔なガラス皿に取り分け
 判別専用の薬剤と混合させて後、その反応の変化と速度、色を見て・・・』
・・・・等と書き連ねてある



既に人体に使われた薬を、たった2つの情報だけで知る方法など
どこにも書いてはいなかった



どうすればいいんだっ・・・・・!!!


小さな本棚を上から下までひっくり返し
隣の薬品部屋でも、ありとあらゆる書物を物色し尽くした後
ラウは苛立ち、思わず机を拳で叩きつけていた

机上の薬瓶が音を立てて倒れ転がる






「おい、ラウ・・・ 戻ってるのかー?
 たまに戻ったと思えば、真夜中だぞ
 眠れないだろーー・・・頼むから静かにしてくれ・・・」


壁が薄い使用人部屋で 隣の部屋の男の声がした


「・・・すまない・・・
 少し探し物をしている・・・・すぐ終わる・・・・・・」


唇を嚙み、そう返事をしながらも気持は焦るばかりだった
乱雑に倒れた薬瓶の事など気にしている余裕はない・・・・

だが、1本の小瓶だけは別だった

褐色の液体の入った瓶に目を留め 
その小瓶を指で持ち上げ、電灯にかざす・・・・

中の液体はもう残り少ない

改めて その量の少なさを実感して思わず目を逸らした


が、それも一瞬だった
今は 何を置いてもシュリを助けるのが先決なのだ・・・
今、こうしている間にもシュリが・・・


そっと瓶を机に置き直し、
自らの感傷を追い出す様に大きく息を吐いた






ダメだ・・・
こんな小さな自室の本棚では
目指す専門の高度な医学書など見つからない

薬を特定出来る要素も少なすぎる・・・
他にシュリを救える方法は・・・



ラウは治療に必要と思われる薬瓶を何本か選ぶと
コートのポケットに捻じ込み部屋を出た
杖を付きながらも焦る思いで使用人棟から公用の館へと入る

官吏達の執務室が入るこの館・・・・
その長い廊下はシンと静まり返り、人の気配さえない


左右にズラリと並ぶ扉の中の1つで足を止めたラウは
ギィ・・ と押し開けた
入った場所は、ベッドと執務机があるだけの部屋だった

が、その壁には一面に・・・ さながら図書館のごとく分厚い本が並んでいる




その中から記憶だけを頼りに、目当ての医学書を選び出す
ゆっくり読んでいる暇はない


片腕に抱えられるだけ抱え、ラウはシュリの部屋へと向かった






華燭の城 - 126 に続く
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華燭の城 - 124

暖かな陽気だった一日が終わり、
また外は 風が出てきたのだろうか・・・
鉄格子の外で、カタカタと音がし始めていた


だが、どれ程 時間が経っても痛みが薄れるという事はなかった

それに加えて度々襲う痙攣・・・・
体中の傷から、トロトロと流れていく生温かい感触

それが自分の血であるとシュリは判っていた
それが流れ続けるという事は・・・・
まだ自分は生きているのか・・・・ そう思った


いつまでも続く、この灼け付く痛みはあの薬のせい・・・・
そして、あの時見た自分の体・・・・
ガルシアにやられた・・・・ あれは・・・・



シュリの脳裏に 幼い頃の記憶が蘇る・・・・


あれは・・・ 父王に手を引かれ、連れて行かれた教会の小部屋・・・
厳重に保管された一冊の書物・・・・
まだ文字さえよく判らなかったが、父はそれを開いてこう言った


シュリ・・・ 
これは、神と対極に在る物・・・・
信仰在る者は・・・・・ 決してこれに触れてはならない・・・・
だがお前は神の子・・・
その使命を果たすために・・・・ ・・・・一度だけ見せておく・・・
・・・・しかし、これから先は如何なる事があっても・・・
これに近寄ってはいけない・・・・
これはおぞましき物・・・・
不浄にて禁忌たる物・・・・
これは・・・ 悪魔の印・・・


朦朧とする意識の中で、懐かしい父の声が途切れ途切れに聞こえ
取り留めない霧が渾沌と渦巻く


その時、シュリは耳元にラウの声を聞いた

幻聴、幻覚ではない、実際のラウの声だった



「シュリ・・・・ 部屋に薬を取りに行ってきます
 すぐに戻りますから・・・・」




静かに扉が閉まる音がすると
シュリは現実世界でゆっくりと目を開けた・・・・






「・・・っツッ・・・・・ぁああああっ・・・!」

途端に襲う激しい痛みに思わず声を上げた
それは残夢に似た偽りの世界ではなく、現実の激痛だった
あの石牢で受けた時のまま、体中が灼け付く鋭い熱い痛みだ

仰向けのまま身を捩り、胸を押さえた
ラウが巻いてくれたのか 包帯らしき布の手触り・・・



・・・・・夢・・・・・ ではない・・・・・・


そう覚醒した瞬間に
シュリはハッと目を見開き、渾身の力で体を起こした



再び裂けるような激痛が襲う

「ンンッッ・・・・・・・・・・・っ・・・・」

そのままうつ伏せに倒れそうになる体を
咄嗟に腕を付き、その身を支えた


右手の骨は砕けていた


「・・ンくッッ・・・っっ!」

思わず右手を押さえ、その痛みに耐えながら体の向きを変え
ベッドから降りようと脚を伸ばす

太腿に灼き付けられた傷がビリと裂ける


それでもシュリは立ちあがった
シュリにはどうしても確かめなくてはいけない事があった



胸を左手で押さえ、脚を引きずり、
一歩一歩、部屋の壁に向かって進む

右手は動く気配さえなく、ダランと垂れたままだ


途中でガシャンと音がしたのは、
テーブルの上のグラスでも落としたのだろうか・・・


ようやく壁にはめ込まれた天井まで届く大きな鏡の前に立った時には
痛みで再び意識が朦朧とし始めていた



力の入らない手で ラウの巻いた血の滲む包帯を解いた



そして、ハラハラと床へ落ちて行く包帯の下から現れた自分の身体に・・・・
鏡の中の自分の体に、シュリは絶句した




あの時見たのは やはり現実だった・・・



灼けた鉄針が押し当てられ
それがゆっくりと肉を削ぎ、垂らされた薬が灼き広げ描いた形


聖なる十字架が、天地逆にされた逆十字・・・・
そして、それを中心にして
左右に広がる様に引かれた 幾筋もの折れた直線

複雑に入り組んだ線が 
一見、鳥が大きく羽を広げた様にも見える

今もまだ陰惨な傷口から赤い血を流し続けるそれは
余りにも 禍々(まがまが)しく、シュリを嘲笑う・・・・

それが 今、自分の胸一杯に・・・ ハッキリと目の前にあった




「・・・・・・召魔・・・滅神の・・・・・ 印・・・・・・・・」



文字通り、悪魔を信仰し・・・・
悪魔召喚を目論む(もくろむ)者に聖印として崇められる印
それだけに留まらず、神を否定し、その滅びをも願う印
そう呼ばれる印が、くっきりと自分の胸に灼き付けられていた



信仰ある者は、悪魔崇拝のシンボルとされていたこの印を
目にしただけで恐れ慄き(おののき)、それがどんな偶然であったとしても、
全く意図せぬ事故であったとしても、
その様な物と関わりを持ってしまうに至った自分を責め
それが故に地に平伏し神に許しを乞うた


まして身に付けるなど
神へのあからさまな冒涜・裏切り・反逆以外の何ものでもなかった


それほど人々を恐怖に陥れ、絶対に許されない忌物たるその印が
今、自分の胸に灼き付いている


それは 神国の皇子、神の子として生きてきたシュリには
万死に値する罪だった







「・・・・・・ガルシア・・・・・ッーーーー!!!!!」


叫んだつもりだったが、まともに声は出ていなかったかもしれない
激しい痛みと乱心で喉が塞がれていた

呼吸が出来なくなった

苦しさに思わず胸を鷲掴んだ
灼かれた傷が 頭の先まで雷土の様な激痛を起こす



立って居られなくなり、そのままガクンと床へ膝を付く・・・
痛む右手指に何かが触れた

それは自分が落としたグラスの小さな破片

無意識にシュリは それを左手で握り取っていた





そのままグッと尖ったガラス片を握り締め その悪魔の印へ・・・
自分の胸の中央へと突き立て、薙ぎ払う様に手を引いた


「・・・・・・・・・・ンッッツァアアアアアァアアアアアッ・・・・!!!」






華燭の城 - 125 に続く
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華燭の城 - 123

自室のベッドの上にそっと横たえられると

「・・・っ・・・・・・」
シュリは痛みにだけ反応し、小さな呻き声をあげた


そんなシュリの横に跪き、
「申し訳・・・・・ ありません・・・・・・」
ラウは目を閉じると唇を噛む・・
 

そっと手を取ろうとしたが、腫れ上がったシュリの右手は痛々しく
それさえも叶わない




ラウは大粒の汗を額に滲ませるシュリの横にイスを引き、
明かりを手元に、傷口からまだ止まることのない血を拭う


「・・ッンッァ・・・・・」

傷に触れる度にシュリは首を振って嫌がった


「我慢して下さい 
 今は血を止めなければ・・・・・・・・」

そう言い、押さえた胸の傷の上で
ラウがふと手を止め俯いた(うつむいた)



「こんな、残酷な・・・・」

ラウの瞳から涙が零れ落ちる 






「・・・ラ・・ ・ウ・・・・」
 
シュリが薄っすらと目を開けていた


まだ何かを言いかけるが 乾いた喉では、声を出すことも困難なのか 
再び目を閉じ、苦しそうに肩で息をする



「シュリ・・・・・ 気が付きましたか・・・・・
 ・・・・今、お話しは・・・・
 これを・・・ 血を止める薬です・・・
 これを飲んで・・・・・・ 口を開けて・・・」


ラウはシュリの頭の下に腕を差し入れ、
わずかに顔だけを持ち上げる様に抱き起こすと、その唇にそっと指で触れた

その細い指に促される様に シュリが目を閉じたまま、
わずかに口を開く



ラウがその唇端から、小さな水差しに溶かした薬をわずかに流し入れると
シュリの喉がコクンと上下に動いた

だが、水差しが離れても、シュリの唇は無意識なのか
まだまだ・・・・・と水を欲しがり小さく口をあける



ラウはその姿に、不安を覚え手を止めた

体の血も体液も、おおよそ水分といえる物が減っているのだろう・・・・
だからこんなにも・・・・と、思う

だが、このまま水を与えて良いものか・・・

医学的に効果が証明された物ならば問題無いかもしれない
だが、今ここにあるのはただの水だ・・・

水だけを与え、ショック症状を引き起こしてしまったら
自分だけではどうにもならない

出血が止まらないまま、不確かな自分の考えだけで
シュリの命を危険にさらす訳にはいかなかった



「辛抱してください・・・」

ラウはそう言いながら水差しを引き、傷口を押さえ続けた

だがその間も、シュリの白い身体は小刻みに震え、
まるで痛みを振り解くかのように首を振る



あの液体はまだこの傷の中に残り、シュリの体内を犯し続け
ゆっくりと組織を破壊しているのだろう・・・
シュリはずっと呻き続けている

薬品を洗い流す・・・・
そうも考えたが、ラウはそこで再び手を止め拳を握り締めた





高熱で浅い呼吸を繰り返し
何処にもぶつける事の出来ない苦しさを
シュリはただシーツを握り締め耐えていた



「シュリ・・・・・」


血は一向に止まらない
ジワジワと滲むように布に浸み出て来る血と体液を見ながら、
何も出来ない自分に苛立ち、ラウは思わずシュリの頭を抱き締めた




そのラウの腕の中で、シュリがわずかに顔を巡らせた

「・・・な・・・ に・・・・・」

ハァハァと肩で息をしながらも、フッと笑って見せる
その左手はまだ 強くシーツを握り締めたままだ





「シュリ・・・・無理をしなくていい・・・・ 
 私の前で 強がらなくていい・・・・」

額にかかる髪をそっと指で上げ、
唯一傷の無い、美しいままの顔を指で撫でた


その指にシュリは 悲しい表情を浮かべ、静かに目を閉じた




・・・・・・・んっ・・・・!

直後、激しい痙攣がシュリを襲う
呼吸もままならい窒息しそうな苦しさの中で
シュリは何故か、ぼんやりと考えていた


わずか半日前に見た光景


鳥がさえずり、森の木々が風に揺れる・・・・
草花が咲き、陽に輝く美しい滝と湖・・・・・

それは懐かしい故郷・・・
大好きだった神国の風景と重なっていく・・・・




神国が・・・・・ 





遠い・・・・・・・・・・ と・・






華燭の城 - 124 に続く
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華燭の城 - 122

暫くすると
「どうだ? 上手く出来たと思わんか?」

ガルシアは 後ろの小男へ振り返り、満足げに片唇を上げ笑った


「神の子の体に、この印・・・・ 面白い趣向だろう?
 もし この姿のシュリが戦さに出たとしたらどうだ?
 ・・・・ もう誰も手を出せぬぞ」


「・・・・それは素晴らしい!
 そこまでお考えとは・・・・!」 




人体の内部を劇薬で直に灼くという惨状・・・
それを目の当たりにし
最初は戸惑い、顔を引き攣らせ見ていた小男


下手をすれば死ぬのではないか・・・
皇子を殺してしまっては、自分もその咎(とが)を負わされるのでは・・・

そう思い、内心 恐怖に震えていた

が、そのシュリが、まだ生きて痛みに喘いでいる事に安堵したのと同時に
その痛々しい姿に・・・・・
今まで自分が行ってきた拷問とは全く桁違いの責めに
未だかつて味わったことの無い、抗えない程の興奮を覚えはじめていた

爛々と目を輝かせ、妖しく笑みガルシアに応えながらも
その手は、既に自身の猛りを押さえきれず、衣服の中で動いている




「このシュリ様の体は、”最強にして最悪の武器” となった訳ですな」


「ああ、そういう事だ
 聞けば北方に、地下の資源が豊かな小国があるらしいではないか
 手始めに、そこでも落としてみるか」


「さすがは陛下
 これだけ傷み、灼き付ければ、この印はもう一生消えぬ枷(かせ)
 ならば、そう使われるのが シュリ様も喜ばれましょう
 親愛なる陛下の為に、自らの体を活かす事が出来るのですからな
 ・・・・しかし・・・ 
 小国などと言わず、この際・・・・・
 帝国を・・・・ というのは如何でしょう?
 ・・・・ガルシア ”閣下” ・・・・」



ガルシアは 小男の媚びた返事を聞くと
「お前の口車などに、ワシが乗るものか・・・」 
言葉ではそう言いながらも、満更(まんざら)でもない様子で
フンと鼻で笑い、そのままシュリへと向き直った





「さて、これで仕上げだ
 どうせ、その手では当分無理だろうが・・・」

そう言うとグイとシュリの脚を開かせ、持ち上げる
露わになった内腿に、真っ赤な針を押し当てた

胸や背中より柔らかく薄いその白い皮膚は
いとも簡単にビリビリと灼き切れる



「ンッ・・・・・っっ・・・」
シュリの叫びは小さくなっていた

あまりの激痛に意識を失いかけていた



目の前で行われる暴虐を直視出来ず、ずっと下を向いていたラウは
そのシュリの小さな呻きに顔を上げた

薄暗い石牢の天井から吊るされたシュリの体・・・
釜の炎に炙られる様に映されるその体にあった物に
ラウは絶句したように言葉を詰まらせる




「これで当分、自慢の馬にも乗れまい・・・
 ・・・どうした? もう声は出ないか? ・・・終わりか?」

ガルシアは シュリの顎を掴み顔を覗き込むと
もう一度、逆脚の・・・
その開かれた内腿から脚の付け根へと灼熱の針を押しつけた



「ンッぁ・・・・・・・・グッ・・っ・・」

閉じかかっていたシュリの瞳が一度だけ見開き
ガルシアを睨む様に小さく呻いたまま・・・・ ガクンと頭を垂れた





「ふん、気を失ったか・・・まぁいい
 今日はオモシロイ物が出来たしな」

そう満足気に言うと、台の脚に繋がれたままのラウの横に
その手枷のカギを放り投げた




「ラウム、明日の宴の受書の件、
 絶対に忘れるなとシュリに言い聞かせておけ
 もし出来なければ、あの小僧の命は保障しないとな」


「陛下、そのような面倒なことはなさらず
 今夜にでも、こっそり殺(や)ってしまえばよろしいのに
 そうすれば親書など簡単に・・・」


そう小男が冗談めかすのを 
ガルシアは豪快に笑い飛ばした



「一国の王ともなれば、いろいろ気苦労も絶えぬのだ
 お前の様に、身軽に好き勝手出来る者には判らぬだろうが
 ”王” は何かと大変なのだぞ?
 まぁ、明日になれば親書はワシの物だ」




悠々たる笑い声を残し ガルシアと小男が部屋を出て行くと
ラウは床に投げられたカギに手を伸ばした

それを拾い、自分の手枷を外し
気を失ったまま吊るされているシュリへと 脚を引き摺りながら這いずった




そしてゆっくりと滑車を下げ、
グッタリと床に倒れ込んだその傷だらけのシュリの身体を
台の下にあった白い布でそっと包み込む様に抱き寄せた



「・・・・こんな・・・・ なんという惨い(むごい)事を・・・・
 ・・・・・シュリ・・・・・・・・・・」


ラウが呼び掛けても、頬に触れても、シュリは何の反応も示さなかった




ラウはそのまま、気を失ったシュリを抱き
部屋を出て廊下を歩き始める

蹴り上げられた古傷が痛む
杖が使えず、足を引きずる為にゆっくりしか進む事が出来ない

その間にも シュリを包んだ白い布は 見る見るうちに血に染まっていく





「・・・シュリ、頑張ってください・・・・・」 

ラウはそう話しかけ続けたが、シュリの返事は無く
どんどんと冷たくなっていく体に、意識さえもない様子だ




近付くラウの足音に、
あの黒の扉番がいつもの様に その扉を開けながら振り返った

そして その異様な姿にゴクリと息を呑む・・・

グッタリと蒼白の顔をした皇子が、大量の血に染まった布に包まれている
それはまるで死人だ・・・



「・・・・シュリ・・・・様・・・・・」 
思わず無言の掟を忘れ呟いていた


その声にラウも顔を上げる

「すまない・・・・ 廊下を汚した
 後で片付けておいてくれ・・・・・」  

すれ違い様、そう告げた


そのラウの足元・・・・
布からわずかに覗くシュリの足先から 床に血が滴っていた





「・・・・承知・・・ しました」

2人は掠れた声でゆっくりと頭を下げた






華燭の城 - 123 に続く
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華燭の城 - 121

既に灼き開かれていた傷の中から、煙様の白い気体が立ちのぼり
人間の体組織が灼ける匂いがする


直に触れれば、皮膚をも灼くとも言っていたあの液体だ

薬を手渡した小男でさえも
原液をそのまま使うというその光景は初めてだったのだろう
顔が恐怖に引き攣り歪んでいる

だが、ガルシアは笑っていた
その手が止まる事はない・・・





「・・・・・ンンッンンン”っっーーーー!!!!!」

シュリはガラガラと激しい滑車の音をさせ身を捩った
頭を振り、身を反らせて、その薬と針から逃れようと・・・

だが、それは痛みを増すだけで、
ガルシアの狂気から逃れる事は出来なかった


ジュ・・・ と同じ音を立て
2本目の針が再びシュリの傷だらけの体に押し当てられ
すかさず、そこへ劇薬が垂れ落とされる






「んんっッっ!!!! ・・・・ンァアアアア”ッッ!!!」


鞭で裂かれた皮膚を、再び灼かれる痛み
その中に垂らされた薬で、自分の体が崩れ溶けていく感覚・・・・・
耐え切れず シュリが叫ぶ

その声に ガルシアは嬉しそうに微笑んだ




「いい声だ、もっと鳴け・・・・・
 痛みに泣き叫ぶ神の声を聞かせろ
 ・・・・・ 助けて下さいと言ってみろ・・・・!」

「・・・ ンンっ”っ!!・・・・・・・・・ァアアアアアアッッ・・!!」


言葉など出はしない・・・
ただ痛みを振り払う様に、シュリの悲痛な叫びだけが響き続ける







温度が下がり、針の赤が薄れると、
ガルシアはシュリの体を灼いた針を小男に戻す
それと交換するように、
小男からまた新たな灼熱の針がガルシアに手渡された
そしてまた、薬が内部を灼いていく


その交換の僅かな間、
薄っすらと目を開けたシュリの顎を掴み、ガルシアが顔を寄せた



「・・・痛いか?
 だが本当の苦しみは これからだぞ・・・・シュリ
 お前の望みが全て神にあると言うなら・・・・
 二度と ”神” などと 口に出来ぬ体にしてやる」


たった今、男が釜から抜き出し
手渡されたばかりの真っ赤に灼けた針を シュリの目の前に示した




「・・・・何を・・・・・  ・・・や・・・やめっ・・・・・」

シュリが首を振る
今以上の何か・・・・・
その恐怖から逃れようとした

だがそれは、虚しい抵抗に過ぎなかった



笑いながら押し当てられた灼熱の針、
それがガルシアの手の先でゆっくりと・・・・
何かの形を描く様に 幾筋もの線を引き始める

その引かれた線に沿って、更に内部に薬が垂らされ
傷は大きく口を開けた





「ンッ!ンッ・・・・!! 
 ・・・・・・・・・ンッッ!!!!・・・
 ・・っンぁ・・あああああっっっーーーーーっっ”!!!!!」



「どうだ? 苦しいか?
 これが 見えているか?
 ワシからの贈り物だ
 神の子である お前に相応しく(ふさわしく)、
 本来なら その身に 十字を刻んでやりたいところだが・・・・
 あいにくとワシは神など信じてはおらん
 神か悪魔・・・・
 どちらかに決めよと言われれば、ワシは悪魔を選ぶ」


 


次々と手渡される巨大な針

ジリジリと 自分の身体を灼きながら動いていくそれが
何を描いているのか・・・・・
シュリには全て見えていた
それが意味する事も・・・・・・





「・・・な・・・・何を・・・・・っ・・・・!!
 ・・・・・・・ や・・・ やめろ・・・・・ ガルシア!! 
 ・・・やめろっっー!!!」


シュリはわずかに床に触れる足先で 必死に身体を捩った
激しく首を振る度、ギシギシと身体が揺れ、その手にも体重が掛かる
だが、その引かれて行く線・・・ 
自分の体に刻み込まれていくものへの恐怖に
折られた右手の痛みなど、もう判らなくなっていた





「ガルシア・・・・! ・・・・やめろっっ!!!・・・・・・・
 ・・・・・・・・!やめっ・・・・・・・!!!」


だが ガルシアの手は一度も止まる事はなかった
幾筋もの直線・・・
複雑に交差する線と線が描き出すもの・・・

それがシュリの傷だらけの胸にハッキリと灼き付けられて行く





そのシュリの壮絶な叫びに、台に繋がれたままのラウが顔を上げる



「陛下・・・・・・」

わずかに首を振った



「いけません・・・・ 陛下・・・ それは・・・・・・・」
小さく声が震えた






華燭の城 - 122 に続く
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華燭の城 - 120

痛みで収縮しきった身体を内部から裂かれ
その傷を、ガルシアのモノが激しく搔き貫いていく



「やはり・・・ んっ・・・ お前の身体は素晴らしいな・・・・
 痛みを与えれば与える程・・・・・
 強く締めつけ・・・・ 絡み付いてくる・・・・ んっんっ・・・・  
 ・・・・・ もっとだ・・・・・・・・・・ シュリっ・・・・・・」


苦痛に身を捩るシュリの体を、武骨な手で撫で回しながら
ガルシアの動きが激しくなる



片脚を抱え上げられたままの不安定な体勢で
自身の体重と、ガルシアの起こす振動とを全て被る手は
吊るされたまま 既に腫れ上がり、何の感覚も無い

あるのは ”破壊” と表現するに相応しい千切れる程の
身体の激痛だけだった




「ン”ッッーーーー・・・・・・・!!!」

歯を食いしばり、顔を振り嫌がり呻くシュリを弄び(もてあそび)ながら
ガルシアは満悦の表情で抽挿を繰り返す

釜の薪が爆ぜる音と、シュリの呻き声、
ガルシアの息遣いと湿った音だけが狭い室内に充満する







「・・・陛下、そろそろこちらも・・・ 出来た様ですよ」

その石牢に小男の嬉しそうな声が響いた


「・・・・出来たか」 

ガルシアは 男の声を聞くと

「さあ、シュリ・・・ 遊びは終わりだ・・・・」 

自らが砕いたシュリの右手に自分の両手を重ね
上から潰す様にして思い切り握り込んだ





「ッン”ァァッッッーーー!!!」

「・・っぁ・・・ 
 ・・・ぁぁ・・・・  いいぞ・・・・ シュリ・・・ その調子だ・・・
 ・・・・・もっと叫べ・・・・・
 もっと痛み、苦しんでワシを愉しませろ・・・」


痛みに敏感に反応するシュリの体内に、ガルシアはニヤリと嗤う


自分を犯すモノから逃れようと暴れるシュリの中で
無理矢理に突き挿れたモノの動きが、早さを増した






「ぁぁぁ・・・・  ・・でるっ・・!」
短い歓喜の声と同時に、ガルシアが最奥まで突き上げ
シュリの身体が硬直する




そのままドクドクと大量の精を吐き出し、
体内で脈動していたガルシアのモノが ヌルリと引き出されると、
シュリはもう自身の脚で立つ力も無く
吊られた腕だけで体を支え、頭を垂れたまま必死で息をした


感覚の無くなっていたはずの右手にも、再び激しい痛みが戻ってくる
肩が上下するだけで叫びそうな痛み
それに呼応し、身体中の傷が覚醒したかのように痛む


ハァ・・・ハァ・・・・・
・・・・ハァ・・・ハァ・・・・・

震える呼吸に合わせ
ユルユルと生温かいガルシアの体液が内腿を伝い、溢れ出ていく

その感覚に顔を顰め(しかめ)たシュリの顎を
ガルシアの手が グイと掴み上向かせた





「シュリ・・・ 今一度問う
 これ程の屈辱と痛みを受けながらも、まだ神を信じるか?
 この世に神はいると思うか?
 まだ神国に戻りたいと思うか?」

先の尋問の続きの様だった


「・・・・・信じ・・・ る・・・  ・・・・・神は・・・いる・・・・・
 ・・・・・・・ 神国は・・・・・・・・・」

「そうか・・・・・・・・」

言い続けるシュリの言葉を ガルシアがうんざりした表情で遮った





「ならば・・・
 もう二度と神を信仰するなど赦されない身体にしてやろう
 そうすれば、諦めも付くだろう?
 これで、誰に助けを求めようが もう神国へ戻る事は出来ん」


「・・・・赦され・・・・ない・・・
 ・・・・・・・・・・・戻れ・・・・・・・・・・・」


シュリがガルシアの言葉に、薄く目を開けた時だった





言葉を続けようとしたシュリの体に
激しい痛みともつかない衝撃が走った




それはあの小男の鉄針だった

蝋燭ではなく、窯で直に真っ赤に焼かれた鋭い鉄の針・・・
その尖った巨大な針が、シュリの、まだ塞がり切らない胸の傷の上に
ジュ・・ という小さな音と共に押し付けられていた


「・・・・・・ッッンァッグッ!!!・・・・ッッ!!!」



叫ぶシュリにガルシアはニヤリと笑うと
空いている左手を男に差し出す



「あの劇薬とやらを出せ」

「えっ・・・・ しかし、陛下・・・・ 
 この針に薬を入れる細工は・・・・・」

「構わん」

「・・・まさか・・・・これを・・・・ 直に・・・ 掛けるおつもりで・・・・?
 ・・・まだその様な使い方は・・・・ 一度も・・・・」


一瞬戸惑った様な男の声に
「さっさとしろ・・・・」 ガルシアの低い声が威圧する

「は・・・・・はいっ・・・・」



男は差し出されたガルシアの手に革の手袋をはめ
その掌に、蓋を開けた小瓶を乗せた

「・・・お・・・・お気をつけて・・・・・・・」



ガルシアは男の言葉に不敵に笑うと、その瓶の透明な液体を
今まさにシュリの胸を灼いている鉄針に沿わせ
ツ・・・・。。 とその傷に直に流し込んだ



「ンングうっ・・・・んっ・・・・!ッッァァああ゛ぁあああッッッーーっ!!」

シュリの絶叫が響き渡った






華燭の城 - 121に続く
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華燭の城 - 119

「こっちへ来い!」

ガルシアは怒鳴ると、シュリの砕いた右手をグイと鷲掴んだ



「・・ンっ!! っーぁあああッ!」

朦朧とする意識さえ凌駕する痛みに叫ぶ

だがガルシアは、そんなシュリに構う事無く
滑車の下までズルズルと引き摺って行くと
自白剤でまだ力が入らず、痛みと共に倒れ込んだシュリの衣服を
乱暴に引き剥がし始めた





「おい! ラウムにも手枷を付けておけ!」

ガルシアが小男に向かって叫ぶ



「はいはい、喜んで
 この男とも一度遊んでみたいものですなぁ・・・・」

そうブツブツと呟きながら
小男は扉の前で倒れているラウを引き起こした


「痛ッ・・」

ラウもまだ脚を押さえながら、小男にさえ抵抗できずにいる





そんなラウの左手首に鉄の枷をはめると小男は

「で、これはどう致しましょう?」

その手を持ち上げて、ガルシアに見せると首を傾げた




「そこの台にでも繋いでおけ、騒がれては面倒だ」

「ほうほう・・!
 では陛下、本当にあれをやるので?
 それは楽しみですなぁー!
 ・・・・では、お前には静かにして居てもらわないとな」


男はニヤニヤと笑うと、ラウの手枷に鎖を付け
台の脚に、身動きできない様に巻き付ける

そしてその台上に置かれていた自分の鞄から、
あの革の包みを取り出し開くと、中から長い鉄製の棒を何本か抜き出した



それは以前、シュリの体を刺した針と同様、先は鋭く尖っていたが
それよりも遥かに長く、太く
手持ちの部分には、しっかりと革布が幾重にも巻かれている

それを数本まとめて抱えると、小男は窯に歩み寄り
その中に・・・ 燃える炎の中に全てを突き入れた




「これで、あとは・・・・ 暫く待つだけ・・・ と・・・・」

小男が 嬉しそうに呟きながら振り返ると、
シュリは無残に衣服を剥ぎ取られ
天井からの鎖で吊り下げられたところだった

痛々しく巻かれた包帯が薄暗い部屋で妙に白く艶めかしい





「そちらの準備が出来るまで、少し遊ぶとしようか
 何日も抱いていないからな・・・」


そんなシュリの姿にガルシアも欲情したのか
いきなり傍ら(かたわら)の鞭を握り、
その白い包帯目掛けて振り下ろした




「・・・ンッァアっッ!」

ガシャンと揺れる鎖の音と同時に、巻かれた包帯がちぎれ落ちる





「ンッ・・・・!! 
 ・・・・・ンッッ・・・・・・・・!!
 ・・・・・・・・!!」


何度も振り下ろされる鞭に、シュリの身体は人形の様に跳ね
その度に皮膚は裂け、新たな傷が血を流し
以前の傷が激しい痛みを放った

それでもシュリは、自分を吊るす鎖を握り締め
その痛みに耐え続ける

だが、骨が砕かれた右手だけは物を握る事はおろか
指を曲げる事さえ出来なかった




小男は、包帯が解け、自分の付けた傷が見え始めると
興奮を抑えきれぬ様に身を乗り出した


「おお、やはりまだ傷は塞がっておりませんな
 針先に、特別な薬を付けましたからな・・・ 
 うんうん・・・ これは上々の出来・・・
 ・・・・まだまだ使い道はありそうですな」

一人、嬉しそうに頷く






ガルシアは、そんな男の目の前で、
見せつける様にシュリの片足を抱え上げる


「どうだ、久しぶりに見るシュリの身体は」

開かされ、露わにされたシュリの身体を
舐める様にねっとりと見詰める小男の目が 一層妖しく輝いた


「ええ・・・・ いつ見ても痛々しく、本当に美しい・・・・」


そんな男を嘲う(あざわらう)様に、ガルシアは立ったまま自分の衣服を緩め、
熱り(いきり)勃ったモノを取り出した


「さあ、愉しませてもらうぞ」

抱え上げたシュリの脚間を更に指で開き、そこへ自身をあてがうと
何の準備もなく、一気に捻じ込んでいく



「ンッァ・・!・・・・グッッッ・・・・・!」



ガルシアのモノが 無理矢理にシュリの穴をこじ開ける






華燭の城 - 120 に続く
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華燭の城 - 118

「私としましては、敵帝国の皇太子が居なくなってくれるのは
 真に喜ばしい事なのですがねぇ・・・」

シュリはその声に聞き覚えがあった
そしてその小男の特徴的な姿にも・・・・



「お前は・・・・」

手の痛みで閉じてしまいそうな瞳を必死に開け、その姿を睨み付けた



「覚えていて下さいましたか、シュリ様
 どうです? 先日の針の傷は?
 鞭と違って傷口が不揃いな上に、薬も併せましたからな
 なかなか痛みが引かず、さぞやお困りでしょう」

そう言って口端を片方だけ上げ、ニヤリと笑う男は
あの西国の小男だった



「・・・どうして・・・ お前が・・・ ここに・・・」

あの日の痛みと凌辱を想い出し、唇を噛む




「たった今、有能な諜報を付けろと言ったのはお前だぞ、シュリ
 この男ほど、諜報に向いたヤツは居ない」

ガルシアが得意そうに首だけで振り返り、男を見る





「そう言って頂けると光栄ですな
 いきなり夜までに来いと言われた時は
 本当に困ったのですよ?
 何しろ、拷問しなければならない輩(やから)がまだ多くおりましてね
 私の前に列を成していたのですから・・・
 ですが、陛下の頼みとあらば、
 何を置いてもと、急ぎ参上した次第なのですが・・・
 来てみれば、なんとまぁ・・・
 我が国の宿敵、帝国の皇太子まで居て
 なかなか面白い事になっているではありませんか」



小男はニヤニヤと笑いながら
鞄の中から一本の太い注射器を取り出した



「さて陛下、その様なやり取り・・・
 両手両足を全て圧し(へし)折ったとしても、
 この強情なシュリ様には効きますまい
 真偽を知りたければ、
 そんな乱暴なさらずとも、簡単な自白剤を・・・」


手に持った注射器に、瓶から直接 薬剤を吸い上げながら
小男が微笑む


「・・・・・といっても、これはそこらの物とは違いますよ?
 我が国が、総力をあげて開発した新薬です
 これを打たれて、嘘を突き通せる人間はおりません」



男はガルシアに押さえ付けられたままのシュリの胸元を左右に開くと
その針で胸に触れ、クッと先端に突き立てた
極小の鮮血がシュリの胸に湧く

その感覚に記憶が鮮明に蘇る
ビクンと身体が反応し、震える


だがシュリは小男を睨んだ


「上等・・・ だ・・・
 それで真実が判るというなら・・・ こちらも好都合・・・
 やるなら好きにすればいい・・・・
 なにをしても、私の答えは同じだ」


それを聞いたガルシアの顔が憎々し気に歪み
「やれ」 と顎が動いた



男は小さく頷くと、自分を睨んだままのシュリの首筋に
ブツ。。 と太い針を突き刺す


「・・クッっ・・」

一筋の血が流れる感覚と、冷たい液体が体内に流れ込んでくる感覚を
脳が同時に感じ取り、言い様のない怠さが襲ってくる




すぐに、立っていられなくなり、
頭を支えるのさえ辛く、首がガクンとうな垂れた

ガルシアに両腕を押さえ付けられているので倒れる事はないが
心臓の鼓動が不規則に暴れ、酷く苦しかった



ハァ・・・

ハァ・・・ ハァ・・・・


肩で息をし始めると
そこに ガルシアの声が、直接 頭の中に響き始めた




「ナギと例の件で何を話した?」

「何・・ も・・・話していない・・・・」

口を開くことさえ怠かった




「ワシを裏切ろうと企てたろう?」

シュリが怠さの中でわずかに首を振る




自分がここへ来た経緯を話したか?
ワシの話をしたか?
神国の話をしたか?
ナギに助けを求めたか?
秘密をバラしたか?
ワシを裏切ろうとしたか?
逃げようとしたのか?


その後も言葉を変え、言い回しを変え、
幾度となく同じ様な質問が繰り返されたが
それは全て、シュリの潔白を意味するものだった





「これはどうやら本当の様ですな」

その様子を注意深く見ていた小男が ガルシアに囁いた


「ふん・・・」

ガルシアはそれだけ返事をすると

「では、これで最後の質問だ
 シュリ、今のお前の望みは何だ?
 今、目の前に助けが現れたなら、何を乞う」



その質問にシュリは目を閉じたまま小さく息を吐いた



「望み・・・・ 私の望みは・・・・ 弟が元気になる事・・・
 神国の皆が・・・ 無事であること・・・・
 ・・・・・・ 神の救いが・・・・・」

「・・・!!」

押さえ付けたままのシュリの頬に ガルシアの平手が飛んだ




「・・・・ッ!」

「もういい! 神、神 と何度もうるさいわ!」






華燭の城 - 119 に続く
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華燭の城 - 117

「・・・・・証・・・ 拠・・・・・」

蒼白のシュリの顔が嗤っていた



「・・・それを取るための・・・
 ・・・・ゴホッ・・    ・・・お前の見張りだろ・・・
 私の馬に・・・・ 付いて来られない様な 無能な見張りなど・・・
 何人居ても・・・・ 無駄だ・・・
 ・・・証拠が欲しければ・・・
 ・・・もっと有能な諜報でも張り付かせることだ・・・・・・」



「何だと・・・?
 随分と生意気な口を利くではないか・・・
 帝国の後ろ盾を得て、気が大きくなったか?」




・・・フッ・・・・

その言葉にシュリは思わず嘲笑に似た苦笑いをこぼしていた
今のこの自分に、後ろ盾などある訳も無く、
そんなモノに何の意味もない





「そもそも・・・あんな・・・ 外にも慣れぬ様な馬を与え・・・
 殿下に 何かあったらどうする気だ・・・・
 後ろ盾どころか・・・・ 帝国に 宣戦布告するような真似をするなど・・・
 ・・・自滅したいのか・・・?」


「シュリ・・・・・! いけません!
 ・・・・お止め下さい・・・・・」

ラウが動かない脚を押さえながら、必死に手を伸ばす



だかシュリの冷めた視線は、一度も外れる事なく
ガルシアを睨み続けた





「・・・・黙れ!」

シュリの両手を押さえ付けるガルシアの手に力が入る

「ンッ!!」

痛みで思わず顔を歪ませ、シュリは唇を噛んだ




「最初からあんな小僧など居なくて良いのだ!
 帝国皇太子であろうと、なんだろうと、
 慣れぬ国、慣れぬ馬で馬駆けをしたいなどと言い出したのは
 ヤツだ!
 城外のどこで どんな”事故”が起ころうとも
 ワシの知った事ではない!
 丁重に悔やみの言葉を贈るだけの事!」



「・・まさか・・・
 ・・・・本気で殿下を亡き者に・・・・
 ・・・馬鹿な・・・」



「そうだと言ったらどうする!
 あの小僧の命が惜しいなら、即刻 親書を手に入れて来い!
 明日だ!
 明日夜、もう一度、受書の宴を行う!
 これが最後のチャンスだ!
 それまでにお前が親書を手に入れられなければ、
 あの生意気な小僧は 生きて国には帰れぬと思え!」



「・・・なんという愚かな・・・・
 ・・・それがどういう結果になるか・・・
 ・・・お前には判らないのか!
 国中を巻き込んだ戦争になるんだぞ!
 帝国と戦さなど・・・・・ 
 どれだけの犠牲が出ると思っているんだ!!」



「・・・・!!!
 利いた風な事を言うではない!!
 誰がそんな口をきいてよいと言った!!
 ワシを怒らせるとどうなるか・・・!」




ガルシアの目に再び狂気が宿った


押さえ付けたシュリの右手だけを
力任せにギリギリと鷲掴み、圧し拉(おしひし)ぐ
ガルシアの手の中で シュリの骨の軋む音がした

それでもガルシアは
本来、物質の持つ ”体積” という大きさの概念を完全に無視し
力を加え続ける




「・・・ンっっッ・・・!!!
 やりたいなら・・・・ やればいい・・・・!
 そうやって・・・・ ラウの脚も・・・・   ・・・砕いたのだろ・・・!!」


「ああ、そうだ! それがどうした!!
 お前の脚が使えぬのは色々と不都合だ
 まだ手で済む事に感謝するんだなっ・・・・・!!!」



そう言い終わると同時だった



ガルシアの拳の中で、
グシャ・・・ とシュリの右手の甲骨が砕ける鈍い破砕音がした




「・・ン”ッ・・・ッーーっ!!!」

短い叫びと共に、シュリがグッとガルシアを睨み付ける


「どうだ!シュリ!
 骨を圧し折られた気分は! ・・・痛むか?!
 こちらも行くか?」

ガルシアの右手がシュリの左手を握った






「まぁまぁ陛下・・・
 外に傷を作っては後々困るでしょうに」

ふいにガルシアの巨体の後ろで声がした






華燭の城 - 118 に続く
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華燭の城 - 116

シュリとラウがあの部屋へ出向いたのは
それから1時間程後の事だった

入浴と着替え、出来る限りの傷の手当と薬を済ませ 扉をノックする


だが中からは何の返事もない


静まり返る扉の前で二人は顔を見合わせると
ラウが声を掛け、そっと扉を開いた




暖炉には暑い程の炎が上がっていたが、そこにガルシアの姿はなく
代わりに奥の、あの石牢の扉が開いている


シュリは自らを落ち着かせる様に
一つ小さく息を吐くとその扉へ向かって歩きだした







そして既に開いていた扉から一歩、中に入った時だった




「・・・ン”ッ・・!!!」

いきなり激しい衝撃に襲われ痛みに呻いた


「・・・・陛下!!!」
ラウが叫ぶ




シュリは扉横の壁に、思い切り体を打ち付けられていた

苦しさにもがきながら、薄っすらと開けた眼前には
鬼の形相と化したガルシアが居る

そのガルシアの左手がシュリの両腕を頭上で壁に押え込み
右手はシュリの喉元を締め上げる様に鷲掴んでいた




「ングッ・・・・・・ッ・・・・!」

「よくもワシを裏切ったな」

ガルシアのシュリの首を掴む手に力が入る



その目は、おおよそ人間の物とは思えぬ程に狂気を孕み(はらみ)
鋭く冷たかった




「・・ッ・・・ッ・・・・・ ングッ・・・・・・!!」


反論しようとしても喉を締め上げられ、声を出すことも
息をすることさえもままならならず、
シュリは苦し気に ほんのわずか首を振った



「今更、言い訳か?
 あの小僧と逃げるつもりが、失敗し・・・
 仕方なく、おめおめと戻ってきたのだろう?」

ガルシアは怒りに任せ、ギリギリと首を締め上げる
シュリの足は床から離れようとしていた




「・・ンッ・・・ンッ・・ ・・グンッ・・・・・・ッ・・・・・・・・・!」


「・・・・・・陛下!!
 ・・・・お止めください!!
 それ以上は・・・・!
 本当にシュリ様が・・・・・!
 シュリ様を殺すおつもりですか!!陛下!!!」


ラウがガルシアの腕に飛び付く様にすがりつく
シュリは既に呼吸が出来ず、徐々に脱力し 顔面蒼白になっている




「シュリ様は・・・・!
 シュリ様は暴走した殿下の馬を追いかけて行かれただけ!
 逃亡など、決して企ててはおりません!」


「・・・うるさいっ!!」

ガルシアの足が・・・ 分厚い軍靴の靴底がドスッ!という鈍い音と共に
すがったラウの右脚を目掛け、めり込んだ



「・・・ンッ!!」

ラウはその衝撃に耐え切れず、
脚を押さえたまま、後ろに転がり倒れ込む





「・・・ラ・・・・・・・ウ・・・・」

徐々に暗くなっていく視界と、薄れていく意識の中で
シュリがやっと一言、その名を絞り出した




「ほう・・・まだ話せるか・・
 ならば納得のいく答えを聞かせてみろ」


邪魔が入った事で、少しは正気を取り戻したのだろうか・・・
それでもまだ狂気の残る目で、ガルシアはジロリとシュリを睨むと
喉元を押さえ付けていた右手をわずかに緩めた



・・・ゴホッ!!  ・・・・ゴホゴホッ・・・・・ッ!!!




開放さえた気管で激しく咳き込みながら
やっとの思いで空気を吸い込んだが
肺が膨らむ事を忘れたかのように、上手く息ができない


うずくまろうとしても、
まだ両腕がガルシアに押さえ込まれたままで
身動きさえ取れなかった



「・・・・・今更・・・・
 ・・・ゴホッ・・・
 何を言っても信じないだろうが・・・
 今・・・  ラウの言った事だけが・・・真実だ・・・・・・」



ハァハァと細い肩で息をしながら
シュリがグッとガルシアを睨み付けた





「馬が暴走した?
 それを助けに行った?
 そんな絵に描いた様な嘘を 誰が信じるものか!
 ならば証拠を見せてみろ!!」


ガルシアがシュリの顎をグイと掴み上げる






華燭の城 - 117 に続く
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華燭の城 - 115

7人が城に戻って来たのは陽も落ちかけた頃だった

城門をくぐる時、
レヴォルトが一瞬立ち止まり、シュリの方を振り返った



「どうした?レヴォルト・・・
 私を心配してくれているのか・・・・?
 ・・・優しい子だな・・・」

話しかけ、そっと首を撫でる


温かだった太陽は、巨大な城の背後で急速に温度を失って行き
冷たい風が吹き抜けた



「お前にも判るのだな・・・・ この城の狂気が・・・・
 でも・・・・ ここに帰るしかないんだ・・・・ ・・・・行こう」


その声に、レヴォルトは再び前を向き歩き始める







城内では徐々に暗くなって行く空を見つめながら、
馬番が皆の帰りをソワソワと待っていた

護衛として同行したはずの側近の内の1人が、
すぐに引き返して来たかと思うと、城に慌てて走り込んで行ったのを
見ていたからだ




「どうしたんだ・・・・いったい・・・・・」

「・・・・あの慌て様は・・・・
 ・・・・・まさか、シュリ様達に何かあったのか?」


行き届かない馬で、皇子一行に何かあったのかもしれない・・・

そう口々に話しはしたが、誰も真相を知る者もなく
ただウロウロと心配するだけだった馬番達は、
無事に戻った7人を見てホッと胸をなでおろした





「シュリ様!お帰りなさいませ!
 あの・・・・
 ・・・・何も不都合はございませんでしたか?」

馬から降りるシュリを介助しながら 馬番は恐る恐るに尋ねた



「大丈夫だ、レヴォルトはとても良い子だった」

そうシュリが言うのを証明するように
レヴォルトは、シュリに首を撫でられながら横に寄り沿い
大人しく主人に付き従っている
その姿は堂々と誇らし気にさえ見える


そんな従順な姿は、長い間 調教してきた馬番でさえも
未だ見た事がない光景だった




「ほんとに・・・ あの頑固な馬が、これほど静かに・・・・
 ・・・・これはいったい・・・」

「・・・後の世話、お願いしていいかな」

驚く馬番にシュリが話しかけた


「そ、それはもう! それが私たちの仕事ですので!
 シュリ様に気に入って頂けたのでしたら、何よりの喜び
 最高の名誉でございます!
 お任せください!」







4人がそれぞれの馬番に馬を引き渡し、城内へ向かおうと足を向けると
それを待っていたかの様に オーバストが足早に近づいた

シュリとナギに一礼し、

「ナギ殿下、近衛殿、お疲れ様でした
 お部屋に入浴とお食事を準備しております
 今日はお疲れの事と思いますので
 どうかごゆっくりとお休みください」

そう言って静かに頭を下げた



「ああ、そうさせてもらう、ありがとう」
オーバストにそう返事をすると ナギはシュリに向き直った



「シュリ、今日は本当にありがとう
 命拾いをした
 お前も今日はゆっくり安んでくれ
 ラウもだ、本当に素晴らしい景色を見せてもらった
 感謝する」


「喜んで頂けたなら光栄です
 ・・・・おやすみなさい」

そう応え、頭を下げたシュリにもう一度微笑んで
ナギとヴィルは貴賓室のある棟の扉へと消えて行く






その後ろ姿を見届けた後、オーバストが振り返った


「シュリ様、陛下がお呼びです」
一言、それだけを告げ 立ち去ろうとする


「待て・・・! ・・今すぐに・・・?  ・・・ですか?」
その背中をラウが慌てて呼び止めた


「そう聞いているが?」
オーバストは訝しげ(いぶかしげ)に振り向き
鋭い目付きでラウを見返した





「今、外から戻ったばかりです
 ・・・・シャワーと着替えの時間は頂きたい
 その方が・・・・ 陛下にもよろしいのでは・・・・?」


ラウの言葉の裏に隠された意味に気が付いたのか
オーバストはほんの一瞬、ピクリと顔を顰(しか)めた

本人は無意識の反射なのだろうが・・・・

そして その目に嫌忌(けんき)の光を映したまま
「わかった、そうお伝えしておく」
それだけ言うと踵(きびす)を返した





「シュリ・・・・ 歩けますか?」
ラウがそっと囁く
広場にはまだ大勢の人が居るからだ

「ああ・・・ なんとか・・・・ ・・・部屋に戻ろう・・・」

薬で痛みは抑えてはいるが、それも切れかける時間だ
開いた傷口もそのままにはして置けない

ガルシアがすぐにと呼んでいるなら、尚更時間の余裕はなかった



報告に戻った側近が、ガルシアに何と告げたのかは知らない
だが、穏やかに待っていない事だけは確かだ



体中を襲う鈍い痛みに耐え顔を上げたシュリの目の前で
巨大な城の背に、美しかった夕陽が
ゆっくりと堕ちていった






華燭の城 - 116 に続く
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華燭の城 - 114

何の声掛けも無く
急に走り出したナギを見て、すぐに追いかけたラウとヴィルには
かろうじて、動物らしき物の影が飛び出してきた経緯までは
把握できていた



「それで大丈夫なのか!? 怪我は!??」 

怒鳴りながらも ヴィルはナギの全身を
前から、横からと、異常が無い事を確認していく




「悪い、ヴィル・・・・反省してる
 怪我も無い、シュリが俺の馬に飛び移って止めてくれた」

「なっ・・・! ・・・暴走した馬に飛び移っただと?!」

「・・・シュリ!!」


ヴィルが驚きの声をあげ、それを聞いたラウは
湖から上がってきたばかりのシュリの両肩を掴んでいた




「そんな体で無茶をして!! 
 体は?? 大丈夫なのですか!!」

問い詰めるラウに、シュリはフッと微笑んだ


「・・・・ そんなに心配しなくても大丈夫だ ラウ・・・
 それに・・・・ みんなが見てるぞ?」

そう言われ、ハッと我に返ったラウは
安堵した様にフゥ・・・ と1つ息を吐いた






「申し訳ない!」

そんな2人に、いきなり土下座の勢いで深々と頭を下げたのは
ヴィルだった


「ナギを守るのは 近衛たる私の役目!
 それも出来ず、シュリ皇子を危険な目に合わせた
 二度とこんな事の無い様、この大馬鹿にも よーーーく言っておく
 だから・・・」

「もう良いですよ、ヴィル・・・ 頭を上げて」

シュリが手を差し出した


「しかし・・・!!」

「何事も無かったのだから
 それに・・・・ 殿下には私からも お説教しましたし」


そう言うと、ヴィルの横で 臣下に大馬鹿呼ばわりされ
顔を真っ赤にしている帝国皇太子・・・ ナギに顔を向けた

ナギは全く身の置き所が無く
「ごめん・・・・ 悪かったって言ってるだろ・・・・」 そう呟くだけだった


いつになく、しおらしいナギの姿に思わずシュリがクスリと笑うと
その姿にヴィルもプッと吹き出し ようやく顔を上げた










「目的地は、ここでよかったんだよな?」

シュリが湖を見ながら、ラウの隣に並んで立っていた


「ええ、ここをお見せしたかったのです」

「本当に美しい所だ
 私の国にも・・・・」

ふと漏らした言葉に、シュリは話しを止めた
そして 「神国にも・・」 と言い直した



「神国にも、ここに似た森に囲まれた小さな湖があって・・・・
 私はそこが大好きだったんだ・・・
 この国にも、こんなに素晴らしい場所があったなんて・・・
 ・・・・ラウ、ありがとう」


そんなシュリの顔を、ラウが辛そうに見つめ
「喜んで頂けたなら幸いです・・」
そう頭を下げた



今度はシュリがラウを見つめ返した

そして、後ろの方で、まだごちゃごちゃと何か言い合っているナギとヴィルの2人を
チラと確認する様に見ると、そっとラウの耳元に顔を寄せた




「いつか・・・・ 二人で来ような・・・」

そう囁いた


「はい・・・」 ラウもそっと頷き返す

「・・・約束な、絶対」





シュリが改めて森と湖と滝の風景に目を移す

輝く日差しと、薫る風・・・
いつか自由の身になれたら、必ずまたここに・・・・

シュリは強くそう思った

自分達の後方に
ようやく遅れて追いついたガルシアの側近の気配を感じながら・・・・






やっと来たか・・・・・

シュリが小さく息を吐く
それはため息にも似ていた


ヴィルには ”何事も無く”と言ったが、実際は違っていた

4人居たはずのガルシアの側近が 今は3人になっている
1人はきっと城に引き返したのだ

たぶん、ナギが一人走り出し それをシュリが追いかけてすぐに・・・
この事態を・・・・
2人が揃って逃走を図ったとガルシアに報告すべく・・・


もし仮に4人揃っていたとしても、
これだけ遅れていれば狐の一件など何も知らないはずだ・・・






体の傷が酷く痛み始めていた
幸い、強く巻いていた包帯のおかげで、外にまでの出血はない
だが傷が開いているのは、感覚で判る・・・



「ラウ・・・・・ 傷が、開いた・・・・
 ・・・・・・・・・今のうちに薬を・・・」

シュリの苦しそうな声に、ラウもやはり・・・ と言う様に黙って頷いた



城で今頃 ガルシアがどんな状態になっているか・・・
どれほどの狂気に憑りつかれ、暴れ狂っているか・・・
ラウにもよくわかっていた






華燭の城 - 115 に続く
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華燭の城 - 113

「・・・!!」

ナギが一瞬驚いた表情でシュリを見た
そして、そんな事は無理だと激しく首を振る



「や・・・やめろっ・・・・
 そんな・・・・ お前まで・・・・  ・・・落ちるっ!!!」

「・・・・ナギ! 大丈夫・・・!」

「でも・・・・・・・・!!」

「・・・怖がるな、ナギ!!
 私を信じて、こっちを見て!!  ・・・・そのままじっとして!!」


シュリが安心させる様に大きく頷いて微笑んで見せると
ナギは強張った表情ながらも、何度も頷き返した





「レヴォルト、良い子だ・・・
 このまま殿下の隣を走ってくれ、頼んだぞ」

道は幸いにして真っ直ぐだ

黒馬の首に手をあててそっと囁く様に言い聞かせると
シュリは鐙(あぶみ)から右足を外した

しかしいくらシュリと言えど、そんな曲芸まがいの事をしたことは無い
でも今は、それしか手立てが無かった


やるしかない・・・・・・

鞍の上に片脚を置き、いつでも飛び移れるように白馬の動きを睨む


だがその不安定な体制は、
跨っている状態とは違い 揺れを吸収できず
衝撃がまともに脚から体へと伝わる

曲げた膝が胸を圧迫し、体重を掛けた脚の傷が痛む

「・・ツっ・・」 思わず顔をしかめた





それでも右手に握った手綱だけで速度と位置を調整しながら
白馬を刺激しない様に、出来る限りレヴォルトを近付ける
左腕をナギへと伸ばし、上下する2頭の動きを計り
飛び移るタイミングを探った


耳の横を過ぎる風音
その合間に聞こえる2頭の蹄(ひづめ)の音が、重なり合う・・・・




今だ・・・・!


シュリの右足は 微塵の躊躇もなくレヴォルトの背を蹴り
白馬へと飛び移っていた




「・・・・・・・ッグっ・・・・・ッ・・!」

着馬の瞬間、無理な体制からの跳躍と 全身でナギごと抱え込んだ衝撃で
体に鋭い痛みが走り思わず声を上げた


傷が・・・ 開いたか・・・・・・


左腕でしっかりとナギを抱きとめたシュリの顔が歪む




「・・・・・・ シュ・・・リ・・・・?」

その異変にナギが伏せていた顔を上げる



「もう・・・ 大丈夫です・・・・ ナギ・・・
 ・・・・手綱を私に・・・・」

後ろから抱きかかえる様にしながらも、真っ直ぐに前を向き
ナギが握り締める手綱を譲り取った



「・・・・・シュリっ!・・・・よかった・・・・!!」

恐怖から解放された安堵からか、ナギがグッとしがみつき
その痛みに、シュリはまた声を上げそうになる



「ナギ・・・・ お願いです・・・・  ・・・・力を・・・ 抜いて・・・
 私に全てを任せて・・・・・・・」

その声に、ようやくナギの体から、ほんのわずかに力が抜ける
その時 既に、シュリは馬の主導を握っていた




「大丈夫だ、落ち着け・・・  もう怖くない、大丈夫だ・・・」

そう白馬に言い聞かせる

隣では 手綱を離され自由になったレヴォルトが
逃げる事もせず、仲間を守る様に、宥める(なだめる)様に
ピッタリ寄り添い、走り続けている

この存在も、白馬を安心させたのだろう


シュリを自分を任せられる主と認識し、何も恐れる事は無いと判ったのか
その扶助に従い、徐々に速度を落としながら、
ゆっくりと冷静さを取り戻していく





やがて馬は 何事も無かったかのように 落ち着いて歩みを止めた

シュリは先に馬から降りると、ナギに手を差し出した




「ありがとう・・」

ナギは申し訳なさそうにその手を取り、無事に地上へと降り立つと
一気に力が抜けたのか、そのまま ヘナヘナと座り込んだ


「殿下、大丈夫ですか?
 お体は・・・・ お怪我などされていませんか?」

横に跪き、顔を覗き込むシュリに
「ああ・・・・大丈夫だ・・・・
 ・・・・お前のお陰で怪我もない・・・」

「よかった・・・」




シュリは安堵しながらも 「無茶しすぎです」
そう窘める(たしなめる)事も忘れはしなかった


「悪かった、謝る・・・
 本当に助かった、ありがとう シュリ・・・」

うんうん・・・・と頷き、うな垂れながら、ひとしきりシュリの小言を聞いてから
座り込んだままのナギがゆっくり顔を上げた




そして 「あれは・・・」 と、思わず声を漏らした
シュリもその視線を追い、振り返る






その目線の少し先に、豊かな蒼い木々に囲まれ
ひっそりと佇む(たたずむ)澄んだ湖があった


あの城裏の 巨大な湖の一部なのだろうが
何かの地動でここだけが堰き止められたのだろう

その湖の正面奥には、隆起した部分・・・
高さこそ無いが、幅10mはあろうかという滝が
幾重にも複雑に重なり合い、連段の滝となってその姿を見せていた

その流れ落ちる水飛沫が、木漏れ日にキラキラと輝いている




この世の楽園を描けと言われれば、
こんな絵になるのではないかと思う程のその美しさに
二人は暫し目を奪われた

そして同時に顔を見合わせると、ナギが 「行こう!」 と立ち上がった








ラウ達がそこへ着いた時、ナギは裾を膝まで捲り上げ湖の中に入り
2頭の馬に水を飲ませ休ませている所だった
シュリはすぐ横の岩に腰を掛け、静かにその様子を見つめている


輝く湖に 二人の若き皇子と2頭の馬、
その美しき光景に、それまで必死の形相でナギ達を追って来たヴィルも
思わずヒューと小さく口笛を鳴らしたほどだった





その音に振り返ったナギが
「ヴィル!」  と声をあげ 手を振った


ラウとヴィルが馬を降り湖岸に寄ると、
ナギは湖から上がり二人の方へ走り寄る




「ナギ!! この大馬鹿野郎が!!」
 いきなり一人で突っ走って!! ・・・・・何やってるんだ!!」
 
いきなりヴィルが怒鳴った






華燭の城 - 114 に続く
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華燭の城 - 112

白馬が驚きのあまり嘶き(いななき)
前足を大きく振り上げた


その声に 飛び出した野狐の方も 道の中央で立ちすくみ、
目前の巨体を鋭い目で凝視したまま、恐怖で動けなくなっている




「・・・ぅっ・・・・・ぅわぁぁあああっ!!!!」





二本足立つ馬から降り落とされまいと、
ナギが手綱にしがみつく


その捌きで、益々馬は冷静さを失い、
上げた前足が地面に着くと同時に、いきなり全速力で走り出した






「殿下っ!!」


恐怖で見境付かなくなった馬は 狂った様に走り続ける

ナギはもう それを制御する事も出来ず
ただ落ちまいと、首にしがみ付くのに精一杯だ




「殿下! 絶対に手を離さないで!」

追い付いたシュリがナギの斜め後ろを走りながら叫ぶ




「わかって・・・・るっ・・・・」

かろうじてナギが返事をする
まだこちらの声を聞き取る余裕はある様だが、
一刻の猶予もならないのは明らかだった






どうすれば・・・・
シュリは追走しながらも必死に策を考えていた



が、その目に 行く道が二手に分かれているのが飛び込んで来る




「まずい・・」

シュリはチラと後ろを振り返った
引き離してしまったのか、もう誰の姿も見えはしない



「クッ・・・」

唇を噛んだ




あの城裏から見た巨大な森の中に自分達は居る
もしここで道の選択を誤れば、本当にはぐれてしまう

そして その選択した道が、どこまでも続いているという保証もない
いきなり断崖にでも出たら、馬は止まり切れずそのまま・・・

最悪のイメージを払拭する様に、シュリは頭を振った






その時、ラウの言葉がシュリの脳裏をよぎった

”湖を北側から迂回して、
 途中の分岐を南西へ向かうと 滝に出る・・・”



南西・・・・
空を見上げる
午後の陽が上がっている



そこまでの思考は ほんの僅か、刹那の時間だった



シュリは再びレヴォルトに鞭を入れるとナギを追い抜き
白馬の右手 斜め前に出て並走した


直後、そのまま二頭は一塊になり分岐へ突っ込んだが
白馬は右手側をシュリに塞がれ、進路を左に向けるしかできなかった
南西へ向けて・・・






これで方角は間違っていない
が、シュリが安堵したのも束の間だった


並走して見たナギはもう握力も限界なのか
苦しそうに下を向いたまま手綱を握り締め、
馬の首にしがみつく様にして目を閉じている





「・・・・殿下!!!」

・・・もう返事さえも返ってこない



あれでは余計に馬が怯え、止める事など出来はしない
落馬も時間の問題だった





「・・・殿下!! 殿下!!!    ・・・・ナギっ!!!」

名を呼ばれ ナギがハッと顔を上げた





「ナギ! そちらへ移る!」






華燭の城 - 113 に続く
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華燭の城 - 111

しかしそれも束の間・・・ そんな険悪な雰囲気も初めだけで、
徐々に薄れていくことになる

それは城を離れ、石畳だった道が土になり
両側に冷たい風に揺れながらも
小さな草花が姿を現し始めた頃からだった



「花が咲いている・・・ 木が・・・ ・・・森だ・・・」

シュリの表情が輝き始め
思わず口にする感嘆の明るい声が、皆の気持ちを和ませていく




その声は 先頭を行くラウにも届き、
振り返ったラウは優しく微笑んだ


シュリも微笑みを返し、何度も嬉しそうに頷く






「なんだ?シュリ、珍しい物でも見たように」

ナギはそんな二人に呆れた様に笑ったが
青く輝く豊かな森の一本道に入った頃には
シュリの興奮は抑えられない喜びになっていた




「殿下!あそこに花が!」

「鳥が今 あちらへ・・・!」


時には蒼く澄んだ空を指さし、時には透明な空気を胸いっぱいに吸い込み
シュリは子供の様にはしゃぎ、ナギに話しかけ続けた




「ああ、本当だ」

「あれは何という鳥だろうな」


そんな様子をクスクスと笑いながらも
ナギはシュリの他愛もない話しに付き合い、優しく返事をした

二人のやり取りを、シュリの純粋な笑い声を背中で聞きながら
ラウも自然に笑顔になった


出発時はかなり苛立っていたヴィルも
微笑ましい雰囲気に 「まぁいいか・・・」 と笑って呟いた









だが、シュリの興奮が一段落した頃
ナギが放った一言で シュリは現実へと引き戻される




「シュリ、ずっと歩いてばかりだし、そろそろ走らないか?
 お前の駆ける姿が見たいんだけどな」

「ぇっ・・・」


思わずそう呟き、周りを囲む側近達を見た
それは冷ややかな見張りの目・・・・
離れれば、また一層 ガルシアの誤解を生み、怒りを買う事になる




「・・・・しかし殿下・・・・ 道に迷っては困ります
 馬も今日は万全では無い様子
 ここはラウの後に付いて行きましょう」


やんわりと断ったシュリだったが

「ずっとこの先も一本道みたいだぞ?
 少しだけなら大丈夫! な、・・・行こうぜ!」


そう言うが早いか、ナギはいきなり馬に ピシリと鞭を入れていた







ナギの乗った白馬が驚き、急に速度を上げる

先頭を行くラウをあっと言う間に追い越し
「先に行くぞ!」  ナギの声が森に響き

「殿下!」

「あっ!おい!ナギっ!!」

ラウとヴィルの声がほぼ同時に続いた






「・・・殿下!!  ・・・無茶だ! ・・・クッ・・!」


ラウを抜き、走り去って行く白馬に
シュリも反射的にレヴォルトに鞭を入れる


森に不慣れな馬で もしも帝国の皇太子に何かあっては・・・・


残されたラウ、ヴィル、
そして側近達も、何が起こったか判らぬまま互いに顔を見合わせると
慌てて後を追う
が、まるで鬼ごっこを楽しむかの様なナギは、
その姿を見ると益々速度を上げた




かろうじてシュリだけが、どんどんと追いついて行く

後ろから迫る蹄(ひづめ)の音にナギは嬉しそうに振り返った




「さすがだなシュリ! それが見たかったんだ!」

「いけません!殿下!前を見て!!」






その時だった






一匹の野狐が白馬の前に踊り出た






華燭の城 - 112 に続く
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華燭の城 - 110

「今日はよろしく頼むよ」 

シュリは優しくそう言うと
慣れた手付きで手綱(たづな)を握り、鐙に足を掛け
4頭の中でも一番大きい黒馬に 軽々と跨った


またしても観衆から 溜息ともとれる声が上がると

「ほらな? やっぱり皆、お前を見に来てるんだ」
と、ナギが隣で笑ったが
一番驚いていたのは、この馬の調教に手を焼いていた馬番達だった






「シュリ・・・ お体は大丈夫ですか?」

そこへラウが馬を付け並び、シュリだけに聞こえる様に声を掛ける



乗馬はしっかりと姿勢を保ち続けなくてはいけない

これから2時間の長丁場
少しでも傷が痛み始めれば、敏感な馬はすぐにそれに気付き
侮られれば、操る事さえ難しくなる




「大丈夫、私よりラウは? 平気か?」

「ええ、この程度なら」

「そうか、無理はしない様にな
 それから・・・・ 今日はゆっくり行こう
 この馬達は まだ外にも人にも慣れていない様だ・・・」

「その様ですね・・・
 承知しました
 では、参りましょう」




心配そうに4頭を見るシュリにラウが頷き、道案内の先頭を行くべく 
常歩(なみあし)の扶助(ふじょー合図ー)を行うと
馬はゆっくりと歩き出す


その後に ナギ・シュリ・ヴィルの順で縦並び、3頭が続いた





「行ってらっしゃいまし!」

「お気をつけて!」

嬉しそうな皆の声に送られて、
4人と それを遠巻きに囲む様に側近4人の馬が城を出た





そのまま城の堀に沿って 一路 森を目指し西へと向かう





出発してすぐにナギがシュリの隣に馬を付けた

ゆっくりと並歩しながら
「なぁ、ガルシアの側近って3人の約束じゃなかったか?」
ナギが呆れた様に言う



「・・・そうですね、申し訳ありません」

「いや、お前が謝る事じゃないしな・・・」


そう言いながらも
「しかし、たかが遊びとは言っても
 こうも簡単に約束を破られるのも、どうかと思うなぁ・・・・」


シュリの前で、余りハッキリと
継父にあたるガルシアの批判をするのは申し訳ないと思っているのか
ナギは独り言の様に小さく呟いた





だが、その呟きはシュリの耳にも届いていた
そして 側近・・・見張りの数が増えた理由もシュリには判っていた

あのサロンでの出来事を聞いたからだ
明らかに ガルシアは何かを疑い、気分を害している・・・・




この、まだ人にも外にも慣れていない様な馬をわざわざ選び出したのも
自分の側近達よりも良い馬、速い馬を出したくなかった・・・

ともすれば振り切られ、逃げられるとでも思ったのか・・・

いや、逃亡までとは行かなくとも、
距離を取られることは 明らかに警戒しているようだった



それを証明するように
城を出た時は約束通り遠巻きだった側近達が
どんどんと距離を詰めて来ていた





森へと続く道は、街へ向かうそれとは違いそれほど広くはない
・・・・とはいえ、その側近達の行動はヴィルの存在など全く無視し
シュリとナギ、二人だけをあからさまに取り囲む”布陣”




こんなに密集したのでは・・・・
シュリは まだ人に不慣れな馬達が
神経を尖らせていることに気が付いていた


今はまだ落ち着きを取り戻している様に見える4頭だったが
余り刺激すると何があるかわからない・・・・





先頭にラウ
少し間を置いて、その後ろに4人の側近に囲まれた皇子2人の
6頭の集団が出来ようとしていた



その側近達に、何の断りもなく負い抜かれたヴィル・・・
初めこそ、苦笑いしながらも相手の出方を伺う様に
最後尾から全てを見ていたヴィルも、徐々に苛立ち始めていた



「ったく・・・・ 4人でナギとシュリ皇子を取り囲みやがって・・・
 ・・・・・これじゃあまるで護送か何かだ・・・・・・」


行って蹴散らしてやろうかとも思うが
まだ主であるナギの指示もない




「くっそー・・ あのくそジジイ・・・」

今はまだ大人しく見守る事しか出来ず、
ヴィルは一人 馬上で悪態をついていた






華燭の城 - 111 に続く
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プロフィール

凛

Author:凛
BL・MLを日々妄想してる腐女子

しかもかなりハード目が好きな壊れかけ

SM・拷問等の酷い描写が苦手な方は、ご遠慮ください

1作目 『刻印』
2作目 『華燭(かしょく)の城』 
完結しました。
ブログタイトル下のマップより全話読んで頂けます。
『刻印』の簡単な解説はこちら から


まだまだ初心者故、描写の至らない点
設定の矛盾は笑って見てください 

読みやすく・・と思っているので、長編小説ですが、各回短く、短文、1日1回UP予定です


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