0-story

18禁 BL小説です。主に拷問・凌辱等ハード系。 こういう小説に興味の無い方、嫌悪感がある方はご遠慮ください。サイトマップより一気読み出来ます
月別アーカイブ   [ 2013年07月 ]  

≪ 前月 |  2013年07月  | 翌月 ≫

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m
--/--/-- | スポンサー広告 | TB(-) | CM(-)

刻印 -117

「・・んっ・・・・」

急に唇を塞がれ、最初は驚いた匠の瞳が
そのままゆっくりと閉じられていく・・



その反応を身届けると、確かめる様に浅葱の唇が匠の唇を覆った

「・・・んっ・・・・ぁ・・・ぁっ・・」



それは小さな音と声を漏らしながら、何度も何度も繰り返された

・・んっ・・・・ん・・

・・あさ・・・ぎ・・・・・・・・さん・・・



匠は右腕だけでしがみ付きながら、その唇を受けていく





だが、その浅葱の唇は
以前の様な・・  触れ合うだけの唇では終らなかった

声を漏らす度 わずかに開かれる匠の口を開く様に
浅葱の舌が差し出される


「・・ぁ・・・・っ・・・んっ!   ・・・・ぁっ ・・ あさ・・・・・」

匠の小さな声が漏れ、背中に回した腕に力が入る



「・・や・・・・やめ・・て・・・・   ・・・ん・・・っ!」





匠の脳裏に あの男に強要された行為が蘇っていた

・・タクミ・・・舌を出すんだ・・・・

闇の中で聞えたあの男の冷徹な声・・
抗う事が出来ず、小さく口を開け舌を差し出した自分・・
そして・・・何度もその口に無理矢理に押し込まれた男達のモノ・・




「・・ぃやっっ・・・!・・・・・・」
思わず顔を背けると 自分を覆っていた唇が離れていく


「・・匠・・・」  
浅葱の声がして 思わず目を開く・・



目の前には まだ淡くしか見えないが、確かに浅葱の顔があった

額と額をあわせる様に コツンとあてて
愛おしそうに自分を見つめる浅葱の目・・
 

「浅葱・・さん・・」
「ああ・・俺だ・・・・嫌か?  嫌なら・・無理強いはしない・・」


そう言って そっと頭を撫でられる




匠が目を伏せる・・
が、すぐに浅葱の顔を正面から見つめて 首を振った


「大・・・丈夫・・・・・・・浅葱さんだから・・・ 大丈夫・・・・」

「・・ん・・・  無理だと思ったら、ちゃんと言うんだ
 ・・・ほら・・  ・・・少しだけ口を開けろ・・・」



その声に抵抗する事は、今の匠には もはや出来なかった






・・ぁっ!・・・んっ・・・・・!!


小さく開けられた匠の唇から
割り込む様に 浅葱の柔らかい舌が入ってくる



匠の舌に触れる・・

「・・ぁぁっ・・!・・・・」


それは 柔らかく優しかった
頭の中がボーッと霞み、体の痛みも消えて行く様な唇と舌の動き・・

それは、今までに感じたことのない 甘い感覚・・・




「ぁ・・んっ・・・ん・ん・・・・」

思わず声を出しながら 匠の舌も動いていた
無意識に浅葱を追う・・



舌先と舌先が軽く触れると 蓋をしていた感情が溢れ出る

頭を優しく抱かれ、何度も何度も唇を合わせ
差し出されるものを 匠は受け入れた

浅葱の背中に回した右手でシャツを握り締め
我慢できずに強く舌を絡ませ・・・ 互いを求め合った








そしてやっと浅葱の唇から開放される・・

「匠・・・・
 俺の側にいるのは 何があってもお前だけだ・・
 だから、今は・・焦る事も、怖がる事もない・・・」


「・・・・・・」


「一人で全てを抱え込むな・・
 今と同じ様に 涙を見せて  お前の気持ちを俺に話してくれ・・・
 何も判らないままでは・・・・・・・」


そこまで言うと寂しい浅葱の声が 苦しそうに詰まる


「浅葱・・・さん・・・・?」



あの騒がしい場所で感じた浅葱の涙・・
胸の2つのタグ・・
そして・・ 今も・・・  何故こんなに苦しそうな顔をするのか・・




「浅葱・・さん・・
 今は・・・・もうそれ以上・・・言わないで・・・・・」





匠はもう一度 右腕に力を入れて 浅葱を引き寄せた
浅葱の左肩を抱くようにして  ・・・自ら浅葱の唇を塞いだ




刻印 -118へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -116

匠は そのまま右腕だけで浅葱を抱き締め 離さなかった


「匠・・・腕を離せ・・
 体の向きを変えないと、ずっと仰向けでは背中が痛むぞ・・・」

浅葱がそう言っても 匠は苦しそうな息遣いのまま首を振るだけで
一向に腕を解こうとしない

それでも時折 痛みに呻く・・




「仕方がないな・・・・」

諦める様に浅葱は溜息を付くと 
「上がるぞ・・」   そう一言だけ言い 
自分の体を支える右手はそのまま 匠のベッドへと上がる
 

そして匠に跨る様にして 自分の体の下へ置き、覆い被さった

空いている左腕を 匠の肩の下へと滑り込ませると
匠の体を抱き、わずかに持ち上げる



「俺が体を支える・・お前は腕の力を抜け・・・」


背中を持ち上げられ スッと溜まった熱と痛みが抜けると
体が軽くなる

いつも痛みから自分を救い上げてくれるのは 浅葱の腕だった







苦しそうな呼吸と、痛みに呻く声が 徐々に小さくなっていく





「・・・浅葱・・さん・・・・・・・・」

しばらくして匠の声がした
背中に回したままの匠の右腕に わずかに力が入る


「どうした・・・? もう話せるか?
 無理しなくていいぞ・・・・」

その声に匠がゆっくりと頷く
が、まだ背中に回した腕を解こうとはしない




「浅葱さん・・・・俺の・・・わがままを・・・・ごめん・・・・・・」
自分が銃口を向けた事に・・
不測の事態が起きていたかもしれない事への謝罪だった


「俺がさせた事だ・・・  無茶をさせて悪かった・・・」


その言葉にわずかに首を振りながら
息が苦しいのか一度大きく息を吸い込んでから
匠がゆっくりと話しはじめた





「・・・浅葱さんの側に・・  居たかった・・・」

「ああ・・ わかってる  だからいつも・・・・・・」

「違う・・・ そう・・・・・・・  じゃない・・・・」
匠が首を振る



「側に・・・居るのは・・・・ ただ・・・浅葱さんの腕の中で
 一方的に・・・・ 守られてるだけじゃなくて・・・
 ・・・隣に・・   一緒に隣に立ちたい・・
 庇護されるだけの自分は・・・  嫌だ・・・・」


そう言って正面の浅葱の顔を見つめる


「まだ、何も出来ないのは・・・・わかってる・・・
 だけど・・・・浅葱さんの隣にいるのは・・ 
 流さんじゃなくて・・・・   ・・俺で・・・いたかった・・・・」


背中のシャツを握る手に力が入り
真っ直ぐに浅葱を見る匠の瞳に涙が溜まっていく



数日前・・ 自分と深月が 仕事の打ち合わせをしていた時の
あの不可解な匠の行動を思い出していた



・・そんな事を・・・思っていたのか・・・・

浅葱はただ 匠は体が動かない事を 焦っているだけなのだと思っていた

だが、その匠の言葉の中には 小さな嫉妬の様な物が見えていた





「匠・・・・・」

思わず 強く匠を抱きしめる・・
初めて正面から 自分に見せた匠の涙・・・
そして嫉妬・・



胸が苦しくなり 熱いモノが込み上げてくる
そのまま匠を抱き寄せ、唇を塞いでいた




刻印 -117へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -115

体が鉛の様に重かった

特に左腕は熱く、中心から波打つような痛みが もうずっと続いていた



・・・・熱い・・・・・・・・苦しい・・・


・・・体がバラバラになる・・・



無意識に体を捩ると、傷が擦れ 酷く背中が痛んだ

・・・・・・・・・・んっぁっ!! 


思わず助けを求める様に手を伸ばす・・・

・・あ・・・・さぎ・・・・・・・さん・・・・








「どうした、匠・・・ちゃんと居るぞ・・・」
夢遊病の様に空中へ差し出された匠の右手を
浅葱が握り返した


「・・・ぁっ・・・・・  あ・・・さぎ・・・  ンクッ・・・」




聞き取れない匠の声を逃さまいと
浅葱が匠の手を握ったまま顔を近づける


「無理に話すな・・・」

浅葱の声を聞いた瞬間だった
匠の右腕に力が入り 浅葱をグイッと引き寄せた



「・・んっ!  ・・・・匠?・・・」

いきなり握っていた左手を引っ張られ 体制を崩した浅葱は
匠の上に倒れ込みそうになる

咄嗟に 右手を匠の体の向こう側へついて 自分の体を支えた




浅葱の体が 匠の上に覆いかぶさっていた
匠の右手が浅葱の背中へ回され 抱きしめる様にシャツを握り締める

「・・どうしたんだ・・・匠・・・」






目の前で 匠の右腕が浅葱を抱き締めていた
意識がハッキリしていないとはいえ・・
それは深月には 少なからず衝撃だった



「・・・・ !!! ・・・・」
思わず小さな声を上げる


鼓動が早くなり、胸が苦しくなる
ついさっき・・
自分は それでもいいと・・決心したはずの気持ちが動揺し 頭が熱くなる



匠の腕は 浅葱を離すのを嫌がる様に
しっかりと背中に回されたままだった


・・・匠さん・・・

そんな二人を見ていられなくなり 深月は視線を落とす・・
床に置いた2つの銃が見えた



「・・・・あ・・・あの・・・僕・・・
 これ・・片付けて来ます・・・・・」

「ああ・・悪いな、頼む」
匠にしがみ付かれて身動きが取れない浅葱が答える

「いえ・・・大丈夫ですから・・・・」
深月は目を伏せたまま立ち上がると、銃を握って部屋を出た




パタン・・・・
静かに戸が閉まる





その音に 匠の体がビクンと震えた
瞳を開く・・
「・・・・・閉め・・・ないで・・・・・・・・」
震える声で匠が呟いた



まだ意識がハッキリしていないのか・・・
開いた瞳に何が見えているのか・・・

「・・・まだ怖いか・・?」

浅葱の声がすぐそばで聞えた
まだ暗かったその視界に ぼんやりとその顔が浮かぶ・・


「浅葱・・さん・・・」

「ん・・・・匠・・・・大丈夫だ・・・・安心しろ・・・・
 もう独りじゃないんだ・・」

そう言って匠の目を見つめる



以前は途中で苦しくなり、見続ける事が出来なかった匠の蒼茶の瞳・・
自分の手で伏せさせた匠の瞳を  今、浅葱はじっと見つめていた




刻印 -116へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -114

「これ、片付けて来ますね」
2つの銃を持って立ち上がり、深月は部屋を出た


途中、匠の部屋の前まで来ると
ドアが いつもの様に開けられている

そっと中を覗くと
ベッドの横に座り、心配そうに匠を見つめる浅葱の姿があった



その姿は、もう何度も目にした光景だった

そういえば・・・浅葱さんはいつもああやって匠さんを・・・
毎日毎日・・・・






「深月・・」
部屋の入口から見つめる深月に気が付き、 浅葱が声を掛けた


「あ・・はい・・」
 
匠を起こさないように、浅葱の側まで行く
「・・・あの・・匠さんは・・・・」


「・・・・・・・・・」
じっと匠を見つめるだけで 浅葱の返事はない



それは静かに眠る・・・とは決して言えない匠の姿だった
浅く早い呼吸で 苦しそうに息をしながら
呻いて腕を押さえ、体を捩る・・

少し体が動くようになった分、 痛みに悶える姿は余計に痛々しい




「匠さん・・・・」 深月は思わず浅葱の横にひざまづいた




「深月・・・・さっきは悪かったな・・」
浅葱が深月に謝るのは初めてだった


「いえ・・・・・・・おやっさんが、少し・・ 話してくれました・・」

「オヤジが・・・・・・そうか・・・」





「・・・匠さん・・・・ここまでしなくても いいのに・・・・・」
深月が苦しそうな匠を見つめたまま呟く


「1つずつだ・・・・」

「えっ・・・・?」

「1つずつでしか 消化できない・・・・

 初めは 痛みと苦しさ・・
 次は 傷が消えない事への絶望
 そして今は・・ 思う様に体が動かないことへの 焦り・・・

 それでも1つずつ・・ 匠は消化してここまできた
 もちろん納得のいくモノなんて1つもないだろうが
 我慢し、耐えて・・諦めて・・・そうしなければ・・・生きてはいけない・・」



「傷が残る事も・・・・・
 ・・・だからこの前、 あんな風に笑ったんですね・・  匠さん・・」



深月は タグを掛けてもらった日の匠の顔が忘れられずにいた


そしてきっと、それを乗り越える為に
浅葱さんは自分の知らない所で、 匠さんをずっと 支えてきた・・・






「浅葱さん・・・・さっき・・・
 匠さんじゃなくて・・、僕が浅葱さんを撃ってたかも・・・しれませんよ・・」

「・・・構わん・・  ・・そう言っただろ」

浅葱はそれが まるで普通の事の様に平然と応えた



「構わんって・・・・構うでしょ・・・!
 匠さんじゃなくて・・僕が殺してたかもしれませんよ・・・!」


「いいんだ・・ 深月・・それでも・・・
 お前は緊張に弱いだけだ
 確かに最初はかなり動揺して銃口が揺れていたが
 一度 自分ですべきことがわかれば お前は失敗しない」



「そんな・・・・・・」
浅葱に少しでも認められた事は 素直に嬉しかった

が・・ その浅葱の潔過ぎる (いさぎよすぎる) 言動に
深月はフッと不安を覚えていた

浅葱さんって・・・・
自分が死ぬことを何とも思ってないのかもしれない・・・・・



じゃあ・・・・
その浅葱さんの支えも・・・ 匠さんなのか・・・?









「匠さん・・・・もう大丈夫ですよね・・
 体だって・・少しずつでも良くなってきてるし・・もう・・
 こんなに苦しまなくていいですよね・・・」


匠の体にそっと指で触れながら、深月が祈る様に呟く



「・・・まだ・・・・越えなきゃいけない大きな壁がある・・」


その声に深月が 驚いて顔を上げる


「・・・・・まだ・・・??
 まだ・・・・・って・・・・」


深月は浅葱の言葉の真意をはかろうとその顔を見つめるが
浅葱はそれ以上話そうとはしなかった


ただ じっと匠を見る目がひどく辛そうで
深月は何も言えなくなった




刻印 -115へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -113

オヤジが慌てて席を立ち、走り寄ってくる
「匠っ・・・」   声を掛けるが反応はかなり弱い


「お前等は・・・ったくよぉ・・ やり方が無茶苦茶だ・・
 
 発作を起こして、気を失ってるだけだ・・・
 とりあえず部屋に連れて行って 安静にさせてやれ、恭介・・」




浅葱は匠を抱いたまま立ち上がると オヤジの方へ視線を向け
わずかに頭を下げる

無茶だと言いながらも、最後まで文句を言わずに
黙って見ていてくれたオヤジへの感謝だった



「深月・・・  銃を片付けておいてくれ・・」
そう言って匠を部屋まで運んで行く








「はぁぁぁぁぁ・・・・・・
 おやっさんーーー・・・・・怖かったぁ・・・・・・・・・」

深月は浅葱の姿が見えなくなると ヘナヘナと床に座り込んだ


「疲れたか・・ 流・・」
オヤジが深月の肩にポンと手を置く


「は・・・はいぃ・・・・
 ・・ホント怖かった・・・・
 マジで浅葱さんを殺してしまうかもって・・・・
 あんな無茶苦茶・・    自殺行為ですよっ・・!」


段々と怒りが込み上げてきたのか 深月は声を荒げながら
床に転がる匠の銃を無造作に拾い上げた


それは深月の持つ物とは比べ物にもならない程 重かった




・・・・こんな重い物、ずっと・・・



冷酷な重さに 怒りの気持ちが一気に冷え
その後から 悲しみの感情に覆われていく


「何なんですか・・・・・何考えてるんですか・・・・・・浅葱さんは・・・
 いったい・・・・・
 何の意味があって・・・  こんな事を匠さんに・・・・・・・」

2つの銃を握って 震える声で深月が呟いた





「理由が・・・欲しかったんだよ、  匠は・・」


「理由・・?
 浅葱さんじゃなくて・・匠さん・・・?」


「ああ・・・
 匠にとって ・・これは必要だったんだ
 この理不尽な状況を納得させる 無茶苦茶な理由がな

 匠だって、こんな馬鹿な事が出来るなんて端から思っちゃいないさ・・

 医者の立場で言わせて貰えれば
 こんな事は10分・15分でドクターストップだ

 だが 他人に止められたんじゃダメなんだ
 自分で自分を納得させる・・
 いや・・ 納得は出来なくても・・
 自分の気持ちを・・ 焦りを捻じ伏せる理由がな・・」


「焦り・・・・
 ・・・・だけど・・・何も浅葱さんを  狙わなくても・・・」


「仮に的が モノ だったら・・匠はきっとまだ止めてない
 止められなかっただろうさ・・
 頑固で一途で・・真っ直ぐで・・だからこそ危うい・・ それが匠だ・・・・

 相手が恭介だから、匠は自分でロックを掛けられたんだ
 止めてなかったら・・・
 もっとボロボロになって・・  下手すりゃ二度と・・・・

 それが判ってるから 恭介も自分を的にした
 匠を壊さない為に・・・」



「で・・でも・・・・一歩 間違えたら・・・・・
 自分だって・・・死ぬかもしれないのに・・・
 ・・・命懸けるなんて・・・・」


「そうだな・・・
 だが恭介は・・・それを選んだんだよ
 命を懸けて・・・匠と一緒に居る事をな・・・・」


「そんな・・・・・」





二人はここに来てから知り合ったと聞いていた
それ以前に面識はないと・・

なのに、命を懸けてなんて・・・



「浅葱さんと、匠さんって・・・・いったい・・・・」
深月は思わず呟いていた

「・・・ん? さぁな・・・俺にもわからん・・・」


「・・・・・・・」
オヤジの返事に 少しホッとした自分がいた




答えを聞いたからと言って、自分の気持ちがどうなるモノでもない・・
聞かずに今のまま・・・
匠さんを想っている方がいい・・・

浅葱さんが、絆や信頼や・・・・・愛情・・・で
匠さんを支えるなら・・
自分は おやっさんに言われた様に、明るさや・・・・・元気で・・・・






「お前もよく頑張ったな、・・流」
オヤジがじっと座り込む深月に手を差し出す

その手を ・・ありがとうございます・・ そう言いながら掴む深月は
大きな息を一つ吐いて 深呼吸をした


「僕も・・・・
 ・・・僕も・・・1つ勉強になりました・・」

「ん?」

「・・だんだんと銃口が右にずれていく癖があるみたいです」

「そうか・・・少しでも役にたてたか」 

「はい・・・」




刻印 -114へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -112

1時間・・・


カタカタと震え始めた匠の右手は既に限界だった
片手で銃を支えられなくなり
思わず深月と同じ様に 両手持ちに変える・・


右手の下に左手を添え 支えたが、それも長くは続かなかった

すぐに左腕に痛みが出始め
肘の辺りから始まったそれは ズキズキと腕全体から全身へと広がっていく


・・・クッ・・・・・・・・・・・

痛みで思わず目を閉じると 平衡感覚がずれ、ポインターが外れる




激しく痛む左腕を自力で上げていられなくなり 親指を右手の小指に引っ掛け
かろうじて腕を持ち上げていた

支えるはずの左腕が 右手にぶら下がる格好になり
余計に銃を握る腕に負担をかける



ポインターは浅葱の額など とうに外れ
フラフラと動き続けていた


ハァ・・・ハァ・・・

ハァ・・ハァ・・・


極度の痛みと疲労、緊張で 呼吸が出来なくなる




その異変は隣にいる深月にもハッキリとわかっていた
まるでフルマラソンを走るかの様な匠の息遣い・・

深月が泣きそうな目で 隣に立つ匠を見つめていた


「・・・・もう・・・・」    止めましょう・・と言いかけるが
目の前の浅葱はそれでも何も言わず じっとこちらを見ている




浅葱さんだって、気が付いてるはずなのに
どうして止めないんですか・・・!! 深月は心の中で叫んでいた





ハァ・・・ハァ・・・

ハァ・・・ハァ・・・・


匠の額から汗が流れ落ちる
わずかに見えていたモノクロの視界も 徐々に暗くなっていた

わずかでも気を抜けば、そのまま上体が後ろに倒れそうになるのを
必死で踏ん張っていた





だがそれも・・

左手の親指一本で 右手に引っ掛けていた指がはずれ
ダランと左腕が下がる
その感覚さえ、既に無い
一度下がったその腕は もう上げられそうにはなかった



右腕も・・その指も・・震えが止まらなかった

発作を起こす様に 息が出来なくなる



ハァ・・・ハァ・・・・

ハァ・・・ハァ・・・・





このままだと・・・・


浅葱さんを・・・・撃ってしまう・・・・・・・・・・・・




既にハッキリしない意識




このままだと・・・・





これが・・



今の・・自分・・・







最後の力で安全装置に指を置き ・・・・ロックをかけた・・


と、同時に手から力が抜け銃が床に落ちる








グラリと体が揺れ 平衡感覚を失い
空中で体が斜めになるのがわかる

隣にいた深月が 
「匠さんっ!」 と叫んで手を差し出すのが見えた気がした



視界がブラックアウトしていく・・

まるでスローモーションの様に倒れていく自分を感じていた






「・・・・・匠っっ・・!!!」


床に膝を着く前に 匠は浅葱の腕で抱き止められ
頭と肩を強く抱き締められていた・・


「・・・あ・・さぎ・・・・さん・・・・・・・」





そのまま意識が遠くなった




刻印 -113へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -111

「深月も今まで俺が教えて来た通りにやれ
 ターゲットが俺だからって遠慮はするな
 気に入らない事があれば 本当に撃ってもいいぞ」
そう冗談の様に言うと フッと浅葱が微笑んだ




浅葱が二人の正面に立つ

「始めろ」


深月は戸惑い躊躇していた
こんな事を 本当にしていい訳がない・・・・どうしたら・・・
判断が付かず、困り果てオヤジの方を見る

オヤジは黙ったまま腕を組んで じっと自分達を見つめていたが
深月の視線に気が付くと・・・小さく頷いた・・


・・・おやっさんっ・・・!
なんで・・・・!!

深月はオヤジの方を向いたまま 仕方なく、ゆっくりと腕を上げ銃を構える




2つのポインターの赤い印が 同時に浅葱の額を狙った



深月は両手で銃を握り 浅葱に対し真っ直ぐに正対する
匠は右手だけで横に向いて構えていた


「二人共、安全装置を外してトリガーに指を掛けろ、実戦と同じだ
 匠はもう少し右上だ」


「おい!!! 恭介・・・・・・・・・・・・・・・!!」
オヤジは咄嗟に何かを言いかけたが、そのまま拳を握って口を閉じた






背の高い浅葱の額を狙うと 少し上向きに構えなければならなかった
それは匠よりも背が低い深月の方がキツイ


深月は緊張していた
もし・・・少しでも指が震えたら・・・
引き金を引いてしまったら・・・・・・・・
落ち着け・・・ 落ち着け・・・・・ 落ち着け・・・・・・・

必死に自分に言い聞かせる



横には匠が立っていた
匠はずっと浅葱を睨んでいる様に見える
実際にその視界には見えていなかったが・・・その視線は迷う事無く真っ直ぐだった






5分・・・10分・・・・
音の無い部屋に時間だけが刻まれていく



「深月・・銃口が揺れてる、安定させろ
 匠・・下がってるぞ、もう少し上だ」
時折 浅葱の声がする



30分が経つ頃、深月のポインターは安定してきていた
最初は焦りと緊張で震えた手が 今は落ち着きを取り戻し
ピタリと浅葱の額を狙ったまま 動かなくなっていた


が・・匠のポインターは逆だった
わずかに震え始めていた




・・真っ直ぐに腕をあげているだけなのに・・
どうしてこんなに震える・・・・・・・

いつも握っていたはずの銃がひどく重く感じた
指1本、トリガーに掛けているだけでも 腕への負担が大きかった


ハァ・・・・・・   ハァ・・・・・・


少しずつ息が上がる




40分を過ぎた頃には 背中がひどく痛み始めていた
右腕がパンパンになり、要らない力が入ると余計に背中が痛む
見えない標的を睨む目も 必死で呼吸を整えようとする胸も痛んでいた



ポインターの赤いマークが フラフラと揺れて浅葱の顔にかかる

「匠、どうした、もっと上だ」
冷たい浅葱の声に 歯を食いしばってグッと銃を握り直した




刻印 -112へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -110

「お前、本当にどうかしてるぞ!
 ダメだと言われているのがわからないのか! いい加減にしろっ!」

浅葱の大声に驚いて 深月が二人を見つめる



匠は肩を掴まれた勢いで振り返り・・ 唇を噛んで浅葱を睨み付けた


「・・・・・どうして・・・」

「どうして・・・?
 どうしてって・・・・・・
 無理に決まってるからだ・・・ 今無理をして、悪化させたらどうする
 そんなガキみたいなワガママを言うな!」

「ガキって・・・
 俺はガキじゃないし・・・・    流さんが・・・・・・・」
匠は思わず口走っていた・・



どうして自分ではなく・・ 深月なのか・・

深月では無く、自分を仕事に連れて行って欲しい・・
言いかけて言葉を飲み込んだ


それがまだ無理なのは自分が一番良くわかっていた
頭では・・・

でもそれを自分自身に納得させる事ができなかった





「流・・・?  深月がどうした・・」
浅葱が目を細め、声を小さくする

「・・・・・お願いです・・・・・限界まで・・・やらせてください・・・・」
そう言って匠は下を向いた



広いリビングの端で二人が小声で話す内容は
オヤジにも深月にも聞えてはいなかった



「限界・・・
 じゃあ・・ 自分の限界がわかれば納得するんだな」


浅葱の冷たい声がしてリビングを出て行く




そのまま浅葱は武器部屋に入り
いつも深月が使っている銃と匠の銃、2つを持って出てきた


「おい、深月・・ ちょっと来い」


浅葱に呼ばれて書類を作っていた手を止める
「何ですか? 浅葱さん・・・・・ 銃なんて持って・・」
浅葱の手に握られた2つの銃を見て、深月が驚いた顔をみせる



・・・銃・・・・
その深月の声に 匠も顔を上げた




「昨日の仕事、あれは何時間かかった? どれぐらいこの銃を握っていた?」

「えっ・・・・部屋を出て戻るまで6時間・・・ぐらいで・・
 実際に持ってたのは・・・2時間ちょっと・・・・ぐらい・・・・だと・・
 えっと・・・浅葱さん・・いったい何を・・・・・・・・・」



深月の質問に答えもせず浅葱は話しを続ける


「・・簡単な仕事だったよな」

「あ・・・はい・・・僕でも行けたぐらい・・・・ですから・・・・・」

ただならない雰囲気に深月が口ごもる



「ん・・・じゃあ・・・2時間でいい
 二人共、そこに立って銃を構えろ」
そう言って深月に銃を渡す



「え・・・・ここで・・ですか?
 なんで・・・・・・・・
 ・・ってこれ! ・・・・実弾・・入ってますよね・・・・・浅葱さん・・・」


「ああ・・  深月には悪いが、ちょっと付き合え
 匠も来い!」




自分を試そうとしている・・・・
流さんと比べようとして・・・・
匠は悔しさで唇を噛んだ





浅葱から自分の銃を受け取る
久しぶりに握るそれは ずっしりと重かった

「お前はこの前、銃も無くしたからな・・・
 以前のと同型だ・・ 弾も入っている、重さは実戦と同じだ」


一言一言が嫌味に聞え、匠は浅葱の声のする方を睨みつけた


「的は俺だ」
そう言って浅葱は二人の前に・・ 数メートルの距離をとって正面に立った



「おい!恭介!それはいくらなんでもダメだ!止めろ!」
ずっと黙って見ていたオヤジが怒鳴った


が、そんなオヤジの声も無視し
「俺のどこを狙ってもいい・・ が、俺達が狙うのはいつも急所だけだ
 頭でも心臓でも構わないが、1発で仕留める場所を狙え
 匠はこの距離だと見えないだろうから、今回は特別に俺が教えてやる

 実戦でターゲットがずっと立ち止まり、
 自ら 自分はここだ と親切に教えてはくれないだろうがな・・・・」
そう言って笑った



「おい! 恭介!!!・・・・・・・・・・クソッ!」

・・オヤジもわかっていた


「好きにしろっ!バカヤローが!!」




刻印 -111へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -109

「何かあったのか・・? 匠は・・・・」

ある日 オヤジが浅葱にポツリと呟いた



「甘やかすつもりは全く無ぇが・・・あれじゃぁ・・ 見てられねぇ・・」

オヤジの視線の先には キッチンにいる匠の姿があった



 
「体調にも波がある・・
 調子が良い日はああやって 俺達とここに居る
 だがまだ一日中 起き上がる事さえ出来ねぇ日も多い・・

 だから動ける時には少しでもリハビリやって治してぇ・・ってのは
 わからんでもない・・
 が、あれは・・・ 」


「ああ・・それは俺も気が付いてる・・・」



リハビリに関しては 容赦無しのオヤジが心配するほど
最近の匠は自分に厳しかった

それはすでに積極的・・と言う域を超え
側で見守る者に 一種の危機感さえ与えた

体力的にも かなりも無理をしているのは明らかだった





「オヤジ・・・ 今、どれぐらい動くんだ・・? 匠の腕は・・・」

「そうだな・・・・真っ直ぐに前と横・・・
 水平に90度に上げるのが限界・・・やっと・・ってとこだ
 だがそれも、まだ長時間 腕を上げていられる筋力は無ぇし
 それよりも上や、後ろ・・自由に動かしたり回したりなんてのは
 まだ一人じゃ到底無理だ・・・
 左手も力が戻ってねぇ・・・・」




そう言ってオヤジは リビングの端・・・・
キッチンのシンク前で 一人で目の洗浄をしている匠を見つめた



「90度ぐらいまで腕が上がれば、あの作業は一人で出来るからな
 一人でやるって、聞かねぇから・・もう薬を渡してあるんだ・・」



そんな話をされているとは知らず 匠は一人 苦闘していた

上を向いて 左手のガーゼで目の周囲を押さえ
右手で薬を流す

ただ目薬を点すのと同じ要領
たったそれだけの事、なのだが・・・・


わずかでも見える様になった分
どうしても眼前に迫って来るモノに恐怖を感じる自分がいた

自分で点しているにも関わらず、恐怖で手が震え 目を閉じてしまう
あの痛みと恐怖が・・ 体の奥深く 消えずにいた

例え最初の数滴が 運良く目に入ったとしても
その痛みに耐えられず、すぐに目を閉じた


わずかな小瓶1本を流し続ける事が どうしても出来なかった


この日も 薬液が半分以上残ったままで痛みに負けた




・・・クソッ・・!

強く目を閉じ、ガーゼで目を押さえる
頭の芯を貫く様な激しい目の痛みが続く・・




右手に握った瓶にはまだ液体の残る感覚があった

・・まただ・・・・また出来ない・・


思わず苛立ち、ドン!とシンクに手をついた



リビングの自分の机で
一人、報告書を書いていた深月が その音に驚いて顔を上げる




たったこれだけの事・・・・・・・・

痛みと情けなさで、しばらく顔を覆った手を離す事ができなかった




それを見ていた浅葱が思わず立ち上がる 


「匠・・・お前、何を焦ってる・・・」
顔を覆ったままの匠に 後ろから声をかけた


「別に・・・・・・・焦ってなんて・・・」






「ちょっと・・・外へ出てはいけませんか?」
後ろに居る浅葱を無視するように、匠がリビングのオヤジの方へ声をかけた

「外って・・・どこへ行くんだ?」


匠が一度 部屋を逃げ出してから、まだ外に出させて貰えていなかった


「・・体が鈍るので、歩きたいんです」

「さっきリハビリが終ったばかりだろ、少し休め」
浅葱も驚いた声で言う




その匠の言葉にオヤジも まだやるのかと言わんばかりに溜息をついた

「おいおい・・・まだ無理だ
 夏前とはいえ、外はもうかなり暑い
 お前、体温の調節が出来ないんだぞ、今出たって すぐにぶっ倒れるのがオチだ
 目だってまだ手を伸ばした程度にしか見えんだろ、まだダメだ」

「・・無理だと思ったらすぐに戻ります」

「俺が決めたメニュー意外はするなと 最初に言ったはずだぞ、匠」

「でも・・・!」



「おい・・匠っ!」
見かねた浅葱が匠の肩を掴んだ




刻印 -110へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -108

匠は左手で胸元の龍を掴むと、そのまま リビングを出て行く



「あれ・・ 匠さん? どこへ?」
ふいに立ち上がった匠に気が付き、後ろから深月が声を掛けてきた

「・・・・・・・・・・・  洗面所・・・・」
声のする方へ顔を向けもせず ただそれだけ言って
匠は 何かに追われる様に部屋を出る


視界がほとんど無くても この部屋・・この家の中は
ほぼ不自由無く 普通に歩き回る事ができていた



しかし、リビングを出て 暗い廊下を歩く頃には
すでに体が震え、呼吸が苦しくなっていた


・・・まだだ・・・  もう少し・・・・  もう少し待て・・・・・




震えて動かない足をやっとの思いで引き摺り
リビングから一番近い洗面所に入ると鍵を掛けた

もう普通に呼吸をする事さえ出来なかった


ズルズルと壁に沿う様に体が崩れ
膝をつく


ハァ・・・ハァ・・

ハァ・・・ハァ・・


全身が震える・・・
膝を付き、両腕で自分の体を抱きしめ、震えを止めようとした

・・・・止まれ・・・・止まれ・・・・・

・・・・・・・・・止まれ・・・・・・・・・・・






声をかけた深月の方を振り向きもせず、リビングを出て行った匠の後ろ姿
それを浅葱も見ていた
いつもは 誰に対しても、そんな態度をとる匠ではないのに・・

・・・・匠・・・?


「ちょっと待っててくれ」
それだけ二人に言うと 浅葱は匠の後を追ってリビングを出た


「ん? ああ・・・どうした?? 恭介・・・・・」
「浅葱さん??? どうしたんですか? 打ち合わせ・・・・・・・」
二人の声が背中で聞えた




廊下にはもう匠の姿はなかった
洗面所の閉まった扉をノックする

未だに匠は閉鎖空間を無意識に嫌がっていた
もちろん、それが洗面所や風呂、トイレならば
閉まっていても何も不思議はないのだが・・

だが今、浅葱は それとは違う嫌な感覚を感じていた




「匠・・・? ここに居るのか・・・・?」
いきなり扉がノックされ浅葱の声がした


「どうした? ・・・気分でも悪いのか?」





・・・・あさぎ・・・さん・・・・・・・・

まだ震えが止まっていない・・
それどころか酷くなっていた


声を聞かれまいと 膝を付いたまま、必死に手を伸ばし蛇口を開けた

勢い良く水が流れ出す



ハァ・・ハァ・・・

ハァ・・ハァ・・・



水音に紛れ呼吸をする・・



「何ですか? 浅葱さん」


力を振り絞って平静を装い 普通のトーンで返事をした
タグを握る手にも力が入らなくなっている

「あ・・いや・・・・・」




リビングから浅葱を呼ぶ深月の声がしていた

「ほら、流さんが呼んでますよ」
水音に誤魔化された匠の声は いつも通りだった


「ああ・・・何でも無いなら良いんだ」
そう言うと浅葱の足音が遠ざかって行く・・



・・・・・ん・・ックッ・・・・・・・・・・・!






「匠さん、どうかしたんですか?」
浅葱がリビングに戻ると 深月が不安そうに尋ねてくる


頭の隅に残る嫌な感覚を 浅葱は自ら打ち消した
これから仕事に出る深月にも 余計な心配をかける気はなかった
「いや・・・何でもない・・」





一通り打ち合わせが終わる頃に 匠はリビングへ戻って来ていた

何も言わずに またソファへ座り
何事もなかったかの様に転がったボールを拾い上げた




刻印 -109へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -107

「あ・・・・・・・流さん・・・
 どうして 流さんが 泣くんですか・・・ 泣かないで・・・・・」
匠は困惑した様に、まだ わずかしか動かない手を深月に差し出す


深月はその手を握ると 黙ってポロポロと涙をこぼした



お守り・・ 拠りどころ・・・
そんな自分にとって大切なモノが 一瞬で憎悪する傷の象徴にされた・・
死のうとした程の 苦しみの元凶に・・・
なのに・・ どうしてそんなに穏やかに
悲しく笑うんですか・・・・匠さん・・・・




「おい、流・・  本当にお前が泣いてどうするよ・・
 いつもの元気はどうした・・?  大好きな匠が 困ってるだろ・・」
オヤジの優しい声がする


「はい・・・・ すみませんんんん・・・ なんだか・・・・急に・・・・・」
深月が袖口で涙を拭った


「深月・・ 今夜は仕事に出るんだろ・・ しっかりしろ」
深月の頭をグシャグシャと撫でながら タオルを差し出す浅葱の声も
普段より優しかった


「は・・  はい・・  すみません・・ もう大丈夫です」
浅葱から受け取ったタオルで 深月はゴシゴシと顔を拭く








「今夜・・  仕事なんですか・・?」 
匠が浅葱の声の方へ向いた


「ああ・・ と言っても 深月が出るのは簡単なヤツだけだ」

「そう・・  ・・ですか・・」

「匠はそろそろ部屋に戻って休め・・ あまり疲れると、また痛むぞ・・
 今日の出血なら・・・自分の部屋で大丈夫だ」 
オヤジが匠を心配して声を掛ける



「お二人が出るまで、俺 起きてます
 見送り・・ とか・・ しようかな・・・・・流さん・・・」
優しく深月の方へ向かって言うと
その声に まだ涙を拭いていた深月が嬉しそうに顔を上げた



「大丈夫か? 無理するなよ
 辛くなったらすぐに部屋へ引き上げるんだぞ」

「はい・・」







それからしばらくして浅葱と深月は
オヤジの机で仕事の打ち合わせを始めた


まだ手を伸ばした程度・・・
視界が1mにも満たない匠には その三人の姿はまだ遠く、何も見えなかったが
声だけは聞えていた


「逃走経路が・・・・・・・・想定される人数は・・・・・・・
 ここの角を・・・・・・・・・・ 深月はここで・・・・・・・・・・」
次々と浅葱の指示する声


「僕はここで・・・・・・浅葱さんが・・・・・・こっちから・・・・・」
それを必死に理解しようとしている深月の声も・・





その声を聞きながらソファに座ったまま
匠は 深月に貰ったボールを握っていた


が、頭の中では その浅葱の指示する作戦の意図と
それに対してどう動くべきか・・・・自分の行動イメージが
鮮明に浮かび上がっていく


・・・無駄が無い・・・
・・・・さすが浅葱さん・・・・・・



無意識にそこまで考えてハッと我に返った
・・・俺が行く訳じゃない・・・・  か・・・



溜息の様に1つ息を吐き、手元を見つめた
今、自分の手にあるのは銃ではなく おもちゃのボールだった




思わず握った左手に力が入る
が、柔らかいはずのボールは ほとんど原型を変える事さえない


小指側3本の指に力を入れると 肘に鋭い痛みが襲った
それでも右手で肘をかばう様に手をあて、ひたすら握り締めた
唇を噛んで思い切り・・



ずっと聞えていた三人の声が 少しずつ遠くなっていく・・


呼吸が苦しくなる・・
発作の兆候だった

匠の手からボールが落ち、足元に転がった




刻印 -108へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -106

「・・俺に・・・ プレゼント・・・?」

「ああ・・」
浅葱はポケットから小さい箱を取り出すと、蓋を開け匠に手渡した



「・・これ・・・・」 
匠が箱の中を見つめる・・


「これ・・・俺の・・・・・」 

「ああ・・ 見えるか? お前のだ・・」



「あ・・・ありがとう・・ございます・・・・・・」
匠の声がわずかに震える

「どうしたー? 匠ー! 泣いてるのか?」
オヤジが茶化す様に笑った



「ホントに・・・・ ありがとうございます・・・・」

「お前のは・・ この前 無くしてしまったからな・・
 オヤジと相談してたんだ・・   元気になったら、作ってやろうって・・」



浅葱が箱の中身を取り上げると ソファの後ろへ回り 
匠の首に  ・・・1つのペンダントを掛けた



匠の胸の傷の前で揺れるそれは・・
空へ登ろうとしている勇壮な龍の姿だった



匠はそれをギュッと両手で握り締める
あの日・・ 拉致された日に 男の手で引き千切られたまま無くなった
匠のペンダントだった



「すごい!! めちゃくちゃカッコイイですね、それ!! 
 でも、匠さんの・・って・・  何ですか?! これ・・」
深月が歓声を上げる




「流は、 ” タグ ” って聞いた事ねぇか? いわゆる認識票ってヤツだ
 兵士が首から掛けてるペンダントで
 あれには 名前や、血液型、所属軍なんかが刻まれていてな
 戦場での遺体認識に使われるんだ」
オヤジが話し始める


「あ・・ 映画とかで見たことありますが・・・・・」


「ああ そうだ、それだ。
 俺達は 表 じゃねぇから、もし殺られてバラバラにされちまっても
 正式な・・ そういう身元確認はされないんだが・・
 それでも、仲間としては放っちゃぁ おけねぇ・・

 それでだ・・  どこの誰が始めたかは知らねぇが
 そのタグの意味を真似した・・・
 こういった物を身につけて 仕事に出る様になったんだ
 仲間内だけの身元確認の為にな

 まぁ 正式なモノじゃねぇから、
 別に名前や所属が書いてあるわけでもねぇし・・
 というか、俺達は あえて入れてないんだけどな」


「俺達って・・ みんなペンダントを持ってるんですか・・!?」

深月が目を輝かせながらオヤジに尋ねる



「ペンダントだけじゃねぇ・・ 指輪だったりブレスレットだったり
 外国のヤツはタトゥーだったり・・ いろいろだ
 それも決まりがある訳じゃない
 何でもいいんだ・・最期に自分を探してもらえる目印ならな」


「じゃあ・・おやっさんや浅葱さんも!?」


「俺は外には出ねぇからなぁ~・・・持ってねぇ・・」
オヤジが笑う


「ほとんどは 恭介や匠みたいな・・ 外に出る奴だな、持ってるのは」


「じゃあ、浅葱さんも?!」
そう聞かれて 浅葱が自分の胸元からペンダントを見せる


「俺のは・・・・・鷲だ」
そこには壮大に羽を広げ獲物を狙う鷲がいた


「これもカッコイイ!
 何の形にするかって自分で決めるんですか?!」


「それもいろいろだ
 一種のお守り・・・・ 自分の拠りどころ・・・
 信仰を持ってるヤツは 宗教・・信念・・そういった物だったりな
 
 自分のベース・・ 自身の礎 (いしずえ)・・・・
 まぁ、人それぞれタグの捉え方は違うからな   
 だから 何にするかは自由だ
 大事な人に決めてもらったり・・・ 誰かのを引き継ぐ事もある
 
 正式なモノじゃねぇから、何でもいいんだ

 まぁ 好き勝手に決めるから 他の誰かと被ってるかもしれねぇが
 ただ、大切な人間のタグが 何かさえ知ってればそれでいいんだ」 


「拠りどころ・・・ お守り・・一人ひとりの大切な物・・
 僕も覚えておきます! 
 匠さんが龍で、浅葱さんが鷲・・・・」




そこまで言うと ふと何かに気付いた様に 深月の顔色が変わった


・・・・・龍・・・?

・・匠さんの・・・龍・・・・




「・・もしかして・・・・」



慌てて深月は匠の方を振り返る

その匠の表情は わずかに微笑んでいる様にも見える
だがそれは・・
深月には 悲しい色をたくさん浮かべた微笑みに見えた



「だから・・・・匠さんは・・・
 背中に・・・龍を・・・・  ・・・入れられた・・・・・?」

「うん・・・たぶんね・・」


その落ち着いた穏やかな・・・悲しい匠の声に
深月の目から涙が溢れ出していた




刻印 -107へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -105

浅葱が外出先から部屋に戻ると、リビングのソファに匠が座っていた

「おかえりなさい」
匠の声に 浅葱の表情が穏やかになる


「こんな格好で・・・・すみません」
そう言う匠は 上半身が裸のままだった




「シャツ・・・ 羽織るって言ったんですけど・・・深月さんが・・・」

「シャツなんて着たら、傷が痛みますよ
 部屋にいる時ぐらい楽にしていればいいんですって・・」

あれほど怖がっていた匠の傷も 
リハビリのの手伝いをするうちに 深月は普通に見られる様になっていた


そして匠自身も この家の中だけでなら
自分の背中を曝 (さら) け出せていた
勿論 それは、仕方なく・・だったが・・・




「俺は何でも構わんが・・・・もう こっちでいいのか・・?」
リハビリが始まり、また出血を繰り返す様になってから
匠はまたずっと医務室で過ごしていた


匠に尋ねたつもりだったが また深月が返事をする
「今日は出血が少なかったんですよ! ・・・ね!
 それに医務室なんかじゃ、良くなりませんよ、 あんな暗くて何もない所・・」



言われて見ればリビング中 色とりどりの風船が飛んでいる
「で? 何なんだ・・・? これは・・・・・」


「流が 匠の視力回復のトレーニングにって、買って来たんだ」
オヤジが、飛び交う風船に半ば呆れた様にしながら 肩をすくめてみせた


「やっと少しでも見えるようになったんだから・・!
 でもずっとモノクロでもダメでしょ・・? 
 色ですよ! 色!
 あ、そうそう!! もう1つ プレゼントがあるんです!」


深月は袋から 柔らかいゴムボールを取り出す


「これをこう・・握ってー・・・ 握力も回復です!」
そう言ってボールの1つを 匠の手に握らせる


「あまり匠を疲れさせるなよ・・ 深月」


リハビリだけでも疲れているはずの匠を心配になるが
オヤジが側にいる
何も言わずに呆れている所をみれば、まだ大丈夫なのだろう



「ありがとう・・・深月さん」
匠がボールを受け取りながら礼を言うと
突然、 「あの・・」 と、深月が改まった


しかも言い難そうに匠に切り出す
「あの・・・ 匠・・さん・・・・
 前から思ってたんですが・・・ その・・・・・・」


「・・・・・何??・・・深月さん・・・・」


「その・・ 深月さんって・・・呼ぶの・・・・
 出来れば・・・やめて・・・
 流 とか 深月 とか・・・・そう呼んで貰えると嬉しいんですけど・・・」

まるで初恋の相手に告白でもするかの様に
深月は真っ赤になってそう言った


何事かと思って聞いていたオヤジが思わず吹き出した




「あ・・・じゃあ・・・えっと・・・・流・・さん。 ・・・で・・」

「はい!! ありがとうございます!」

深月は満面の笑みで匠を見つめる




匠がリビングに居るのが嬉しいのか、名前を呼んで貰える事が嬉しいのか
深月はかなりハイテンションだった


「そうだ・・! 匠さん、指文字とかしたことあります?
 あれは指の運動にいいと思うんですよ!

 それに、ただ意味無く指を動かすだけよりいいですよ!
 手話は腕全部使うけど 指文字なら50音できるし・・
 あ・・ 数字は簡単なんです!」


そう言うと いきなり匠の左手をとり
「これが1で・・・これが・・2・・」
そう言って匠の指を伸ばしたり曲げたりし始めた



「・・・・・・痛ッ・・・・・」
急に腕と指を動かされ、左腕に痛みが襲う
匠が顔をしかめた


「深月・・・!」 浅葱の声が飛ぶ





腕にはまだ全く力が入らなかったが、
わずかに肩を上げる程度は出来る様になっていた

だが 時折襲うこの左腕の激痛は続いたままだ・・




「すみません! 痛かったですか?! 急にやりすぎました!」

「あ・・大丈夫です・・・・流さん・・」

「匠、疲れたらすぐに休むんだぞ・・
 それに流もだ、  ほどほどで匠を開放してやれ」
オヤジが釘をさした


「・・・はーい・・・・・・」 
しょんぼりと 元気の無い深月の声だった


「あ・・・でも、プレゼント、嬉しかった・・・ありがとう」
匠が慌てて慰める



「じゃあ・・・俺とオヤジからもプレゼントがある・・・匠・・」




刻印 -106へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -104

ハルとの通信を一方的に切った男

その男は黒のシャツに黒ネクタイという出で立ちで 肘掛に乗せた腕を組んでいた


「全く・・・あの時、さっさと浅葱を始末すれば良いものを・・
 面倒をかけさせる・・・・不要な手間がかかるだけだ
 こんな若造一人に振り回されるとは・・・・
 覇琉 (ハル) もたいして使えんな・・・」




高級な絨毯が敷かれた薄暗い部屋
重厚な執務机

そしてその机の上には開封された封筒が放り出されている

そこから乱雑に広げられているのは
匠が写った数枚の写真・・
その中には、背中の傷の写真もあった



その傷の写真を まるでトランプの様に指でもてあそびながら
「悪趣味な事だ・・・」
男が呟いた




と、 その声に返事が返ってくる


「そう捨てたモノではありませんよ・・・
 実際に見て頂ければお判りになると思いますが
 これは非常に素晴らしい一級の芸術作品です・・・・」


一人の老人が 部屋の中央の応接椅子に座っていた
テーブルの上には 酒の入った瓶とグラスがある
湿った声で手を擦りながら こちらを見ていた







コンコン・・

ドアをノックする音の後 スーツ姿の男が一人入って来る

「そろそろ次のご予定が・・・」

「わかった」 男は答えると 老人に向き直った



「アナタも、もう帰った方がいい
 途中まで車で送らせますよ」

「・・いや・・・ まだ酒が残って・・・・・」
言い掛けたが、名残惜しそうに腰を上げ
立ったまま残っていたグラスの酒を一気に呷 (あお) った





スーツの男は老人を急き立てる様にして 部屋から追い出していく


その後に、机の封筒を握った男も 部屋を出ようとする

扉の前まで来るとスーツの男が一礼し
男の肩に 上着を羽織らせるように掛けた


黒の上着を羽織ると その上から銀の大きなバックルの付いたベルトで止める
袖口や襟元には同じ銀の飾り縁があり、
肩と襟に階級章が下がっている

それは漆黒の軍服の様だった


通常、右肩から下げる飾緒が 
反対の左肩から・・ 細い鎖様の飾緒が下げられているのが
正規の、表立って動く組織では無い事を示していた







部屋の前、静かな長い直線廊下の先に エレベーターがある



ホールまで行くと、既にエレベーターは到着し 中には二人の男が乗っていた

後から来た三人に気が付くと 扉を開けたまま待っている




中の男のうち一人は 同じ漆黒の軍服を着、もう一人はスーツ姿だった
スーツの男達は 秘書の様な役目をしているらしく
荷物を持ち、エレベーターを開けているのもスーツの男だ



三人が乗り込む



「ここで民間の方に会うとは 珍しい・・・」
先に乗っていた軍服の男が 小奇麗とは言い難い老人を見て言った


「ああ・・ 届け物をして頂いただけですよ」
そう言って さっきまで机に広げてあった封筒をチラリと見せる


「それにしても、この階にまで上げるとは・・・・」
男は酒臭い老人を 鋭い目つきでじっと見つめた





重い空気に包まれたまま
このエレベーターで降りられる最低階の30階まで 一気に降下する

扉が開くと同時に 
老人を連れた三人はエレベーターを逃げる様に降りた



そこは静まり返った上の階とは違い、人が行き交うフロアだった

子供を連れた女性、スーツ姿の男女・・作業着の者もいる
民間人に混ざって正規の軍服姿も陸・海・空・・と数多く 忙しく歩き回っている
漆黒の軍服・・・しかもそれが 表 ではない事に気が付く者は誰も居なかった 




後から降りた二人の男の姿が見えなくなるのを確認すると
「しばらくは ここに出入りされない方がよろしいかと・・・」
スーツの男がそう老人に囁いた


「大事な資料を持って来てやったんだぞ・・・!」
自分の何が悪い! とでも言わんばかりに老人は声をあげる



「お静かに。
 日にちが決まれば必ずこちらからお知らせ致します
 それまではどうか・・・・
 お車は1階にご用意しております」 

丁寧だが、どこか突き放した様なキツさがあった


その冷たい迫力に老人は 「・・・フンッ」 と一言残し 帰って行く
老人の小柄な姿は すぐに人に紛れ、見えなくなった



「ったく・・・ どいつもこいつも、気に食わないヤツ等ばかりだ」
老人の後ろ姿が見えなくなる頃 軍服の男が言い捨てる


「これで資料を作って出席者に回せ、日時は未定でいい」
そう言って 写真の入った封筒をスーツの男に手渡した




刻印 -105へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -103

「いったい、どうなっている・・!」
広い部屋に男の声が響いた
強く冷たい声だった


その男は 部屋の中央に置かれたテーブルの上にあるモニターに向かって
話をしていた


その男の隣・・・
テーブルの脇に立っていた 細身で蒼い目をした若い男も驚いて声の主を見る
柔らかそうなウェーブの髪が肩にかかっている



そして、その声に驚いたのは
入り口の両側に立っていた黒服の二人の男も同じだった
二人が揃って男の方を振り返った

「目障りだ、席を外せ」
その動きに気が付いた男は 黒服に言う

黒服の男達は一礼すると そそくさと、嵐を避ける様に部屋から出て行った





「そう焦るな・・覇琉 (ハル) ・・・召集はかけてある」

「もう10日以上だ・・・・これ以上待てない」

「それは、お前がやりすぎたからだ・・
 あまり痛め付け過ぎるから、 呼び出しても出てこない
 だから あれほど、ほどほどにしておけと・・」


モニターには一人の男の後姿が映っていた
イスに座り背を向けている


「何でもいい・・  早くタクミを取り返せ・・」



その言葉に男がクルリと振り返る


「んん? ・・いつから目的が変わったんだ?
 あんな若造一人が 目的では無いはずだろう??」

そう言われ 返す言葉が見つからなくなる・・



「・・チッ・・・
 ・・だが忘れるな、目的を果たした後には 必ずタクミは私が頂く・・・」

「わかっている・・・ その為にわざわざこうして面倒な手間を取っている
 もうしばらく待っていろ」


それだけ言うと男の方から 一方的に通信は切られた




「・・クソッ・・」

ハル と呼ばれたその男は乱暴に席を立ち 窓辺へ歩いていく

窓から海が見える
開けた窓から海風が入り込み その風は重いカーテンを緩やかに揺らす

風に髪が揺れる

左の頬の傷が目立つ・・



 
明るい陽を浴びても、爽やかな風が吹いても
ハルの表情から苛立ちは一向に消えないでいた

いや・・その爽やかさが余計に鬱陶しく、腹立たしい



振り返ると 机の横に立ったままだった蒼い目の男・・
まだ二十歳そこそこにしか見えないその男に 「来い」 と一言だけ言った



その声で蒼い目の男が歩いて来る

「・・脱げ」 

感情も何も無い声で告げる



蒼い目の男は 少し下を向き目を伏せると
何も言わず スルスルとネクタイを解いていく

その姿を ハルは 冷ややかな目で見ていた



ネクタイを解き、シャツを脱ぎ、自ら全裸になった男を 横のソファへ押し倒す


肩を押さえ付け、男の細い首に乱暴に舌を使い
そのまま首筋から胸元まで、手と舌を這わせて行く


押し倒された男は 無抵抗で目を閉じ
小さく開けた口からは 微かな声が漏れる・・
その表情には 悦びさえ見てとれた



舌が下腹部まで下がると、
蒼い目の男の両手が ハルの背中に回される



細い腕で自分の体に抱き付いてくる肌の感触・・

舌を這わせたまま チラリと目線を上げ
自分の下に組み伏されている若い男の顔を見る



その男の顔は 頬を染め、高揚し・・・・・自分を求めていた

その恍惚の表情に・・・



苛立った・・




男の腕を掴み 乱暴にうつ伏せにすると
腰を持ち上げ、足を開かせる

そして、いきなり・・・何の準備もなく
男の穴に自分のモノを突き立てた


そのまま 腰を掴み ただ激情のままに犯し始めた





「ぁっ・・・・・ぁっ・・・んっ・・んっ。。。。。。」

若い男の ・・甘い甘い欲望の声がした



その声に ハルは眉をひそめる


目の前に 男の細く白い・・ 女の様に滑らかな肌の背中が見える
その背中に 思い切り手をついた

「・・ぁあっ んっ・・・・」



細い恍惚の声に神経が逆撫でされる 

「・・・・クソッ!!!・・・・」
ハルは途中で自分のモノを引き抜いていた



「もういい! お前も下がれ・・・!」



そう言われ蒼い目の男は慌てて ソファから立ち上がると
床の衣服を拾い、部屋を駆け出ていく・・






タクミ・・・・・


タクミ・・・・・!!


どこにいる!!!




刻印 -104へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -102

「どうだ? この距離なら俺が見えるか?」
そう言って浅葱は、匠の頭を引き寄せる様に片手を添え 顔を近付ける


「・・ん・・・・ぼんやり・・・と・・なら・・・
 濃い霧が・・ かかったみたいな・・・モノクロだけど・・」


うっすらと人の顔らしきものが見えていた




だが、いくら痛む目を凝らしても それ以上はハッキリとしない
目の奥の痛みだけが増していく


最後に見た浅葱さんの顔は・・
あの日・・・一緒に仕事に出た日、街で合流した時の浅葱さんの姿
あれが最後だったのかも・・・
そんな事を考えた


ひどく遠い昔の記憶の様な気がして、思い出そうとすればするほど
覚えていたはずの浅葱の顔さえ 曖昧になってくる




浅葱さんの顔・・・・

もっと、 ちゃんと・・見たい・・・

覚えていたい・・・・忘れたくない・・

こんなに近くにいるのに
見る事も・・触れる事も出来ないなんて・・・・




匠の胸の中に 苦しくて重い・・そして熱い何かが 広がっていく
それは傷の痛みとは全く違うモノ・・




”・・せめて ・・この手で・・・触れられたら・・・・・”

匠は声を出したつもりはなかった 
が、それは本当に小さな呟きで 浅葱の耳に届いた・・



・・・・匠・・・・


浅葱は匠の手をとり 自分の頬にあてた

いきなり自分の手が 浅葱の頬に触れ
今の声を聞かれたんだと・・・・  匠の顔が熱くなる





目の前にある匠の顔・・
その視線はまだ合っていないが
真っ直ぐに浅葱を見つめる匠の瞳があった

少し色素の薄い ブロンズを思わせる蒼茶色の瞳・・
それは氷の様に澄んでいるのに 奥底には悲しげな影がある

本当に この目が見えていないのか・・・・・





悲しい影に引き込まれる様に 浅葱はその瞳を見つめ続けた


胸を・・心を・・締め付けられる様な苦しい感覚・・
それは 懐かしく、悲しく・・そして愛おしかった



その瞳を見つめるのが苦しくなり、手を伸ばし 匠の目を覆う

そのまま目を閉じた匠の前髪に触れて、髪をかきあげる




そして その匠の額に 唇で触れた・・




「ん・・」
小さな声がして匠の肩がピクンとすくみ、驚いたのがわかる


浅葱は匠の顎に指を掛け、少し上向かせると
自分の唇で 匠の唇に触れる・・



「・・んっ・・・・・」



匠の顎に指をかけたまま、 もう一方の手で匠の手を握る
そしてそのまま 2度・・・3度・・・・確かめる様に 軽く唇を触れ合わせた・・・



こういう行為は・・・・匠には恐怖なのでは・・と思っていた
思い出したくない悪夢を、また思い出させるのではないかと・・


だが、匠は逃げなかった
じっと目を閉じている
ただ・・・浅葱に握られた手に 力が入る・・



「・・匠・・・・大丈夫か・・?」

浅葱の言葉に 匠は一度目を開けた 
ゆっくり頷くと また目を閉じる・・


匠は自分でも 何故頷いたのか、わからなかった・・
ただ・・ 素直に嬉しいと・・ そう思えた





浅葱は握った手に力を込め、指を絡ませ・・
唇と唇を合わせる・・


この愛しい者を・・ この瞳を・・ 二度と手放したくない・・


「・・・・匠・・ 俺の側に居ろ・・」
 



すぐ側で浅葱の声がした


「・・・は・・・い・・・」
  
痛みではない胸の熱さで、それだけ答えるのが精一杯だった
心臓が破れそうなほどの自分の鼓動が ハッキリと聞えていた



恐怖は無かった
あの男とは違う・・
あの地下室で救われた時と同じ 優しい唇

体の痛みも 胸の中の重いモノも・・ 全て流してくれるような
優しさと安心感があった




刻印 -103へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -101

その日は珍しく 夜のまだ早い時間に一人での仕事を終え
浅葱が帰って来ていた


「匠・・・・」

匠の部屋を覗き、声をかけても 人影がない

奥の医務室の扉が開いている



「匠・・・・ここか・・?」

そっと中を見ると 匠は廊下からの薄明かりが漏れる部屋の
診察台のベッドの上に膝を抱えて座っていた


「どうした・・・・真っ暗なままで・・・
 ・・・・座っていて大丈夫なのか?」
浅葱が声を掛ける


「あ・・・お帰りなさい・・・真っ暗・・だったんですね・・・
 今日は・・・まだ・・・大丈夫・・・・・・」
痛みが酷い時は、話す事さえ辛そうな匠が わずかに首を持ち上げ返事をした


「そうか・・・」
少しホッとしながら 浅葱が部屋の明かりを点けると
匠は顔を歪めて目を閉じた

「眩しいか?」

「少し・・・・」

「まだこっちに居るのか?」
一度は自分の部屋に戻れたと、喜んでいた匠だった


「今日は・・傷の出血が  止まり難いみたいで・・・・
 ・・・部屋だと汚してしまうから・・」


「・・焦らなくていい・・・またすぐ戻れる・・・ 少し、横になれ・・」





浅葱が匠の隣に腰掛けると、
匠は抱えた膝に顔を埋め 浅葱から視線を逸らす



「一度横になると、もう自分では身動きが取れなくて・・
 まだこうやって座っている方が、動けるから楽なんです

 それに・・・ゆっくりと流れていく血の感覚が・・気持ち悪くて・・・
 ・・あの点滴の薬のせい・・らしいです・・血が止まらないのも・・
 腕が痛むのも・・・・」



こうやって顔を隠したまま 匠がいつもより多く話す時は
かなり気持ちが弱っている時だった



「まだ・・体、辛いか?」

浅葱が、匠の汗が滲んだ額に 手を当てようとする




匠がフッと・・  その手に反応して顔を浅葱に向けた



「・・・匠・・? ・・・見え・・・るのか?」
その反応に驚いた様に 浅葱が匠の顔を見る


「まだ、ほんの少しだけです・・・気のせいかもしれない・・
 ・・影・・・・みたいな物が動く事があるぐらいで・・・
 かなり近付けば・・・もう少しは・・・・
 だから 明かりが点いているとつい目で追ってしまって・・・・疲れるので・・・・」


「匠・・・ちゃんと こっちを向いてみろ・・」


浅葱は部屋の明かりを消し、診察台の横の小型の照明を点ける


「これならさほど眩しくは無いだろ・・・見えるか・・・?」
匠の前に手を出し 動かしてみせる


匠が目を凝らすようにして 正面を見つめる・・
左右に黒い影の様な物が横切る感覚がある


「・・・影・・みたいな・・
 ぼんやりとして、ハッキリはわからないけど・・・・・・痛ンッ・・」


目を凝らして物を追うと激しい痛みが目から頭に突き刺さる
思わず強く目を閉じ、頭を振った・・・

その目の痛みに反応する様に左腕が痛み始める


・・・・クッ・・・・!!




「大丈夫か? 匠・・」

「大丈夫・・・痛みって連鎖するみたいで・・・」

「まだ大丈夫しか言わないんだな・・・・お前は・・・・」




刻印 -102へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -100

その日、一日のリハビリメニューが終る頃には
匠は気力も体力も使い果たしていた


やはり何度試しても、左手の指には 全く力が入らず
それどころか、激しい痛みだけを蓄積させていた


”もう少し体を休めてからにしろ・・・・・”
そう言ったおやっさんを思い出す




針を抜いた痛みに腕の痛みが重なり もう体は身動きさえ出来なかった

本当に・・おやっさんの言う事はいつも正しいな・・
ふと、そんな事を思い自嘲した



が、ここで立ち止まる気はなかった
辛いなら・・時間がかかるなら・・  余計に少しでも早く・・ そう思った
左手がダメだと言うなら ・・尚更・・





そのまま 診察台の上にぐったりと倒れ込んだ・・



しばらくは 気を失う様に眠っていたのかもしれない・・

が、それも長くは続かなかった
すぐに背中の焼けるような熱さと痛みで 目が覚める



背中の傷はまた出血し始め、
ゆっくりと傷から溢れては脇腹へと流れてくる血と体液の感覚が
ひどく不快だった



特に左腕は次々と激しい痛みを引き起こし、じっとしているのも辛い


体が自由に動くなら、呻き転がり回りたい・・
・・・が、それさえも出来ない

ひたすら足を動かし体をよじりながら
右手で左腕を押さえ込み、ただ耐えるしかなかった




ハァ・・ハァ・・

ハァ・・ハァ・・




呼吸が速くなると、腕の痛みが酷くなる

体が悲鳴を上げた



「・・・ァァッ・・!! ・・ンッ・・・・」



ただ腕を動かすだけ
ただ物を握るだけ
ただ寝返りを打つだけ

そんな 赤ん坊の頃に無意識に覚えた事が出来ない・・


どうして・・こんな・・・
どこからも答えが返る事のない疑問を・・
答えなど既に知っているはずの疑問を  無意味に自分に問い続けた







その時、浅葱の声がした

「辛いか・・・・・」
そう言って体を抱き起こされる・・


「オヤジに聞いた・・
 リハビリ、どうしても すぐにって・・・ 頼んだんだってな・・・
 本当にお前は、無茶しすぎだ・・・」
いつもと同じ様に、膝に上げられ抱きかかえられた



「血・・・汚れ・・・ますよ・・・・・・・・・・浅葱さん・・・」

そう呟いたが浅葱は フッと笑っただけで、手を離そうとしない



「・・すみません・・・・・・・・」
一言 言うだけで 匠も自分の痛みに耐えるので精一杯だった



浅葱の膝の上で 声を殺し、腕を押さえたまま 足で体をよじった
浅葱は何も言わず そんな匠の体を支える



匠の手を握り 呼吸が落ち着き、
匠が浅い眠りに堕ちるまで 浅葱は黙って匠の肩と腕をさすり続けた









一日に何度も・・・ 時間がある者が交代で
匠に 目の洗浄とリハビりを施した

その度に・・ 特に左腕は必ず激しく痛む
日々 目まぐるしく変化する自分の体に 精神と体力が悲鳴を上げる


いつも崩れる様に倒れ込む匠を 
浅葱は必ず最後まで手を握り支え続けた
ずっと側を離れようとはしなかった




刻印 -101へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -99

「筋量を増やすのはまだ後だ
 とりあえず今は 現在の稼動域を確保しつつ
 少しずつ動かせる範囲を広げていくんだ・・・」


そう言ってオヤジは、匠を診察台の上に抱き起こした

そのままオヤジに体を支えられ、腕と肩をゆっくりと動かされていく


ビリビリと背中の皮膚が裂ける痛みが襲う・・

「ンッ・・・・!」


上下に・・左右に・・・前後に・・・・
回したり、伸ばしたりと それはとてもゆっくりで単調な動きだったが
動かないまま灼き固められた体組織を
一度 全て無理矢理に破壊し、再生する作業だった


やっと薄い膜が張り 塞がりかけていた傷も破れ
また血と体液が流れ出す・・


・・・・クッ・・!


思わず息を止めた・・


「匠・・息詰めるな・・・普通通りに呼吸してろ」
オヤジの指示に従おうとするが、背中の痛みで 苦しくなる


体を真っ直ぐに支えるのさえ痛みが酷く、思わず顔を背けると
「真っ直ぐ前向いてろ・・」
そう言ってグイと顎を持ち上げられる




今までの様に 体表の傷に触れられる痛みも激しかったが
これはまた違う痛みだった

体の奥底・・・筋肉組織や細胞が引き千切られていく様な感覚・・・



特に体前より 体後に腕を回すと、首下から肩甲骨にかけての皮膚や筋肉に
激しい痛みが起きた

「・・・ァッ・・ンッツ!!!!・・・クッ・・・・」

千切られ、引っ張られ、縮められる痛みに
匠は呻き続けた・・



見ている深月も辛そうに、思わず顔をゆがめた



右腕が一通り終ると、オヤジは場所を移動し左腕を持ち上げる
右と同様に 動かし始めた時だった


右では感じなかった激痛が腕を襲う


「ンッ・・・ぁああッ!・・・・」
匠は思わず声をあげ、顔をしかめて首を振った・・


「・・・ん?」
オヤジは もう一度同じ動きを繰り返す
その度に激痛がおきる


「ァッ・・・・ンッンッ!!・・・や・・・やめ・・・・」

「匠・・どこが痛い? 背中か?」   
今までは どんなに匠が呻いても、全く動じなかったオヤジが尋ねる


「・・・いえ・・・・左・・・肘・・・・傷のあたり・・・・」


匠の左腕には大きな縫合痕がある
それはあの点滴が入っていた場所だった



「そうか・・・・傷は・・見た所、大丈夫なんだが・・・
 今までに同じ場所が痛んだ事はあるか?」
自分が縫合した痕を診ながら、オヤジが尋ねる


「前に・・・・・一度だけ・・・・でもすぐに治まって・・・それきり・・」




オヤジと浅葱の目が合う・・・
浅葱の手首に付いたアザを思い出していた



「匠・・思いっきり握ってみろ」
オヤジが匠の左手に 自分の手を握らせる


・・何・・?
何か・・重大な問題でもあるのだろうか・・左腕に・・・
オヤジの言動にいぶかしみながらも 言われた通りに手を握り返した


「それで目一杯か?」
匠が頷く・・




オヤジの手を握る匠の左手は
中指から薬指、小指の3本に まるで力が無かった


「匠・・右利き・・だったよな・・・」

「はい・・」

「そうか・・左手の指3本・・神経がイカレてるかもしれねぇ・・
 右利きなら、そう不便は無いかもしれねぇが・・・・
 全く動かねぇ訳じゃねぇから・・とりあえず様子を見ながらだ・・・」




刻印 -100へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -98

翌朝、匠がオヤジの診察を受けている時に玄関のドアが開いた



朝から浅葱と深月が 珍しく顔を見せていなかった

特に深月は、日課の様に毎朝 匠の顔を覗きに来ていた

その深月が来ない・・・・
部屋にはオヤジの気配だけ
” 家 ” の中に 二人の姿はない様子だった




夜中に出て行ったのはあの二人だったんだ・・・・



「帰りました~」   深月の声がした
浅葱の声はしなかった・・が気配は確かにあった



「おかえりなさい・・」
匠は診察台でうつ伏せたまま答えた


その匠の声に 深月が喜んで医務室へ入ってくる
「ただいま!匠さん!」




深月の気配と一緒に 硝煙の匂いが入ってきた・・・・

この匂い・・・

仕事・・・・だったのか・・・・



考えれば当たり前の事だった
自分達は仕事をする為にここに居る
家族ごっこをやってる訳ではない


ここに帰って5日・・
今まで、自分だけに付きっ切りで居てくれた方が不思議なのだ・・
おやっさんも・・深月さんも・・・そして、浅葱さんも・・・





そしてその匂いは 妙な懐かしさを感じさせた

ずっと最前線にいた匠だった
人を殺傷する仕事・・ あの公園で感じた自己嫌悪・・
もちろんそれが全て消えたとは言わない・・

が、その匂いが思い出させる一種の懐かしさと安堵感は 
それがもうずっとずっと以前から 
匠の体の一部として共にあった事を思い出させる
それが 誇りだった



しかし今は その匂いが遠く感じた
自分が離れたのではなく・・・ 周りが進んでいる・・





「おい。そこへ入るのはシャワーと着替えを済ませてからだ、深月」
浅葱の声がした


「あ・・はい!すみません! ・・あとで来ますね!」
そう言って深月は浅葱の後を追いかけて行く



「先に銃を片付けろ、それから報告書と・・・・・・・・」
「すぐでないとダメですか・・・・・・・・・」


話しながら 遠ざかっていく二人の足音・・


ポツンと暗闇に置き去りにされた様な・・・そんな、、寂しさ・・






「おやっさん・・・もう・・リハビリ、出来ますよね・・・
 このまま・・・お願いできませんか・・・」

「ん・・・? 無茶を言うな・・
 まだ針を抜いたばかりだぞ、あれでも相当無理をしたんだ
 もう少し体を休めてからにしろ・・・・・」



出来るだけ早く・・と思うのはオヤジも同じだった、が
匠の体力も限界に近いはずだった

それに昨日診た限りでは・・想像以上に傷の状態は良くなかった


「でも・・・少しでも早く・・・お願いします・・」

「だがな・・・」

「お願いします・・!」



言い出したら止められない性格は他の2人も同じ・・
命令だなんだと言いながら
いつもこうやって押し切られてきた自分にオヤジはフッと可笑 (おか) しくなる


「ああ・・わかった、匠・・
 だがお前はすぐに無理をする
 毎日のメニューは俺が決める
 やっていいのはその決めたメニューだけだ。 いいな・・」







一通り診察を終えた頃、浅葱と深月が医務室へ戻って来ていた


「これからリハビリだ
 最初は誰かが 補助し動かしてやらなきゃならんのだが・・・・・・・・」


「僕達でも出来ますか!?」
深月がオヤジの言葉を横取りする

「ああ・・そうだな、 出来れば頼みたい
 二人共 ちゃんと見て覚えろよ」




刻印 -99へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -97

PCの前で 浅葱とオヤジが仕事の話をはじめていた


「仕事自体は、簡単なもんだ・・
 ウォーミングアップには丁度いいかもな
 事情聴取に出頭しろだの、審議会だのと言うくせに
 こうやって仕事だけはキッチリさせようってんだから・・ ったくよぉ・・」

オヤジは眠気覚ましのコーヒーを飲みながら
PCの前で不満そうだった



「組織なんて、そんなものだ」
腕を組み、PCのある机に半分座る様な格好で資料を見ていた浅葱は
あっさりと答えた


そんな二人の話し声に 
隣の机でうつ伏せて寝ていた深月が目を覚ます



「目ぇ覚めたか? ・・流」
「あ・・はい・・  つい、寝てしまって・・すみません・・・」
「構わん、お前も疲れただろ・・」


そう言われて 丸一日以上の・・あの医務室での光景を思い出していた
「いえ・・大丈夫です・・ あの・・匠さんは・・・?」

「今、眠ってる」 
その答えにホッとする




二人の前のPCに 映された資料が見えた
文書に図面に地図・・・・

「仕事・・・ですか?」
「ん? ああ・・お前はもう少し寝てろ」 


浅葱のその言葉に深月は下を向き、黙り込んだ後
「あの・・・僕も連れて行ってもらえませんか?」
床に視線を落としたまま呟いた



オヤジと浅葱が驚いた様に深月を見る
「行くって、流・・ 外だぞ?」


「わかってます・・
 浅葱さんのパートナーとか 補佐とか・・・・・
 そんな偉そうな事は言いません
 
 この前みたいな 恥ずかしい失敗だけは しない様にします
 だから・・お願いします
 連れて行ってください・・」
顔を上げ、二人を見ながら 深月はそう言った



そんな深月の目を 浅葱はじっと見つめていた

「オヤジ・・俺からも頼む・・ 今夜、深月を連れて行く」


その言葉に一番驚いたのは深月だった

何があっても 絶対に最後までダメだと反対すると思っていたのが浅葱だった
驚く様に顔を見る

オヤジも驚いて振り返った



「・・だが、オヤジの許可が下りないなら 無理にとは言わない
 オヤジが決めてくれ」



オヤジはじっと二人の顔を見ながら 暫く考えていた




これから先・・
万が一の場合は、自分が匠を守る・・深月の目は そんな決意の目だった
浅葱もまた、その気持ちに気が付いていた


もちろん 深月を匠の犠牲にするつもりなど全く無い
が、誰かが倒れれば 誰かがフォローする・・
それがチームであり 一緒にこの仕事をすると言う事だった


それが嫌ならチームなど組まなければ良いだけの事
チームや仲間は、強制でも 命令でもない
独りでやればいい
かつての浅葱がそうだった様に・・


だが、今のままの深月では到底無理だ
まして 匠を守るなどと言う事は・・・
だからこその深月の決意・・




「ん・・わかった
 今夜だ、恭介と一緒に行け」

「はい! よろしくお願いします」
深月の表情が引き締まった

「よし、0時に出る、 それまでに準備をしておけ」

「はい。
 浅葱さん、僕の銃を選んで頂けませんか?
 ・・お願いします」

「わかった・・・」

そんな会話をしながら二人は揃ってリビングを出て行った




「なんだかんだ言ってあの二人・・
 それに仕事になると、流のヤツ・・ いい顔しやがる・・」
オヤジが二人を見て呟いた










夜中にマンションの扉が開く気配がして匠は目を覚ました


匠には 今が夜中だという認識は出来なかったが
誰かが出て行った事はわかった


体にはまだ鈍い痛みが続いている
背中は熱を持ち、かなり熱い・・

うつ伏せのままの胸も痛んでいた


あの地下室の時と同じ様に、わずかに足を曲げて体をよじり
上半身を浮かせ、呼吸を確保する・・・・


もうこの体に何の異物もない
あとは元の様に動ければ・・・

少しでも早く・・・




手を付いて寝返りを打とうとしてみた
が、手首と手のひらが動くだけで肩は全く動かない


・・・クソッ・・・・・・・・


足も必死に動かし、上体をひねろうとしてもやはり無理だった
うつ伏せた体制から 肩が中に入らないために
足と腰だけで上体を返す事ができなかった

無理にひねり続けると背中の痛みが増し、胸も痛み出す・・


うつ伏せたまま 身動きできない自分がいた




刻印 -98へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -96

呼吸が落ち着き、匠が浅葱の手を離したのはもう昼近くだった


そっと匠の手から自分の腕を抜くと
浅葱は匠の頭を撫でた



匠はやっと痛みが治まりかけたのか、極度の疲労からか
目を閉じたままぐったりと動かなかった

持ち上げていた腕を顔の横まで下ろしてやると
少し安心した様にも見える




リビングに戻ると オヤジはソファで、ウトウトと居眠りを始めていた
いつも豪快なオヤジだったが、さすがに根気と集中力の要る作業・・
疲れ果てているらしかった

深月もテーブルにうつ伏せたまま動かない



浅葱も近くのイスに座り息をついた・・

と・・ 自分の手首を見つめる・・
匠が力加減無しに握り締めた為に
そこにはハッキリと手の形で紫のアザができていた





「・・イカン イカン・・・・寝ちまうとこだった・・・・」
浅葱の気配にオヤジが目を覚ます


「大丈夫か? オヤジ・・」

「ああ・・何のこれしき・・・匠の痛みに比べりゃ、屁でもねぇ・・」
そう言ってソファから起き上がった




「匠はどうだ・・?」

「ああ・・やっと少し眠りかけてるようだ・・・」


「そうか・・・・ずっと痛みの中で全力疾走してた様なもんだ
 目が覚めるまでそっとしとこう・・・・

 あれで 痛みと腫れが治まれば、あとはもう大丈夫だろう
 目も徐々に見えるだろうし・・・・
 やっと・・・
 やっと・・・なんとか ここまで来たな・・・・」




安心したようなオヤジとは対照的に 浅葱の表情は何故か冴えない


「ん? どうした? 恭介・・・?」

「オヤジ・・・・」



浅葱が 匠に握られていた自分の左手首をオヤジに見せた

「ああ・・ こりゃぁ、アザになっちまったな
 匠が目一杯 握り締めてたからなぁ・・・
 相当の痛みだ・・・普通の人間ならとっくに正気を失ってる・・
 何かにすがってねぇと、そりゃあキツイぜ・・・」


それを聞きながら 浅葱は黙って右手も差し出した

その右手首には、左手首の ハッキリとした手形と違い
細いアザが うっすらと1本あるだけだった・・



「・・・ん?・・・」

オヤジが浅葱の両手首をとり、見比べる


「こいつは・・・」

「ああ・・・ 匠の手・・・・・・
 握力が・・・まるで違うんだ・・・・・・・・・・」




オヤジはここへ戻ってきた時の 紫になった匠の腕を思い出していた


「左腕・・・・そういやぁ・・・右より かなり傷め付けられてたな・・・」

「匠自身も まだ全身の痛みと 腕が動かない事実だけで
 その事には気が付いてないかもしれないが・・・・」

「肘の神経・・・・ あの点滴か・・・・???
 後に残らなきゃいいが・・・・・
 リハビリの時に気をつけて見てやらんと・・・・」

「ああ・・頼む。オヤジ・・」







「あ・・そうだ・・恭介、今夜仕事が入った。 行けるか?」


そのオヤジの声に 笑うように浅葱が答える
「オヤジ・・  今まで 俺に  ”行け” と命令した事はあっても
 行けるか? なんて聞いた事は一度も無かったぞ、 気味悪いぜ・・」


「あ・・まぁ一応・・・ 何と言うか・・・」


・・・・フンッ・・・

鼻で笑う様な仕草をしながらも 浅葱はオヤジの気遣いが嬉しかった


「余計な心配はするな、オヤジ・・俺は大丈夫だ
 詳細、見せてくれ。 すぐ準備する」




刻印 -97へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -95

時計の針はもう深夜になろうとしていた

トレイの中の針も 数え切れなくなっている


ハァ・・・ハァ・・・

ハァ・・・ハァ・・・




匠の浅く荒い呼吸だけが聞こえていた
匠が握り締め続けた浅葱の手首も すでに紫のアザになっている



「・・・・・ァァッ・・・ンッ・・・・・ンッ・・・・・・・!!」

声を殺し続け 嚙み締めた匠の唇も切れ、血が滲む


深月は 器具を洗浄し、補充し直し
オヤジの額の汗を拭い、水を差し入れた

目の前に戦う匠がいた
自分だけ怖いなどと、もう逃げてはいられなかった・・



浅葱は深月が差し出すその水で指を濡らし
匠の乾いた唇をそっと湿らせてやると
匠は安心したように うっすらと目を開け微笑んだ



そしてまた痛みとの戦いを始める










夜が明けた頃だった
オヤジが 「これで最後だ・・・・」 と呟いた


深月が 顔を上げる
「終わり・・・ですか・・・・・・・」

「ああ・・・・・・これで全部だ・・・・・・」
最後の針を抜き終えると、オヤジは大きな息を吐いた





「匠・・・・・・・・わかるか・・・・・・・・終ったぞ・・・・・・・」






匠はその声に微かに頷いた

「・・・・・・ありがとう・・・・・ござい・・・ます・・・・・・」
そう呟いた



深月もやっと安堵の表情を浮かべる
が、浅葱はじっと匠を見つめたままだった

匠がまだ 浅葱の手首を離そうとはしなかったからだ


針が抜かれ、オヤジの作業が終っても
まだ 匠の体の痛みはすぐには治まらない
激痛が襲い続ける


声を殺す匠の痛みは 手首を握られている浅葱だけがわかっていた



オヤジも疲れ切っていた
イスの背もたれに体を預け、目頭を押さえて天井を仰いでいる



「俺はもうしばらく 匠についている
 深月・・オヤジをリビングへ・・」

「はい・・」

「俺も もう年かもしれねぇな・・・」
そう言いながらオヤジは深月に支えられて席を立つ





「匠・・・・よく頑張ったな・・・・・」 
浅葱が声を掛けるが 匠はわずかに頷くだけだった



・・・ンッ ・・・・ァッッ・・・・・・・・・


焼け付く背中の痛みと匠はまだ戦っていた




刻印 -96へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -94

作業は数時間に及んだ

が、それでも広い背中のまだほんの一部だけだった



呻く匠の声も枯れ 時折咳き込む様になってきていた
呼吸もずっと浅く早いままで、いつ発作を起こしてもおかしくない

小さく呻くだけの声・・
意識が朦朧としているらしかった・・




「オヤジ・・匠が・・」
浅葱がそんな匠を心配してオヤジに声を掛けた


「ああ・・そうだな・・・・・」

オヤジが息を吐き 持っていた器具をトレイの端に戻す
そのトレイの中には まだ十数本の針があるだけだ



ハァ・・ハァ・・


ハァ・・ハァ・・・



オヤジの手が止まると
早い呼吸で浅葱の手を握り締める匠の手から やっと力が抜けた
グッタリと そのまま目を閉じる・・


体中が激痛で悲鳴を上げていた


背中から流れ出た血をオヤジが拭き取っていく・・
それすらも 匠には拷問に等しかった

「・・・・・ンッンンッ・・・・・・・ァァッ・・・!!・・・」

また手に力が入る


ハァ・・・ハァ・・・


ハァ・・・ハァ・・・



浅葱がそっと匠の額の汗を拭う



「匠・・今日はこれで終わりにしよう・・」
オヤジが声を掛ける



匠が首を振った・・

「・・・・まだ・・・大丈夫・・・・・・・です・・・・・・・・・」

「おい、無茶を言うな・・・」



オヤジが驚くが、 匠は頑として首を縦には振らなかった


少しでも早く動ける様になりたかった
みんなの足手まといで居るのが嫌だった
そして・・早く浅葱の隣に立ちたかった・・




「だが・・匠・・・・これ以上は・・・」

「・・・・お願い・・します・・・・・お願い・・・」



何度説得しても、荒い息をしながら 匠はそれしか言わなくなっていた






「いいのか・・・? 匠・・・」
根負けしたオヤジが 念を押すように匠に聞く


匠は一度だけ頷いてまた目を閉じる




「恭介、イス 持って来てくれ、 こっからは持久戦だ・・・・」

「でも、オヤジ・・・・」


オヤジは何も言わず、黙って首を振る




「匠・・・本当にいいんだな・・・・」
浅葱も声をかける・・・
匠は無言で頷いた






オヤジが浅葱の持って来たイスに ドカッと腰を据え
灯りの角度をとり直す

「全部、取ってやるからな ・・匠」

新しい手袋に穿きかえると、オヤジの手がまた動き出す




「・・・ンンンンンッッ!!!・・・・・・ァッッ!! ・・・ンッ!!!!・・」



最初は浅葱に握られていた匠の手
今は何かにすがりつく様に
匠の方から、浅葱の手首を掴み 握り締めていた・・




刻印 -95へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -93

オヤジは無影灯を引き寄せると 
匠の右肩から順に、専用の器具で傷の中を探り始めた


「うっ・・・ぁぁ・・・・ぁああぁあっっ・・・・・・!」

唇を噛み、耐える匠が 浅葱の手を握り締める


探る傷からは ツー・・と血と体液が流れ出ていく

肩から背中に幾本もの器具を刺され、血を流し苦しむそんな匠の姿を
深月は何も言わず ただ茫然と見つめていた




・・・・なんで・・・・・こんなこと・・・・・・・・

想像を超えた酷さに深月は 目の前の光景が理解出来ずにいた
こんな事を人間がしたのか・・・
これが人間の体なのか・・・
それが 匠さんだなんて・・・・・
しかも・・・あの画は・・・どういう意味・・・・


考えれば考えるほどパニックになりそうだった
自分でも ガタガタと体が震えているのがわかった




そんな深月にオヤジが気が付く 

「流・・・! ・・無理ならこの部屋から出て行け!!」  
気迫の声だった

浅葱も顔を上げ、深月を見る



深月は無言で 強く首を横に振る・・

イヤだ・・
今出て行ったら・・
ここに居ていいと言った匠さんの気持ちに応えられない・・・!



震える足で深月はその場に立っていた






上半身は動かないものの、匠は足を擦り上げて無意識に体をよじる

「まだそこにいるなら、匠の足を押さえてろ・・流!」
オヤジが 小刻みに震える深月に言う

「あ・・・・・は・・・・・はい・・・・・」
深月が恐る恐る匠に近付き 足に手を掛ける・・
体に触れたとたん、その手に反応し 匠が更に体を動かす



「流!! 押さえるってーのは、もっとしっかりだ! 強く押さえてろ!!」
オヤジが一喝する

「は・・はい!!」





オヤジは数種類の器具を器用に使い 匠の傷の中の小さな針を探していく
見つけられた針は 専用の器具で背中から引き抜かれる

傷の奥深く、時間が経っているものは
既に体内に飲み込まれようとしている物もあった
それらは 躊躇無くメスで切り出されていった





オヤジも必死だった

残された針と その周辺の熱傷の傷は 想像以上に悪い状態だった
素材なのか、打った医者の腕なのか・・
それとも・・お得意の、ヤバイ薬でも一緒に使ったのか・・

何があっても一本残らず、全て取り除かなければ・・・
腹立たしさと悔しさで胸が張り裂けそうだった




匠は必死に声を押し殺した
傷口を刺され えぐられる痛みは
あの老人の作業と何ら変りはなかった

「・・・ンッァ・・・・・・・ンッッ・・・!!!!!!」

頭を振り、浅葱の手を 力加減無しに握り締めた




呼吸をする度、体中がビリビリと痺れる様な
血管の中をまるで小さな虫が這いずり回るような・・
そんな嫌な感覚がした


ハァ・・ハァ・・  

・・ンッ! ・・ッン!・・・・・・・

ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・



その感覚を無意識に嫌がり
呼吸はだんだんと速く浅くなっていく



「匠・・・声を出していいんだぞ・・ その方が楽だ」
オヤジが言うが 匠は首を振った




刻印 -94へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -92

背中の診察が始まろうとしていた


・・ぁ・・そうだ、、僕は居ちゃいけない・・・・
・・まだ許されてない・・
深月がそっと部屋から出て行こうとする

医務室のドアノブに手をかけた時だった


「深月・・さん・・・・・ 居て・・・ください・・・」
後ろから匠の声がした


その声に浅葱とオヤジが驚いた表情を見せる

「いいのか? ・・・匠・・・・・」
浅葱が尋ねた

「はい・・・・・・・」

出来る事なら、誰にも・・・・
浅葱さんにも おやっさんにも、見られたくはない・・
だが、それは到底無理な事・・・


みんなの手を借りなければ、今の自分は何も出来ない
弱さを認めろ・・・  そう言った浅葱の声が蘇る



これからずっと・・ 隠して生きるのは・・・  ・・嫌だ・・





「ん、そうか・・ 匠がそれでいいのなら・・・・ 流・・ 静かにしとけよ・・・」
オヤジが釘をさした

「は・・・・はい・・・・!」
やっと見る事を許された・・
でも・・あれほど気にする匠さんの傷って・・・

深月は緊張した面持ちで 匠の足元に立った







浅葱とオヤジとで 匠は診察台の上にうつ伏せにされる

「・・・ンッ・・・・」
胸の傷と肋骨が圧迫され呻く

「胸、痛むだろうが・・・少し我慢してくれよ・・・」



浅葱にゆっくりと腕を持ち上げられ 頭の上で組む格好にさせられる
もうこれで 腕の動かない匠が、傷を隠すことは出来なかった


体に掛けられていたタオルが下げられていく
小型の無影灯が匠の背中を照らし出す・・



灼けた背中・・・・
まだ完全に腫れも引かないその無残な体に 蛇と龍がいた・・



・・・・・・!!!・・・・・・

深月は思わず口を押さえた・・声は出なかった
息を呑み、目を見開く・・・

熱傷だと、聞いていた・・
なのに・・なんで・・・あんなモノが・・・・・・・・

ショックの余り 茫然と立ちすくんだ・・・・・



オヤジも改めて見ると言葉を失った
それは浅葱も同じだった

匠は・・自分の腕に顔を埋める・・






皆が絶句していた・・




見られている・・・
それだけで辛かった


腕に顔を埋め キツク目を閉じるが
それでも 背中にその視線を感じ
見られているという意識を消す事ができない


目にも体の傷にも・・心にも・・痛みが走る
また体が震える・・


・・クソッ・・!
浅葱は怒りで唇を噛みしめ、視線を落とした
そこには目を閉じ、顔を隠す様にし、わずかに震える匠がいた


匠のその震える手を 浅葱が無言で握る・・




オヤジは大きく息を吸うと、「さあ・・やろう」 一言呟く









「・・・・・糸とステープラーか・・・・」
無影灯で一通り背中を見診するとオヤジが言った

「ステープラー・・」 浅葱が聞き返す



「ああ・・ 医療用のホッチキスみてぇなもんだ
 しかも、これはかなりの旧式だ
 
 金属の針で止めるから、元々 痛みは酷いんだが・・
 現代のモノに比べると これは・・・・素材も粗悪・・止め方もかなり酷い

 体表の見えるところは糸で縫ってあるが、中の方は雑な針止めだ
 これを1本ずつ抜かなきゃならん・・・・・
 あの馬鹿医者が・・・」


オヤジが傷の中・・ 少し見えている針に触れる・・
ほんの少しオヤジの指が触っただけでも激痛が走った


「・・・・・・ンッァッ・・・・・!!」
声を殺して呻く



「どれくらいあるんだ・・オヤジ・・・」


「わからん・・・・どこまで奥に打ってあるのか・・・何本か・・
 探すしかねぇ・・・ 匠・・・・」



その言葉に匠は目を閉じた

触れられただけで痛む背中が あの地下の部屋を思い出させる
叫びそうになる自分を 震える体を、必死で押さえ込む
浅葱に握られた手が震える





「・・・・・お願い・・します・・」




刻印 -93へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -91

浅葱に手を握られ 安心し、目を閉じた直後だった

いきなりの激痛に襲われた


「んぁああああっっ・・!!!・・ンッ!!・・ンッ・・・・!!!」

それはまさに 奇襲 だった
何の準備もなく、反射的に思わず声を上げた



な・・・・なん・・・・・だ・・・これ・・・・・・・・・・・

ンッッ・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!



じっとしていられない程の痛みが襲う


・・この痛み・・・・・・いつもと違う・・・・・・・・・・




自分でも何が起こったか わからなかった・・
それは全身の痛みではなかった
左腕・・しかもあの点滴の針が入っていた辺りだけ・・

もう針は抜かれているはずなのに・・

何なんだ・・・これは・・・


・・・ツッ・・!!・・・クッ!!
重ねてあった右手で左腕を必死に押さえた



「匠っっ!! おい!!!」

自分を呼ぶ浅葱の声で、初めて 浅葱さんが居たんだ・・と思い出す
それほど 何1つ考える余裕がなく、返事すらできなかった


そして 体をよじる程の痛みはわずか2・3分で
まるで波が引くように消えていった
何事もなかったかのように・・


ハァ・・ハァ・・

・・何・・・・・・・・・・・今のは・・・・・・・

ハァ・・ハァ・・

ハァ・・ハァ・・


額には嫌な汗が滲んでいた・・



「匠・・どうした! 大丈夫か!」
浅葱に抱き上げられる

「だ・・大丈夫・・・です・・・慣れて・・ますから・・・」

そうは答えてみたが、それは今までに経験の無い痛みだった
背中でもなく・・目でもなく・・・腕・・・
しかも それは局所だけ・・
こんなのは・・初めてだ・・




そのまま一睡も出来ないまま夜が明けた

だが、あれと同じ痛みが襲って来る事はなかった・・・







「匠、 ・・起きたか?」  朝になりオヤジが部屋に入ってくる

「体調はどうだ? 昨日無理したから辛いんじゃねぇか?」


明け方の事を思い出していた
が、あれからは何も起こっていない
あるのはいつもと同じ体の痛み・・



「大丈夫・・・です・・」

「じゃあ今日は・・・背中、診せてもらうぞ」


そのオヤジの声に匠は目を閉じ頷いた
出来ることなら、誰にも見られたくはない
だが それが無理なのは匠自身が一番わかっていた



浅葱が匠を抱き起こし、ベッドの上に座らせる
昨日 歩き回った分、上体を起こされても
昨日程の激しい眩暈はしなかった

「どうした? ひどく汗をかいてるな・・」
浅葱が匠の額の汗を拭う




浅葱に支えられて立ち上がり医務室まで行くと
深月が もう診察台の準備をして待っていた


「先に目の洗浄をしておくからな・・・
 そこへ座って上を向くんだ」 オヤジが言う


匠が診察台に腰掛けると
わずかに体が震えるのがわかる
2日前、ここに帰ってきた時の あの痛みを思い出していた


「薬を入れるとかなり痛むが、すぐに目を閉じるんじゃねぇぞ
 しばらくそのまま、目を開けたままで居るんだ・・いいな」

そう言うとオヤジはガーゼで匠の目の周囲を押さえる

「ほら・・・目、開けるんだ・・」

診察台の白いシーツを握り締める
胸が苦しくなる・・




ゆっくりと匠が目を開けると、オヤジが薬を落とし入れた


「ンッァ!!!・・・!!!・・・・!!」

またあの焼き付く様な痛みに 匠は体をよじる 


頭の中に水が入ってくる この・・忘れられない感覚・・
この痛み・・・・・・・

「・・・・・ァ・・・・ァッ!・・・ぁあ・・・・・ンッ・・・・・!」

小さく声を出しながら それでも匠は必死に目を開けていた
薬なのか、涙なのかわからないものがポロポロと瞳からこぼれ
オヤジの持つガーゼを湿らせていく
シーツを握る手が震える


ハァ・・ハァ・・


ハァ・・ハァ・・



小瓶1本分の薬で流し終えると
「ん・・もういいぞ・・・」 オヤジの声がした


「・・・・ンッッァァア・・!!」

匠は下を向き首を振って痛みを追い払おうとする


「腕が動く様になったら 自分でこれをするんだぞ・・匠・・
 ・・さあ・・・次は背中だ・・・・」




刻印 -92へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -90

浅葱の車がマンションの駐車場へ戻って来る
匠は呼吸の荒いまま目を閉じ、ぐったりとシートに体を預けていた



「匠・・家、着いたぞ・・・」
助手席のドアを開けて浅葱が声をかける

匠が顔を上げた
「・・・家・・・?」
「ああ、そうだ」
「・・・・家・・・・・・・・・・」



浅葱が匠のシートベルトを外し 抱きかかえ様とすると
その手を 匠の指が抑えた


「歩いて・・・出て行った・・・・んですから・・・・
 抱えられて  帰ったら・・・怒られます・・」 

「そうだな・・・ 帰ったらまず深月に謝れ
 それから、オヤジに怒鳴られろ」






浅葱が部屋のドアを開けると
待っていたオヤジと深月がリビングから走って来る


入り口に 匠が立っていた
その後ろに浅葱が 付き添う様にして匠を支えている



「匠っ!!!」  オヤジが怒鳴る
いつもデカイ声が 一際大きかった

「・・・すみ・・ません・・・・心配・・かけました」
必死で呼吸を整えながら 匠が頭を下げた


「バカヤローが!! 本当に・・心配かけやがってぇ・・・!!」
オヤジの大きな声が響く・・
が、それは 怒鳴ると言うには優し過ぎる声だった



だが、本来なら真っ先に聞えそうな深月の声がしなかった
・・気配はあるのに・・

「・・・深月・・・・さん・・・・・?」
匠が呼んでも返事がない


困惑したような表情を見せる匠に
浅葱が  「深月は お前の目の前で泣いている・・」  そう耳元で囁いた



「・・あの・・・・・深月・・・さん・・・・・・・
 ・・泣かせて・・・・心配かけて・・・ 本当に・・すみませ・・・・・」

「匠さんっ・・・・・!!!
 匠さんっ! 匠さんっっ!! 匠さんっっ・・・!!
 心配したんですからっ!! 本当に 無事でよかったっ・・・!」

匠が言い終わるか、終らないかのうちに
深月は匠の胸に飛び込んでいた


んっ・・・!

受ける匠の胸に 衝撃が来る・・
浅葱に支えられて かろうじて立っていた匠は 深月を受け止めきれず
よろめき、そのままグラリと後ろに倒れかかった

それを 二人一緒に浅葱が抱き止める


「何やってる! 深月! お前はまったく!」

怒鳴る浅葱に 「すみません!!」 焦って深月が謝るのが聞こえる



そんな声が 匠には何故か嬉しかった
微笑んでいる自分に気が付く・・


・・・・ここは家・・・・ そしてみんな 大事な人達・・






・・・・・匠は そのまま膝から崩れる様に倒れ込んだ












気が付くとそこはベッドの上だった

でもそれは 冷たい金属でもなく、診察用の台でもない
たぶん・・自分の部屋の、自分のベッド・・

そして、いつもの様に抱きかかえてくれている 浅葱の膝と腕の感覚・・




体はまだ燃える様に熱かった
痛みは、治まるどころか悪化していた

体中を激痛が襲う
あれだけの馬鹿をしたんだ・・自業自得だ・・・・と自分に言い聞かせる


それでも 少しでも眠れたのは
こうやって背中を守る様に抱いていてくれる浅葱のおかげだった




・・浅葱の静かな寝息が聞こえた

自分を抱いたまま、浅葱は座った姿勢で眠っているらしい

その浅葱の胸に耳をあてると
静かで、規則正しい呼吸と鼓動が聞こえた
その音は 匠を安心させる音だった



側にあった浅葱の手にそっと指を重ねる・・・


「・・んっ・・ ・・・起きたのか・・・?」  

「あ、・・すみま・・・せん・・・・起こして・・・しまって・・・・」



慌てて指を引こうとする匠の手を 浅葱が握り止めた




開けられたままの部屋の扉から 廊下の明かりが漏れている
自分の手に重ねられた匠の手は 傷だらけだった


「指がボロボロだ・・」
薄明かりで見える匠の手を見ながら、浅葱が言う


「・・ずっと・・壁に擦って・・歩いてました・・から・・」

「・・これ以上、自分で自分を傷つけるな」


そう言うと浅葱は匠の指を握り返した




刻印 -91へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -89

最初はまだ 遠慮がちな・・小さな呟きだった・・
が、一度口にすると 堰を切った様に次から次へと感情が溢れてきた


ここなら・・誰にも 何も聞こえはしない・・
そう思うともう止められなかった・・




いつの間にか叫んでいた



叫ぶ自分のその声さえ聞こえない

胸が痛む・・・ 背中も・・・目も・・・ 体の奥も・・・










浅葱は身動き一つしない

本当に聞こえていないのか・・
それとも聞こえないフリをしてくれているのか・・

見えない匠には知る余地もなかったが
体に溜まり、巣食い、成長し続けた痛みや恐怖
誰にも言えなかった自分の悔しさ・・ 全てを吐き出す様に叫んだ


声が枯れると 後は涙しか出なかった・・

浅葱のシャツを、2つのペンダントと一緒に握り締めていた



そのまま浅葱の胸に顔を埋める
悔しさも悲しさも怒りも・・惨めさも・・子供の様に素直になれた
息が苦しくて・・何度も体が震えた・・



それでも浅葱は ずっと・・匠を抱いたまま動かなかった




匠が落ち着きを取り戻しかけた頃
「もう・・・いいのか・・・」
浅葱の声が耳元で聞こえた


浅葱の胸の音は、いつもの静かな音に戻っていた

匠は浅葱の胸に顔を埋めたままコクンと頷く・・・



「ん・・」
浅葱はそう言うと 抱き上げていた匠をゆっくりと下におろす
・・そこは人工の床ではなく、柔らかい土と草の感触がした


浅葱の腕から下りると、膝に力が入らずに倒れそうになる
それを浅葱は片腕で抱き止めると
背中に障らない様に 腰と頭に手を回し、匠を支えた


あの一緒に任務に出た日以来 初めて匠は浅葱の横に立っていた


浅葱は匠よりも少し背が高い
頭を抱きかかえられると、安心して寄り添えた




「今度は・・・この景色を自分の目で見るんだ・・・・匠」

「・・は・・い・・・・」

「その時は 自分の足で歩いて上れ・・・」

「また・・・連れて・・・・・来て・・ください・・・」

「ああ約束する・・お前が来たいと言えばいつでも・・・
 だから、今は早く体を治せ・・・・・」

「・・はい・・・約束・・・ですよ・・・・2つ・・・・」

「2つ?」

「今日は・・2つ・・・・約束・・・しま・・・したから・・・」









マンションへ戻る車の中
無理をし過ぎた匠の体調は酷くなる一方だった
全身を激しい痛みが襲っていた

それでも発作だけは起こすまいと、必死に意識をそらす・・
頭に浮かぶのは あの浅葱のペンダントだった・・



「大丈夫か?」
浅葱が声を掛ける

「・・・だい・・・じょうぶ・・・です・・・・」
喘ぐように匠が答える

「・・フッ・・・・やはり、お前のその性格は変わらないな・・・」
苦しくても我慢をして 痛みを訴えない匠に浅葱が言った


「そう・・簡単に・・・・性格は・・かわりま・・せん・・・・・」
そう言って苦しそうに匠が笑う

「ああ・・そうだな」
それ以上、浅葱は何も言わなかった










「・・・手を・・・・・」

「ん・・?」

「手を・・・貸して・・・・・・」

匠の声に 浅葱が自分の左手を差し出すと
匠はその手を 震える自分の両手で握り締めた


浅葱の手を握り締め 匠は必死で痛みに耐えていた・・・



「今は・・・今は・・・・これぐらいしか・・・・・・言えない・・」

「ああ・・それでもいい・・」




刻印 -90へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -88

浅葱は匠を抱いたまま 目の前の扉を体で押し開けた


ギィ・・と軋んだ音がして、戸外の気持ちのいい夜風と・・・
それとは対照的な 耳をつんざく様な轟音が一気に2人を包む



「んっ・・・・・うる・・さい・・・・・」

まるで機械の中に放り込まれた様な音が響いている
よく聞けば、それは本当にとてつもなく大きな機械が幾重にも動き続ける
稼動音の様だった


・・どこなんだ・・・ここ・・・




浅葱はまだ歩き続けていた
音は益々大きくなる


自分を抱き上げている浅葱が
言葉を発しているのかどうかさえ すでに定かでなかった





しばらく歩くと 浅葱は立ち止まり・・
そして そのまま・・・・ずっと 動こうとしない




「・・・浅葱・・さん・・?」

匠が顔を上げ、呼んではみるが
この音では 自分が出した声さえも、自分の耳に届かない


仕方なく浅葱のシャツの胸元を指で引っ張る・・
「・・ん?・・・・ああ・・・・・・」

我に返った様に やっと浅葱が匠の顔に口を近づけて話し出した

「・・・まだ見えないだろうが・・・・・最高の景色だ・・
 ここに立ち入る者は誰も居ない・・・・
 ・・・・ここは俺の・・大事な場所・・・・」

「浅葱さんの・・大事な・・・」

「ああ・・
 ここでなら・・・・
 ・・・ここでなら・・・・泣こうが叫ぼうが・・誰にも聞こえない・・」



そう言うと浅葱は下を向いたまま黙った・・
胸の動きと鼓動で、浅葱の呼吸が速くなったのがわかる










・・・・・浅葱は大きな深呼吸を1つした・・







そしてまた匠の耳元で言葉を続ける

「今、握っている・・・俺の・・・・
 俺のシャツの中・・・手を入れてみろ・・・」
それだけ言うと 浅葱の顔は匠の耳元から離れていく



・・・・??

一瞬 驚いた
・・が、匠は躊躇しながらも握っていた浅葱のシャツの胸元にゆっくり指を伸ばす




浅葱の胸には・・2つのペンダントがかかっていた
・・・・ペンダント・・・・

見えない匠にはそれが何の形であるのかは判らなかったが
指で触ってみると、それぞれ別の形をしていた



・・タグが2つ??

・・・どうして・・・違う形で2つも・・・・・

違う・・2つ・・・・

・・これ・・・・・・まさか・・・



・・・誰かの形見・・・・・・?




ここは俺の大事な場所・・
泣いてもわからない場所・・・・
そう言った浅葱の言葉の意味・・・


「あ・・・浅葱さん・・・・これ・・・・」
言いかけた時、浅葱の2つのペンダントを握る匠の手に
ポツ・・と 一雫・・ 何かが落ちてきた


・・雫・・・・・?
・・浅葱さん・・・・・・・・・泣いて・・・・・・・?



見えない目と周囲の音で、匠に本当の事は何もわからない

だが・・浅葱の鼓動と 体から伝わってくるもの・・
それは 強いと思っていた浅葱の本当の心の中・・
・・・深い悲しみと、乱れる意識・・



・・浅葱・・さん・・・
匠は浅葱を思い切り抱き締めたいと思った
いつも 浅葱が自分にしてくれる様に・・
だが今、それは叶わない
腕が動かない事が こんなにも悔しいと思った事は無かった




いつもの冷静な浅葱からは想像できない程の乱れた呼吸と鼓動・・
次々と流れ込んでくる浅葱の痛いほど意識・・
それを感じ取る匠の目からも涙が溢れる
激痛を伴った涙だった


その痛みは波紋の様に広がり、匠の体の中の痛みを呼び起こす
体の・・一番奥の痛みが、共鳴したように疼き始める


・・・・・クッッ!・・
思わず痛みに目を閉じる
瞳に溜まった涙が零れ落ちた・・

それが引き金だった

一筋落ちると、耐えていた匠の感情も 痛みと一緒に溢れ出した・・




刻印 -89へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m

刻印 -87

車はずっと走り続けていた

シンとした車内
匠が目を閉じたまま ポツリと話しを始める


「・・・小さい女の子に・・・手を引かれて・・公園へ行って・・
 そこは・・・全てが・・・・穏やかで・・・・・」

それはまるで夢の話でも呟いている様だった



「話すと また苦しくなるぞ」 
浅葱が初めて口を開いた
が、匠は話し続ける・・


「・・・俺なんかが・・・・居ちゃ行けない気が・・・・した・・・・」
浅葱がチラリと匠を見る
匠は乗せられたままの格好で、助手席で小さくうずくまり
腕で顔を隠していた



「・・・俺達が・・・・  ウラの人間だからか?」
さっきの路地で 匠らしくない皮肉った言い方をしたのを
浅葱は思い出していた



「それも・・・ あります・・」

「俺達が仕事をしなければ・・
 今日、お前が出遭った その公園の人の中に
 事件の犠牲者が出たかもしれない」

「・・・それでも・・俺は・・・  あそこに・・居られなかった・・・」



その匠の言葉に 浅葱は一瞬目を閉じ、ハンドルを握り締めた


「それはお前が・・・汚された体・・・・だからか?」



その浅葱の言葉に匠がピクリと反応する・・
胸が苦しくなる・・


「・・・浅葱さんは・・・そういう事・・・平気で言えるんですね・・・・」
浅葱の表情を見る事が出来ないまま、匠はそう呟いていた


「俺は・・・・こういう言い方しか出来ない」


「強い・・人・・ですよね・・・・  浅葱さんは・・・
 ・・・・・きっと・・・・浅葱さんなら・・・・
 どんな事でも・・・・ 簡単に・・・・乗り越える・・・んでしょうね・・・・」


「俺もオヤジも・・ みんな 少なからず何かを乗り越えてきた
 いや・・乗り越えようとしている・・
 守りたいモノ、確かめたい真実・・・・ 消せない過ち・・
 それは簡単な事じゃない・・・・」
 

「俺は・・・この傷がある限り・・・越えられないかも・・しれない・・・・
 一生・・自分のモノだと言ったあの男が・・・・」


そこまで言うと 自分で体が震え、苦しくなるのがわかる・・

ハァ・・ハァ・・・

「思い出しただけで・・・・こんな風になる・・・体が・・・情けない・・・
 ・・・・・忘れたい・・こんな傷・・・・」

下を向いてうずくまり 体で震えを止めようとするが
小刻みに震える手は言うことをきかない




「俺が・・・・・俺が忘れさせてやる」

浅葱の声に 匠が驚いた様に顔を上げた・・・



「俺が、必ず忘れさせてやる」












どのくらい走ったのか・・

あれから浅葱は何も話さなかった
匠もずっと目を閉じたままだった
まだ整わない匠の息遣いだけが聞こえていた


どこかの入り口なのか、
浅葱が車の窓を開け、外の人物と一言二言交わす

そして、そのまま また車は走り続けた

山道なのか 上りのカーブが続いた




「匠・・・着いたぞ」
浅葱の声で 匠はシートに預けていた頭を上げる

「どこ・・ですか・・?」

浅葱が先に車を降り、助手席のドアが開けられる
匠のシートベルトを外すと そのまま浅葱は匠を抱き上げた

「もう・・・いい・・・おろして・・・・・ください・・・・」



だが浅葱は何も言わず匠を抱き上げたまま歩く・・
コツコツと周囲にコンクリートの足音が響くそこは
どこかの駐車場のようだった

その空気はわずかに澱んでいて、人の出入りもあまり感じられない


暫く歩いて、カンカンと甲高い音の響く鉄の階段を上ると
ようやく浅葱の足が止まった

「ここは・・・俺の 大切な場所だ・・」
「大切な・・・・」
「ああ・・・目の前に扉がある・・ここを出た所だ・・」




刻印-88へ続く
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ ランキング参加中です。クリックして頂けると励みになります m(__)m
プロフィール

凛

Author:凛
BL・MLを日々妄想してる腐女子

しかもかなりハード目が好きな壊れかけ

SM・拷問等の酷い描写が苦手な方は、ご遠慮ください

1作目 『刻印』
2作目 『華燭(かしょく)の城』 
完結しました。
ブログタイトル下のマップより全話読んで頂けます。
『刻印』の簡単な解説はこちら から


まだまだ初心者故、描写の至らない点
設定の矛盾は笑って見てください 

読みやすく・・と思っているので、長編小説ですが、各回短く、短文、1日1回UP予定です


拍手・ランキング・感想など頂けると励みになります

ツイッター @0storyRin
UP情報や裏話を呟いてます

サイトマップ・全記事表示
最新トラックバック
カテゴリ
COUNTER



にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

↑ ランキング参加中です
1ポチ してもらえると嬉しいです
検索フォーム
QRコード
QR


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。