0-story

18禁 BL小説です。主に拷問・凌辱等ハード系。 こういう小説に興味の無い方、嫌悪感がある方はご遠慮ください。サイトマップより一気読み出来ます
月別アーカイブ   [ 2013年06月 ]  

≪ 前月 |  2013年06月  | 翌月 ≫

刻印 -86

・・・匠・・・・ 匠っ・・・・!


自分を呼ぶ声・・
浅葱さんの・・・・声・・・・・・・・・



掴まれていた腕が乱暴に離され
動かない腕が そのままの力でパタンと地面に落ちる

「・・ンックッ・・!・・」
痛みと苦しさで上体を支えられなくなり
地面に倒れこんだ



意識の向こうで男たちの悲鳴と、バタバタと遠ざかって行く足音がした










ずっと誰かが 自分の肩をさすっている・・
耳の横で 心臓の鼓動が聞こえる・・・


「・・んっ・・・っ・・・」

息を吸う・・体中が痛む・・が 息苦しさはわずかに楽になっていた

「気が付いたか」
浅葱の声がすぐ側で聞こえた


周囲から聞こえる雑踏は まだあの路地だった





「浅葱・・さん・・・・・どうして・・ここが・・・」

「俺の飼ってる情報屋をなめるな」

「情報屋・・・・・」


やはり そちら側の世界の話しなんだ・・・と思った
自分はこういう世界にいる・・・



「さすが・・・・・ウラの人・・・ですね・・・
 ・・・・・どこへ逃げても・・・・すぐ・・見つかる・・・」


その皮肉った匠の言葉に 浅葱が目を細めた


・・・パンッ!


浅葱に叩かれ、匠の頬に軽い痛みが走る

「・・・ッッ・・・・・」

「オヤジや深月がどれだけ心配したと思っている・・!!
 そんな体で・・・ 何故こんな無茶なことをする!!」





・・何故・・・・・

そう聞かれ、今まで溜めこんできた多くの感情・・
思い出すだけでも狂いそうになるほどの感情が 一気に込み上げる

胸が一杯になった

・・・・だが それは、何1つ 言葉として表に出る事は無かった


今にも爆発しそうなその思いを 匠は再び体の中に閉じ込めた
辛い や 悔しい ・・
まして 痛い や 怖い は・・・ どうしても言えなかった


匠は黙ったまま ただ唇を噛み 
正面に居るはずの浅葱から顔を背けた







「・・・・・匠・・・・声を・・・・出せ・・・」


その声に匠が顔を上げる


「お前は・・・いつも声を殺す・・
 お前は・・・いつも・・・・我慢して呻くだけで声をあげない・・・
 俺は・・・ お前の本当の声が聞きたい・・」


匠の表情が驚く・・・・・
だが ゆっくりと首を振った・・・・



「今のお前は弱い・・
 あんな高校生にさえ勝てやしない
 だったら・・・ 今はそれを認めろ
 そうしないと、お前が壊れてしまう・・・・前へは進めない
 認めて、素直に・・・・  
 声を上げて助けを・・・・・   俺を・・呼べ
 俺は・・いつでも・・・ずっと側に居ると言ったはずだ・・・」


それでも、匠は黙って首を振った・・



そんな匠を 浅葱はじっと見つめていた



そして浅葱は立ち上がると
何も言わず、匠を抱き上げた


「・・嫌だ・・・・・・離して・・・・・歩け・・・ます・・」
匠の声に耳も貸さず、浅葱は匠を抱いたまま大通りへ出て行く


また街の喧騒が聞こえ始める

男が男を抱き上げ通りを歩いていた
それは少なからずも人目を引く
背の高い浅葱なら 尚更だった


あちこちから 自分達を見てひやかす声が聞こえた
中には黄色い歓声を上げる人や
ヒューヒューと口笛を鳴らす輩もいた

「あ・・・浅葱・・さん・・下ろして・・・みんなが・・見てる・・・」
そう訴えたが
浅葱は  「構わん」  と一言答えただけだった



浅葱はそのまま 人ごみの中を平然と歩き
通りに止めた自分の車の助手席に 匠を下ろした


「シートにもたれるのは辛いか・・・」
独り言の様にそう言うと、いつも匠が寝ていたように
足を抱えさせて シートに横向きに置く
「肩なら まだマシだろう・・・あとは我慢しろ」

そう言って そのままシートベルトで固定された


「浅葱・・さん・・・・・・」
ドンッと扉が閉められる
匠の言う事など 聞き入れてもらえる様子ではなかった




運転席に乗り込むと 浅葱はオヤジに連絡を入れた
「匠を見つけた・・・・もうしばらく走って帰る」

「走るって・・・どこへ・・・」

「黙って乗ってろ」


車が走り出した・・




刻印 -87へ続く
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刻印 -85

匠は夕暮れの街を一人 まだ歩き続けていた・・・・



もうずっと 体中が張り裂けそうな痛みに襲われている


音が溢れる街は 闇の中の匠の神経をすり減らし
残された感覚さえも もうすでにその機能を果たしそうになかった

意識が薄れる
だが 痛みの感覚だけは益々敏感になり 際立っていく・・




足を引き摺り、壁に沿って歩く匠の背後から何かが近付き ぶつかった
背中に激痛が走る


「・・・ンッッッ・・・・・!!!! ・・・ァッァ・・クッ!!・・・・・」
衝撃で思わずその場にうずくまりそうになるのを 必死でこらえた



「のろのろ歩くな!」
そう怒鳴って 人が追い越していく



ハァ・・ハァ・・ハァ・・ハァ・・

・・ンッ・・・・・!!

・・ン・・!

息が出来なくなる・・・・



苦しさに耐え切れなくなり、 逃げる様に壁に沿って建物を曲がった
往来で倒れる訳にはいかない・・・・ その一心だった

体が揺れると左右の肩が壁にあたる
そこは狭い路地らしかった


人の気配が消える
誰も居ない・・
そう思った瞬間に張り詰めていた緊張の糸がプツンと切れた


倒れる様に壁に肩を擦りつけながら 膝をつく・・


ハァ・・・ハァ・・・

ハァ・・・ハァ・・・



自分で制御できない程 呼吸が速くなり
また全身が痺れ始める・・

また・・・発作が起きる・・
こんなところで・・・・・・・

「・・・・ンッ!!・・・・・ッぁあああっっ・・!!」






痛みに声を上げかけた時だった・・
路地の入り口で人の声がした


「・・・ンッ・・・・!・・・・・・・・・・・・」
上げかけた声を 息を止め、必死に抑える

立ち上がろうとするが、もう体は動かなかった




「おい、誰か居るぞ?」
若い男の声だった
そして近付く数人の足音・・2人・・・3人・・・



「なんだ? コイツ・・ 酔っ払いか? 動かねーぞ?」
うずくまり 動かない匠の足を、一人が コツコツと蹴る


そのうち 一人が、匠の体を探り始めた・・
財布でもないかと探しているらしい


体に触れられると 電気が走る様な感覚がし、体が震える

「・・・や・・めろ・・・」  

「なんだ?」
一人の男が 匠の前にしゃがみ込むと、顎を掴んで顔を上向かせた


ハァ・・・ハァ・・・

ハァ・・・ハァ・・・


上を向かされ、荒い呼吸をしながら匠がうっすらと目を開ける

「へえぇ・・・・・コイツ、いい顔してんじゃん・・・・
 ・・・・・なあ・・どっか遊びに行こうぜ・・・・ほらっ・・」


男が匠を立たせようと 思いきり腕を引いた
痛む背中に追い討ちをかける様に激痛が襲う


「・・・・!!・・・ンッ・・!!・・・・!
 ・・・・・や・・・・やめろ・・・・俺に・・・さわるな・・・・・・」

痛みで体を丸め、必死に声を出す

「手を・・・・手を・・・はなせ・・・・・」




「なんだコイツ・・?? 聞こえねーーし!」
とぼけた声でリーダー格の男が言うと
「ほら、立てよっ!!」
今度は左右から腕と肩を掴まれ 引っ張られた

「・・ンンッックッ・・!!!  ・・・・・・お・・俺に触るなっ!!!」
大声で叫んだ



掴まれたままの腕が痺れる
激痛で呼吸ができなくなり・・体が傾く・・




遠くなる意識の向こうで 浅葱の声が聞こえた気がした・・




刻印 -86へ続く
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刻印 -84

女の子に手を引かれ 匠はゆっくりと歩いていた


歩く衝撃で体が痛んだ
眩暈が酷く、 度々 フワリと体が浮き 倒れそうになる


それでも 周囲の物に興味を示し
立ち止まり、立ち止まりしながらゆっくり歩く小さな女の子の歩調は
今の匠には幸いだった

匠の指を離さない小さな手は、何故か とても安心できた
体の痛みはあったが、呼吸が苦しくなる事は不思議と無かった






「ここです。着きましたよ」

しばらくして公園に着くと、女性は匠をベンチへ座らせる

帰りの事など、女性は色々と心配してくれたが
匠が礼を言うと、女性と女の子は 街の音の中へと消えていった






もう昼近いのだろうか・・・・
座っているだけで 太陽の陽を肌に感じ、暑かった

汗がかけず 体温調節がうまく出来ない匠の体は熱を帯びていく





広い公園らしかった

遠くに走る車の音・・ クラクション・・ 雑踏・・
たくさんの人の声もした・・ 大人や子供・・・ 笑う声・・
犬の鳴き声・・・ 木々を揺らす風の音・・・
噴水があるのか、水音もしていた


そこは音で溢れていた
久しく聞いていなかった平和な日常の音・・・・





夜に銃を握り任務に出て
それが仕事とはいえ、人を殺傷する・・
そして監禁され、鎖で縛られ・・ 背中を灼かれ・・ 陵辱された・・

そんな自分の世界とは全く違う 穏やかな世界がそこにあった




無邪気に自分の手を握ってきたあの女の子も
この体を見たら泣き叫ぶのだろうか・・・・

自分の事を知ったら・・ あの母親は嫌悪するのだろうか・・・
ここに居る人たちは・・・



こんな 刻印 を背負う自分が ひどく異質で汚れた存在に思えた






ここに・・・・ ここに自分の居場所は無い・・・・

ここに居てはいけない・・

この幸せな音の世界を・・・・・

自分は汚してしまう・・・・・


そんな恐怖に駆られた・・・・





背中の痛みに呼応するように
体の一番奥の部分がズキズキと痛み出す

その痛みに 匠は拳を握り締め・・唇を噛む



足に力を入れて 立ち上がった・・・・





ゆっくりと 車の音がする通りへ出る

そこには公園などとは比べ物にならない程 音の情報が溢れていた

無意識に動く目が刺さるような痛みを引き起こし
余計に匠を困惑させる


それでも、何かに追い立てられる様に足を踏み出す





倒れそうな体を建物の壁に沿わせて歩いた

端を歩いているはずなのに、何度も人や物にぶつかった
その度に体に激痛が襲い、動けなくなる・・

体が燃える様に熱かった・・


一度倒れるともう立ち上がれそうにない体を
無理矢理に引き摺って歩いた

咳き込み、息が出来なくなると 壁に肩を預け、立ったまま喘いだ




いつの間にか 肌にあたる日差しが弱くなり
空気も風も 少しだけ冷めている・・
日が暮れるのか・・・・・ぼんやりとそう思った




みんな・・心配しているだろうか・・・・


ふと そんな事を考えたが
もう方向感覚さえもなくなり 立っているだけでやっとになっていた・・・




刻印 -85へ続く
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刻印 -83

浅葱は自室へ戻るとベッドへ体を投げ出した


浅葱の部屋もリビングと同じ遮光カーテンが引かれ
朝の陽も ほとんど入って来ない
間接照明の影だけが壁に浮かんでいた


仰向けで ただじっと天井を見つめる・・・

体は疲れているのかもしれないが、眠る気にはなれなかった




匠の・・あの傷だらけの体が頭に浮かぶ

これから、時間が経てば経つほど
匠は自分の置かれた状況に苦しむ・・・・

ずっと心と体に 消せない傷を背負っていく匠の事を考えると
言い様のない悔しさが湧き上がる



自分に何が出来る・・・
側に居たところで・・・・  匠の苦しみは何も・・・・
無力な自分に苛立った





匠の傷・・あの男は ”刻印” だと言った
あの・・刻印の全ての根源は自分なのだ・・





胸元を手で掴むとシャツの中でチャラ・・と音を立てて何かが鳴った


浅葱が首をわずかに持ち上げ、それを抜き取る
2つのペンダントが手の中にあった



それぞれ別の 全く違うの形の2つ・・
浅葱はそれを 天井に掲げた手の中でじっと見つめる

シルバーの鎖が付けられたそれらは 浅葱の目の前でゆっくりと揺れた

2つを一緒に手の中に握り込み目を閉じ
浅葱は暫くの間 そうしたまま動かなかった



やがて そのままペンダントを二つともベッドサイドのテーブルに置き
背を向けた





 



コンコン・・
部屋の扉をノックする音がした

「どうぞ」 の声にオヤジが入ってくる


浅葱が起き上がってベッドに座ると
オヤジは近くのイスに腰掛けた


そのまま 二人共、黙ったまま何も言わなかった
言わなくてもお互いが判っていた

寝ろと言ったところで、眠れはしないこと・・
一人で居るのが辛いこと・・





オヤジがベッドサイドに置かれた2つのペンダントに目を留める

「それ・・・例のやつか・・?」
「ああ・・・」
そう言うと浅葱は2つを一緒に手に取り、オヤジに渡した



「双頭・・・ なのか・・・・・」 
オヤジは1つずつ、手の中で眺めるとそう呟いた

「ああ・・」 
浅葱がポツリと答える



「・・・そうか・・・・・そういうことか・・・・・

 ・・なぁ・・・・・恭介・・・
 昔・・・・・
 お前とあの男の間に何があったか 詳しくはは知らねぇ
 二人でやってるうちは私怨でもいい・・

 が、ここまで来たら もうお前等二人だけの問題じゃあねぇ・・
 匠も含め、俺も流も・・全員の問題だ
 全部 自分で背負い込むんじゃねぇぞ・・・ 」
 

オヤジは何かを察した様だった





「元気になったら 匠にも、新しいのを作ってやらねぇとな・・・・」 
オヤジが2つを浅葱に返しながら言う

「・・そうだな・・・・・」 
浅葱は2つとも受け取ると、そのまま 一緒に首に掛け
シャツの中に忍ばせた








オヤジと浅葱が 一緒に部屋を出ると
深月が血相を変えて走って来る

「匠さん! 匠さんは!!居ませんか!!?? そちらに!」

「匠がどうした?」
オヤジが状況を理解出来ずに聞き返えした



「匠さんが・・居ないんです!!」

「居ないって・・あの体で起き上がれる訳も・・・」

「起こしてくれって言われて・・着替えもって・・・
 それで今見たら・・居ないんです! 靴も無くて・・ どこにも!!」

「何だと!!
 まだあの男に狙われてるってぇのに 一人で外へ出たのか!」


その言葉に深月は驚く

「え・・・狙われてる?・・何で? ・・どうして・・まだ匠さんを・・?」





「オヤジ! 今その事を言っても仕方ない! 
 その事をちゃんと・・・
 深月にも・・・ 匠にも 話さなかった俺のせいだ

 とりあえず匠を探す!
 ・・・深月! お前もオヤジと手分けして近くを探せ!」



3人はマンションを飛び出した




刻印 -84へ続く
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刻印 -82

深月は匠の部屋から着替えを持って戻って来た


「・・手伝って・・・・・・・・もらって・・・いいですか・・・・・」

「はい・・!」 


匠の力になれる・・・
そう思うと深月は嬉しかった


「起こして・・もらえると・・・・腕が・・・まだ・・・
 自分じゃ・・・できなくて・・・・・
 できれば・・・・着替えも・・・・・・・・すみません・・」


そう言う匠に 深月は喜んで手を貸した





深月に抱き起こされると激しい眩暈が襲った

ずっと寝たままだった匠は 平衡感覚が掴めずグラリと上体が揺れる
全ての感覚が狂い 上下左右無く部屋が回り始める


「匠さん・・・・ だ・・大丈夫ですか・・・?」

「大・・丈夫・・・」

ベッドに腰かけ、揺れる体を まだ力の入らない手で必死に支えた





深月は 匠の背中を見ないようにしながらシャツを羽織らせ ボタンを留める

”見せるか見せないかは、匠の戦い”
そう言ったオヤジの言葉を思い出していた
匠さんがいいって言うまでは、見ちゃいけない・・・・そう思っていた






着替えが終っても、匠は しばらくじっとしたまま動けなかった
苦しかった・・
シャツがあたる背中も酷く痛む・・・・

深月には悟られない様に 必死で呼吸を整える






「・・・外・・・ 行き・・・・ませんか・・・」
暫くして匠が言った


「そんな・・・!  無理ですよ・・・ いきなり外なんて・・」

「・・・外の空気が・・ 吸いたい・・・・・んだ・・・・・
 ずっと部屋の中だったから・・・・」





ずっと部屋の中・・・・・

長い間 薄暗いあの部屋に監禁されていた匠が
外に出たいと思うのは 当然の事なのかもしれない


深月は少し考えていたが
「・・・ん・・ わかりました
 でも、ほんの少しだけですよ?
 僕もちょっと準備してきますから、少しだけ待っててください」

そう言って深月が部屋を出て行った







深月の気配が消えると、匠は一人 ベッドの端を握りながら・・ 立ち上がる・・

膝に力が入らず ガクンと体が揺れ倒れそうになったが
壁に体があたり、かろうじて倒れずに体を支えた

「・・ンッ!・・・」
体中に痛みが走る

そのまま壁を伝い、廊下を歩き・・  一人で玄関を出て行った・・・











そしてエレベーターの前まで来て立ち止まる

出てきたものの、何も見えない闇の中で 腕も動かない
身動きが取れず どうしていいか迷っていた


体も酷く重い・・
思う様にいう事をきかない体に苛立った
壁に寄り掛かかり必死に肩で息をする




後ろから人の気配がした

「あの・・ 大丈夫ですか? どこか具合でも・・・」
女性の声・・


「いえ・・・大丈夫です・・・・・・」
そう答える匠の足に 何かが触れた


「・・・何?」
いきなりの事に驚き、思わず声を出していた


「え・・・ うちの娘ですが・・・・ 何か・・・」
匠の言動をいぶかしむ声だった





「すみません・・・・・目が悪いので・・よく見えなくて・・・
 この辺りを・・・知りたくて・・・
 できれば・・ 1階まで連れて行ってもらえると・・・・」

怪しまれまいと、必死で平静を装い一気に話した



途端に 女性の声は一転した
「まぁ・・ それは大変ですね!
 じゃあ・・ 下まで・・・
 どこか行きたい場所があったら ご案内しますよ」






どこに行きたい という意思がある訳ではなかった
何かを考えていた訳でもない
ただ・・・・  あの部屋の優しさが辛かった

誰も自分を知らない場所へ・・・・
声が出せる場所・・・・・  叫びたかった・・・・・





「広い・・ 所へ・・・」

「広い・・・??
 これから娘と公園に行くんですが、そこでも?」
 
「お願いします・・・」


女の子が嬉しそうに声を上げて匠の指を握った




刻印 -83へ続く
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刻印 -81

オヤジが部屋から出て行き、一人になると 
耐えていた匠の呼吸と痛みは一気に悪化した


ハァ・・・ハァ・・・

ハァ・・・ハァ・・・


苦しかった・・
監禁されていた時とは別の意味の絶望がそこにあった



薬が切れたせいもあったが
体中の傷が一斉に覚醒し、痛み始めていた

体の激痛と 呼吸が出来ない苦しさに喘いだ




今にも叫びそうだった・・・・


思いっきり声を上げて叫べたら・・



あの地下室では 声が枯れるまで叫び続けていた
体の奥から止め処なく溢れてくる痛みの感覚を 叫ぶ事で放出した

そして声を出す行為で呼吸もわずかに楽になる気がした
そうやって 自我を保っていた・・






だが、この部屋で 声を上げる訳にはいかなかった

みんなが・・ みんながいる・・
今でさえ、心配や迷惑を掛けている


これ以上・・・ 面倒をかけられない・・・






震える体を自分の手で押さえ付け 唇を噛み締めた
痛みを体の中に留め、ただただじっと耐えるしかなかった


おやっさんが巻いてくれた新しい左手の包帯も
必死に握り締めた力で 縫合したばかりの傷からまた血が滲む・・




おやっさんも、浅葱さんも自分に  ”すまない”  と言った
それが余計に辛かった
自分の存在が 二人を苦しめるのか・・

あのまま、地下室で本当に死んでいた方が良かったのでは・・
そんな思いが脳裏をかすめた









扉の向こうで人の気配がした
それは浅葱でもオヤジでもない


深月さん・・・・・・

入って来ないで・・・・・ 1人にして・・・・



そう思うが、匠の思いに反し その気配は一度部屋の前で立ち止まり
そして中まで入って来る・・・



本当なら背を向けたかった
布団を被り、顔を隠せば、まだ寝たフリも出来るのだろうが
今の匠には一人で寝返りさえ打てなかった



「匠・・・さん・・・? もう寝てしまいましたか・・・・・」
そう言って 深月がそっと入ってくる


必死に呼吸を整え、体の震えを止め様とするが
自分では もう抑えきれるものではなかった


ハァ・・・ハァ・・・

ハァ・・・ハァ・・・


荒い呼吸で喘ぐ匠を見つけ、深月が走り寄る



「た・・・匠さんっ! 大丈夫ですか!」

匠は必死で声を絞り出した
「しずかに・・・・・・・みんなに・・・・・きこえるから・・・・」



その言葉で 匠が何を言いたいのか
何故 こんな状態でも助けを呼ばないのか、深月にも理解できた


さっき、おやっさんが  思ったより冷静だった・・ と言っていたのを思い出す
でも、全然 大丈夫なんかじゃなかったんだ・・・





「でも・・・ でも・・・・ 匠さん・・・・・・」

声を小さくし、深月が名前を呼ぶ

「いい・・・・大丈夫だから・・・
 ・・・・・・誰にも・・・ 言わないで・・・・・・ンッ・・!・・・」


深月は何も出来ず、ただ震える匠の手を握るだけだった
手首の包帯に血が滲んでいる


こんなになるまで・・・・・


「大丈夫・・・ 誰にも言わないです・・・
 だから・・・ 頑張って・・・
 何も・・・ 何も出来ないけど・・・」

そう言って深月は握った手に力を入れる


「もう・・・ いい・・・・・」
匠の小さな声が聞こえた

「えっ・・・」

「もう・・・ 頑張るのは・・・・・・・・」





匠のその言葉に 深月は頭が真っ白になった


「そんな・・ もうなんて・・・ もういいなんて・・・
 そんな事 言わないで下さい・・
 
 僕は何もわからないけど・・・ それでも匠さんがそんな事言うのは 嫌です 
 
 ずっとここで一緒に居ると決めたんです
 
 だから・・・ もうなんて言わないでください
 匠さんが居ないと、ダメなんです・・
 
 まだ会って間もないのに・・ こんな事言うの変だけど・・
 匠さんは憧れ・・・・ 目標・・・・
 
 僕、匠さんみたいになりたいんです・・・ だからそんな事言わないで・・・・」
  

匠を励まし、元気付けようと 深月は一気に気持ちを言葉にした






・・・憧れ・・・・ 目標・・・・・

匠の中に あの男に陵辱されながらも抗えず
自ら体を差し出した自分が蘇った

あんな老人にまで 無抵抗でされるがままだった自分・・
体の奥がズキズキと痛み出す・・



・・・・・・こんな俺が・・・・・・ 目標なんて・・・







「・・・・・ありがと・・・・・・わかったから・・・・・・
 がんばって・・・ 早く元気に・・・・・・
 だから・・・ お願いが・・・ ある・・・んだけど・・・・・・」




匠の言葉に深月は素直に喜び、ホッとした表情を見せた


「・・・よかった! わかってくれたんですね・・・
 お願い? 何ですか? 
 何でも言って下さい・・・ 僕にできる事なら何でも!」


「・・・・着替えを・・・・俺の部屋から・・・・服を・・」


「えっ・・着替えって・・・・・
 でも・・・ まだそんな体じゃ無理ですって・・・・」

「大丈夫・・・・ おやっさんも・・・・・・・いいって・・・」

「でも・・・・」


深月は迷った
だが 匠が前向きになってくれた事が嬉しかった
着替えて、気分も変れば・・・・ おやっさんの許可があるなら・・・


「・・・じゃあ・・ 
 じゃあ・・・待っててください・・・」




刻印 -82へ続く
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刻印 -80

オヤジがリビングに戻ると二人が待っていた


「匠は?」 浅葱が聞く

「思ったより冷静だった・・
 今の体の事、これからの事、ちゃんと聞いていた・・」

「背中の傷の事も・・・?」

「ああ・・
 強えぇな・・ アイツは・・・
 ああいう姿 見せられると、こっちの方が 言葉に詰まっちまう・・・」
そう言ってオヤジは溜息をついた



「あの・・」
深月も何か言いかけたが  ”背中の傷”  と言われ 言葉を飲み込んだ
まだその傷を見る事も許されない自分が 口を出してはいけない気がした






「オヤジが居てくれてよかった・・」

「いや・・俺は何もしてやれねぇ・・・・無力なもんだ・・」
オヤジが呟く


「話が終ったなら、僕、匠さんの側に居てもいいですか?
 まだいろいろ話しとかしたいですし・・」
深月がオヤジに尋ねる


「ん? 少し眠るそうだ・・
 午後からは診察をするし、今はそっとしておいてやれ・・」


「・・・・わかり・・ました・・・・」
残念そうに深月が返事をする


「匠はずっとここに居るんだ、 話しはこれからいくらでもできる
 それよりもオヤジ・・さっきのメールの件、 深月にも・・・・」


「ああ、そうだな・・・コイツも連れて行かなきゃならんな」


「何ですか?メールの件って・・」


「本部から、今回の件で呼び出しだ」 オヤジが言う


「えっ!本部って・・・・」


「ああ・・勝手に動いた事への事情聴取と言っているが
 実際はどうだかな・・・・

 今はまだ 本人の匠が動けねぇからと 日時未定で返したが
 いつかは出て行かにゃならんだろうな・・」


「匠さんも・・・ですか?」


「そりゃあ、張本人だからな・・・」


「で、僕も・・・?」


「ああ、お前もだ」


「えぇぇ・・・・・本部とかって苦手なんです・・
 あのお偉いさんが並んでるのって・・・」


「お前の好き嫌いで組織は動かん」


「でも・・ 前のチームの時にも 単独捜査してる人は居ましたけど
 呼び出しをくらったとか、そんなの聞いた事ないんですけど・・・」


「ああ・・・だから今回の件は最初からウラがある・・
 あの施設の異常なまでの破壊の仕方
 あの目的は、たぶん・・・・この件をもみ消せないない程、公にする事だ・・」
浅葱が言う


「公って・・ でもそれじゃ本部にいるっていう黒幕の方が 分が悪いですよ
 自分だって公になったら困るだろうし・・・」


「だが、俺達はどうあがいても タダの兵隊だ
 相手は こっちと刺し違えても、自分の方が有利だと、そう思ってるんだろう
 そう思える程・・ 上の人間が絡んでる・・
 そして、 匠をその公の場に引き摺り出そうとしている・・・・」
浅葱の表情が曇る


「匠さんを公に・・・・・・・
 何の目的で・・・」


「さぁな・・・だが、どっちにしても良い方向へ転がらねぇのは確かだ・・
 まぁ、今 この件をどうこう考えても仕方ねぇ・・
 いずれ出て行かなきゃいけない事だけ頭に入れておけ

 さて・・流、お前も少し寝とけ・・・恭介、お前もだ
 二人共 まともに眠ってねぇだろう・・」


「いや・・俺はいい」
「僕は眠くなんて・・・」

二人揃って反発するのをオヤジが一喝する


「お前らーー!  ったく・・二人揃ってなんなんだー?!
 嫌とか言うんじゃない! これは命令だ! 二人共 部屋へ引き上げて寝てろっ!」


「命令って何なんですか・・・もう・・・」

深月はまだブツブツ言っていたが
オヤジの声に促され 二人はそれぞれの部屋へと戻っていった






深月も自分の部屋に戻り 一度 部屋のベッドに腰掛けるが
どうしても匠の寝顔が見たくなっていた・・

ほんの少しだけなら・・・・・・




刻印 -81へ続く
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刻印 -79

深月に引っ張られ、浅葱も出て行ったのを確認してから
オヤジが話し掛けた


「いいぞ、匠・・  もう俺だけだ・・・気にせずに何でも言えばいい
 どこが辛い・・・・?」

「・・・・・・・・・・・」


心配を・・ かけたくない・・・
そう思い 暫く迷っていた匠だったが
今の自分だけではどうする事もできない現実がそこにあった・・ 
諦めた様に話し始める



「・・・目が・・・痛・・・いです・・・・・・・
 目を動かすと・・・・・痛みが・・・ひどくて・・・
 それに・・・体中が・・・・・腕も・・・・うごかなくて・・・
 背中・・・おやっさん・・・・俺の背中は・・・・・・」


「匠・・・一気に話さなくていいぞ・・ ゆっくり・・
 呼吸を整えながらだ・・・また苦しくなるからな・・・」
その声に匠が頷く



深呼吸をする・・
が、折れた肋骨がギリギリと痛み 顔をしかめた


「胸も痛むだろ・・・肋骨が折れてる
 これは自然に治るのを待つしかないが・・ 時間はかかるが大丈夫だ」


「・・は・・・い・・・」


「あと、目も徐々に見える様になる
 この前の洗浄・・・覚えてるか? 
 あれを続ければ大丈夫だ・・  かなり痛むだろうが・・出来るか?」


あの痛みを思い出していた
焼け付く様なあの痛み・・・・・・・それでも・・・
唇を嚙み締めて  「はい・・・」  と答えた




痛みを思い出すとまた苦しくなった

ハァ・・・・ハァ・・・・

呼吸が速くなっていく・・


「まだ話し、続けて大丈夫か? 少し休むか?」

「・・大丈夫・・・です・・」
呼吸を整えながら匠が答える

「ん・・・ 腕が動かないのは、背中の傷のせいだ・・・わかるか?」

「・・・・は・・い・・」

「何かで灼かれたな・・・その後もかなり傷付けられた・・」



その言葉で あの時の衝撃・・・
灼熱だった金属の重さ、熱さ・・、音、匂い、人の気配・・・空気まで
全てが鮮明に蘇ってくる
そして、毎日繰り返された あの老人の作業・・・・


思い出すだけで叫びそうだった
強く目を閉じ、拳を握り耐える・・


「だから腕が動かないんだ
 だが、ちゃんと治療して訓練すれば、
 きっと元に戻る・・  ・・いいな、きっと動くようになる」


匠は黙っていた



「背中の傷は・・・ 後で診せてもらうが・・・・・・・・」


そこでオヤジの言葉が詰まった
言い難そうな・・ 沈黙の時間が続く・・・・

そのオヤジの気配に 匠の方が先に口を開いた


「もう・・・ダメ・・・・なんですね・・・・
 もう・・・・・ずっと・・・・・このまま・・・・・・・・・・」

「・・・ああ。 たぶん、消せないだろう・・・」



オヤジの声の方が辛そうだった




その辛そうなオヤジの声を聞くと 匠の方が何も言えなくなった
必死に呼吸を整えながら
「・・・・・わかり・・ました・・・」  とだけ気丈に答えた




「俺が、もう少し今回の件 気をつけていれば・・・ すまない 匠・・」
オヤジが頭を下げていた


「おやっさん・・・・・俺が一人で・・・・心配かけて・・・
 それに・・みんなにも迷惑を・・・・・」

「迷惑なんて誰も思っちゃ・・・・・・・・」



オヤジはまだ話し続けていたが
その声は、もう匠の耳には届いていなかった






背中の傷が治らないと・・ そう言われた事がショックだった


匠はまだ 自分の背中の傷を見た事が無い

だから ここへ戻って来さえすれば、なんとかなる・・
生きて戻れば・・・・
自分が忘れる事さえ出来れば・・・・また元の生活があると・・
何の根拠も無かったが、漠然と・・・本当に漠然と そう思っていた


そしてそれが 唯一の望みであり、希望だった




が、もう元には戻らない・・

 ”タクミはこれから一生、私のモノ
 この刻印を見る度、痛む度に、私を思い出す・・”


あの男の言葉が頭の中を巡っていた




・・・・一生、消えない・・・・

・・・・一生、あの男のモノ・・・・・

その言葉の意味が 今、現実になろうとしていた







「おやっさん・・・・・少し ・・眠りたい・・・」
匠がポツリと呟いた



「ん? ああ・・わかった、背中の治療は午後からにしような・・・・
 ゆっくり休め・・」

そう言ってオヤジは匠の肩までタオルを掛けると 部屋を出て行った




刻印 -80へ続く
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刻印 -78

「あ・・浅葱さん・・・・!
 いつから いつからそこに居たんですか・・!! 

 い・・ いきなり話しかけられると僕も・・・・・
 それに、匠さんだってビックリしますよ・・・・
 まだ見えてないんだから、ちゃんと・・・」


匠さんに触れたところを見られた?
少し焦りながら ヘソを曲げた様に深月が早口で言い始める




「気が付いて無いのはお前だけだ」
そう言って深月の頭をグシャグシャにする


「あー! もう! やめて下さいよぉーーーーーー!
 おやっさんの話は終ったんですかー?
 あ・・そうだ! 匠さんが目を・・!!」


「見ればわかる・・・・
 お前は落ち着きが無さ過ぎだ・・・・
 オヤジに 匠が目を覚ましたと伝えてきてくれ」


「あ・・は、はい!」
深月は部屋を飛び出していった


「だから!落ち着け!走るなっ・・・・・・・・・・・」
言い終わる前に深月はもう居なかった






「・・・ったく・・アイツは・・・・・」
呆れた様に言いながら、空いたイスに 今度は浅葱が座る





「やさしい・・・・人ですね・・・・・」 

「ん? 深月か・・?
 ああ・・・・そうだな・・
 あれでオヤジの一番弟子だそうだ
 まだまだ 至らん所だらけだが・・・・オヤジが気に入るだけの事はある」

「・・・・はい・・・・」

「・・・・・・気分はどうだ?」

「・・・大丈夫・・です・・・・・」

「少しは、落ち着いたか・・・?」

「・・・・はい・・・・」


汗で濡れた匠の前髪を指でそっと搔き上げてやると
匠は安心した様に目を閉じる





「まだ、熱があるな・・・」
浅葱が匠の額に手をあてる

「・・んっ・・・・・」
匠が小さく声を出し、顔を動かした

「どうした・・・?」

「・・い・・・いえ・・・・」

一瞬 閉じた瞳の中で、浅葱の手の影が動くのが見えた様な気がした・・






深月とオヤジが部屋に入ってくる
「匠・・気が付いたか?
 鎮静剤は・・・・効果約12時間ってとこか・・  まぁいいだろう・・」


「おやっさん・・・・ご迷惑を・・・・・・」
言い掛ける匠の言葉をオヤジが遮る


「何を堅苦しい事言ってるんだ
 お前はちゃんと俺の言った通り ここへ戻ってきた  
 それで120点だ 
 何も謝る事なんてねぇよ
 で、体はどうだ・・・? どこか痛むところはないか?」


「・・・・・・・大丈夫・・です・・・」
そう言う匠の顔は まだ苦しそうだった


「おいおい・・・
 俺はこう見えても医師兼任だ、 医者に隠し事は無しだぞ・・」





部屋には3人の気配があった
みんなが側にいる・・・・
それが心強くもあり・・ 今は、辛かった


そんな匠の気持ちをオヤジが察する

「おーい。 ここからは医者と患者の話しだ、秘守義務がある!
 2人共出て行ってくれー」


「あ・・はい・・」
深月が出て行こうとするが浅葱は動かなかった


「ほら!浅葱さんもですよ!!」
そう言って深月は浅葱の腕を引っ張り 連れて出て行った




刻印 -79へ続く
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刻印 -77

リビングでPCのランプが1つ点灯した

オヤジが届いたメールに目を通す
「もう来やがったか・・・・流、ちょっと恭介を呼んできてくれ」

そう言われて深月は医務室へ向かった




「浅葱さん、おやっさんが来てくれって・・・」
「わかった、すぐ行く」


浅葱は眠っている匠をそっとベッドへ戻すと
「深月、匠を見ててくれ・・」
そう言ってリビングへ戻っていった



深月は眠っている匠の前にイスを引き、正面に座る
目の前に匠の顔があった

ここへ帰って来た時と違い、少しは落ち着いて眠っている様に見える


うん。。うん。。。
訳もなく一人納得し、頷きながら深月はずっと匠の顔を眺めていた



そしてまた触れたい衝動に駆られる・・・・


今度は一番近くにあった指に触れてみた

ピクンと匠の指が動く
動いた・・・・! 何故かそれが妙に嬉しかった

もう一度、今度は触ってみる



「・・ンッ・・・・」

匠が小さく呻き目を開けた


深月は驚き、慌てて手を引っ込めた

「す・・すみません・・・! 起こしてしまって・・・・・」
咄嗟に謝る




「・・・・・・だ・・・れ・・・」
聞き慣れない声に 匠の表情が警戒し、動かない体を引こうとする



あ・・そうだ・・・見えてないんだ・・・!



「あ・・・あの・・・僕、深月・・深月流之介 と言います!

 この前からここでお世話になってます・・
 その前もずっとおやっさんに色々 教わってて・・・

 実戦は苦手で全然ダメですけど・・・・・・
 浅葱さんにも、すごくお世話になってて・・

 いつも怒られてばかりだけど・・
 ここに居たくて、無理言ってここのメンバーにしてもらって・・・
 がんばるので・・・・・・・

 んと・・・・
 それで・・あの・・・・匠さん、大丈夫ですか?」


焦って一気に自己紹介・・・ らしきもの、をした
自分でも 何を言っているのかわからなかった





その声に 一瞬驚いた表情を見せた後
匠は安心した様にその表情を和ませた




匠もその声を思い出していた
あの部屋で浅葱さんと話しをしていた人・・

「・・・・一ノ瀬 匠です・・・・ よろ・・しく・・・」
そう言って 指をわずかに広げ差し出した


手首の白い包帯が目に入り、一瞬戸惑ったが
「は・・・・はい! こちらこそ!よろしくお願いします!」
深月は差し出された匠の手を両手で握りしめた





匠はあの地下室で 深月に向け発砲した事を思い出す

「あ・・・・・・俺・・・・・確か・・・・・・
 深月さんに・・・・・銃口を・・・・・・すみ・・・ません・・・・」


「いえ・・・!!
 あれは・・・こちらこそ本当にありがとうございました!
 本当は僕がやらなきゃいけないのに
 助けてもらって・・じゃなきゃ、僕は今頃・・・
 本当に、本当にありがとうございました!」

深月は立ち上がり頭を下げた
イスがガタンとベッドにあたる

「あっ・・すみません・・・・」


その行動に匠がクスッと笑う・・




「あの・・僕・・よく浅葱さんや おやっさんにも笑われるんですけど・・
 自分では何かよくわかってなくて・・・・
 なんで・・・・・」





「おい・・いい加減にしておけ
 匠が疲れるだろ・・」

後ろで浅葱の声がした




刻印 -78へ続く
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刻印 -76

匠は夢を見ていた・・

漆黒の闇の中を 裸足で走っていた
体にまとわり付く空気は 泥の様に重くしかも熱い・・
息さえも まともに出来ない

闇の中から突如現れる無数の針が ズブズブと自分の体を貫いていく
胸も、背中も、腕も・・・目も・・・
何百本・・何千本・・・・・


息が切れ、体中が張り裂けそうな痛みに襲われた
足をとられ何度も闇に倒れた




必死で伸ばした手の先に 小さな明りが見える

やっと、ここから出られる・・・





手を伸ばし助けを求める指先に何かが触れた
自分を呼ぶ浅葱の声がしていた




そして その手を、強く引っ張り上げられた

浅葱さん・・・・

来てくれた・・・・

安堵で目を開ける



が、目の前に居たのは・・・あの男だった


クスクスと笑いながら男は匠の手を引くと、
強引に体を抱き寄せ 唇を塞ぐ
息が出来なくなる


どんなに抵抗しても体が動かなかった

あの男に抱きしめられると体中に痛みが走った
男に触れられた体が 次々と切り刻まれ、朽ち、崩れ落ちていく



塞がれた口からも、抱きしめられた体からも血を流し
それでも逃れられない自分がいた







・・・・そしてその体は動かなくなった




眼下に 傷だらけで横たわる自分の体があった

見知らぬ男達が 笑いながら ”それ” に近付く

やがて服を引き剥がし 陵辱し始める・・・
だが ”それ” は抗う事もせず、ただされるがままに体を差し出している


周囲を群集が取り囲み 楽しそうに見ていた



・・・・どうして抵抗しない・・・・・何故・・・
無抵抗の 自分を見ながら 匠は自身に苛立ち、失望していた




もてあそばれた体の奥がズキズキと痛む・・・




振り返ると浅葱とおやっさんがいた
哀れむような悲しい目・・
そして抵抗しない自分への侮蔑の目・・・
そんな目でじっとその光景を見つめている



・・・・見るな・・・やめろ・・・

必死に叫けび 二人の前に両手を広げ立ちはだかるが
全く気が付いてはくれない


見ないでくれ・・・・!

やめろ・・・・・・!

見るな・・・・・・!!





「・・・・やめろっ・・・・・・」

匠は自分の叫び声で目を覚ました


ハァ・・・ハァ・・・

ハァ・・・ハァ・・・



目を覚ますと 活動を始める体はその体温を上げる
背中から汗をかけない匠の体は熱を逃せず、一気に高温になった



熱い・・・・

目を覚ましたはずなのに、周囲はまだ闇だった
だが、体の奥の ・・あの鈍い嫌な痛みだけはハッキリと続いている
まだ夢なのか・・・
それとも現実なのか・・・・

理解できずにただ体が震えた






「匠・・・・・おい、匠・・・・大丈夫か・・・・・?」
浅葱の声がした


浅葱・・・さん・・
たった今 夢の中で見た二人の悲しそうな顔を思い出す・・・


「・・・・ぃや・・・・・っ・・!」
首を振り、逃れようとした






「しっかりしろ・・・匠・・!!」

「・・いや・・・・俺を・・・・みるな・・・・・はなせ・・・・・・!」
足を動かし身をよじる


「いいや! 離さない! ・・・俺は側にいる! 
 ・・・・・・・何があっても・・・ 俺はお前の側にいる・・・!!」

手首を掴まれ、暴れる体を強く抱き締められる
浅葱の胸の鼓動が聞こえた・・





その感覚は、あの地下室の時と同じだった

”何も怖がる事は無い・・・・大丈夫だ・・” 
そう言ってあの部屋から助け出してくれた浅葱を思い出す
暴れる体から力が抜ける・・



「あ・・・浅葱・・・さん・・・・・・・・」

「ああ、俺だ・・・・正気に戻ったか?  匠・・」

匠がわずかに頷く



「・・・・・・水・・・飲ませて・・・・・ほしい・・・・」

「・・・ん・・・ちょっと待ってろ・・」
浅葱がボトルの水を口元へ持って行くと 匠が首を振る

「どうした・・?」

「・・・・・・飲ませて・・・・・・・」
そう呟いた・・

「何を甘えてる・・・・・」
そう言いながらも浅葱は
前と同じ様に、自分の口に水を含むと 匠の唇に合わせる・・

「・・んっ・・・・     ・・ん・・・・・」
匠はゆっくりと浅葱の唇から水を受け取る



やはりあの地下室で飲ませてもらった時と全く同じだった



そうだ・・
あの時から、浅葱さんはもう・・全てを知っていた・・・・




一口飲み終ると匠は目を閉じた

あれほど嫌だった体に触れられる事・・・
唇を塞がれる行為・・・・
それが、浅葱だと 不思議と気持ちが楽になった


大丈夫・・・・浅葱さんがいてくれるなら・・・・大丈夫・・・

自分に言い聞かせるように、匠はまた眠りに落ちていった




刻印 -77へ続く
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刻印 -75

扉を開けたままの医務室からは話し声が聞こえていた
内容までは聞き取れないが、二人が話をしているようだった



「おやっさん・・ あの二人はもう長いんですか?」
深月が聞く


「ん? 長いって、何がだ?」


「コンビと言うか、チームと言うか・・一緒に仕事をする様になってです」


「長さか・・
 一緒に居た時間で言えば お前の方がよっぽど長いさ、流・・
 この件の始まりは 匠がここへ来た日・・
 恭介と初めて会った日だから・・・会ったのはこれで2回目か・・」


「2回目?! まさか! だってあの二人・・
 信頼っていうか・・・・いや、そんなモノ以上です

 命だって預けられるって感じで・・・・
 だからもうずっと一緒に居るのかと・・・・・・・」


「そうだなぁ・・
 二人の事は二人にしか判らんが・・・・
 
 真の強者は 瞬時に相手の技量を見極めるという・・・
 そういう意味で言えば・・・
 匠は、ここで初めて恭介に会った瞬間から、相手を認めたのさ
 恭介の 何か を感じ取ったのかも知れねぇなぁ
 
 二人の間に信頼があったと言うのなら
 恭介もそれに値する相手だと 匠を認めたってぇ事だ

 お前の様に、恭介がわからん。 なんて事は言わなかったぞ
 だからお前には 100年早えぇって言ったんだ」


「おやっさんー、もうその話は・・
 僕だって・・・わかり・・かけてるんですから・・
 ・・・・そういえば・・・
 おやっさん、いつの間にか 匠さんの事を 坊ヤから匠 になってますよね?」


「ん?・・ああ・・・・
 あの匠を見れば・・もう坊ヤなんて呼べねぇよ・・・」
 






その時、医務室から匠を呼ぶ浅葱の声が聞こえた

「ちょっと様子を見て来る」 
オヤジは深月に言うと、医務室へ走った


「どうした、恭介・・」

「オヤジ、また発作だ・・」


匠はまた発作を起こし、意識を失いかけていた
周囲の物音は既に聞こえていないらしく
ただ 激しい呼吸を繰り返し、震えている


「・・わかった、待ってろ」


オヤジは匠の状態を一瞥 (いちべつ) すると
手早く2種類のアンプルを注射器に詰め、比較的傷の少ない右腕に針を刺した


「ンッ・・・」
発作を起こした匠は 抵抗すらせず、小さく呻いただけだった



「今までより少し強い薬だ・・ 鎮痛剤も入れておいた
 これが効けば かなり楽になるだろう
 今日だけでかなりの薬を使い過ぎだが・・
 それでも・・・ 少しでも眠らせてやらねぇと・・・・
 恭介、お前は大丈夫か? 匠・・下ろすか?」


匠を抱きかかえたままの浅葱にオヤジが言う


「いや・・俺はいい ・・大丈夫だ」


「最初から無理するなよ、先は長げぇんだ・・・
 お前だってずっと眠ってないんだ
 ほら・・これを・・・ 少し楽にしてろ・・

 やはり、このまま快方へ向かってくれたら・・ってのは
 少し考えが甘過ぎたか・・」

そう言いながら浅葱の背中にクッションを差し入れる



「・・・全部 ・・・・俺のせいだ・・・」
浅葱が苦しそうな匠を顔を見ながら ポツリと呟いた


その言葉にオヤジの顔が曇る
「恭介・・・・ そういう言い方はやめろ」  強い語気だった




浅葱が顔を上げる

「お前の後悔や罪悪感、同情・・ 
 今 そんなモノを貰っても、匠は喜びはせん
 特に匠は敏感だ
 そんなモンは 今の匠には負担以外の何物でもねぇぞ」


「・・・・・・ああ・・・・すまない・・・わかってる・・・・」
浅葱はそう言って 腕の中の匠の顔を見る





薬が効いたのか、匠は眠りに落ちようとしていた




刻印 -76へ続く
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刻印 -74

シャワーと着替えを済ませると、浅葱は医務室へ向った


匠が 少しでも痛みが無く眠っていてくれたら・・ そう思う
が、顔を見ながら何か話がしたい・・・ そんな気持ちもあった




部屋に入ると匠は背中を向けて横になっていた
扉は閉めずに 少し開けたまま部屋に入る


浅葱が部屋に入ると 「浅葱・・・さん・・・」 
後ろを向いたまま匠の声がする


「ああ、俺だ、匠・・・・ 痛むか?  眠れないか?」

ベッドの横に座り声を掛けた


「痛みは・・・・・・大丈夫・・・です・・・・・
 少し・・・楽に・・・・・・」

あの点滴が外せたからか
匠の声も 随分と聞き取れる様になっていた



「そうか、よかった。 それなら少し眠れ・・」

「浅葱・・・・さん・・・」

「何だ?」

「・・・・すみません・・でした・・ ・・みんなにも・・・迷惑を・・・」

「謝らなくてもいい・・
 お前のせいじゃない、悪いのはこの俺だ
 すまない・・・・ お前をこんな目に遭わせた・・・」

「いえ・・・・・・・俺が・・・・・・勝手に・・・・・」


そこまで言うと匠は少し苦しそうに息をした



「・・・・匠・・今は少し眠れ
 体は・・向きを変えよう・・・」

そう言って匠を抱き起こそうとする




「その・・・・前に・・・・・・」
匠が背中を向けたまま、まだ何かを言いかけた



「・・・どうした?」



匠は暫く黙り込んだ
話したい事があるのに、言い出せない・・・
何か躊躇している様子だった


「何でも言えばいい・・」


浅葱が促すと、匠は一度目を閉じた
少し考えた後 呼吸を整えるように息を吸い 後ろを向いたまま小さな声で言う



「・・・浅葱・・・さん・・・  
 俺の・・・   俺の・・背中・・・・・・見・・・ましたか・・・・?」




浅葱は一瞬 答えに迷ったが
「・・・・ああ・・」 とだけ答えた



「見られ・・・・たんですね・・・・・ 
 じゃあ・・・・  あの男に・・・・された・・・事・・・ 知って・・・」




そこまで言うと 徐々に匠の呼吸が荒くなっていく
背を向けたまま肩で息をしているのがわかった
腕に顔を埋め・・ 背中が震えていた




「・・・匠・・・・・・・」


何も言葉が出なかった・・・
浅葱は匠を抱き起こし、ただ抱き締めた



急に抱き締められ、匠が驚いた様に目を開ける

「浅葱さん・・・・・ やっぱり・・・ 知って・・・・・・」



ハァ・・・・

ハァ・・・・



匠は荒い呼吸をしながら浅葱の腕の中で
子供がイヤイヤをする様に、首を振る・・



「匠・・・・・もういい・・・ 何も思い出すな・・・・
 もう・・・・・・
 もう・・ 終ったんだ・・・・ 忘れろ・・・」




浅葱自身、そんな言葉が無意味なのはわかっていた

何も終わってはいない・・
忘れられるはずが無い・・・  が、そんな言葉しか出てこなかった

絞り出す様にそう繰り返しながら、匠を抱き締める浅葱の腕に力が入る



浅葱のシャツの袖を握る匠の手が震え始めていた
その呼吸は益々酷くなっていく・・




刻印 -75へ続く
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刻印 -73

浅葱の背中が見えなくなると オヤジが深月に話し掛けた

「流よ・・・・
 本当にいいんだな・・・・ここで・・・」


「はい、大丈夫です。お願いします」


「前 話してた恭介の事・・・ 少しはわかったのか・・・?」


「わかった・・・ 様な気がします・・ 浅葱さんも匠さんも・・
 いえ・・・わかりかけたから、もっとココに居たいんです
 そしていつか・・・・・同等に仕事がしたい
 今回は 足を引っ張ってばかりで・・・」


「そうか・・・お前が決めたなら、もう聞かん・・ここに居ろ
 俺もまだまだお前には教えなきゃならん事が 山ほどある
 だが・・・ 
 同等は・・・・・・・・いつの事だろうな」
そう言って優しい顔で笑った







「あの・・・ 匠さんの背中って・・・・」

「ん?」

「浅葱さんが お前は見るなと・・・・だから・・・・
 リハビリって・・・・いったい、どうなってるんですか・・・・」

「そうか・・・恭介が・・・・・・・・」




恭介が 見るな と言ったのは、緊迫する現場で 流を混乱させない為・・
あれだけの傷、恭介でさえ気持ちが乱れたはずだ・・

それが経験のない流だったらパニックを起こしかねない
だから見せなかったんだろう・・・それは容易に推測できた

だが今はもう現場ではない
この部屋でなら、流が取り乱しても、サポートできる

が・・・

問題は匠自身の気持ちだった・・


ずっとここに居るという流・・・
チームだからこそ知っておくべき・・なのか・・
いや、チームだからこそ・・見られたくない・・・
そんな気持ちもあるのではないか・・・




そこまで考えてオヤジは話し始めた

「匠の背中は・・・酷い熱傷だ
 何かで灼かれたんだろう・・・
 その上・・・   かなり・・・・傷付けられている・・・
 だから、筋肉が焼け落ち、皮膚が引き攣って 腕が動かない・・」


深月はその言葉に息を呑んだ
「灼かれた・・・・・?
 筋肉が焼け落ち・・・って・・・そんな・・・・」


言葉が出なかった・・
想像しただけで、手が震えた


「・・・怖いか? 流・・・・・
 
 さっきも言ったろう・・・
 ここに居れば、まだまだショックな事があると・・・・
 今でさえそれだ
 現場でそれを見たら お前はちゃんと仕事が出来たか?」


そう言われてハッとした
何も知らなくても現場で取り乱していた自分を思い出す・・・


「いいえ・・・・・」 深月が呟く


「だな・・・ だから恭介は見るなと言った
 それ以上の事は・・・・
 匠本人が決める
 見せるか見せないかは・・・・匠自身の・・・・戦いでもあるだろうからな・・・」


「おやっさん、僕に何か出来る事は・・・・
 匠さんは・・・・ あんな状態でも僕を助けてくれた
 さっきは、そんな匠さんがどうして、手首を・・・・・自分で自分をって・・
 ショックで・・・信じたくなかった・・ けど、何か出来る事があれば・・・」


「そうだな・・・
 今のお前に出来るのは、そのまま・・
 いつも通りの明るいお前のまま 普通 で居ることだ」


「普通・・・?」


「ああ・・今回の事では、匠も・・・
 そしてあの恭介も・・・何も言わないが、相当参ってる
 あの二人と一緒に・・・普通に側に居てやってくれ・・・」


「普通に・・・」


「ただ・・言っておくが・・
 ここで ”普通” で居る事は、かなり大変だぞ、流・・」


深月は無言で頷いた




刻印 -74へ続く
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刻印 -72

深月がリビングを出て行くと
「ヤツは・・・? 」  オヤジが聞く
「・・・・いや・・」  浅葱が悔しそうに首を振った


「そうか・・・でも今回は匠を助けられた
 それで上等だ・・ これからの事はゆっくり・・・」

「匠を・・・・・」

「ん・・?」

「匠を・・ また匠を奪いに来ると・・そう言っていた」

「匠を奪う??  もう十分痛めつけただろうが
 あれ以上、匠に何をしようってんだっ・・・!?
 匠は何も関係ない・・・・・・・」


そこまで言って オヤジはハッと息を呑む・・




「おい・・・恭介・・・まさか・・・
 まさか匠はヤツに・・・・・  って言うんじゃないだろうな?」


「・・・・・・・
 
 ・・・ああ・・・ヤツは・・・・ そう言った
 今回も匠を連れて行くつもりだったと・・・
 だから必ず奪い返すと・・・
 匠の様子からすると・・・・たぶんヤツの言った事は本当だろう・・
 初めは俺が触れる事さえ嫌がった・・」


「それで点滴に興奮剤みてぇなモンを・・・・
 あんな・・・あんなボロボロの体で・・・
 薬で出血も止まらねぇ・・目も見えねぇ体で・・そんな・・
 ヤツはそんな匠の体をもてあそんだっていうのか・・・・
 
 ・・・それで・・自分で・・手首を・・・
 ・・・クソッ・・・・・!  
 あの背中の傷だけでも、精神的な負担は計り知れねぇってのに・・
 そんな傷まで・・・・・ クソッォ・・・!!」



オヤジがテーブルを叩きつけた






そのまま部屋には重い沈黙の空気だけが流れた


オヤジは やり場の無い怒りに席を立ち上がり
意味も無く部屋の中をウロウロと歩き回り
そして途中で何度も テーブルを殴った


浅葱はじっとソファに座り、組んだ両手に額をのせ
ただ下を向いているだけだった
目を閉じ、何かを考えているらしかった・・



怒りにまかせテーブルを殴っていたオヤジが
そんな浅葱に気が付き   ・・・足が止まる


浅葱は 激しい怒りとも悲しみとも・・後悔とも判らない
そんな何かに包まれているようだった


その姿は オヤジと浅葱が初めて出会った頃・・
仲間を失い自暴自棄になっていた あの頃の恭介 と同じだった



・・・・恭介・・・・・
オヤジは怒りも忘れ、その浅葱の姿を暫く見つめていた・・







オヤジはキッチンへ行き コーヒーを淹れて戻ってきた
ソファに座る浅葱に
「ほら・・」  そう言って片方のカップを差し出す
浅葱は顔を上げると、無言でそのカップを受け取り両手で握り締めた

オヤジも またいつもの席に座った





「深月は・・・深月は本当にいいのか?」  
浅葱が ポツ。。と口を開いた


「ん・・・・ ああ・・
 本人が居てえって言うんだ
 あいつはお前と同じで、一度言い出したら聞かんよ・・」




シンとした部屋に 外で遊ぶ子供の声が聞こえてきた
「もう夕方か・・・・・」
オヤジが呟いた





「オヤジ・・・・・」
浅葱が何かを言いかける







その時、扉が開き 深月がシャワーから戻って来た
「気持ちよかったですよ、浅葱さんもどうぞ」


その声に 重く張り詰めていた沈黙の空気がプツンと切れる
オヤジが フッと表情を緩める

「えっ? 何ですか? 僕 笑われる様な事しました?」

「いや・・何でもない・・・いいんだ 
 俺も行ってくる」
そう言って浅葱は部屋を出て行った




刻印 -73へ続く
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刻印 -71

医務室の扉を少し開けたまま3人はリビングに集まる



「どうなんだ・・・匠は・・・」
浅葱がすぐさまオヤジに問いただした



「落ち着け・・恭介・・・・
 そうは言っても・・・俺もやりきれねぇが・・・


 目は・・・傷が入っているから何らかの後遺症は残るかもしれねぇ・・
 が、さっきの洗浄を続ければ 見えなくなる事はねぇはずだ
 時間が経てば・・・・どのくらいの時間かはハッキリしねぇが 
 徐々に見えてくるだろう
 
 背中の傷は・・・・残念だが・・ たぶんもうどうにもならねぇ
 まだ詳しく診てねぇが、あそこまでされちまうと・・・・
 
 それよりも、問題は腕だ
 もう少し匠が落ち着いたら 皮膚と筋肉が引き攣って固まる前に
 リハビリを始めなきゃならん
 
 肋骨も背中や脇腹があれじゃテーピングもサポーターもできん
 自然治癒を待つしかねぇ・・」



「とりあえず・・・・・・
 命のキケン・・・とかは・・もう無いんですよね・・・?」
深月がやっと口を開いた



「ああ・・ それは大丈夫だ
 あの状態で感染症を起こしてねぇのはラッキーだった
 これからは 背中、腕のリハビリと・・・ 心・・だ
 
 さっきの・・・扉を開けておけ、と言うのも たぶん恐怖からだ

 あんな状態で ずっと一人で居たんだろうな・・
 今でも怖くて閉められるのが耐えられねぇんだろう

 ・・・・どれほど怖かったか・・・痛かったのか・・・
 俺達では想像も付かねぇが・・・ たぶんこれが一番厄介だ


 あと・・腕が動くようになるまでは寝返りも打てんだろうし
 日常生活にも困るだろうから・・
 そこは 俺と・・・恭介・・・いいな?」



「ああ・・大丈夫だ」 浅葱が答える



「あの・・・・」 
そこまで聞いて深月が口を挟む

「なんだ? 流・・・」

 

「僕も・・・・・・・
 ずっとここに居てはいけませんか・・・?
 ここで、おやっさんや、浅葱さんや、匠さんと一緒に・・・・」



その言葉に驚いた様に オヤジが深月を見る

暫く考え込んだ後
「なぁ、流・・ 前のチームへ帰った方が楽だぞ
 ここは、なんだかんだ言っても最前線だ
 何かあれば一番にお呼びがかかる

 それに匠の事もある・・・
 さっきの・・・・・・・・あの手首の事もだが
 お前には、ショッキングすぎる事がまだまだ起こる
  
 今回の件でも、たぶん本部から呼び出しを食らう事になる
 今帰れば、言い訳は何とでも立つ

 が、ここに居れば、一蓮托生・・・
 お前もタダでは済まないかもしれん
 
 ここに呼んで、巻き込んだ張本人の俺が言うのも何だが・・今回は・・・」



「構いません・・・ここに居させてください
 さっきは・・・確かにショックで・・
 でも・・・・

 まだまだ 戦力にはなれないかもしれない
 でも、お願いします!」
オヤジの言葉を遮って深月は真っ直ぐに二人を見た



フゥ・・と溜息をつきながらオヤジが浅葱を見る
浅葱も何も言わずに オヤジを見ただけだった



「本当にいいのか・・? 流・・・・・
 今話したリスクは想像以上にデカイぞ・・精神的にもだ 
 それを負ってでも良いと思うなら・・ お前の好きにしろ・・・」


「あ・・ありがとうございます!!」


「もし、出て行きたくなったらいつでも言え、俺も恭介も止めはせん・・」 


「はい・・でも、出て行きたいと言った時には・・
 絶対 引き止めてもらえる様になります」
深月はそう言って頭を下げた


「全く・・・困ったもんだ・・・」 
オヤジが呆れた様に言う


「じゃあ、まぁ・・そういう事だ・・
 とりあえずは2人共 シャワーして着替えてこい!
 
 お前等、硝煙と薬品の臭いがプンプンするんだ
 いつまでもそんな匂いさせてると、匠が落ち着かん・・」

タオルをポンと投げてよこしながら、オヤジが言う


「深月、先に行って来い、俺はもう少しオヤジと話がある」




刻印 -72へ続く
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刻印 -70

オヤジは チラリと深月の方を見た


オヤジの治療を側で見ていた深月も そのテープに気付く・・
一瞬 困惑し、その顔が曇る

それが何を意味しているのか・・深月にも理解できた
深月は・・・ 思わず目を逸らしていた・・



オヤジはそんな深月を見ながら一つ息を吐くと
テープを外そうと匠の手首に触れる


荒い呼吸の下、肩で息をしながら
匠の指がピクンと反応し、苦しそうに目を開けた
そして わずかに首を振る・・

・・・できる事なら、、見ないでほしい・・・
そんな声が聞こえてきそうだった



「いいんだ・・・匠・・・  ・・大丈夫・・・・心配するな・・」
オヤジが小さく呟く



その声にもう一度 わずかに首を振った匠だったが
後はそのまま宙を見つめていた
肩だけが苦しそうに呼吸に合わせて上下する





オヤジがテープを外すとその下には
流れた血を拭き取る事もせず、何の処置もされないまま
ただ隠す様にされただけの傷があった


この傷が あの男に見つかり叱咤されるのを恐れた老人が
大急ぎで隠したのだ


匠自身が メスで切り裂いた傷・・

わずかに急所を外れただけのその傷は 大きくは無いが、深かった
腕の動かない匠が、自分でどうやってこんな事をしたのか・・
どれだけの覚悟を決めれば、ここまで刺せるのか・・



オヤジは悔しさで唇を嚙み締めた
浅葱も黙ったままそれを見ている
深月は下を向いたまま、顔を上げようとはしなかった



オヤジはまた黙々と処置を始め
出来るだけ傷跡が残らない様に丁寧に縫合していった



新しい包帯と交換し終えると
「とりあえず・・・・ これで少し匠を休ませてやろう・・・
 今、これ以上は・・
 匠の精神的にも負担が大きい
 背中は・・・その後だ・・・」


二人にそう言うと、匠にも声をかける


「点滴・・もう取れたぞ・・・・・匠・・・
 よく頑張った・・・・・
 これで少しは楽になるはずだ・・

 注射は嫌だろうが・・・ もう一度だけ、鎮静剤を打とうな・・・
 そしたら 少し眠るんだ・・・・今度はちゃんと効くはずだ・・・・」


が、匠が首を振る・・


「どうした・・嫌なのか・・・・?
 打った方が 眠れるぞ・・・・・」
オヤジが優しく聞くが 匠の答えは同じだった


「そうか・・・・わかった・・・」


「大丈夫なのか・・・オヤジ・・・・」
浅葱が尋ねる


「ああ・・・もう点滴は外したからな
 このままでも 今までより、少しはマシだろう・・
 うまくいけば、このまま落ち着くかもしれんしな
 
 何よりも・・・これ以上 無理矢理に何かするのは・・・
 ・・・匠の心が・・・壊れちまう・・・」



オヤジが 匠を横向きの姿勢に直してやると
匠はすぐに小さくなった

新しくなった左手首の包帯を隠すように右手で握る




「ちょっと向こうの部屋へ・・・」
オヤジが浅葱と深月を連れ出す


扉を閉めようとすると背後で匠の小さな声がした
「・・・閉め・・・・・・ないで・・・・・・・・・・・・・」


「ん? ああ・・そうだな・・・ここは開けておくからな・・・・・」
オヤジが言うと 匠はそのまま腕に顔を埋めた・・・




刻印 -71へ続く
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刻印 -69

深月の分析を待つ間に、オヤジは匠の体の傷を処置していく


浅い傷はもう塞がりかけていたが
まだ閉じていない傷も無数にあった

特に胸の中央の大きな傷は深く、まだ出血を繰り返している



「とりあえず、この傷だけは縫合しとかねぇと・・」
独り言の様に呟きながら、オヤジは傷の中を洗浄し、消毒と縫合をしていく


麻酔も何もしていないはずなのに 匠はシーツを握り締めるだけで
一言も声を上げなかった

「今までいったいどんな痛みと闘ってたんだ・・・・ 匠・・・」






「おやっさん、先に目の方、分析・・出ました」
深月がプリントアウトした紙をオヤジに渡しに来る


薬品分析を見ながら 「ひでぇ薬だ・・」 オヤジが呟いた


「どうなんだ・・ オヤジ・・・・・」 
浅葱も心配そうに尋ねる


「これはもう拷問だけの薬だ・・・
 持続性のある成分は無ぇから・・・ とりあえず失明の恐れはなさそうだ
 が・・・何にせよこれでは刺激が強すぎる・・ 
 こんなモン、目に入れやがって・・・
 今でも かなりの痛みがあるはずだ
 ライトを点けただけで痛がるのは、たぶん このせいだ・・・」


「拷問だけって・・・・」 深月も言葉を失う



「匠 ・・ちょっと目を洗浄するからな・・・・」

両目の周囲にガーゼを置き オヤジが準備を始める
そこに触れるとやはり匠の反応が敏感になり、酷くなった


ハァ・・

ハァ・・


匠も唇を嚙み締めて 早やる呼吸を必死で制御しようとする

「かなり痛むが、頑張ってくれよ・・・・
 恭介・・ 匠の手を握っててやれ・・・
 流は匠の脚、押さえとけ・・」



オヤジが ガーゼを押さえ、匠の両目に液体を落とし入れる

「ンッ・・・・!!!ぁぁぁあああああああああああ!!!!」
またあの焼き付く様な痛みが両目を襲い 匠は叫び声を上げた
体を捩り、逃げようとする


今までこの部屋で声を上げなかった匠が 叫んでいた
「やっぱり目か・・・・これは辛れぇよな・・・匠・・
 でも・・・頑張れよ・・・・これをしとかねぇと・・・・・」
 

「麻酔とか・・出来ないんですか・・・!?」
匠の声に耐えられなくなった深月が言う


「この呼吸の状態で麻酔なんぞ使ったら それこそ死んじまう・・・
 点滴の成分はどんなだ・・・?」


「あ・・・・はい・・・・これ・・」
深月が匠の脚を押さえたまま
プリンターから吐き出されたばかりの用紙を オヤジの目の前に差し出した




洗浄作業をしながらオヤジはそれを一気に目を通す
「やはり複数種類の混合か・・・
 基本成分に生命維持の目的の物もあるが・・・
 こりゃあ・・・・興奮剤の一種・・・だな

 これが原因で 出血は止まらねぇし、鎮静剤も効かねぇのか・・

 こんなモンで 神経を敏感に剥き出しにしておいて
 それで 背中も、目もやったってのか・・・・・
 こんな事ができるのは・・もう人間じゃねぇ・・」





洗浄し終えるとオヤジは まだ痛みに震える匠に続けざまに告げる
鎮静剤が切れる前に 出来るだけの事をしたかった


「匠・・・腕の点滴を抜くぞ・・
 これを外せば楽になるはずだ・・・」


「・・ンンッ・・・・ッ・・・・」

目の痛みで呻くだけの匠からは もう返事はない




オヤジは構わず腕のパックのテープを外す
紫色になった匠の腕が見える

「なんで、こんな事に・・」  深月が呟いた


「最初にコレを付けられ、そのあと背中をやられたんだろう
 が、あの医者はこれをそのまま刺しっ放しにした・・・
 
 背中と一緒に血管もやられてるってぇのに
 通常と同じ量を落とし続けたから 腕が悲鳴を上げてるんだ

 こんなバカは 医者なんて呼べるモンじゃあねぇ・・・

 もう一回押さえてくれ・・
 麻酔無しでも 腕は動かねぇだろうが・・・・」 

 

「匠・・・針、抜くからな・・・」
そう言うと、オヤジは匠の紫の腕を押さえ消毒をすると
ゆっくりとメスを入れた
針を呑み込んだまま塞がりかけていた傷を切開していく



その痛みは あの老人から受け続けた痛みと同じだった・・
あの地下室での 苦痛の記憶が呼び起こされる

「・・・・・ァアアッ・・ッ!!・・・・・・やめ・・・・・ンッッ・・!!!!」

叫ぶが腕は動かない
浅葱の手を 必死に握り締めるだけだった
それが余計に痛々しかった



オヤジは最小限に切り開くと
中に埋もれる針の先端を 器具で探り始める

「ンンッ・・!!! ・・・!!」

傷口から流れる鮮血を押さえながら
オヤジも出来るだけ動きを小さくして器具を操る

匠の呼吸が荒くなる・・



「あったぞ・・・・・」
オヤジは1本・・ また1本と針を抜き取っていく
カラン、カランと音を立て、トレイに針が2本転がった


オヤジはそのまま 同じ様に傷口を処置し、洗浄と縫合を行うと
手早く包帯を巻いた



そして・・・
手首のテープに目を留めた・・
雑に小さく目立たぬ様に巻かれたそれにも かなりの血が滲んでいる

ボロボロの匠の体の中で 唯一の治療跡だった




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刻印 -68

マンションに到着すると オヤジは既に駐車場で待っていた


車を止め、浅葱が匠を抱きかかえて降りると
オヤジはすぐに走り寄った


「どうなんだ・・」
「さっき3本目を打った・・ だがそう長くは無理だ」
例のケースをオヤジに返しながら浅葱が言う


ケースの中には使われなかった赤いタグの注射器が
封印されたまま残っていた




オヤジは小さく呻く匠を覆う布を チラとはぐ
大小無数の傷・・ 胸の傷はまだ出血していた

「こんなに・・  しやがって・・・  ・・・・クソッたれが!!」


「背中を・・・」 
浅葱の声にオヤジは慌てて、匠の背中を覗き込んだ
灼かれた背中に蛇と龍が・・・血を流しながら牙を剥いていた


「な・・・・なんだ・・これは・・・・」

浅葱も何も言えなかった・・





エレベーター内でも オヤジの手は休む事無く動き続けた

中身が判らない匠の左腕のパック・・
端を少し切り、数滴ガラス管に採る


「とりあえず部屋に戻ったら、目の診察と、こいつの分析だ
 流・・・・お前も疲れているだろうが、こいつの分析を頼む
 一刻も早く、成分が知りてぇ・・」

「大丈夫です」
深月はそのガラス管を受け取り頷いた



布を少しずつ持ち上げ 匠の状態をチェックしながら
「本当に・・・ひでぇ事をしやがる・・・・・・
 これが 医者のする事かよ・・・・・・」 オヤジはボソリと呟いた







部屋に入ると浅葱は 「帰ってきたぞ」 と匠に声を掛けた
「おかえりなさい・・」 ・・深月も言うが
匠は黙ったまま苦しい呼吸をしているだけだった


「すぐに医務室へ・・・とりあえず怪我や骨折は後だ・・
 問題は目だ・・・・何をされたのか、それを確かめねぇと・・
 目だけは取り返しの付かない事になるかもしれねぇ・・・・」



深月はすぐに部屋の機材を繋ぎ
オヤジに渡された点滴の分析に取り掛かる



匠の体に掛けられた布を 清潔で軽い医療用の大きなタオルに取り替えると
オヤジの指示で 匠はベッドに仰向けに下ろされた


「ァッ・・・・ンンッ・・・・!!」
匠が背中の痛みで呻き
背中を持ち上げようと、無意識に足に力が入る


「わかるか・・・匠・・・・ 俺だ・・・・・帰って来たんだぞ・・」
オヤジの呼びかけに 匠が声のする方へ顔を向ける


「無理に話さなくていい・・・
 背中・・・痛むだろうが、少しだけ我慢してくれ・・
 先に目を見たいんだ・・・ いいか?」
その問いに 匠は一瞬戸惑うような表情をみせた




オヤジが手元のライトを付けると
動く灯りに反応して無意識に眼球が動き 激痛が走る

「・・・ンッ・・・・・ッッ・・・・・・!」
匠が声を押し殺し呻く


ライトをつけただけの反応にしては やはりあまりにも不自然だった
 

「匠・・・・・
 目・・・なにか・・・された・・・よな?  言えるか?」
子供をなだめる様にオヤジがゆっくりと匠に尋ねる


匠はその言葉にピクンと体を反応させた
が、思い出すのを拒む様に 苦しそうに首を振った


「思い出したくないだろうが・・・・放ってはおけねぇんだ・・・・・
 頼む・・・・教えてくれ・・・目だ・・・何をされた・・?」



ハァ・・・ハァ・・・

脳裏にあの針が浮かび上がってきた

匠の呼吸が荒くなる

ハァ・・・ハァ・・・

ハァ・・・ハァ・・・




匠の両手がシーツを握りしめる
表情が険しくなり、動かない体を動かそうとよじる


そしてやっと一言・・
「・・・ 針・・・・  注射・・・を・・・・・・・・・・・・・」 と呟いた


「そうか・・・わかった・・・」
それだけ言うとオヤジは何も言えなくなった



振り返り、その光景を見ていた深月が
「・・そんな・・・・」 と一言漏らす


匠があれほど注射を嫌がった理由・・・・
・・浅葱は唇を嚙んだ



「ただの針じゃなく、注射ってこたぁ・・・薬品も入れられたってことだ・・・
 だからこんな過剰な反応をするのかもしれねぇ・・・・
 匠・・・・
 これから少し目を診させてもらうぞ・・・」


その言葉で匠の体が震え始める・・

オヤジは匠の右目の瞼を開き、ライトをあてた



「・や・・・・・ぃや・・・・・・・・・・・・やめ・・・・・・・・」
匠は小さく首を振る
が、まだ鎮静剤が効いているのか暴れる事はない


シーツを握る両手に力が入る
匠も必死で自身と戦っていた・・


オヤジがルーペで匠の目を覗く
「確かに・・傷がついてる・・・こんなとこに注射なんぞしやがって・・・」
そういいながらピンセットで眼球に小さいガーゼの様な布の破片をのせる

「ンッァッ・・・・・!!」
痛みで匠が呻く


破片をガラスケースに乗せるとそれを深月に差し出した
「これも至急分析してくれ・・・どんな薬品を入れたか知りてぇ・・」



オヤジは同じ様に左の目からもガーゼを採取した
匠は必死で痛みに耐えていた




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刻印 -67

3人を乗せた車は 夜明け前の道を猛スピードで走っていた


浅葱が見かねて声をかける
「あまりスピードを出すな、深月・・ 警察にでも止められると面倒な事になる」
「はい・・・・」


確かに後部座席には 布1枚でくるまれ
体中傷だらけの 瀕死の状態の男を乗せている

止められれば、大騒ぎになるだろうし
身分の確認が取れたとしても、時間的なロスになる


わかってはいるが、ついついアクセルを踏んでしまう自分がいた


それはもうずっと 匠が苦しそうに喘いでいる声が
運転席まで聞こえているからだった






匠は 途中で一度、目を開けた

「・・・あの・・男は・・・ 」 そう一言だけ浅葱に聞いた


その言葉に浅葱は一瞬 答えに迷う・・・

一瞬でも惑った浅葱の気を感じたのか
匠は何も言わず再び目を閉じると、自分の腕の中に顔を埋めた



「すまない・・」
浅葱が小さく呟く




それから暫くして匠の呼吸が荒くなった
2本目の薬の効果も切れかけていた







「車、止めますか? 鎮静剤を・・」
深月が聞く

もうこの段階で 鎮静剤もあまり用を成さないのは目に見えていた
2本目を打ってからまだ数十分しか経っていない

次は・・30分か40分か・・・・いやもっと短いかもしれない



それでも苦しそうな匠を放ってはおけなかった
わずかでも、楽にしてやれるなら・・そう思った


「このまま走ってくれ・・・こっちでする」


浅葱は側に準備してあったオヤジのケースを開けると
最後のブルータグを取り出す

「匠・・・・もう一度、鎮静剤を打つぞ・・・
 そうすれば少しは楽になる・・」


しかし やはりその音に匠は反応した
苦しそうに首を振る

「・・・ぃや・・・・・・やめ・・・・・・・・」





ハァ・・・ハァ・・・

乱れていく呼吸の中で、匠は首を振り続ける
それはもう意思ではなく、あの老人の薬と
植え付けられた恐怖とによって引き起こされる抗えない反射でしかなかった


「匠! しっかりしろ!」
浅葱が震える匠の手を握り締める



が、そうしている間にも 匠の体の震えはみるみる酷くなり
痙攣を引き起こしていく


このまま呼吸困難にでも陥る様な事になったら・・・
もう言い聞かせている暇はなかった

浅葱は抱きかかえたまま匠の右腕を押さえつける


「やめ・・・・・はな・・  ・・・・せ・・・・・・」
震える体で 足を動かし暴れる度に、胸の傷から出血していく




何故 注射ごときにこれほど反応する・・
針の傷みより、背中や・・ こうして出血している傷の痛みの方が遥かに・・
浅葱には判らなかった




「じっとしてろ! 死にたいのか! 匠っ!」

その声に運転席の深月もビクンと跳ねた
顔を上げ、ミラー越しに後ろを見つめる


浅葱は匠を無視し押さえつけると その右腕に注射針を突き刺した


「・・ンッぁ・・・・・・・・・・・・!!!!!」

匠の体が大きく仰け反り
押さえつけた腕から匠の体内に、液体が押し込まれていく



深月は自分が打たれたかの様に 辛い表情でそれを見ていた
わずかに手が震える・・・
そしてまたアクセルを踏み込んでいた・・




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刻印 -66

浅葱が車に戻ると 深月が匠を支えて汗だくで真っ赤な顔をしていた

「大丈夫か? 代わろう・・ 運転を頼む」
「はい・・・すみません・・・お願いします・・・ 他の方は・・?」
「とりあえず 今日はこのまま解散だ・・・・」



わずかな時間だったが 深月の腕はすでに痺れていた
匠を浅葱に返し、腕が自由になると思わず フゥ。。と息をついた


そこへ すかさず浅葱が声を掛ける
「走る前にオヤジに連絡してくれ
 ここなら繋がるだろう・・・・深月」



そう言われて初めて深月は 地下室で通信が繋がらなかった理由を思い出した

この建物は外部との通信を完全に遮断している
だから 匠の発信機も使えないまま壊されたのだ
緊迫する状況で 深月はその事をすっかり忘れていた




思わず 「・・あっ!」 と声が出た


浅葱はその声にチラと視線を向ける
「深月・・・わかったか
 しっかり反省しろ
 そして 二度と同じ失敗はするな」 

浅葱には何もかも わかっているようだった



「す・・すみません! これからは気をつけます!」

「わかったら早くオヤジに連絡だ・・
 また熊みたいにウロウロしながら待ってるはずだ」

「はい」
そう言ってオヤジに連絡を入れる


オヤジはやはり・・
熊の様に部屋をうろつきながら浅葱からの連絡を待っていた




連絡が入ると  「坊ヤは!! どうなんだ!!」  いきなり叫んできた


「・・・・・」

浅葱は一瞬言葉に詰まった後、
あえて冷静に ゆっくりと話し始める・・

「救出はした
 生きてはいる・・・ が・・・
 体中に裂傷・・・ 特に背中は・・ たぶん重度の熱傷と・・・
 肋骨も数本・・・ 目も見えていない・・・・・」


「目だと!? 何があった!? 何をされたんだ!? 薬かっ!!」


「わからない・・・・
 鎮静剤が効かなくて、ちゃんと匠と話せない
 今も2本目が、いつ切れるかわからない状態だ」

 
「鎮静剤が効かないって・・・・・・・いったい・・・・」


「深月・・・・ 1本目は何分ぐらい効いていた?」


浅葱に急に聞かれ 深月は焦って考える・・
「えっと・・1時間・・・・1時間ぐらいだったと・・」


その言葉にオヤジが驚いた様に叫ぶ
「1時間だと???!!
 あれは通常なら 8時間以上は効くんだ!
 
 ・・・・・なんでそんな・・・・・
 そうだ・・・恭介!  あの左腕のは何だったんだ!?」



浅葱が匠の左腕のパックを見る

「何も書かれてはいない・・
 たぶん1つは輸血用の血液・・  だがもう1つは何かわからない」


「やはりそうか・・
 まだ出血はあるのか? そのパックは外せそうか?」


「出血もある・・・パックは・・・・
 深月・・ 匠の左腕のそのパック・・ テープを外してみてくれ」



匠を支えて両手が使えない浅葱が深月に言う


深月が腕に巻きつけられたテープを外し、パックを除けると
匠の腕はすでに紫色に変色していた


驚いた深月が思わず手を止める・・


「点滴の針自体は ・・・全く見えない
 腕に深く埋め込むように 傷口から挿入されている」


「・・映像見せろ」


深月が映像を送ると
「こりゃあ・・・・そこじゃ無理だな・・・
 とりあえずそのままにして帰ってこい

 途中で鎮静剤が切れたら、3本目だな・・・

 もうあまり効果は無いかもしれねぇが、とりあえずそれで しのぐしかねぇ・・
 後の準備はこっちでしておく・・・・
 ・・・・・ひでえ事を・・・」




車がマンションへ向かって走り出す



「とりあえずの問題はその点滴と・・目だな・・何をされたのか・・・・」
オヤジは一人 医務室で準備をしながら呟いていた・・




刻印 -67へ続く
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刻印 -65

外へ出るともう雨は上がっていた
雨で洗われた空気に 夜明け前の風が心地よかった


「匠・・ 外だぞ」
浅葱のその声に 匠がわずかに頷き、少し大きく息をしたように見えた




浅葱は匠を自分の車へと運ぶ

「救急車とか・・呼びますか? 警察病院とか・・」
深月が声をかける


「いや・・・部屋へ帰る
 ヤツ等に寝返った上層部のヤツが誰かわからないままでは
 組織に関係ある場所には連れて行けない
 
 普通の病院では大騒ぎになる・・
 今は オヤジに託すしかない・・・」

深月は黙って頷いた





他の4人は もう車の側に戻っていた

浅葱が匠を抱きかかえて戻って来たのを見ると
各々に安堵の表情を浮かべる

「どうなんだ・・・匠は?」
「今は薬で少し落ち着いている」
「よく頑張ったな」
「帰ろうぜ」

皆が匠に声を掛ける



「・・・上は?」
「ああ・・雨のおかげで消火も思ったより早かった
 敷地もこの通り広いからな
 近隣への影響もなかった様だ・・・ が・・・」


5人が建物を見上げると 派手に壊れた5階と屋上が見えた
火こそ消えているが、灰色の 煙か埃かわからない物を吐き出している

その光景を見ながら 5人全員が何か言いようの無い懐疑感を持っていた・・・・





「悪いがメンバーと話がある
 後ろに乗って 少しの間、匠を支えてやってくれ」

深月が車の後部座席に座ると
浅葱は匠を 深月に抱きかかえさせる様にそっと預ける

「背中も肋骨もやられてる・・・・・ 寝かせられないから注意しろ
 横向きにして・・・そのままだ」



浅葱が手を離すと 深月の両腕に 匠の体重がかかる


細く見えるが幼い頃から鍛えた匠の体は
想像以上に引き締まっていて重かった


そして体温もかなり高い・・ 高熱だった
布1枚にくるまれただけの匠の体から、直接熱が伝わってきて
深月はすぐに汗びっしょりになった



こんなに熱くて重い人間を抱えて
息も切らさず 地下6階から上がって来たのか・・・あの人は・・
負担を掛けない様に、動かしもせず、揺らしもせず・・・・・
しかも あの戦いの後で・・



浅葱さんの様に・・・
そうは思っても、すぐに深月の体は悲鳴を上げ始めた

「・・・ それにしても・・・・・熱い・・・重い・・・・ 
 長くは・・・キツイ・・・ 浅葱さん・・ はやく・・・・」
思わずそう呻いた


「・・・・・・すみ・・・ません・・」 
聞こえていたのか、匠が目を閉じたまま 小さい声で言った

少しでも深月の負担を減らそうと
力の入らない腕で、自分の体を支えようとしていた




「あ! ・・いえ・・ 大丈夫です・・・・!
 気にしないで 力、抜いててください・・・!
 本当に、大丈夫ですから!」


匠は話すのが苦しいのか、それ以上は何も言わなかったが
まるで深月に礼でもするように 少し頭を下げた様だった
そしてそのまま また荒い息だけになる




頭を下げられ、深月は恐縮する様に匠の顔を見た

みんなで探し続けた匠が今 自分の腕の中にいる
それだけで嬉しかった



あのカメラの映像は見ていたが
深月がまじまじと匠の顔を見るのはこれが初めてだ


実戦要員はもっと 屈強な図体のデカイ感じだと勝手に思っていた


だが、今 自分の腕の中にいる匠は
想像していた 匠 とは全く違っていた
年も自分とそれほど変わらないかもしれない


閉じられた瞳の長い睫毛も、額にかかる濡れた髪も
それは妙に美しく見えた
苦しそうに浅い呼吸をする口も
苦痛に歪むその表情さえも どこか・・・・・・・


思わず、指でそっと前髪に触れてみる・・・・

「・・・ンッ・・・」
匠が小さく呻き顔を動かした

慌てて深月は手を引っ込め・・ 我に返った・・





深月は技術屋でほとんど実戦経験も無い
今回も 部屋に待機していれば良いと言われていた

だが、オヤジに無理を言って浅葱について来た

それは この二人を見たかったからだ


当初、浅葱の事が全く理解できなかった

だが、深月が尊敬し 慕っているオヤジが
その浅葱を  ”NO.1だ”  と言い切った

そしてその浅葱が、
みんなに頭を下げてまで助けて欲しいと言った匠だった



そして・・・・ここへ来てその二人を見た・・・・


深月はこの二人・・・・・ オヤジを入れたこの三人に
付いて行きたいと思い始めていた




刻印 -66へ続く
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刻印 -64

「深月・・ 匠が落ち着いているうちに ここを出るぞ」

「え・・・・あ・・・・いえ・・・・はい・・・!!」


二人のやり取りを間近で見ていた深月は昂ぶっていた

感動なのか、驚きなのか・・・
それとも緊張状態から脱した事への安堵なのか・・
喜びも一緒に交錯し 溢れ出しそうな感情が心の底から沸き上がっていた



「なんだその返事は・・・」


「あ・・・いえ・・・だから・・・その・・・何っていうか・・・」


「深月、少し落ち着け・・・・それがお前の・・・・」
言い掛けた浅葱に 他の4人からの連絡が入る



「こっちは片付いた
 爆発も止まった、そっちはどうだ? 応援がいるなら・・・」


「いや・・大丈夫だ
 こちらもこれから上へ向う」



それだけ言うと深月の方へ向き直った
言い掛けた話を続けようとした・・・が・・・

「まぁ・・いい・・・・とりあえず、ここから脱出だ
 いつ鎮静剤が切れるか判らない」 そう言って立ち上がった




匠の呼吸は少しだけ落ち着いていた
だがいつまた痙攣を起こし苦しみ出すか、全く予想が出来ない状態だった




浅葱が布にくるんだまま匠を抱き上げようとした時
左腕に巻かれたパックに目が止まる



それは出かける間際まで オヤジが心配していた物だった

「これが点滴なのは見当が付く・・ だが 中身がわからない」
オヤジは画面を睨みながら ずっとそう言っていた


麻薬なのか、毒物なのか・・・
それともあの医者が作った全く別の 何か なのか・・・

それがわからない以上、対処のし様がない・・・と苦慮していた


結局、オヤジ自ら 様々な状況を想定した数種類もの対薬を作り
注射器に詰め、色違いのタグで用途を示した

それを浅葱に託したのだった



中には真っ赤なタグが付けられ
厳重に封印までされている注射器も1本だけあった

「これを使うのは恭介・・・・・・・
 ・・・・・・・いや、・・いい・・・」
その時オヤジは 言いかけた言葉を飲み込んだ


浅葱も何も言わずにその注射器を受け取ると
ケースの一番底に押し込んでいた






匠の腕の そのパックの下・・ 
左手首に包帯の様なテープが巻かれていた



浅葱はそっと 指でそれに触れる

匠がどんな状況に追い込まれていたのか・・
どれほどの屈辱を味わったのか・・・

そして匠が ・・・何をしたのか・・・・

その白いテープは全てを物語っていた







「匠・・・体を動かすぞ・・ 少し痛むが、我慢しろ・・・」

そう言って浅葱が匠を抱き上げると、匠の腕が力なくブランと下がり落ちる

「・・ンッっ・・!! 」
匠が呻く


「深月、匠の腕を体の上に乗せてやってくれ・・そっとだ・・」
「あ・・はい・・・」


深月が腕を動かそうとすると匠は酷く痛がった


「浅葱さん・・・・・・・」
深月が心配そうに浅葱の顔を見る


「たぶん・・・背中の傷だ・・・そのせいで腕が動かない・・・」


浅葱はあまり詳しくは話したく無さそうで、簡潔に言葉を選んだのがわかった

深月もそれ以上は 何も聞かなかった
聞くのが怖かった・・


深月は匠の体に浅葱の上着を掛ける




「・・行こう」
浅葱の声で三人は階段を上りはじめた


浅葱は匠の負担にならないように 一段一段ゆっくりと上っていく

匠を抱きかかえた浅葱の姿を見つめながら 深月は後ろを歩く


「あの・・・リーダーの男は・・・・」
尋ねる深月の声に 浅葱は 黙って首を振った・・・




刻印 -65へ続く
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刻印 -63

このままでは・・・

浅葱は 匠の背中の傷に負担がかからないように首元に腕を回し
そっと上体を浮かせると 真っ直ぐに仰向けにさせた

もう片方の 手のひらを 匠の胸に乗せる


「・・・・・・?・・・匠・・? 」

その胸から伝わる手のひらの感覚もまた 異様だった・・・
肋骨も・・折れているのか・・
浅葱は直感した 


体を覆う布をずらし、胸をはだけさせる

胸にも痛々しい傷があった・・
深いもの、浅いもの・・それは大小無数だった

あの男が 匠をいたぶり続けたのがよくわかった
特に胸の中央にはまだ塞がっていない大きな傷がある


「ひどい・・・・」 深月が言う

「・・・・匠・・・・・・少し痛いが我慢しろ・・・」


一瞬 躊躇はしたが、浅葱はそう言うと
匠の胸のその傷の上に手を乗せ
手のひらで そのままグッと胸を圧迫した





「・・・ンッァっっっ・・・・・・・!!」


折れた肋骨と傷口を押し付けられ、一瞬匠の呼吸が止まる
浅葱の指の間から 開いた傷が出血するのが見える


「あ・・・・浅葱さんっ! 何を・・・!」
深月が叫ぶが 浅葱はそのまま圧迫した手を緩めない

「・・ンッ・・・・ッ・・・・・・・・・」
呼吸を止められ匠は呻くだけだった





「浅葱さんっ!!」
居たたまれなくなった深月が叫ぶ


「黙ってろ!!!」

浅葱はそのまま匠の呼吸を計るかの様に
じっと手で何かを感じ取ろうとしていた・・・









暫くしてやっと浅葱は手を外した


「・・・んっ!!! ・・・ぁっ・・・ ・・・・・・・・・・・」
浅葱の手が離れると 匠は必死に息を吸い込もうと大きく呼吸する





「も・・戻った・・・」
深月が感嘆の声をあげた


「そうだ・・・匠、それでいい
 ゆっくり吸い込め・・・・・・・ゆっくりだ・・・」


「あ・・・・あさぎ・・・さ・・・・・・」



ゴホッ・・・・

ゴホッ・・・・


浅葱の圧迫で少しだけ呼吸が戻ったのか 匠が声を出そうとする
が、声はあまり出ず 咳き込むばかりだった


「深月・・・ケースの水を・・」
「は・・・・・はい」
深月が ケースのボトルを差し出す


「匠・・・水だ・・・・・」
そう言って 抱きかかえたまま 匠の唇の端から数滴流し入れた


匠の口に水が少しずつ入っていく
だが、匠は飲み込もうとしない


「どうした・・・匠・・・少しでいい、飲むんだ・・」


口に入れられる物を無意識に拒否しているのか
それとも 飲む という行為自体 わからなくなっているのか・・・



そのうち 咳き込み始め、
ゴホッ・・・ゴホッ・・と口に入れた水を吐き出す




浅葱はそんな匠を黙ったまま、じっと見つめていた

そしておもむろに自分の口に水を含むと 匠の顎を持ち上げ
その唇に 自分の唇を合わせた


深月が 「ぁっ・・」 と小さな声を上げる





いきなり塞がれた唇に 驚いた様に匠の体がビクンと震え 目を開けた


同じ感覚だった・・
いつもあの男にされた事・・・・

あの男・・・

これは・・・・あの男・・・・

・・・・・ 嫌だ・・・やめろ・・

混乱する匠は逃れようと首を振り、体を攀じる

「・・ンッ・・・や・・め・・・・・・・・・」



だが あの男と同様
匠の傷ついた体で 相手を押し退ける事は到底無理だった

塞いだ唇は匠を離そうとしない



また・・・・苦しくなる・・・やめろ・・・・・・


力の入らない指で、相手のシャツを握り締めた





その時・・ その匠の手が握られる

指を合わせ、絡める様に握られたその感覚は
無理矢理押さえ込む様なあの男とは 全く違っていた



違う・・・・・

あの男・・・ じゃない・・・・

塞がれた唇・・
それは 強引ではなく・・・ 無理矢理でもなかった・・・


”何も怖がる事は無い・・・・大丈夫だ・・” 
そんな意識が匠の中に流れ込んで来る




浅・・・・葱さん・・・・・・・・・

逃れようとしていた体から 力が抜ける・・
ゆっくりと目を閉じた・・



それを待っていたかの様に塞がれた唇から 
匠の呼吸に合わせ 少しずつ水が注がれた


「・・・んっ・・・」


匠は浅葱の唇から水を受け取ると小さく喉を鳴らし
コクンと飲み込んだ・・・



そっと唇が離される
「大丈夫か・・・?」
優しい浅葱の声がした


匠は浅葱のシャツを握ったまま頷く


「ん・・」 そう言うと浅葱は、2度3度・・同じ様に匠に水を飲ませた



匠も少しずつ落ち着きを取り戻していく
浅葱の腕に安心したように体を預け、注がれる水を飲み込んだ


「匠・・よく頑張ったな・・・・
 ・・もう少し落ち着いたら帰るぞ・・・」

その言葉に匠は何度も頷いた




刻印 -64へ続く
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刻印 -62

「俺達は消火と5階の捜索をしてから降りる
 恭介は下へ行け、深月がパニクってる」

その言葉に浅葱は頷く




階段を駆け降りる途中、
ずっと深月の叫びに近い声が インカムから聞こえていた


「深月! 状況を説明しろ! どうした!? 何があった!?」
走りながら聞き返す

が、肝心の深月は 匠の名前を叫んでいるだけで
全く会話にならない


「・・クソッ・・・しっかりしろ! 深月!」







浅葱が 地下6階のあの部屋へ走り込むと
入ってすぐの場所に 男が二人、重なるように倒れていた



部屋にはセンサーの警告音が響いている
その音に混じって 深月が必死に匠を呼ぶ声もあった

敵らしき姿はない




浅葱が走り寄る
「どうした!? 深月!!」

「あ・・・浅葱さん!! 
 わ・・わかりません・・・匠さんがアイツ等を撃った後 急に・・・!」


深月が入り口で倒れている男達に視線を向ける



「アイツは匠が撃ったのか!?  お前じゃないのか・・?!」
「・・・・・僕は・・・」
ふと見ると、深月の足元に タブレットが落ちていた


「・・・・・・・・もういい!」
言いかけた深月の言葉を浅葱が遮った






ゴホッ・・・・

ゴホッ・・・・


匠が痙攣を起こしながら 苦しそうに咳き込んでいた
呼吸が異常に荒い


ピーピーとうるさいセンサーを匠の指から引き抜き
浅葱が匠をそっと抱き上げる



「匠・・・しっかりしろ!」


だが呼吸が苦しいのか、匠は震えながら浅い息を繰り返すばかりだった
抱き上げても もう反応さえしない


「深月! もう一度 鎮静剤の注射だ!」
「あ・・はい・・・!」


深月がケースを開けて浅葱に差し出す

「匠、鎮静剤だ! 
 今度こそ効いてくれ・・・・」

浅葱は 匠の体を強く抱きしめたまま
今度は右腕に針を突き刺した



「・・んっ・・・・ぁああああああああ!!!」

叫ぶ匠を 深月は何も出来ず、ただ祈るように見つめていた




「匠・・ もっと深く息を吸え・・・! 匠っ!
 落ち着いて ゆっくり息を吸うんだ・・・・!」


何度言い聞かせても 匠の呼吸は益々浅く、速くなっていく


薬の効きを待っている間にも、匠は痙攣を繰り返し
呼吸困難を起こしていた





「クソッ・・
 鎮静剤の効き方が遅くなってる・・・どうなってるんだ!
 匠っ! 落ち着いて息をするんだっ!」




刻印 -63へ続く
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刻印 -61

「・・・見てくれたかい?
 タクミの 刻印 を・・・ すばらしいだろう・・・・?」

浅葱の言葉などまるで聞いていない様に
そう言って男は自分の右腕を見せる


そこには匠と同じ蛇がいた



「私のは・・・ 痛いのは苦手だから 
 刻印 じゃなくてタトゥーだけどね・・・・

 そうそう・・・
 タクミの体はすばらしい・・・・ 
 これがどういう意味か・・・・わかるよね

 タクミは自ら 自分の体を私に差し出したよ・・
 見せてあげたかったね、あの光景を・・・」

そう言ってクスクス笑う



「・・・・・・!!!

 それは・・・ お前が勝手に痛みと恐怖で支配しただけだ・・!
 あいつの意志じゃない!」


「手段など、どうでもいいのだよ・・・・
 目的さえ果たせれば・・・・  ・・・そうだったよね?」


「何だと・・・・・? 」
その言葉に浅葱は眉をひそめる・・・


「これ以上、無関係な者を巻き込むな!!!
 もうお前の好き勝手にはさせない!!!!!
 匠も渡さない!!!」

叫ぶ浅葱はいつもの冷静な姿ではなかった




「・・・・・・

 ・・・何もかも・・・・
 全て自分の思い通りになると思うなよ・・・・・恭介・・・」

男の声が・・・一変した
憎しみに満ちた声だった







二人は炎煙越しに じっと睨み合っていた
どちらも動こうとしない・・・


銃声と爆発音だけが響く




その時、次々と起こる爆発で 着陸しているヘリがグラリと揺れた
パイロットが 男に何かを叫ぶ

老人はもう既に乗り込み 恐怖の表情で燃える屋上を見ていた






二人の静寂を破る様に 男が口をひらいた


「本当はね・・・・・・ ここでお前を殺りたかったんだ・・・
 
 が・・・
 タクミが手に入った・・・・・
 
 タクミはもう心も体も、全て私の手に堕ちた・・・

 だから今回はこれでOKにしてあげる
 楽しみは まだこれからだ・・・・・

 必ずタクミを奪いに行く・・・・」


男の声は元に戻っていた
クスクスと笑いながら ヘリに乗り込む




浅葱は銃口を男に向けるが、炎煙と雨にその姿はかき消された



「待てっ!!!!」
駆け寄ろうとする浅葱のインカムに 深月の声が響いた




「浅葱さんっ! 匠さんの様子が・・・・・・・・・・!!」




ヘリが飛び立って行く・・・
男が じっと浅葱を見下ろしていた



「クソッ・・・!!!!」










瓦礫の山になり、炎と煙の屋上に5人だけがいた


男と老人、その他数名だけがヘリで逃げた様だった




「今回の作戦は匠の奪還だ・・・また機会はある」
一人が浅葱に言う



ヤツを取り逃がした事、
そして ヤツがまた匠を奪いに来ると言い残した事
浅葱は全てに怒りが収まらなかった


そんな浅葱の肩に 一人が手を置く
「匠を連れて帰るぞ」

「ああ・・」 浅葱はやっとそれだけを答えた




インカムに深月の悲痛な声が届く

「早く・・・・!! 早く! 浅葱さんっ!!」




刻印 -62へ続く
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刻印 -60

匠と深月を地下に残し、浅葱は 一気に階段を駆け上った


5階だけは下と違い 電気が点いていた
激しい交戦の跡があり、その廊下には多くの男達が転がっている


そして随所に爆破された跡

しかもそれは 【 証拠隠滅 】 などという目的とはかけ離れた
ただの 【 破壊 】 にしか見えなかった




浅葱達の仕事は、出来るだけ静かに秘密裏に行われ、公になるのを嫌う
今回も 爆破など最初から想定していない


したのはヤツ等自身・・ それは明白だった

こんな古い施設、ただ匠を監禁しただけの場所を
何故 わざわざ大掛かりに爆破なんて事を・・・

そのあまりの狂気に 浅葱は違和感を覚えていた





転がる男達をすり抜け、未だ銃声が聞こえる方へと走る



屋上からだった
階段を駆け上る



そこは 雨の中にもかかわらず 炎と煙と熱風に覆われていた

炎煙の向こうに 多くの人影が動いているのが見える
4人が手前の瓦礫の陰で必死の交戦を続けていた



「遅くなった」
そこへ走りこみ浅葱が声を掛ける


「匠は大丈夫か?」 一人が聞く

浅葱は 匠の状態を思い出し 一瞬、答えに迷ったが
「ああ」 とだけ答えた



「敵は?」
「残り・・・30ちょい・・・ってとこか?」
「ヤツもあそこか?」
「ああ・・・白衣を着た老人も一緒だ、 たぶん、例の医者だろう・・」
「・・・数は楽勝なんだ、 が・・・・・・」

一人が上を見る・・

上空で旋回するヘリの音がしていた
煙と炎で降下出来ず、タイミングを計っているらしかった



「ヤバいな・・・あれが降りたら、ヤツは兵隊を盾に逃げるつもりだ」
「急ごう!」


5人は散開し 次々と煙の中へと消えていく

あちこちで銃声が響き始める






ヘリの音が近付いていた


浅葱は音のする方へ真っ直ぐ走った

あそこにヤツがいるはずだ
匠をあんな姿にしたヤツが・・・・・



ヘリの起こす風で、煙が払われ 視界が開ける



ヘリに乗り込もうとしている白衣の老人が見えた
その後ろに続く男の姿・・・・





「待てっっ!!!!!」
浅葱は思わず叫んでいた



その声に男はゆっくりと振り返る・・


「・・・・やぁ・・・・・
 どうしてここが判った・・・?」


男は かくれんぼで見つかった時の様に、
この状況を楽しんでいた

 
「・・・ああ・・・・あの携帯か・・・・
 あんなモノ、置くんじゃなかったね・・

 ちょっと お前を嫉妬させてやろうと思ったのが間違いだったな
 あの時はまだ、これほどタクミが欲しくなるとは 思っていなかった

 あれさえなければ タクミも連れて行けたのに・・・・」




「お喋りは止めて、そろそろケリをつけようぜ・・・」
浅葱が睨む




刻印 -61へ続く
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刻印 -59

深月は動かなかった


いや・・ 動けなかった


いきなり目の前で自分に向けられた銃が・・・  発砲されたのだ・・・・





一瞬呼吸が止まる


目を見開き 体が硬直する




そして 続け様にもう一発、銃声が轟いた・・・・・・




深月の体がビクンと跳ねる




・・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・・

・・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・・




匠の激しい息遣いだけがする室内・・








・・・・何・・・・? 

・・・何が起こった・・・・・・?



深月は思わず 震える自分の両手を見つめた
指を動かしてみる・・・
手は・・ 動く・・
体も・・ 出血も痛みもない・・・




・・・何・・・なんだ・・・・・








「・・んっ・・・ぁぁぁああっ・・・・・!」

再び痛みに呻く匠の声が聞こえ、深月はハッと我に返った
体の硬直が解ける





何が・・・・・



恐る恐る匠を見た・・・・



匠の手に もう銃は無い



力なく開かれたその手から 銃は床の上に落ち
うずくまり 肩で息をする匠の姿だけがあった






深月は何が起きたのかわからず、ゆっくりと振り返った



視界に入ったのは  開いた扉・・
室内に入った所で、二人の男が重なる様に倒れていた

それは いつも老人の助手をしていた男達だった





扉に背を向け タブレットに気をとられていた深月は全く気が付いていなかった
背後に敵が迫っていた事を・・




敵・・・
匠さんが・・・
でも、見えてないと、浅葱さんは・・・・






匠は力を使い果たしたかの様に ただ荒い呼吸を繰り返していた



・・そしてそれは、どんどん早くなっていく




「・・・匠さん?? ・・・匠さん・・!!」


深月が何度も呼びかけるが 呼吸は酷くなる一方だった
額に大粒の汗を浮かべ、体はまた痙攣を起こし始めていた


「・・・た・・・匠さんっっ!!!」





匠の指先に付けられていたセンサーが けたたましく鳴り始める




深月はインカムに叫んでいた
「浅葱さんっ! 匠さんの様子が・・・・・・・・・・!!」




刻印 -60へ続く
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刻印 -58

時間だけが流れていく・・・

30分・・・・40分・・・・

部屋は静かなままだ・・・

銃を握り締めた腕が痺れてくる・・・



敵は全員 浅葱達の居る5階へ向ったのかもしれない
先程まで聞こえていた爆発音も 今は少し遠くなっていた

もう、ここには来ないのか・・・




そう思った時、後ろで匠が呻く小さな声がした


「匠さん! 大丈夫ですか・・!?」

振り向くと、匠が苦しそうに肩で息をしている
呼吸が荒い・・



どうして・・ さっき鎮静剤を打ったのに・・・
浅葱さんも もう落ち着くと言ったはず・・



深月は 握っていた銃を台の上に置くと
刺激しない様にそっと 匠の額に指で触れてみた

ひどい高熱だった



何か・・・何か出来る事は・・・

そう思うと余計に気持ちが焦る
が、おやっさんと違って 深月に医学の知識は無い


ケースの中にはまだ注射器があったが、色違いのタグが付いている

どうすれば・・・・・!



・・・そうだ・・・・
今のうちに おやっさんに連絡をして指示を仰げば・・・・
深月はその場に屈みこんでタブレットを操作し始めた



浅葱達が持っているインカムもあったが
タブレットなら画像が送れる

リアルタイムで匠さんの状態をおやっさんに見てもらうのが一番いい・・
そう思った



が、何度 通信を試してみても画像は映らない・・
何故だ・・  何故繋がらない・・・・・・!!??
こんな時に!

・・・おやっさん・・ 出てくれ・・!!!







「・・・ンッ・・・・・・!!!」

タブレットを操作しながら焦る深月に 匠の声が聞こえた



その声にハッとし、顔を上げる
「匠さん・・・!! 大丈夫・・・・・・・・・・・・・・・」



言いかけた深月が 見たのは・・


横向きになったまま必死に足を踏ん張り
苦しげに唇を嚙み締め、力の入らない腕を重ねて・・・・



浅葱の銃を握っている匠の姿だった・・



そしてその銃口は・・・・ 自分・・・


深月に向けられていた





「・・・・・!! ・・な・・・・なんで・・・・・」
深月の手から タブレットがカランと音を立て床に落ちる


その時、深月は浅葱の言葉を思い出した

・・・・見えていない・・・・


そうだ・・・・自分と匠さんは今までに会った事もない・・
初対面の自分を敵だと・・・・
混乱した匠さんがそう思ったとしても何の不思議もない・・・・



「・・・・・う・・・・・・・うごくな・・・・・・・」
銃を向けたまま、匠は深月にそう言った



「待って・・・・・・・・・・・・・・・・」
深月が言いかけるのと同時だった







一発の銃声が 響いた




刻印 -59へ続く
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刻印 -57

浅葱が握り締めた拳を開く間もなく、5階からの応援要請が入る 

「こちら5階! 只今交戦中!! 恭介! 至急応援頼む!」





「クソッ・・・・・こんな時に・・・・!」
浅葱は一瞬迷った
このまま こんな状態の匠を置いては行けない
が、連れて行く訳にも・・・・・



「・・・・・・・し・・・・・・・て・・・・・・」
腕の中で匠が何かを呟く声がした
力の無い手で必死に何かをしようとしている


「・・ん? どうした・・ 匠? なんだ・・?」
「・・・・・・・・はな・・・・・   ・・して・・・・」
匠は浅葱の腕を振り解こうとしていた


「・・いっ・・・て・・・・
 ・・・・・・ここで・・・・・・まって・・・・ます・・・」
浅葱の迷いに気付いた様に 腕の中で抵抗しながら匠が訴える
途切れ途切れの声は まだ苦しそうだった


「だいじょうぶ・・・・だから・・・・・・・いって・・・」


そうだ・・
今 応援に行かなければ、また匠と同じ様な状況を引き起こすかもしれない
そして、また・・・仲間を失う事になるかもしれない・・
もう、後悔はしたくない・・




匠の言葉に 浅葱は唇を噛みながらそっと匠を台に戻した



「・・・・すぐ戻る・・・ここで待ってろ・・!
 深月! 匠の側に居てやってくれ

 背中に酷い傷がある
 それから・・・
 目が、見えていない・・・・
 
 ・・・だが もう薬で落ち着くはずだ」



その言葉に深月は一瞬動揺した
「・・目って・・・  ・・・あ・・・・は、はい・・・・・」



浅葱はそっと匠の体に布をかけ
そして その上に自分の上着を脱いで掛けた




肩から下げた銃のホルダーに 浅葱が握る銃とは別の小さい銃があった
それを取り出すと、深月に渡す

「これは軽量で扱いやすい銃だ
 トリガーも軽い
 これならお前も撃てる
  
 匠を頼む
 
 いいな深月・・・任せたぞ」


「あ・・・・はい・・・」


返事を聞くと、深月の肩をポンと叩き 浅葱は部屋を出て行った





浅葱が出て行くと、深月は浅葱の銃を握り締めた




あれほど感情を表に出す浅葱を見たのは初めてだった
そしてこんな状態でも浅葱を行かせ、ここで待っていると言える匠・・・
これが信頼・・ ・・・絆・・?

” あいつはNO.1だ・・”
そう言ったおやっさんの言葉の意味が 少しだけ判りかけた様な気がした





深月はグッと銃を握り直す
頼む・・ そう言った浅葱の言葉を思い出す

自分も信頼された・・・
信頼されて匠さんを任された・・
実戦経験は少ないが 銃ぐらい撃てる・・


でも今はたった一人で、手負いの匠を守らなければならないという重責に
正直 手が震えた




匠を背にして台の前に立ち 銃を扉に向けて構えた




上階では爆発音もしている・・
いつここに 敵がなだれ込んで来てもおかしくない・・・
だけど・・こんな状態の匠さんだって、待っていると言えたんだ
自分だって・・・できるはず
出入り口はあの扉1つ
あそこさえ守ればいい・・・


そう自分に言い聞かせた




刻印 -58へ続く
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プロフィール

凛

Author:凛
BL・MLを日々妄想してる腐女子

しかもかなりハード目が好きな壊れかけ

SM・拷問等の酷い描写が苦手な方は、ご遠慮ください

1作目 『刻印』
2作目 『華燭(かしょく)の城』 
完結しました。
ブログタイトル下のマップより全話読んで頂けます。
『刻印』の簡単な解説はこちら から


まだまだ初心者故、描写の至らない点
設定の矛盾は笑って見てください 

読みやすく・・と思っているので、長編小説ですが、各回短く、短文、1日1回UP予定です


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