0-story

18禁 BL小説です。主に拷問・凌辱等ハード系。 こういう小説に興味の無い方、嫌悪感がある方はご遠慮ください。サイトマップより一気読み出来ます
カテゴリー   [ 華燭の城 ]  

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華燭の城 story-0

遥か遠く、緩やかな山並みに囲まれた緑豊かな森の中を
一頭の馬が駆けていた




「シュリ様! おかえりまさいまし!
 早速 馬で湖ですか!
 この車というやつも、慣れてみればなかなか便利な物ですな!」

小さな農業用のトラックが ゆっくり前方から走ってくると
運転していた農夫が微笑みながら、すれ違う馬上の青年に声を掛けた




「でもこれだけお天気がいいと 馬も喜びますか!」


「ただいま!
 今日は天気も良いし、たまにはこの子も走らせてやらないとな
 今年の畑はどうだ?」




シュリと呼ばれた青年は馬を止めると農夫に微笑みかけた


「今年も上々の出来で、いつも通り平和に暮らせそうです
 これも全て 神の御加護と シュリ様のおかげです!」


農夫は穏やかな笑顔で 青年に頭を下げる




「私は何もしていない
 皆が頑張って働いてくれるから、この国も成り立っていける」


「そんな、勿体無い事を!
 後でこの野菜、お城へお届け致しますからね!
 召し上がってくださいな!」



そう言って農夫は 後ろの荷台を振り返り
そこに積まれた赤・緑・黄色と 色取り取りの新鮮な野菜達を
自慢そうにポンポンと叩いて見せた



「ありがとう!楽しみにしてる!」





シュリは愛馬に駈歩(かけあし)の合図をし、また走り出す

気持ちの良い、爽やかな風が吹いていた
温かい日差しの下、全てがまだ 平和で穏やかだった






華燭の城 -1 に続く
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華燭の城 - 1

「いったい、この事態をどう考えれば良いのだ・・・」

「この数年で、何人の妃様が亡くなった?
 この国は呪われているのか・・・」




窓の下・・・ 
小雨が降る中、石畳の庭を横切る様にして棺が運び出されていく

その葬列を見ながら、広間に集まったこの国の役人・・・ 官吏(かんり)達が
ヒソヒソと声を潜めていた






「6人か・・・・ いや・・ すでに7人・・・・・
 誰も世継ぎ様を産まないまま 皆が皆、相次いで病死されるとは・・・」


「我が陛下も もう50代だぞ
 早く世継ぎを決めて頂かなくては、国の行く末が危ぶまれる・・・」


「おい、あの噂は・・・ 聞いた事があるか・・?」


「噂と言うのは・・・ 例の、あの・・・・・」












「うるさいぞ、お前達」

広間に太く低く響くその声にビクンと身を震わせ、
その場に居た誰もが入口を振り返った


そこには 数人の側近を従えた大きな男が立ち
薄い唇を歪ませている


窓を打つ雨さえも凍り付かせようかという静寂が 一瞬で広間を支配し
皆、その危うい冷気に触れぬ様、
一斉に深々と頭を垂れ視線を床に這わせた






「こ・・・ これは陛下・・・!
 葬儀の方はよろしいのですか・・・?」

慌てて一人の官吏が声を掛けた




「こんな雨の日に、葬儀など面倒なだけだ
 死んだ女など見たくもない
 どうせ、この国の水が合わなかったのだ」


「しかし・・・・」

集まった官吏の中でも白髪の・・・ 長らしき老人が
誠に恐縮ですが・・・・ と一歩、前に歩み出た




「しかし、陛下・・・ 
 いくら我が国が大国とはいえ、 近隣諸国では戦火も絶えません
 今はまだ、大国ゆえに
 戦を仕掛けてくるような馬鹿な輩(やから)はおりませぬが
 世継ぎも無く、弱体化するだけの国などと噂が広まれば
 いつ攻め込まれても おかしくはございません・・・
 
 一刻も早く、世継ぎ様を決め
 この国は盤石であると皆に力を示さなければ・・・・」



長老が矢面に立った事で気を大きくしたのか
側に居た赤毛の官吏も声をあげた



「そ、その通りです! 陛下!
 今は何をおいても、世継ぎ様を決められる事が先決かと!
 ・・・・じ、実は我・・・・・」


「ほう・・・・ 
 では、お前達に聞こう」



話し続ける声を、王は途中でバッサリと断ち切った




「ワシにどうしろと言うのだ?
 どこかで泣いている子でも さらって来いというのか?
 その様な、どんな身分とも判らぬ卑しき者を 跡継ぎにしろと?」



赤毛の声の主を 細い視線で探るようにジロリと見ながら
王は、広間を一番奥まで歩き
玉座にドッカと腰を下ろしながら 改めて2人を鋭い目つきで睨みつけた





「そ・・・ それは・・・・」

「ですから・・・・その・・・・・」


その眼光に 老人と赤毛の2人は怯えた様に口を閉ざす





再び静まり返った広間に 本降りになった雨のガラス窓を叩く音だけが
一層大きく響き渡った






華燭の城 - 2 に続く
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華燭の城 - 2

「フン・・・・・ もういい、皆 下がれ
 後はこちらでやっておく」
 

大きな溜息と共に王が発した「下がれ」の一言に安堵したのだろう
僅か(わずか)だか 弛緩した空気が広間に広がる

睨まれた二人も 退出の命を幸いにと
頭を下げたままゆっくりと後退った




そそくさと広間を出て行く官吏の姿に
集められていた使用人達も気まずそうに顔を見合わせると
小さく頷き合い、後に続く
そんな姿を視界の端で見下ろしながら

「・・・・ 葬儀などつまらん
 もっと楽しい事はないのか・・・・
 ・・・・ああ・・・・   お前達ももういい、今日は終わりだ」
 
座の後ろに控えた側近達にもそう声を掛けた





一同が一斉に頭を下げ、退出し始めると
王はそのまま 座の肘掛けに頬杖を突き
この世の全ての事象が気に食わぬ・・・・・ とでもいう風に 
煩(わずら)わしそうに首を振った


「まったく、世継ぎ世継ぎと・・・・
 ワシが死んだ後の 国の行く末の事など、どうなろうが知ったことか」
そう呟いた




「陛下、そのお言葉は公の場ではお控え下さい
 臣下の、陛下への忠誠心を殺ぐ(そぐ)ものです」

皆が 我先にと部屋を出て行く中、一人 部屋に残った男が口を開く





「・・・・・うるさいぞ」

ジロリと睨むその王の視線に全く怯む様子も無く
男が笑った



「では 陛下・・・・ こういう策はいかがでしょう?
 この国の世継ぎ人にふさわしい者を
 他国の皇子の中から選ぶ。  ・・・・というのは」



「フン・・・・・ 選ぶだと?
 何を言い出すのかと思えば・・・・
 お前まで馬鹿な事を言うな
 自国の皇子を ”どうぞ ”と差し出す国などあるものか
 
 それに我が国は この帝国の中でも最大領土を持つ一番の大国
 その我が国と、つり合うだけの国は 他には無い
 
 どの国も 遥かに格下
 皇子と名が付いていても このワシとは身分が違うのだ 
 どこの妃だろうが皇子だろうが、
 ワシにとっては皆、卑しく下等なのだ」




わずかに男の方に向けていた顔を再び逸らし(そらし)
王は嫌悪の表情を隠そうともせず舌打ちをした



「・・・・それが、陛下・・・」

他の官吏達ならば
それだけで逃げ出したくなるような王の態度を気にもせず
逆に耳打ちするように顔を寄せた男の声が わずかに小さくなる




「1つだけ ”神国” と呼ばれている特別な国があるのです」


「神国・・・・?
 特別な神の国・・・ だと?」


頬杖のまま、王は気だるそうにチラリと視線を返した




「はい、それはこの大陸の果てにある小さな国ですが
 大陸全土の神が在神すると言われ、
 他国からも神聖化され 一目置かれております
 
 中でも この国の皇子はひと際美しく、
 その穢れ(けがれ)無き身体に神を宿し
 現世の神の化身と信じられているとか・・・・」




男の言葉を聞くが否や、王はそれを鼻で一笑に付した



「神、神、神!! 神だと?! くだらん! 
 神など、戯言だ
 ワシがそういうモノの崇拝を嫌っているのは
 お前も知っておるはず!」


「勿論、百も承知
 ですが・・・・ 他国から見ればいかがでしょう?
 神ならば この国の世継ぎ人として、誰も文句は言いますまい
 いや、それどころか 神を手に入れたとなれば
 陛下の名声は益々天下に轟き、この国は恒久に安泰かと」


「・・・・・」




ザッと雨音が強くなる
いや、室内が静まり返った為にそう思えただけなのかもしれない

すっかり陽も落ち、薄暗くなった部屋に遠雷の音が低く腹に響いた






華燭の城 - 3 に続く
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華燭の城 - 3

「・・・・・
 ・・・・    ほぅ・・・・」

暫くの沈黙の後、
その雷鳴を合図にするかの様に王が口を開いた




歪んでいた薄い唇の端がわずかに持ち上がり
そこから長く細い息を吐きながら、
王はその大きな体を玉座から引き起こした




「神を手に入れた、王か・・・・」

「はい」

「神を足元に屈服させ、ワシはその背を踏み立つ・・・・
 ・・・・ それも面白いかもしれぬな・・・・
 だが、それほどの皇子ならば
 それこそ 易々と貰い受けは出来んだろうに」




引き起こした体を、今度は自らが男に近付けた




「貰い受けなど、陛下らしくない事を・・・
 その様な小国、我が国の兵力ならば 落とすのは いとも簡単
 しかもこの国は 神の国として戦を放棄していると聞いております
 
 今までは その信仰心から
 神を侵略しようとする国など無かったのでしょうが・・・・」



「フン・・・ 信仰など、馬鹿ばかしい
 そんな国は一捻り・・・・・」





そこまで言いかけると 王は急に口をつぐみ、
既に人の気配など無い広間を 二、三度見回し
グイと男の胸元を掴み側に引き寄せ、更に声をひそめた





「おい、落とすのはいいが・・・・
 我が国が属するこの帝国も
 その神国とやらを信仰しているのではないか?

 帝国の皇帝閣下は信心深いと聞いた事がある・・・
 だとすれば、閣下に・・・ こちら側が逆賊と敵視されるやも知れん

 この巨大帝国を敵に回したのでは
 いくら神の子を手に入れても 分が合わんぞ?
 そこはどうする気だ?」




王に掴まれ、引き寄せられたまま 
男はその問いに
造作もない・・・・と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた



 
「そこは話の持って行き様・・・ 
 この戦の世、自国安泰の為に我が子を政略結婚させ
 人柱として敵国に差し出すのはよくある話

 うるさい官吏達にも皇帝閣下にも
 ”侵攻した” などと言わなければ良いのです
 
 世界中が政情不安な今、
 神国さえも いつか戦火に巻き込まれるのではないかという不安心から
 我が大国の庇護を求め、向こうから縁を結びたいと言って来た・・・・
 ・・・とでも言えば 官吏達も大喜びするでしょう

 ・・・陛下、もう つまらない葬儀には飽きられたのでしょう?

 でしたら 次は、両国の縁を結ぶ盛大な華燭の宴を・・・
 世界に陛下の力と、この国の安泰を見せつけるのです
 これで陛下の杞憂(きゆう)は 全て解消されると思いますが」



「盛大な華燭の宴か・・・ それは楽しそうだな・・・」
王の細い目がニヤリと笑った






華燭の城 - 4 に続く
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華燭の城 - 4

豊かな木々と花々に囲まれ 蒼い芝が風に揺れる
大理石の噴水を持った大きな池を取り囲む様に白い彫像が立ち並び
美しく手入れの行き届いた広大な庭園

高い城壁も、堀さえも持たないそこは
城と言うより宮殿と呼ぶに相応しかった





今、その庭園の中央に設けられた朱舞台の上で
一人の青年が 一奏の笛の音と共に舞っていた




着衣は純白の下衣
衿元には、濃紺の刺繍が施され
その上に薄桃から、蒼、紫へと段々に色調を連ねた薄いシルクの上衣を
幾重にも纏って(はおって)いる

透かしに似た模様が ふうわりと舞風に揺れる様は
まるで天女の羽衣を思わせた



だがそれは、たおやかに美しいだけの舞ではない

腰に携えた双剣を振るい 百鬼悪魔を討ち倒す如く激しく
そして、神に祈れば神聖に満ちていた




それが神国皇子、シュリの舞う 神儀の舞





自身の躰を器として神をその身に移し
神々の化身として舞うその姿を一目見ようと集まった人々は
自国の民のみならず、近隣諸国からも多くの要人、首脳が集まり
その数はゆうに万人を超えた





澄み切った空の下、たった一人のその舞は
もう数時間にも及ぼうとしている

が、息一つ 全く乱れる事のないその凛とした神々しい姿に皆は押し黙り
誰もが息を呑んで見つめ続けていた

中には涙を流し、跪き(ひざまずき)手を組み祈る者さえいる





そして天空へ吸い込まれる様に笛の音が消え シュリが舞台を降りると
会場は、やっと呼吸することを思い出したかのように
拍手と感嘆、崇拝と溜息の波に深く深く包み込まれていった

その声を聞きながら 舞台裏で シュリは膝から崩れ落ちた









「大丈夫ですか!
 シュリ様! お見事でございました!」

下で待っていた侍従達がその身体を支えながら 宮殿へと運び入れる




宮殿の一室、広間のソファーに体を横たえ ひとしきり喘いだあと
シュリはやっと口を開いた



「ああ、大丈夫・・・ 今日は気温が高い・・・・・」

それだけ言うと ぐったりと目を閉じる
だがその顔には満足の微笑が浮かぶ




「ええ、ええ。 本当にご立派で」

初老の侍従長も優しく微笑むと、
水を差し出しながら その熱い額の汗をぬぐった






「ありがとう、ジル・・・・
 でも、すぐに着替えないと・・・・
 この衣は 今年、この国で生まれる赤ん坊の産着になるのだし・・・・
 少し汗をかいてしまったけど・・・ 大丈夫かな・・・」


そう言って起き上がろうとするシュリに
周りで少しでもこの美しき皇子の世話をしようと集まっていた侍女達が
待ってました!と言わんばかりに 嬉しそうに次々と声を掛けた






「まだ無理をなさらなくて大丈夫ですよ!
 それに汗など、ご心配なさらずとも良いのです!」


「そうですよ!
 シュリ様が神として舞われる神儀の舞
 その衣を分けて頂けるのですから、これほど幸せな事はございません
 それに、シュリ様の汗でしたら・・・・・・
 多少 付いているぐらいの方が 喜ぶと言うもの・・!」


「そうでございます!
 赤子と言わず、私達にも分けて頂きたいぐらいです!
 シュリ様の御休暇はたったの10日間
 来週にはまた寄宿学校へ戻ってしまわれるのでしょう?
 私は寂しくて夜も眠れませんわ」


「私など、シュリ様の身の回りのお世話に
 学校までお供したいとまで思っておりますよ!
 お声さえ頂ければ、すぐにでも!」






「おいおい・・・」

ジルが額に乗せてくれた冷たい布を腕で押さえ、目を閉じたままのシュリが
楽しそうな、それでいてどんどんエスカレートしていく侍女達の声を聞きながら
呆れた様に微笑んでみせる



「学校では誰も皆、身分も地位も関係ないただの一学生だ
 侍女を連れている者など誰も居はしないぞ?」


「それはーーー わかっておりますぅー・・・」


ぷうと頬を膨らませた侍女の赤い顔を皆で眺めながら
広間に和やかな笑い声が広がった






華燭の城 - 5 に続く 
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華燭の城 - 5

「神儀が終わったばかりだというのに、これはまた賑やかな事だな
 シュリ、素晴らしい良い舞だったぞ」


そう声を掛けながら満面の笑みで部屋に入って来たのは
シュリの実父であり現国王だった
横には母である皇后と 弟皇子のジーナもいる






「父上、ありがとうございます」

シュリが横たえた体を起こしながら頭を下げると



「兄様! 本当に美しかった!」

ジーナが飛び付くように足元に駆け寄り 抱き付き、ニコニコと微笑んだ





「そうか、それはよかった
 今日は調子が良さそうだね、ジーナ
 お前が早く元気になるようにと その祈りも込めて舞ったんだよ」


「うん、大丈夫! こんな病気、すぐに治るよ!」

シュリが足にすがる弟の頭を優しく撫でると
まだ幼い 年の離れた弟は、嬉しそうに目を細め兄の顔を見上げた












「あの・・・ 申し訳ございませんが・・・・」

その和やかな場に 言い難そうに入ってきたのは、近衛の兵だった




「どうした?」 
国王がその近衛の様子に わずかな異変を感じ取る 



「はい・・ それが・・・
 シュリ様と・・・・ 皇子と国王にどうしても謁見したいと言う者が・・・・」


「今、神儀が終わったばかりだ
 各国の来賓の方々には しばらく後に順にお目にかかる
 そうお伝えして、少しの間 待って頂く様に・・・・・」





「あいにくだが、ワシは待たされるのが好きではない」

王の声を遮り、低い声が響いた






入口横に立っていた近衛が、その声の主を圧し留め様と入口を塞ぐ

が、その制止も聞かず・・・
それどころか手で振り払う様にして脇に押し退け
ズカズカと入って来る大きな男の影は、国王よりも年上に見える



その顔は50代だろうか
年相応にシワは刻まれているものの、
色は浅黒く一見しただけでもわかる程の広い肩幅に太い腕、
ずっしりと重い筋肉を持った強健そのものと言えるその男は
後ろに、銃を持った兵を数人従えていた




その姿に 和やかだった部屋の空気が一変する





「お客人、申し訳ないが 我が国は戦を放棄した中立の国
 銃を・・・ しかも この神聖な神儀の日に
 ここへ持ち込むなど許可した覚えは無い

 お話ならば、相応の場所で伺いましょう
 時と場をわきまえ、今すぐ ここから退去願いたい」


いつになく厳しい口調で父の国王が戒め(いましめ)た








 ザッ・・!

途端に 銃兵達が動いた



男の前に歩み出ると
無言のまま 鋭い眼つきで、持っていた銃を一斉に構え上げた



それは統制のとれた軍隊の動き
合図など無い


いや、初めから決められていたのかもしれない
銃での威嚇・発砲も構わないと・・・・


そう思わせる程に 何の迷いも無く、一切表情を変えることも無く
一国の王家に どこの国の者かも知れぬ一兵卒が
躊躇なく銃を向けたのだ








いきなりの出来事だった
一瞬で全ての銃口がシュリ達に向っていた






華燭の城 - 6 に続く
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華燭の城 - 6

「・・・ キャッ!」

入口近くに居た侍女が 小さく悲鳴をあげる





「・・・!! 皆、こっちへ・・・・!」

シュリは咄嗟に神儀の双剣を握り
困惑する母や弟、侍女達を背後にかばう様に父王の横に並び立った





儀式に使う剣と言えども、それは紛れもなく両刃の真剣

その剣は、既に鞘からわずかに引き抜かれ、
銀に輝く剣身をのぞかせている







そのシュリの後ろで一塊になった侍従・侍女達は
皇后と弟皇子を守り、 
向けられた銃口から ジリジリと身を引こうとしていた




睨み合う両者
室内に緊迫した空気が張り詰める






「ジル・・ 早く・・・二人を部屋の外へ・・・・」  

視線は男と銃兵を睨み付けたまま、肩越しに指示するシュリの声に


「はっ、すぐに!」
侍従長が一礼し、二人を外へと促そうとした時だった







「話があるのは国王一家・・・・ 全員にだ
 皇后も・・・ それは弟君かな・・・・? ここに居てもらおう
 他の者には用はない
 さっさと出て行ってもらって結構」



突然の来訪者は
凍りついた部屋の空気を楽しむかの様に銃兵の前に出ると
棚の調度品を1つずつ手に取り眺めながら 悠然と近付いてくる


そして1つの ガラス細工も見事な杯を取りあげた
繊細なカットを施したガラスに テラスからの日差しが反射し
まるで1個の宝石の様な美しさを見せる




だが、男は そこに聖母の姿を見ると

「・・ふん・・・ これは要らぬ」

そう呟くと同時
取り上げたその腕の形のまま、スッと掌(てのひら)を開いた




重力に逆らえず落ちていく杯は
・・・・パリンッ!
数秒で高い音と共に床で砕け散っていた



ガラスの破片となった聖母を分厚い靴底でグシャリと踏み
男は薄い笑みを浮かべる






「・・・!!」


その無礼無作法 極まりない姿をグッと睨みながら
今にも剣を引き抜こうとするシュリの手を、父王が押さえた





「シュリ・・・・・ 逸る(はやる)な・・・・・」

横に立つ我が子の怒気を鎮める様に、静かな声で名を呼んだ




「しかし・・・・ 父上っ・・・!」


「だめだ、外にはまだ多くの客人が居る・・・・
 今、ここで銃戦など起こす訳にはいかぬ
 皆の安全が最優先だ」

 
「くっ・・・・」


シュリは剣柄を一度、強く握りしめた後、
そのままゆっくりと鞘に納め入れた









「シュリと言うのか
 ワシの名はガルシアだ
 辺境の小国とはいえ、この名ぐらい聞いた事があるだろう
 お前が神の子か・・・・・」



ガルシアと名乗った男は 父王の横に立つシュリの前まで来ると
調度品と同じように・・・
まるで品定めの様に 上から下まで何度も舐めるような視線で
ジロジロと見返した



「ほう・・・ 美しい皇子と聞いてはいたが
 たしかにこれは噂に違わず素晴らしい・・・
 さすが、神と呼ばれ崇拝されるだけの事はある
 直々に見に来た甲斐があったというものよ

 ・・・今日は、お前を貰いに来たのだ」




薄い唇がニヤリと動いた
それはあの葬儀の日、官吏達を𠮟責した王だった






華燭の城 -7 に続く
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華燭の城 - 7

「貰う・・・  だと・・・?」

名を名乗られれば、それに応えるのが礼儀
だが、父王はそれを意図して放下した



「何を馬鹿な事を・・・・
 ガルシアと言えば、あの帝国一の大国の王
 そのアナタが・・・・ ふざけられるのもいい加減にして頂きたい」


シュリの手を押さえたまま、静かだが強い父王の声が響く






ガルシアはその大きな体を、
今しがたまでシュリが座っていたソファーの中央へ ドサリと沈めると
細い目で 静かに二人を見つめた




「知っているなら話が早い
 いかにも、ワシはあの大国の9代国王、ガルシア・アシュリー
 だが、別にふざけているわけではない

 現にわざわざこうして こんな辺境の地まで足を運んだのだ
 いきなりで驚くのも無理はないが、 ワシは本気だ

 いくら戦をしないとはいえ・・・
 国境に警備兵ぐらいは置いているのだろう?
 連絡を取って聞いてみるがよい
 今、国境がどうなっているか、をな・・・」
 



「国境・・・・? まさか・・・・」



王が 入口の近衛に視線を送ると
近衛は無言で頷き 部屋を走り出て行った













暫くして部屋に戻ってきた近衛は 額に大きな汗を浮かべていた
その顔は明らかに青ざめている

そしてそのまま睨む様にガルシアを牽制しながら
王の下へと走り寄り跪いた(ひざまずいた)




「大変です・・・・
 国境は・・・・ 
 ・・・そのガルシアの国のものと思われる軍に既に包囲されている模様・・・
 境に一番近い町までは すでに十数キロ・・・・・
 ・・・砲がこちらを向いていると・・・」


「なんだと・・・!」

シュリが思わず声を上げた






「どうだ? これでワシの本気がわかっただろう
 これでもまだ 大ごとにせずとも済むよう
 距離を置いてやっているのだぞ? 有難く思え」



「我が国を、どうしようというのだ」

父王は鋭い目でガルシアを見る






 
「国? おいおい・・・
 こんな辺境の小国、奪った所でワシに何の得がある?
 勘違いするな
 ワシはこの国に 戦を仕掛けるつもりも無ければ、
 領地を頂こうと言うのでもない

 無論、そこの皇子を殺そうと言うのでもない
 言わば・・・・・ 両国の婚儀を望んでいるのだ」



「婚儀・・・・?」
  
父王が懐疑の表情を浮かべる

 



「ああ そうだ
 簡単に言えばーー・・・ 政略結婚というやつか?

 だが残念ながらワシには、相手となる子がおらん
 そこでワシの跡継ぎとして そのシュリを連れ帰り
 我が国の皇子として大事に育ててやろうと言うのだ
 一緒に来れば 贅沢三昧・・・・ そしてゆくゆくは大国の王
 
 それに 我が大国と縁続きともなれば、
 この国にとっても大きな後ろ盾

 もう二度と他国に攻め入られる様な事もなく 民は皆、救われる
 
 どうだ? 
 悪い話どころか、お前達にとっても願ってもない話だろう」




ガルシアは いかにも、と言う様に 両手を広げ、嬉しそうに熱弁をみせるが
その瞳は細く、喜などという感情とは全くの対極だった






「空々しい。
 そんな馬鹿げた話、私が受けるはずが・・・・・・」

ガルシアの言葉を黙って聞いていたシュリが
グッと拳を握り締め、睨みつけた






華燭の城 - 8 に続く
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華燭の城 - 8

「お前に拒否権など無い!」

シュリがまだ何か言いかけるのを ガルシアの強い声が遮った

 



「お前が拒否すれば この国はどうなる・・・・?
 この程度の国、我が軍ならば・・・・そう・・・ 1日

 明日には この国は地図から消えておるだろう

 ああ・・・ 働ける男は連れ帰り、捕虜として使ってやってもよいが
 女、子供はいらぬ・・・」




「国を・・・・ 滅ぼすと言うのか・・・・・・・・」




「有無を言わさず、欲しい物は手に入れる。それがワシのやり方だ
 お前が嫌だと言うなら・・・・ そうなるだろうな
 
 今も一気に攻め込み 国を滅ぼし、お前を奪っても良かったのだ
 それを こうしてわざわざ出向き、
 順立てて話をしてやっているだけでも恩情だ

 ああ、そうだ、言っておくが・・・・・
 
 1対1で始まった国同士の争いに、余所の国は ”不戦不介入”
 誰も手出しならぬのは、お前も知っておるはず」









この時代、世界中で次々と国同士の戦が勃発していた
そのほとんどが自国の領土拡大と労働力を狙うものだ


農業を主とする国を手に入れれば、農地と、働き手となる民が増える
それは自国の食料の自給に大きな役割を果たす


工業を主とする国ならば、その技術力も施設・工場も
全てが労せずに手に入る


地下資源豊かな国ならば、それは誰もが欲して止まない事となる




そんな終わりなき戦いが続く中、
各地の小さな争いが次々と隣国を巻き込み、
世界の大戦にまで発展させぬ様にと
自然発生的に決まっていたのがこの ”不戦不介入” の暗黙の掟

言わば不文律だった



 






「この戦、誰も助けてはくれぬぞ?
 まぁそれ以前に、我が大国が相手と知って、
 刃向かおうと言う馬鹿な国も無いだろうがな

 なぁ・・・ シュリよ、利口になれ

 大人しくワシに付いて来れば、この国も、家族である国王一家も
 そして 自国の民も、全て今まで通り・・・・

 いや、今まで以上に平和に暮らせる

 包囲され、大砲を向けられた事さえも、今なら何も知らずに済むのだ
 だが、お前が自分可愛さに拒否すれば・・・・」



 


ガルシアは感情の冷めた薄い目で
床に散らばる砕けたガラスの破片を見つめ
そして侍従達の後ろ・・・・
かばわれる様に隠されるジーナをジロリと見た
 




「見たところ この国にはもう一人 皇子がいるではないか
 お前がどうしても嫌だと言うなら、そこの弟皇子でも構わんぞ?
 さぁ、どうする
 お前の気持ち一つだ」


自分の事を呼ばれ
驚いた様に顔を上げたジーナは、無意識に小さく首を振る
その幼い手は、しっかりと母親のドレスの端を握り締めていた



「ジーナ様! ヤツを見てはなりません!」

ジルが自らの背で、ガルシアの視線からジーナを遮る





「やめろ・・・・弟は病気だ! 絶対に手を出すな・・・!」


「そうか、ならば 話は決まりだ
 すぐに出発する、用意をして来い
 見送りは要らん
 全員ここで おとなしくしていろ」






華燭の城 - 9 に続く
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華燭の城 - 9

泣いて引き留める母と弟の手を握り
悔しさに顔を歪ませる父王に跪き(ひざまづき)
その指に最後の口づけをしてから、どれほどの時間が経ったのか・・・


シュリは揺れる車の中で 目を覚ました






頭が重く、初めは自分の置かれた状況さえ のみ込めなかった


” ここは・・・・ ”


徐々に覚醒していく意識の中で
「・・・・・ っ!・・・」
慌てて腰に手をやった
が、持っていたはずの神儀の双剣は 既にそこには無い





国を出たあの日、
幼い頃から自らの分身として大切に持っていた剣を差し出せと言われた

それを拒否し、かなり抵抗したのを覚えている・・・・


自分の左手首に残る赤い血の跡を指でなぞった
あの時、ふいに何かの薬を打たれ眠らされたのだ






チラと顔を上げたシュリの視線の先
その正面に 向かい合う様にして1人の男が座っていた

・・・・ガルシアではない



その男もシュリが目を覚ました気配に気付いたのか
腕を組んだまま 伏せていた顔を上げる事もせず
ただ、ジロリと 目だけを静かに向けた



黒い上下のスーツをきちんと着ている所を見ると
ただの兵士では無さそうだった



あれから何日・・・・
自分の剣は・・・・・
そう聞いてみた所で、この男が何も話しはしない事は
その鋭い眼光と 微動だにしないその態度から明らかだ


くそっ・・・・・・・!








唇を噛むシュリの視線の先
車窓には、自国よりも遥かに大きな街が広がっていた
綺麗に連なるオレンジの屋根、馬と車とが行き交う石畳の道

その道を行く車列・・・・ 
車の前部中央に小さな黒旗をなびかせ進む車は ガルシアの物だと判るのか
前を行く馬は道を譲り、街行く人は足を止め、車に向かって笑顔で頭を下げる
ジーナと同じぐらいの男の子は 
母親に手を引かれたまま 元気に手を振っていた


穏やかで、幸せそうな街


この国の王が 他国に戦を仕掛けたという事など知らない人々
自分の返事次第で、戦火に巻き込まれたかもしれない人々・・・

”何も知らなければ幸せに暮らせる” そう言ったガルシアの言葉を
シュリは思い出していた




街の大通りを抜けると
雨上がりの霧に包まれた 巨大なガルシアの城の門が遠くに見え始める




その城は小高い丘の地形を丸ごと利用して建てられていた

丘全体をぐるりと取り囲む様に造られた大きな堀
その掘の直上、見上げる程に切り立つ高い石の城塀には
砲を据える為の窓がいくつもあり
門の両脇には 見張りを置くための門塔がある

先端には国旗だろうか、鳥の様に見える紋章を白抜いた・・・・
この車にあるのと同じ黒旗がはためいていた



シュリを乗せたガルシア達の車列が 門の前に止まると
その城門が ギシギシと重い音を立てゆっくりと開く






そこは、寂寞(せきばく)とした風景だった

美しい庭園に囲まれた自分の城とは違い、
緑の木 一本、花一輪さえも無い

ただ何処までも 暗い石の道が続き
丘の裾から頂上に向かい立ち並ぶいくつもの館棟


そしてそのずっと奥・・・・
丘の頂に同じ石造りの巨大な城が、薄い夕陽を背にして立っていた







車が近づくに連れ、
霧を掻き分け 次第にハッキリと姿を現し始めた城塀の内部


一見 無機質にそびえる壁には
細やかな幾何学模様に似た精密細工が
折り重なるようにして びっしりと施されている


黒一色の石でありながら
その陰影だけでこれほど見事に・・・ と思わせる贅の産物だ


それは塀だけではなかった
連なる館棟の壁の上部にも屋根にも 様々な紋様、彫刻が刻み込まれ
雨露に濡れたそれは夕陽を受け輝き、一級の芸術作品にも劣らない



王族として生まれ、芸術・美術品の類には慣れ親しんでいたシュリも
その光景には思わず車窓を開けずにはいられなかった


雨上がりの冷たく重い湿気を含んだ風が流れ込み頬を打つ
それは暖かく温暖な神国とは正反対の 寒い冬の国の空気だった



これからは ここで・・・

石畳の上を進みながら シュリは思わず目を伏せていた






華燭の城 - 10 に続く
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華燭の城 - 10

外見は、まるで人の温かみなど感じられない冷たい石造りの城だったが
その城内では 官吏や臣下、使用人達が慌ただしく行き来し
今日、世継ぎとしてやってくる あの神国の皇子を歓迎すべく、
その準備に追われていた





「あの神の子が 我が国の世継ぎ様になられるぞ!」

「なんと めでたい事だ!」

「それはそれは美しい方だぞ! 私は一度 その舞を見たことがあるのだ」

「先方より我が国に 是非とも皇子を・・・・ と、打診があったそうだ」

「それもこれも、全て陛下のお力あっての事! 
 さすが、我が陛下 ガルシア様だ!」




行き交う人々が あちらこちらでそんな会話を交わし、
城内は活気と喜びに溢れていた







皇子を迎えに行った王一行が戻ったとの連絡が入ると
誰言うとなく、官吏以下・・・・ 手の空いている使用人までもが
城正面の大ホールに続々と集まって来る



初めのうちこそ、輪になり、塊になりし 祝話に興じていたが
いつしか扉前に自然と整列し
今か今かと その時が来るのを待っていた



そしてやっと  「陛下のお帰りでございます!」  と声がし
その重厚な扉が開かれると
臣下の兵は一斉に片膝を地に付き礼を示し、
官吏達は深々と首を垂れる







その迎列の中央へ 多くの黒服に守られる様にして
満足気に、ゆっくりと歩み入って来る国王ガルシア
と、その後に続く 一人の青年・・・・





「ほ・・・ 本当にシュリ様だ・・・!」

その姿を一目見ようと 
恐る恐るに顔を上げた1人の男が思わず声をあげた

それは過去に舞を見たことがある と言っていた あの官吏だった




「おお・・・・!」 
その声に場内が一斉にどよめいた




ガルシアは右手を軽く挙げ、それを制すると

「皆、出迎えご苦労
 既に話は聞いている事だろう
 
 本日、我が国は・・・・  神国、シュリ皇子を世継ぎとして迎えた!
 早速、披露目もしたいところだが 長旅だ
 まずは一休みし、準備を整えた後に、改めて宴を開く事にする
 これからは祝宴が続くぞ! 存分に楽しむがいい!」


「おおっーーーーーーー!!!」


そのガルシアの言葉に 大きな歓声が上がった






「シュリ様ーー!」

「シュリ様ようこそーーーーー!」



諸所で歓迎の声が上がり、大拍手が沸き起こった
皆 隣の者と手を取り合って頷き、笑い合っている・・・・


外の冷たい空気から一変、
熱いほどの歓喜に包まれたその空間で
シュリはただ一人、その光景を理解出来ずに居た

黙ったまま、ただただ茫然と 喜ぶ人々を見つめ続けていた






「シュリを部屋へ連れて行け」

人々の中へガルシアが声を掛けると
出迎えの列の最後尾にいた一人の若い男が

「シュリ様、こちらへ・・・・ 」   と杖をつきながら歩み出た






華燭の城 - 11 に続く
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華燭の城 - 11

シュリは無言のままその男の後に付き、ある一室へと案内された


そこは華美では無かったが、
きちんと整えられた広間程はありそうな大きな部屋だった




左側は一面に窓があるのだろう

金房飾りの付いたビロードの・・・
それでいて落ち着いた濃紺色の重厚なカーテンがいくつも並び、
壁のほぼ中央に大きな暖炉、
そしてまたカーテンが続いた先、
部屋の一番奥に天蓋付きの大きなベッドがあった




大理石の床の中央には絨毯が敷かれ
天井にはシンプルだがガラス細工の美しいシャンデリアが
いくつも下がっている




食事用なのか、光沢も美しい大きなテーブルに
足を投げ出して座ってもまだ余る程の 
ゆったりと寛げ(くつろげ)そうな大きなソファーセット

右側の壁に掛けられた絵画の数々、調度品、寝具・・・・


どれも嫌味なく品良くまとめられ、好感が持てる物ばかりだった


暖炉には 既にあたたかな火が入り
この大きな部屋でも 寒かった外の冷気など、一切感じさせることがない








「ここがシュリ様のお部屋になります
 拝命が急でしたので、
 お好みがわからず、勝手に準備させて頂きました
 気に入って頂けると嬉しいのですが」

案内してきた杖の男が 頭を下げた





「・・・・ ここが私の?」


「はい、足らない物、欲しい物があれば何でも仰って下さい
 これからは私が シュリ様のお世話をさせて頂きます
 何かあれば、すべて私に お言いつけ下さい」




長く美しい黒髪を 背中の中央辺りで一つに束ねた背の高い男は
静かだが よく透る声でそう言うと、もう一度 深々と頭を下げた




「・・・・ ああ・・・・・」

未だ状況が呑みこめず、シュリはそれだけ答えるのが精一杯だった






皇太子・・・・ 
新しいこの国の世継ぎとは名ばかりで、現実は捕虜同然

薬を打たれ眠らされ
自国の民の命、そして家族の命と引き換えに
いきなり、拉致の様に連れて来られた



これからは この冷たい異国の城でたった一人
どんな生活を送るのか・・・・



牢に幽閉され 一生、陽を見る事さえ出来ないかもしれない
そう覚悟していたのも事実だった





だが、ここは・・・・・

この暖かい部屋は・・・・・?

そしてあの純粋に喜ぶ人々は・・・・・・?






シュリは自らが置かれた状況が 何一つとして理解出来ぬまま
ただただ困惑の中に居た


だが、整った暖かな部屋と 落ち着きのあるこの静かな男の態度に
少しだけ安堵したのも、また事実だった






華燭の城 - 12 に続く
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華燭の城 - 12

「・・・・・名前は? なんて呼べばいい?」

暫くの沈黙の後、シュリが口を開いた




「私はラウムと申します
 ラウ、とお呼び下されば・・・・・・」

「ラウム・・・?!」

男が頭を下げたまま答える中
窓の方に歩みを進めていたシュリが驚き 振り返った

 



「”ラウム”って・・・・
 まさか、あの悪名 ”悪魔鴉(カラス)” の”Raum” なのか?!
 その様な忌名・・・・ 
 それは本名なのか?!
 ファミリーネームは・・・・?!」


名乗る男の言葉を遮り、矢継ぎ早に質問を投げる声も思わず大きくなる







だがラウムと名乗った男は、顔色一つ変える事はなかった


「私はただの使用人
 私の様な身分の者に ファミリーネームはございません
 
 陛下は 周りの者に御自身で名前を付けられます
 今日、陛下とご一緒に神国から戻られた側近長の方・・・・
 あの方はオーバスト、 ”Oberst”・・・・ ”大佐” という意味で
 そう呼ばれていると伺った事があります

 陛下が私を呼ばれる名がラウム・・・ ”カラス” と呼ばれるのなら
 きっと この辺りでは珍しい この黒髪のせいでしょう」


思いがけないその静かな答えに シュリの方が言葉に詰まった




いくら驚いたとはいえ、そして いくら相手が使用人であるとはいえ、
初対面の者にいきなり
『お前の名は悪名だ、悪魔だ』 とは、あまりにも非礼である
 



「・・・そう、 か・・・・・悪かった
 ・・・・余計な事を言った・・・・すまない」

そう謝るシュリに 



「いいえ、お気になさらず」 

頭を下げたままのラウの声が優しくなる
その澄んだ声に シュリもわずかに緊張の糸を解いた




「ありがとう・・・・ これからよろしく頼む、ラウ」

「はい、シュリ様」

ラウは顔を上げると 真っ直ぐにシュリを見つめ優しく微笑んだ







本来、皇子の世話をするのは侍従と言われる身分の者だ
一般の使用人が側に付くということはあり得ない

だが、シュリはこの期に及んで そんな事に頓着する気も
文句を言う気も 更々ありはしなかった

いや、それどころか 捕虜同然の自分に
世話人が付けられるという事だけでも驚きを持っていた



そしてもう一つ シュリの目を奪ったのは、そのラウ本人だった


年は20代後半ぐらい・・・ だろうか
使用人とはいえ皇太子の側で身の回りの世話をするのである
長身で細身の体にきっちりとスリーピースのダークスーツを着こなし
整った顔立ちに長い黒髪が良く似合う

暖炉の炎に映されたその姿・・・
左手に金属の杖をついて立つその姿に
シュリは何故か目が離せなくなり、暫く見つめ続けていた








「・・・どうされました?」

「あ・・・・ いや・・・・・・・・」


問いかけるラウから照れ隠しの様に視線を外し
目の前の窓に掛けられていた重厚なカーテンを引き開けた


そこにはあったのは・・・・


腰の高さ辺りから 高い天井まで届く大きな窓いっぱいに
頑丈に はめ込まれた鉄格子だった




 
思わず絶句した
囚われ人・・・・ やはり、そういう事なのだ


カーテンを握った拳に力が入る




黙ってうつむき、唇を噛むシュリにラウが近付き 

「シュリ様・・・
 ここでの生活について、
 少しお話しておかなければならない事がございます」

その手からそっとカーテンを取ると、ゆっくりと引き閉じていく






シュリは目を伏せたまま黙って頷き、
促されるままソファーに腰を下ろすと
ラウは右足を引きずるようにコツコツと杖をつき その側へ立った


「脚・・・・・ 悪いなら構わない、座ればいい」

シュリが向かいのソファーを勧めたが

「この脚は 子供の頃から・・・・
 多少、不自由はしますが 
 今はもう痛む事もありませんので、ご心配なく・・・・」

そう言ってラウは立ったまま話し始めた






華燭の城 - 13 に続く
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華燭の城 - 13

「シュリ様、
 まだ状況が判らず、戸惑っておいでだとは思いますが
 先ほど下で出迎えた官吏・・・・
 
 この国では、国政を執る役人の方々を
 そう呼んでおりますが・・・
 
 その官吏様達、兵士、使用人達はもとより
 この国の民、ほぼ全ての者が、
 シュリ様は・・・・ ”ご自分から望んでこの国に来られた。” ・・・と、
 そう思っております」




「・・・・・望んで・・?
 ・・・・・そう思っている・・・・ 
 ・・・・・とはどういう事だ・・・・?」


隣に立つ背の高いラウを見上げる様にして 
シュリが顔を上げた






「はい、今回のこの件は・・・・・」

一度言葉を切った後、
改めてシュリの目を見つめ直してラウが続けた




「神国の方から、我が国に持ち掛けられた話。 と言う事です
 シュリ様を是非、跡継ぎとして、
 この国に、貰って 欲しいと・・・」


「なっ・・・! 何を・・・・!
 そんな、馬鹿な話が・・・・!!!
 貰ってくれなど・・・
 誰が自ら望んでなど 来るものか・・・!!」



その余りにも無茶苦茶な話に シュリが思わず立ち上がる

足にぶつかった重厚なテーブルがガタンと動き
上に置かれていた水差しもカタカタと揺れる
繊細なカットが施されたグラスも その振動に共鳴するかのように
高い音を鳴らした

が、そんな物はシュリの眼中には入っていなかった

目の前に立つラウに向かい、
「あり得ない!」
と顔を小さく横に振りながら抗議の声を上げ
その手はラウの上着の胸元を掴む様に握り締めた







「ええ、私はシュリ様の世話役に選ばれた時
 陛下から 直にお話を伺いました
 ですから、事の真実を存じております」

ラウがそのシュリの手に 自分の空いている右手を優しくそっと重ねる




「・・・ですが、
 その真実を知る者はこの城でもほんのわずかなのです
 そしてこれは、絶対に他言無用 
 もしこれを誰かに、ほんの少しでも漏らされた場合は・・・・」


「・・・・その時はまた私の国に攻め込むと・・・・・
 ・・・・そう言うのか!」
 

「私には わかりません
 ですが、陛下はそうされるおつもりなのではないかと・・・・・」


「自国の・・・・ 全ての国民や役人にまで嘘を・・・・ 
 皆をずっと騙す事になるんだぞ! そんな事が・・・・」


「・・・・・嘘にもいろいろあります
 絶対についてはいけない嘘
 つかなければならない嘘
 ついた方が良い嘘・・・・・ 
 そしてこれは、ついた方が良い嘘・・・・・
 両国民の為でもあると、陛下は仰られました
 一歩間違えば 戦になっていたかもしれない。
 ・・・などと言う恐ろしい話は
 何も知らず、平和に暮らす国民には ショックが大きいのです
 
 しかも攻めた相手が神国となると、これはもう神への冒涜・・・
 我が国の民も動揺するでしょう
 正直、私がそうでしたから・・・・

 それに・・・・
 自分達を守る為に、シュリ様お一人が犠牲になられたと知れば
 神国の民も悲しみます

 シュリ様は 世継ぎの居ないこの国の行く末を案じられ、
 両国の恒久の平和を願い、自ら望まれてこの国へ来られたのです」



「・・・・・なんて・・・
 なんて都合のいい、勝手な筋書きだ・・・!」


話を聞いていたシュリの拳が
再び強くラウの上着を握り締め、唇を噛んだ



「・・・はい」

一瞬、目を伏せながらも小さな頷きと共に返されたその強く短い一言は
それでも全てを呑み込めと、そう言っていた





「・・・・ くそっ・・!」



シュリの頭の中を、また ”何も知らなければ・・・・” と言うガルシアの声が
グルグルと渦巻く


突き放す様にラウの体から手を放したシュリは
ドサリとソファーに体を沈め、俯き(うつむき)
そのまま長い時間、じっと何かを考えていた



ラウも黙ったままシュリの横に立ち 微動だにしない




徐々に暗さを増す室内・・・・
窓の外は既に漆黒となっていた




強くなった風音がガラス窓を叩き始めた頃
シュリは ようやく小さく息を吐き、
ポツリ・・・ と溜息混じりに口を開いた






華燭の城 - 14 に続く
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華燭の城 - 14

「本当に・・・ 私がここに、おとなしく居れば・・・・
 両国の民と、私の父や母、弟は
 これからも今まで通りに暮らせるのだな?」


「勿論です
 シュリ様がここに居られる限り、我が国も
 そして神国の安全も保障される・・・ それが陛下の御意向です」



長い沈黙など無かったように
シュリの問い掛けに ラウは即答した






「・・・・ ならば・・・・ それでいい・・・・・
 その為に来たのだ・・・・  
 ・・・・そちらが約束さえ守れば、他言はしない
 ・・・・何も心配することはない」


「ありがとうございます」


ラウは深く腰を折った





「この秘密だけを守って頂けるなら この城内での行動は自由
 皆、シュリ様をお迎え出来て喜んでおります
 もちろん いつも私がお側におりますのでご安心を・・・

 ただ、城の外にお出になりたい時だけは
 陛下にお許しを頂いた後に 必ず私がご一緒に・・・・」



「・・・ そういう事か・・・・」

「・・・?」

「ラウも・・・・ 世話役も 所詮、見張り・・・ ということだ」




ほんの少し前、このラウの見せた優しい笑みに
わずかでも安堵した自分がいた
だが・・・・ やはり ここに味方はいないのだ



そのシュリの言葉に ラウは目を伏せた



「確かに・・・ 私は陛下から、シュリ様の行動を見張る様
 仰せ付かっております
 その様な私の事を、すぐに信用して頂けない事も承知
 そして、陛下の行った事を思えば・・・・
 陛下を・・・・この国を憎まれても仕方ありません
 ですが、私は・・・
 何があってもシュリ様の味方です・・・・ そう思っております」




シュリは黙った
この理不尽極まりない勝手な話
だがその理不尽に抗う(あらがう)ことが出来ない自分と
会ったばかりだというのに 信じろと、味方だと言い切る男


いったい何をどう信じればいいのか・・・・




得体の知れない困惑の中で、膝の上で組んだ両手に額を乗せると、
見たくないモノが現実として視界に入り、
シュリは思わず目を閉じた 





「・・・大丈夫でございますか?
 これから暫くは 国内外へのお披露目の宴も続きますし
 少しでも時間があれば 休まれた方がよろしいかと」


「・・・・シャワーを・・・」


そう呟くシュリの右手は 左手首の固まった血を隠す様に握られていた



「・・・これは気が付かず、申し訳ありません
 浴室は向こうの扉です
 その間に 着替えの準備をしておきます」


ラウは部屋の端に並ぶ扉の1つを示して頭を下げた








シュリが入浴を済ませて戻ると
ラウはきちんと着替えを一揃え 用意して待っていた


「お食事は どうなされますか?
 準備はできておりますが」



ラウの視線の先、
部屋の大きなテーブルに 一人分の食事が並べられている


いくつも並ぶ皿に、色取りどりの料理が美しく盛り付けられ
それは一人分とはいえ、全く見劣りするものではなかった



「・・・・これはラウが?」


「いえ、私は運ばれた物をご用意しただけ、
 シュリ様や陛下の召し上がる物は、
 専属の料理人が厳しい監視の中で作っております」



その答えにシュリはふと苦笑いを浮かべた


神国では侍女達がいつも賑やかな声を上げながら
城の厨房で皆の食事を作っていた

その楽しそうな声に誘われ、幼いシュリもよく厨房に入ったものだった
すると必ず誰かが味見と称して、摘まみ食いをさせてくれる
それは遠い昔の幸せな記憶・・・・

だがあのガルシアだ、敵は少なくはないはず
万が一、毒でも盛られては・・・と考えるのは当たり前で
専属の料理人と 監視いう言葉は至極当然の事といえた

あの非情な男に、家族の団欒等という言葉は似合わない





「・・・ 何か?」

苦笑いとはいえ、笑みをこぼしたシュリを
ラウが不思議に思うのも無理はない


「いや・・・何でもない
 悪いが、今は要らない」

「何か失礼でもありましたでしょうか?」


テーブルに並べられた物は フォーク1本、スプーン1つに至るまで
全てマナーに適って(かなって)いて、落ち度など無い程に完璧だった



「そうじゃない・・・・ ただ食欲がないだけだ」


差し出された衣服を身に着けながら答え
着替え終わると、ゆっくりと中央のソファーに腰を下ろした



「承知いたしました」

手際よくテーブルを片づけるラウを見ながら
シュリはソファーに座ったまま動く気になれなかった

ただただぼんやりと 動くラウの姿を見ていた







その時、トントンと小さく部屋がノックされた


応対に出たラウが
何か一言二言、廊下の人物を会話を交わしている

扉の間から わずかに黒い袖が見え隠れしていることから
ノックしたのは あの車で一緒だった男・・・・ オーバストという男らしい




「シュリ様、 急ですが・・・ 陛下がお呼びでございます」

扉を閉めてシュリの元へ戻ったラウがそう告げた




「・・・・ わかった・・・・ 案内頼む・・・・」






華燭の城 - 15 に続く
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華燭の城 - 15

コツコツと足音の響く廊下を二人は並んで歩いていた

杖をついてはいるが、ラウの歩みは遅くはなく
この城は戦の為に、ガルシアが中世の頑強な古城を移設させたのだと
ラウが説明をする



そう言われてみれば、丘を丸ごと使い 周囲を堀で固めたこの城は
まさに戦の為にある様な造りだ
古めかしく冷たいという印象も 中世の石城と言うならば納得がいく

だが、あの外壁の素晴らしい彫刻は近代の技術でしか成し得ない
あれはガルシアが彫らせたのだろうな・・・





「ですが、中の設備は移設時に 現代の物に取り変えられていますから
 電気も水道も、ちゃんと使えますよ」  

そんな事を漠然と考えていると、
黙ったままのシュリを心配したのだろうか・・・
ラウが 僅かに首を傾げて目線を合わせ、優しく微笑んだ








すれ違う臣下の者達はシュリの為に道を開け、
廊下の端に寄って片膝を付き、右手を左胸に当てるという
最上位の礼を尽くした


使用人も、ラウと一緒に居るのがシュリだとわかっているのか
作法が判らぬなりにも喜びの表情で
何度も繰り返し 深々と頭を下げて行く


中には本当の神にでも祈る様に
「・・・・ありがとうございます。 ありがとうございます。」と
唱える様に手を組む者さえいる

その顔は皆、嬉しそうだった






「本当に皆・・・・ 私が望んで ここへ来たと思っているんだな・・・」

そんな臣下の顔を見ながらシュリが呟いた


「はい」

ラウが小さく頭を下げて返事をする
  








そして突き当たりにある扉の前で立ち止まった


「この向こうが 陛下の居られる主棟になります
 ここからは 何人(なんびと)であっても
 陛下の許可が無ければ立ち入る事はできません」



扉を開けると そこは廊下にも真紅の絨毯が敷き詰められ
凝った柱や天井など、造りは一段ときらびやかになる






「ラウ・・・ 
 この城に侍女やメイド・・・ 女性は居ないのか?」


許可のある者しか入れない、というだけあって
すれ違う人間の数は一気に少なくなったが
それよりも・・・
今日 城へ入ってから見た者が全て男だった事を
シュリは不思議に思っていた


普通ならば、食事の支度や身の回りの世話など
城には多くの女性達が働いているものだ






「女性ですか・・・ そうですね
 城の最下層・・・・ 下働きにはわずかに老女もおりますが
 城内のほぼ全てが男子です
 この主棟に限っては 出入り出来るのも男子のみ
 陛下は女性がお嫌いなのです」


「嫌いって・・・・ では、妃はどこに?」



自分より少し背の高いラウを見上げる様にして 
シュリが顔を上げる




「妃様は 先日お亡くなりになりました」

「亡くなった・・・・?」

「はい、 ですから、シュリ様
 陛下の前では、妃様のお話は されない方がよろしいかと」


「そうか・・・ 妃が・・・・・・」

目を伏せるシュリに 

「このまま真っ直ぐ行くと陛下の居室があります」




今居る廊下を、真っ直ぐに続き伸びる廊下と、右手に折れる道・・・
├ 型になり、二手に分かれた廊下で足を止めたラウが
それぞれの廊下を示して見せる

シュリがそれに頷くと、
ラウは そのまま角を右に曲がって歩き始めた






華燭の城 - 16 に続く
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華燭の城 - 16

「ラウ・・・? 
 ガルシアの部屋へ行くんじゃないのか?
 居室は真っ直ぐだと・・・・」


「いえ、こちらへ」



振り向きもせず先を進むラウを 不思議に思いながらも後を追い
しばらく進むと、正面にはまた 大きな両開きの黒い鉄扉が見えていた



縁には見事な銀細工が施されてはいるが
ひどく頑丈で重そうなその鉄製の漆黒の扉は
今までのきらびやかさとは正反対の
ズッシリと重く暗い、陰鬱とする雰囲気を漂わせていた


その扉の放つ気の暗さに、シュリは思わず眉をひそめ 足を止める

自身の心臓を否応(いやおう)なしに押さえ付けられるような嫌な圧迫感
その感覚に無意識の防衛本能が働き
シュリは自分の胸に手を当て、拳を握り締めていた





だがラウは、慣れているのかそんなシュリに構う事なく
扉をノックし、声を掛ける
するとそれは、中からゆっくりと押し開けられていった



奥に続くのは電灯ではなく 
蝋燭が壁にポツポツと並ぶ ほの暗い廊下
真紅の絨毯も無くなり、石畳様の床になる

その先は まだ数十メートルも続き、正面にはまた 次の扉が見えていた




「また扉・・・・
 どうしてこんなに扉ばかり・・・」




怪訝そうなシュリの問いを余所に ラウが口を開いた



「シュリ様、あの突き当たりの部屋で 陛下がお待ちです
 これからは度々・・・・
 陛下がシュリ様を あちらへお呼びになられると思いますが
 この扉だけは 今の様に扉番によって開けられます

 普段は私がこうやってお供致しますが
 もし、私が居ない時は ご自分で声を掛けてください
 深夜、ここは少し暗くなりますので迷われない様に」
 


「深夜・・・?」

聞き返したが シンと静まり返る薄暗い廊下で
その返事は戻って来なかった







たった今、黒い扉を内側から押し開けた二人の若い男は
それぞれが廊下の左右に分かれて立ち、
ただ黙って真っ直ぐに、その鼻先10センチ程の距離で何もない扉に
直立不動に向かっている

服装も 二人揃って全身が黒づくめで
その息づかいさえも聞こえはしない


まるで黒い扉に・・・・ 漆黒の暗闇に、
自ら溶け込もうとしているかの様で、
シュリ達の存在さえ、意識に置いている様子はない



その二人の余りにも異様な雰囲気から目が離せなくなり、
シュリは立ち止まったまま動けずにいた






「シュリ様、その二人は何も見ない、何も聞かない、何も話さない
 ただの人形とでも思ってください」


それだけ言うと、シュリを促す様に
ラウは再び奥の扉に向かって歩き始めた




「人形・・・・?  って・・・・・」

その答えも 勿論返っては来なかった






「こちらでございます」

ラウが扉をノックすると中から 「入れ」 と、あのガルシアの声がした






華燭の城 - 17 に続く
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華燭の城 - 17

そこもかなり広い部屋だったが 廊下と同じく電灯は点いておらず
明りは 暖炉の炎と、燭台に立てられた数多くの蝋燭だけだった

そのせいか ここも薄暗く、ひどく重苦しい



その暗い部屋の中央で、一点だけ 不気味な程不似合いな
真紅の大きなソファーにガルシアは座り こちらを見ていた
炎に照らされた大きな影が 壁にユラユラと揺れている





「ラウム、お前はそこで待っていろ」  
シュリの後ろに立つラウにそう顎で指示すると

「シュリ、こっちへ来い」  とゆっくり手招きをする






「シュリ様、陛下のお側へ」

ラウはそれだけ言うと頭を下げ そのまま入口の脇に立った








シュリは無言のまま、ガルシアの数メートル手前まで進んだが
そこでピタリと足を止めた 



「もっと側に来い」
ガルシアは手に空のグラスを取ると、シュリの方へと向ける


「酌をしろ」






自分の父よりも年上と思われるガルシア
妃も亡くなったばかりで、世継ぎの子も居ないという

家族と言える者が誰も居ないこの巨大な石の城で たった独り・・・ 


ラウの話を聞いた時は、このガルシアにわずかな哀れみさえ感じた



だが、再びこうして その顔を見、その声を聞くと
この男が 自分の国に、そして自分の家族に、民に、
銃を向けたという事実が どうしても許せなかった



それ以上 側に寄る気になれず、シュリは立ち止まったまま
じっとガルシアを睨み続けた







「シュリ、聞こえないのか! さっさとしろ!」

黙ったまま動こうとしないシュリに、ガルシアは苛立ちの声を上げる




「今日からワシがお前の父王だ
 父に逆らう事は絶対に許さん!
 さあ、跪き(ひざまづき) 酒をつげ

 逆らえば、どうなるか・・・ わかっているのだろうな?!
 出来ぬと言うなら お前の弟をここへ連れて来て
 代わりに酌をさせてもよいのだぞ!」



それだけ怒鳴ると、ガルシアは 側にあった酒瓶を握り
グイと差し出した






「クッ・・・・ 卑劣な・・・・・」
 

だが従うしかなかった






シュリはガルシアの前まで行くと ゆっくりとその足元に跪き、
差し出された酒瓶を受け取った



唇を噛んで、それをガルシアの持つグラスへと傾ける



朱の酒が静かにグラスを満たしていく






「そうだ、それで良いんだ
 最初から大人しくそうしていろ、いちいち言わせるな」

ガルシアは薄く嗤う(わらう)と注がれた酒を一気に煽り(あおり) 
空になったグラスを トンとテーブルに置いた


そして今度は自らが そのグラスへ 酒をなみなみと注ぎ
「今度は お前が飲め」  と、シュリに差し出した






華燭の城 - 18 に続く
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華燭の城 - 18

「酒は飲みません」


ガルシアの傍らで跪いたまま
シュリは視線を逸らし、横を向いた 



「ほお・・・ ワシの酒を断るか・・・
 それとも人間の酒など 汚らわしくて飲めぬか!?」 

挑発するようなガルシアの声が 頭上から降ってくる
だがシュリはそんな煽(あお)りの言葉など 歯牙にも掛けはしなかった





シュリのその態度に ガルシアの片唇がわずかに上がる


「お前は神の化身なのだそうだな・・・?
 では・・・・
 人間の酒も飲めぬ程に神聖なその身体は
 まだ穢れ(けがれ)もなく 崇高なままなのであろうなあ・・・・」




ガルシアは ソファーに悠々と座ったまま身を乗り出し
シュリが受け取ろうとしなかったグラスを
差し出したままの形でゆっくりと傾けた

斜めになったグラスの口から
トポトポとシュリの胸元へ酒が滴り落ちる




白いシャツの胸元が ワインの色でゆっくりと朱に染まった



「・・・・・っ!」


「何度も同じことを言わせるな!
 ・・・ワシに逆らう事は 絶対に許さん!」



突然、ガルシアの手が伸び
シュリの赤く染まったシャツの胸元をグイと掴み上げた
その反動でボタンが引き千切ぎられ、僅かに胸元が露わになる



「・・・・・! ・・・・何をする!!!」



シュリは反射的に立ち上がり、悠然と座るガルシアを上から睨みつけた








「お前は どうやら父に対する礼儀を知らんと見える
 躾(しつけ)を一から し直さねばならん様だな」



持っていたグラスをテーブルへ置くと
ガルシアもゆっくりと腰を上げた


眼前に立ったガルシアの体は 見上げる程大きく
細身のシュリの何倍にも見えた

 
その筋肉の塊の様な体が シュリに触れる程の近くにあり
闘将として名を馳(は)せた風体は、威圧感さえ与える


だがシュリは怯み(ひるみ)はしなかった





「言われた通り、酌はしました
 もう部屋へ戻らせて頂きます」


破られたシャツのまま
真っ直ぐにガルシアの顔を見上げ、睨みつけた後
シュリは踵(きびす)を返した






扉へ向かって歩き始めたシュリの後ろで
ガルシアが怒鳴った




「おい、誰が戻ってもよいと言った!
 お前の国の命運は、ワシが握っているのだぞ!
 拒否権はないと最初に言ったはずだ!
 もう少し利口になれ  ・・・ともな!」


「では! いったい私にどうしろと!!!」




立ち止まったシュリが 背を向けたまま
ガルシアの言葉に叫んだ







「脱げ・・・・  ここで裸になれ・・・・・」






華燭の城 - 19 に続く
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華燭の城 - 19

「・・・・・!!?  
 ・・・・・
 ・・・な・・・  何・・・  ・・・今、なんと・・・」

一瞬 耳を疑う様なガルシアの言葉に シュリが驚いて振り返る



「聞こえなかったのか?
 ここで脱げといったのだ
 お前を可愛がってやろうと言うのだ
 このガルシアの寵愛だ、有難く思うことだ」
 


「寵・・・・
 何を馬鹿げた事を・・・ 気でも狂ったか!」




信じられないとでも言う様に小さく首を振りながら
シュリの体は本能的に扉の方へと向かっていた








「ラウム!」
シュリの後ろで ガルシアの声がした


ラウは杖をつきながら真っ直ぐにシュリの正面まで進んで来ると
空いている右手でシュリの手首をグイと掴み取った





「・・・!! 
 ・・・ラウ!?  何をする・・・!
 ガルシアが何を言っているのか、お前も聞いただろ!
 こんな馬鹿げた話・・・・ 部屋へ戻る・・・! 手を離せ!」



「ダメです、シュリ様」

振り解こうとするが、ラウの強い力がシュリを離しはしなかった





「・・・・・なっ・・・?!  ・・・離せっ!  離せ、ラウ!!」


「シュリ様、お辛いかもしれませんが 
 ご自分の置かれた立場を忘れないで下さい」



その言葉に、驚いた様にシュリの動きが ピタリと止まった


「・・・・  ラウ・・・・? お前まで何を・・・・?」

真っ直ぐにラウの黒い瞳を見つめた





ここに来る途中、
深夜に呼び出されるだろう、と言っていたのは この事だったのだ
ラウは こうなる事を・・・・




「ラウ・・・お前は・・・・
 まさか・・・・
 こうなる事を知っていたのか・・・・・・?
 知っていながら、私をここへ連れて来たのか!?」



唇を噛み ラウを睨みつけた
が、ラウは黙ったまま小さく首を振るだけだった



「・・・・・!!!  帰る!離せ! ラウ・・・!」






強く掴まれた手首を振り解こうと暴れるシュリの肩に
後ろからガルシアの手がかかった



振り返らせる様にグイッと後ろへ引かれ
シュリがバランスを崩し 側にあったソファーへと倒れ込むと
ガルシアは そのままシュリの上へと馬乗りになる





「・・・ンっ!・・・・・離せっ!  やめろっ・・!」



両手足で、力の限りその体を突き放し逃れようとするが
組み敷かれたまま ガルシアの大きな体はビクともしない


ガルシアは薄い唇でニヤリと笑うと
はだけていた胸元から、ビリビリとシュリのシャツを引き裂き
衣服を剥がし始めていた





「や・・・・・・ やめ・・・っ!」

暴れるシュリの手が テーブルの上にあった酒瓶をガラガラとなぎ倒す




「ラウム! こいつの手を押さえていろ!」

その声にラウは黙ったままソファーに近付き
ガルシアに馬乗りにされているシュリの両腕を頭の上まで持ち上げ
押さえ付けた





「・・・ 嫌だ! 離せ・・・・ラウ・・!
 私に触れるな!
 味方だと・・・・ 私の味方だと言ったのはお前じゃないか!
 あれは嘘だったのか・・!」


押さえ付けられたまま体を捩り抵抗するシュリに
「申し訳ございません」  ラウはたった一言
静かにそう言っただけだった





「ははは・・・ それでいい」

蝋燭の灯りに シュリの一糸纏わぬ白い裸体が浮かび上がっていた






華燭の城 - 20 に続く
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華燭の城 - 20

「これは素晴らしい・・・ なんと綺麗な体だ・・・」


ガルシアがシュリの上に跨ったまま、満足気にその体をジロジロと眺め
肩から胸へと冷たい指で触れると ピクンとその体が跳ねた






「やっ・・・ やめろっ!! 
 私に触れるな!!! 
 ・・・・その汚い手で、私に触れる事は絶対に許さん!!
 ・・・・手を離せっ!」



「ほう、そうか・・・・
 ワシの手は汚いか・・・・
 ではその汚れた手で、存分に楽しませてもらうぞ・・・・」


ガルシアの顔がニヤリと笑い、
グイとシュリの顎を掴むと その唇に自分の口を押し付けた




「・・・んんっッ!」

シュリは驚き、目を見開いたまま 
その酒臭い息に嫌悪の表情を浮かべ、必死に逃れようと体を捩らせる




「ん? どうした・・?
 まだ軽く触れただけだぞ?
 神の子は 身体だけでなく唇さえも まだ誰にも許した事がないのか?
 まさか、これほどの純潔が手に入るとはな・・・・・」



ガルシアは満悦の表情で、
抵抗し暴れるシュリの両肩をソファーに押さえ付け
嬉しそうにその薄い唇を耳から頬、顎から首筋へと下げていく

生温かい舌が自分の肌を這うヌルリとした感覚に、シュリの表情が歪む

そしてガルシアは喉の辺りを執拗に舐め回すと
喉笛に歯を立て噛み付いた




「ンッ・・!!」

「お前はもうワシのモノだ・・・・ 絶対に逃がさん」

「・・・やっ・・・・! やめろっ! 放せ・・・!  ・・・放せっ!!!」


頭を振り叫び、体を引こうと暴れるシュリの抵抗を楽しむかのように
ガルシアはその体を撫で回していく




「良い肌だ・・・・・ しっとりと手に馴染む
 これほどに美しい神の子を姦(かん)せるとは
 思ってもみなかった・・・・」



自分の胸元を弄る(まさぐる)ガルシアのゴツゴツとした手と
その後を追いながら、生温く滑る舌の感覚

シュリは その不快感に 押さえ付けられたままの腕で強く拳を握り
唇を噛み締めた

自分を静かに見下ろすラウの整った美しい顔が間近に見えていた







「放せ・・・ 放してくれ、ラウ・・・
 私は神の子だ・・・・ 穢(けが)される訳には・・・・
 放さなければ・・・・ 
 これ以上の辱しめ (はずかしめ) は・・・ ここで舌を噛み切る・・・」

懇願する様にそう呟いたシュリの顎を ガルシアの手が乱暴に鷲掴んだ




「ああ、したいなら、すればいい!
 お前が居なくなれば、弟を代わりに連れて来るだけのこと」


「・・・・!!」 




生れながらに病弱で、いつも自分や母の後に隠れるように付いて歩き
穏やかに笑っていた優しい弟・・・・・


今、ジーナが自分と同じ目に遭ったら・・・

いや、独りで国から連れ出され こんな冷たい城に置かれただけで
儚げ(はかなげ)な弟の心はすぐにでも壊れてしまう・・・・
ジーナ・・・・




「この・・・卑怯者がっ・・・!!!」


「ああ、何とでも呼ぶがいい
 さあどうする? 弟を代わりに抱かせてくれるのか?」


「・・・や・・・  やめろ・・・・・!
 ジーナには・・・・・ 絶対に手を出すな!!!」


そう叫んだシュリの腕から 抵抗の力が抜けていった





「そうだ、そうやってお前が大人しく ワシを楽しませてくれさえすれば
 約束は守ってやる、安心しろ」

そう言いながらガルシアの舌は、
シュリの胸の その小さな突起を転がし始める



「んっ・・・・・ クッ・・・・・・!」

シュリは目を閉じ、拳を握り締め、
ただひたすら その嫌悪感に耐えた




抵抗を止めたシュリの身体を ガルシアは弄ぶ(もてあそぶ)ように
執拗に責めていく
胸の先端を舌で転がし、舐めたかと思うと 千切れんばかりに強く吸い付く


「・・っ・・!」 

シュリが体を仰け反らせ、痛みに声を上げると
ガルシアはその声を喜ぶかのように 容赦なく噛み付き
ギリギリと歯を立てた



「・・・・ンッ! ・・
 ・・・ 痛ッ・・・・・ や・・・・・・やめ・・・・・っ・・・・!」

シュリの小さな声と、湿った舌の音が部屋に響いていた






華燭の城 - 21 に続く
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華燭の城 - 21

「良い体だ・・・・・・・
 どこも敏感で・・・・・ 見ろ・・・・ 
 この絹のような透き通った美しさを・・・・・」


ガルシアは一度 体を起こし顔を上げると、
肩で息をし、赤く上気したシュリの裸体を満足気に眺めた




そして再び その大きな体を折り曲げ
臍(へそ)から下腹部へと舌を這わせ始める




「・・っぁ・・・・・・・・!」

体を捩るシュリを逃すまいと ガルシアはシュリの左足を持ち上げ
ソファーの背もたれに掛け上げた



無理矢理に開かれた脚の間で、
ガルシアの右手が シュリのモノに直に触れた



「・・・・っ!!・・・  何を・・・・!! いやだっ・・・・・・・!!!」

ビクンと身体を震わせ、その悪寒に叫ぶ




だがガルシアの手は、シュリのモノを強く覆い
掴むようにしながら動き始めていた




「・・・や・・・・ やめろっ・・・・!
 ・・・・クッ・・・  んっぁ・・・!!  いやだ・・・・
 私に触れるなっ・・・・・ やめっ・・・・ろ!!
 ・・・・・ぁぁっ!・・・」



ラウに抑え込まれた腕に顔を隠すようにして
その手加減の無い乱暴な行為に シュリが叫ぶ




「ほう・・・ 本当に、何もかもが初めてらしいな
 ・・・では、優しくしてやらんとな」


暴手が止まり、太い指でゆっくりと周囲を弄り始めると 
ガルシアのその口が、いきなりシュリのモノを咥え込んだ





「・・・・んァッ・・!!!」


ガルシアの大きな生温い舌が執拗に絡み付き、
嘗め回し、自分のモノの上をヌルヌルと這いずっていた

シュリはその行為に驚き、生理的な不快感に身を捩る




「どうした、神の子よ・・・・ 感じているのか?
 たかが人間ごときに 弄ばれる気分はどうだ?
 これから、もっともっと狂わせてやるからな・・・・・」


一度 口を離し、それだけ言うと
閉じそうになるシュリの膝を ガルシアがグイッと押し開き
その奥にまで指を伸ばそうとした時だった









「陛下・・・・・・」

扉の外でガルシアを呼ぶ声がした




「何だ!!?
 ここには誰も来るなと言ったはずだぞ!」

邪魔が入ったとばかりに ガルシアが怒鳴る






「それが・・・・ 
 お部屋の方に・・・・
 帝国皇帝閣下より直接 お電話が入っております」

ガルシアの側近、オーバストの声が扉の向こうで静かに続けた



「なんだと!? 閣下から直々にか!!」

「はい」

「くっ・・、、わかった・・・! すぐ行くとお伝えしろ・・・・!」




閣下直々に・・・
しかもこんなに遅い時間に、いったい何の用があるというのか・・・・
まさか、シュリを・・・ 
神国を襲い、神の子を拉致同然に連れてきた事がバレたのか・・・・
いいや・・・ そんなはずは・・・・・

ガルシアがゴクリと唾を飲む




「ラウム!
 シュリを部屋へ戻しておけ!
 そして この件! 絶対にシュリに話させるな!
 黙らせておけ! いいな! 絶対にだぞ!」



そう叫ぶ間もガルシアの脳内は
目まぐるしく 最悪の状況からの回避策を探っていた



閣下が何かをお調べに・・・・・・?
・・・まさか・・・・そんな事が・・・・・
・・いや・・・ もしもだ!
もしも ここが調べられるような事になったら・・・・



全裸のままグッタリと横たわるシュリを横目で見ながら
ガルシアは、慌ただしく部屋を走り出て行く





ラウは黙ったまま小さく頭を下げ、その後ろ姿を見送ると

「シュリ様・・・ 大丈夫ですか・・?
 お部屋へ戻りましょう」

シュリの額に滲む大粒の汗を拭うと
引き裂かれた衣服の代わりに自分の上着を脱ぎ その体に掛けた



そして側に置いてあった杖を握ると、シュリを抱き上げる



「軽いのですね・・・」
そう呟き、右足を引きずりながらゆっくりと歩き始めた






黒い扉の・・・ あの扉番の二人の男は
ラウが全裸のシュリを抱いて部屋から出て来ても 顔色一つ変えず
来た時と同じように ゆっくりとその漆黒の扉を押し開け、小さく頭を下げた



深夜近い時刻、廊下は静まり返り 人影もない






華燭の城 - 22 に続く
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華燭の城 - 22

「シュリ様、お体を拭きましょう」


部屋に戻るとラウはシュリをベッドへと下ろし、温かい湯と布を準備すると
ガルシアの舌が這った首や肩を、いたわるように拭い始めた



シュリはまだ茫然としたまま ほとんど反応せず
ただじっと、天井の一点を見つめていたが
その手だけはギュッと 腰まで掛けられた上掛けを握りしめていた




ラウの持つ布がシュリの胸へとかかると
シュリは 「・・・んっ・・」 と初めて反応を示した




「痛みますか・・・・?
 かなりキツクされていたようですから」

赤く痣になった胸を温め直した布でそっと覆うと
それさえも拒む様にシュリは体を捩らせた



「噛まれて、傷が付いているようですね・・・・ 
 後で薬をお持ちしましょう」





ラウはシュリの手を取ると、握る上掛けをそっと引き下げる



「シュリ様・・・・・ 少し触れますよ」

上掛けを取り、露わになった下腹部を拭っていく





ガルシアの舌が這った場所で、ピクンとシュリの身体が震えた

「・・・・・!!
 ・・・・・・やっ・・・・・ やめろっ・・・・!
 
 私に触れるな・・・・・・!
 ・・・・・・・・出て行け・・・・・・!」



反射的に叫ぶシュリの声に ラウの手が止まった


じっとシュリの顔を見つめていたが

「わかりました
 では 私は外に控えておりますので
 何かございましたらいつでも声を掛けてください」


それだけ言うとラウは上掛けを丁寧に掛け直し
コツコツと杖音をさせて部屋を出て行った




パタンと扉が閉まると、シュリの瞳から一筋 涙が零れ落ちた










眠れそうに無かった


目を閉じると、あのガルシアの不快な行為が脳裏を巡り
触れられ、舐められた感覚が生々しく蘇り 
ひどく気分が悪かった

あのガルシアの手で自分は穢されたのだ・・・・

怒りとも、悲しさとも判らない感情で胸が苦しくなり
ただただ悔しく、神経が昂ぶり体が震える


それに追い打ちを掛けたのが この部屋の寒さだった


暖炉の火が消えかかっているのか、石造りの城のせいなのか
温暖な気候の自国では考えられない程、ひどく冷えていた






上掛けを肩まで引き上げ、小さく身を丸めても
体の震えは一向に止まる事がない



「寒い・・・・・・」

シュリは1人 ぼんやりと目を開けた




ラウ・・・・
わずかに頭を上げてみたが 
消えかかった暖炉の灯りしかない部屋は暗く
その姿は見えはしない



そうだ・・・・ 
ラウは・・・・ 自分が出て行けと追い出したのだ




独り ・・・・・





皇子だからと 甘やかされて育てられた覚えは一切無い
学校も ずっと家族と離れた寄宿制だ
それでも、今まで孤独だと思った事など、一度もなかった





だが・・・・・・

これからはここで独り 耐えるしか無いのだ・・・
ガルシアの・・・ 思い出すだけで虫酸の走るような、
あのおぞましい行為にも・・・

・・・・それが自国の為、家族の為・・・・・

・・・  独りで・・・




シュリは鉛の様に重い体を 無理矢理に引き起こした



暖炉へ歩み寄ろうとして
初めて自分がまだ全裸であることに気付く・・・



「ガルシア・・・・・」 

小さく呟き 唇を噛み、ベッドの上掛けを引き寄せ体に纏(まと)った


まだ力の入らない足で、ゆっくりと暖炉の前まで行き
横に積み上げてあった薪を掴んで、いくつか無造作に放り込んだ


舞い上がった火の粉の隙間から わずかに炎が上がり
暗かった部屋に薄明りが差す






シュリはそのまま 大理石の冷たい床に、岩のように座り込んだ






華燭の城 - 23 に続く
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華燭の城 - 23

膝を抱え、その上に両腕を組み、顔をのせて
パチパチと爆ぜ、
小さな炎をあげ燃えていく薪を シュリはただじっと見つめ続けていた



まだ数日しか経っていないというのに
あの神儀を舞った日が 遥か昔の様に感じられる



父は・・母は・・・ 弟は・・・
そして国の民は、どうしただろう・・・ 
本当に、皆 無事なのだろうか・・・


ガルシアが乗り込んで来てからの出来事が 走馬灯のように蘇る





そういえば・・・
ここに着いた時は、もうこの暖炉にも火が入っていて
部屋は暖かだった・・・


この部屋・・・ 積み上げられた薪も
ラウが全て一人で用意したのだろうか・・・
脚が悪いのに・・・


そんな事を考えながら目を閉じた
体は酷く疲れていたが、やはり眠る事はできなかった




頬に感じるわずかな炎の温もりだけが、シュリの気持ちを慰めていた










カチャ・・・

暫くして扉が開く音でシュリは現実へと引き戻された
コツコツと聞こえる杖の音・・・ 


ラウ・・・・ 来てくれた・・・ のか・・・

心のどこかでホッとする自分が居た






「シュリ様、こんな所でおやすみに・・・
 やはり、暖炉の火が落ちかけていましたね・・・・・」


ラウは膝を抱えたままのシュリの横に跪く(ひざまづく)と
くすぶる暖炉の床を均(なら)し、器用に薪を積んでいく





「・・・上手いものだな・・・・・」

シュリがポツリと呟いた



「起きておられましたか・・・」

ラウが上掛けを頭まで被ったシュリの顔をそっと覗き込む







「やはり眠れないのですね
 そう思って・・・ これを持って参りました」 

手にしたカップをシュリに差し出した



「これは・・・・?」

膝の上に頭を置いたまま ゆっくりと見上げるように首を回す



「これは 私の家の、秘伝の薬湯です
 気持ちが落ち着き、痛みも楽になります
 着替えも持って来ました
 これを飲んで・・・・ そうすればすぐに おやすみになれます」




シュリは黙ったまま 上掛けの隙間から手を伸ばした

カップを受け取ろうとするシュリの手が 差し出すラウの指に触れる
その指は氷の様に冷たい・・・・





「ラウ・・・・・? 本当に・・・・ ずっと廊下に居たのか?」


「あ、はい、薬湯と着替えを揃えてからはずっと・・・
 お声があるまでは・・・ と思っていましたが
 暖炉の火が落ちたのではと思い・・・
 許可も無く、勝手に入って申し訳ありません」


シュリは黙ったまま小さく首を横に振ると
両手でそのカップを受け取り 口をつけた




「・・っ・・ 苦っ・・・・・・」

眉をひそめるシュリに  「薬は苦いものです」 と
ラウがその様子を静かに見つめる


「これは一息に行かなければ
 味わっていては飲めませんよ」

そう促すラウの顔を見ながら シュリは残りも一気に胃へと流し込んだ




「・・・・酷い味だ・・・・」

顔をしかめながら空になったカップを返すと
「よくできましたね」
受け取りながらラウが静かに微笑んだ



その、まるで母親の様な言い方に シュリも思わず表情を緩めていた

そしてその顔に、ラウもまた安堵の表情を見せる





「・・・ラウ・・・ さっきは出て行けと・・・ 酷い事を言った・・・・
 すまなかった・・・
 お前も、使用人・・・・・
 ガルシアの命令に逆らえないのは私と同じなのに・・・・」



ラウは黙ったまま 燃え残っていた薪を火掻き棒で崩していた
その姿が シュリの視界で何故かユラユラと揺れ霞む





ラウは火室の床に薪を広げ終えると、ようやく振り返り

「私の事は気にしなくてよいのですよ
 私は シュリ様が今の様に
 穏やかに居て下されば、それで良いのです
 火の番は私がしますから、さあ・・・・ もうベッドへ戻りましょう」

そう微笑んだ




ラウに促され、立ち上がろうとしたシュリだったが
何故か体に全く力が入らず、視界は益々暗く、揺れは酷くなった

思わず、ガクンと前のめりに倒れかかり
傍らのラウの肩に手を付き体を支えた




「大丈夫ですか?」 

ラウがシュリを片手で抱きかかえるようにして 杖を付き立ち上がる



「ラウ・・・  さっきから・・・ 何か・・・・ 変だ・・・
 力が 入らない・・・
 体が・・・・ 息が苦しい・・・・・  
 ・・・・ 天井が・・・・・・苦し・・・」


「それは 先程の薬湯が効き始めた証拠です
 しばらくすれば治まります
 今なら、すぐに眠れますよ」




ラウは動けないシュリを抱き上げ ベッドまで行くと
手際よく夜着を着せる

薬湯の作用に喘ぐシュリを横にすると
上掛けをキチンと掛け直した



「今夜はここにおります
 ゆっくり眠ってください」




苦しさに肩で息をしながらも
その言葉にシュリは安心したように目を閉じた



そして意識を失う様に 深い眠りはすぐに訪れた






華燭の城 - 24 に続く
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華燭の城 - 24

シュリを部屋へと返し、自室で皇帝との長い電話を終えたガルシアは
ゆっくりと、そして静かにその受話器を元に戻した



「クッ・・・  クククッ・・・・・・」

途端に喉の奥から こらえ切れないモノが込み上げてくる




「ククッ・・・ クッ・・・・  ハハ・・・ アッハハハハハ!!!!」

深夜の城に ガルシアの大きな笑い声が響き渡った









「やったぞ! やはりお前の言う通りだった!!」

「そんな大声では、外にまで聞こえます」


たしなめる傍らの男の声も耳に入らない程に
ガルシアは上機嫌で話し続けた





「これが喜ばずに居られるものか!
 閣下からの直々の電話、 こんな時間に何事かと思ったが・・・・
 なんと、先ずもって祝いだそうだ!
 この国に良き跡継ぎを迎える事ができて良かったと、
 それもこれも、全てこのワシの人徳だと、お褒めの言葉を頂いたのだ!
 どうだ! これは名誉だぞ!」


「それは宜しゅうございました」

男も頭を下げながら薄く笑う




「祝宴には閣下も是非にとお願いしたのだが・・・・
 残念な事に、閣下は多忙ゆえ 無理らしい

 シュリを正式な跡継ぎとして認めるという直筆の書状は
 代わりの者に持たせるそうだが・・・・・
 ああ、なんとも残念だ・・・・ 
 閣下が来て下されば、益々 箔(はく)が付くのだが・・・・」



ガルシアは 小さく舌打ちをすると
大きなソファーの中央で両腕を広げ
片手に持ったグラスを クルクルと手のひらで器用に転がした





「・・・閣下に書状を頼まれたのですか?」

男の眉間にシワが寄る



「陛下が跡継ぎだと宣言さえすれば 
 その様な物、わざわざ頼まなくても・・・・」




その言葉にガルシアが首を振った




「いや、これは保険だ
 もし 他国に、神国を攻めた事がバレてみろ・・・・
 それこそワシの首が危うい

 だが、閣下直筆の書状さえあれば もうこちらのものだ!
 後から何を言われようが黙らせる事が出来る!
 いわば、これは免罪符!
 どうだ? そこまではお前も考えつかなかっただろう?」




つい先程、自分の脳内で・・・ 想像の中で起こった最悪の状況
そこから脱すべく自らが考え出した策

それに満足なのか、ガルシアが豪快に笑った






・・・・・・余計な事を・・・ 

男は ガルシアの足元に跪いたまま、
聞こえない程の小さな声でボソリと呟いた



「ん? 何か言ったか?」


「いいえ、何も。
 しかし、陛下・・・・
 閣下がお見えにならないのは、かえって好都合です 

 もし、宴の席で 
 万が一にもシュリが余計な事を口走っては全てが水の泡
 こうして祝いを頂いておくだけでも
 十分、近隣諸国への抑止力にはなります」



「ほう・・・・なるほどな・・・・! 
 それもそうだ!
 万事が ワシの追い風になっておるという事だ!
 これで 我が国に対し 密かに反発の芽を持っておった他国も
 今まで以上にワシに一目置く事だろう

 何と言っても、閣下のお墨付きがある上に
 世継ぎの息子は神の子だ
 もう誰もワシに刃向かいは出来ぬ!
 
 ・・・・全く、お前の頭の良さには驚かされるわ!

 そうだ!
 お前にも何か褒美をやらんとな?
 何がいい? 金か? 地位か?  ん? 何でも言ってみろ」




ガルシアは脚を組み直すと、満足げにグラスの酒を口へと運ぶ
男はその様子を見ながら、ゆっくりと頭を下げた




「褒美・・・・・ですか・・・?
 考えてもおりませんでしたが・・・・」




急な申し出に 少し考える様に首を捻った後

「では・・・・・
 あの、一番左端の小剣でも頂ければ・・・・・」

男は頭を下げたまま、チラと右側の壁に視線を送る




そこにはずらりと壁一面、輝く宝剣が掛けられていた




壁の一番左端の物は長さ1メートル程で、少々小ぶりだったが
随所に銀細工のある黒鞘に収まっていた


柄から鍔 (つば) までは草花らしき凝った彫金が見事に輝き
握りの先端・・ 柄頭には青い房が下がっている 




「ん? あれか・・・・・
 ・・・・ お前も相当 欲深いな

 あそこにあるのは、ただの飾りではないのだぞ
 ワシの元へ 妃として嫁いで来た女共が、
 婚姻の証として持参した自国の宝剣
 どれもその国の宝とも言える一級の品ばかり・・・・

 特に、あの端の物は 最初の女が持参した物で
 握り柄に巨大なサファイヤが入っているのだ
 この世に2つとない逸品だぞ」





男の視線を追ったガルシアは暫く考えていたが

「まぁ、いいだろう
 あれ程の大きさの石、手放すのは ちと惜しいが・・・・・ 
 今夜は気分が良い
 今回の働きの褒美に特別だ、持って行け」


「ありがとうござます」

男はもう一度 深々と頭を下げた





「ああそうだ、代わりにこのシュリの剣を掛けておけ」

そう言ってテーブルの上にあった双剣をグイと突き出す





「・・・だが、言っておくが・・・・・ 褒美はこれで最後だ
 あれもこれもと、後で無心するなよ?」


そう言って 下がれと言わんばかりに
クイと顎で指図すると、再び酒を飲み始めた






華燭の城 - 25 に続く
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華燭の城 - 25

翌朝、シュリが目を覚ますと
ラウは テーブルに朝食を並べ終えたところだった




「おはよう・・・・」

シュリがベッドから声を掛ける



「おはようございます、ご気分はいかがですか?
 よくお休みになれましたか?
 ・・・お体の方は・・・・・?」

そう聞かれて昨夜の事を思い出す






昨夜の精神状態では眠れるはずがないと思っていた

が、戻って来たラウの顔を見、薬湯を飲んだ後は
一度も目を覚ますことは無かった


眠れたのだろう、と思う
だが今の気分は最悪だった
酷く体が重く、吐き気もする




「・・ああ・・・・・
 薬湯のおかげで 眠れたみたいだ・・・・」

そう言って起き上がろうとすると 平衡感覚もおかしいのか
天井が一度ぐるりと回り、咄嗟に手を付いて体を支えた




・・・なんだ・・これは・・・・




強く目を閉じ 肩で大きく2、3度息をし
ゆっくりと目を開けた



部屋を見渡す



揺れは収まっていたが、窓の重厚なカーテンが 
まるで囚われの自分を隠すかの様に引かれていた


それが外界と室内とを分断し、薄暗い部屋が更に重く
自分の体表すべてに
ねっとりと粘着質の膜を被せた様に息苦しかった




「・・・・ カーテンを開けてくれないか」

「・・・・しかし・・・・」 

ラウが言い澱んだ



「構わない・・・・ 格子があっても陽は入る・・・・・」


ラウはその言葉に  「はい」  とだけ返事をすると
順番に窓のカーテンを引き開けていった






広い部屋にはいくつもの大きな窓があったが
その全てのガラスの向こうに 鉄格子が入っていた

その格子の間から薄い朝陽が滑り込む




その陽に導かれるように、シュリはゆっくり立ち上がった

だが窓の側まで歩いて行くだけの事が
今のシュリには酷く苦しかった



どんどんと早くなる鼓動を 細かく息をすることで紛らわし
内側へ両開きになる窓を開け、
その格子に手を掛け体を支える


熱っぽい体に 朝の冷たい風があたり、
シュリの髪がわずかになびいた







広い城の敷地にはいくつもの建物が折り重なる様に建ち並んでいた

間を縫うようにして、石畳が敷き詰められた庭
その向こうには高い城塀が見えている
色は何もなく、空と同じグレーだけの世界だった





「塀の中なら・・・ 行動は自由・・・ だったな・・・」

ポツリと呟く



「はい、 城内でしたら、ご自由に」


ラウがその後ろ姿を見ながら答えたが
シュリはそのまま ただじっと外を見つめ続けているだけで
急な風が室内に入り込み 暖炉の炎を揺らしても
立ち尽くす後ろ姿は微動だにしない

ラウの声が届いているのかさえ 定かでなかった






「シュリ様? ・・・・ 大丈夫ですか? シュリ様」

ラウがもう一度声をかける



「ああ・・・」

やっと小さな返事が戻ってくる





「もしご気分が大丈夫でしたら・・・・ 
 少し外へお出になられますか?
 何もございませんが気分転換ぐらいにはなるかと」


「・・・ 外・・・・・」

「はい、少し散歩でも」




正直、今の体調では立っているのも辛かった
それでも 外 という響きがひどく懐かしく
シュリを突き動かした




「そうだな・・・・ それもいいかもしれない・・・」


「では、午後からは披露目の宴も始まりますので
 それまでの間、 城内をご案内致しましょう
 その前にお食事を・・・・
 ここ数日 何もお召し上がりでないのでは?」


「神儀の前には3日、食を絶ち身を清める
 これぐらいは慣れている・・・・」


「いけません、シュリ様
 どうか少しでもお召し上がりください」



そう促され、テーブルには付いたが
まだ頭の奥が熱く重い感覚と 体のだるさと苦しさは抜け切らず
それ以上に酷く気分が悪く 食欲は全くといって言い程無かった




「せっかく用意してくれたのに悪いな・・・・」

わずかな量を口にしただけでフォークを置いた






華燭の城 -26に続く
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華燭の城 - 26

陽が少し昇り、外気もわずかに暖かさを含み始めた頃
二人は部屋を出た



部屋の外は廊下さえも大理石の床で
アーチ状になった天井には細かな彫刻が施されている



ホールになるとそれらは一層 絢爛さを増し
天井画が描かれている大広間では
2階部分にオーケストラ用のスペースもあり
宝石を散りばめ、幾重にも層をなしたシャンデリアが
数えきれない程に見事な輝きを放っていた





「凄い広間だな・・・・」

ゆっくりと歩みを進めていたシュリも思わず足を止め
巨大な大理石の柱に身を委ねると、呟いた




「ここは、外国からのお客様をお迎えする時に使われますので
 シュリ様の御披露目も ここで大々的に行われます
 これが我が国の 国力、
 そして陛下のお力なのです」




確かに・・・・
豪華絢爛な富と権力の象徴とも言える この城を見せられれば
どんな国でも、簡単に戦を挑もうなどとは思わなくなるだろう


自分の為に行うという宴も その力を改めて国外へ見せつける為・・・・
その意図がある事は明白だった






「お体、大丈夫ですか?」

柱にもたれかかったままのシュリに ラウが声を掛ける



「ああ・・・ 大丈夫だ・・・ 行こう」

入った側と反対の扉の方を向いて体を起こしたシュリに



「・・・そちらは裏方
 使用人用の出入り口ですのでこちらへ」  ラウが手を伸べる




「使用人の・・・」

そう言われ、昨夜 廊下ですれ違った使用人達の
一様に嬉しそうで純粋な笑顔を シュリは思い出していた



「・・・・ 行っても、いいかな・・?」



ラウが驚いた様に顔を上げた



「それは勿論 構いませんが・・・・・ 
 役の高い・・・ 高官の方々には お披露目の宴もございますが
 使用人など、下の者にはその様な機会もございませんし・・・

 皆、シュリ様にお目にかかりたく思っておりますので
 願っても無い事ですが・・・」 



「そうか・・・・ じゃあ行こう」


「しかし、シュリ様がお出ましになられる様な場所では・・・・」


「・・構わない」

ラウが言い終わらないうちにシュリが返事をした






豪華な正面ホールから奥の扉へと進み 長い廊下を渡ると
ラウの言った通り、通路は徐々に細く狭く質素になっていった

その途中に、地下へと続く階段があった



切り出したまま、
石を積んだだけの 手すりさえも無い急な階段のその下から、
多くの人間の声が聞こえてきていた






「足元、お気を付け下さい」

それだけ言うと ラウは歩き慣れているのか、
不揃いな石の階段を 不自由な脚でコツコツと下りて行く



その後ろ姿を追いシュリが下へ降りると
使用人達が慌ただしく行き交う巨大な空間になった





半地下になっているのか、
壁のかなり上部に所々、明り取りの小さな窓がある

が、ほとんどが石の壁か、高く積み上げられた物資で埋まっている



その中で多くの使用人達が 忙しく働いていた



皆、午後からの宴の準備に追われているらしく
指示する者の声、それに応える者の声で活気に溢れていた






華燭の城 -27 に続く
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華燭の城 - 27

「そこ!どうなってる!早くしろ!時間がないぞ!」


大声で指示を出す一人の男が 階段の入口にふと目を留めた
そこに立つ二人の姿を見つけると手を止め、走り寄って来る


「ラウ・・・・ 
 こちらは、も・・・もしかしてシュリ様か?」


それにラウが頷くと


「おお・・・・ なんという事だ!!
 こんな所にまでわざわざ・・・・!」


その男は慌てて帽子を取ると 

「俺達はその・・・
 ”礼” というもののやり方を知らなくて・・・・すみません!」


そう言いながら大柄な体を腰から真半分に折り曲げ、
深々と頭を下げた






男の言う”礼”とは 兵士が 地に右膝を付き、
右手を胸に当てて主に跪く(ひざまづく) という物の事だったのだろう

この国でこれを行っているのは
軍務にあたる・・・ 腰に剣を下げた兵士だけで
剣を持たない人間、いわゆる行政を執り行う役人である官吏は
深く頭を下げるだけの礼をする

右膝を地に着けば、おのずと左膝が立ち
左腰に携えた長剣を抜くには邪魔になる

主に刃を向けさせない為、それがこの”礼”と呼ばれる物の本質なのだが
使用人であるこの男は、
自分も兵士流の礼をしなければ・・・ と思ったのだろう





 
「そんな事は気にすることはない」

シュリがそう言うと、男は嬉しそうに顔を上げた




「お、俺なんかにお言葉を・・・・!
 あ・・・ ありがとうございます! みんな! シュリ様だ!
 シュリ様がお越しくださったぞ!!」
 

その声に地下で仕事をしていた使用人達は 驚いた様に顔をあげ
エプロンで手を拭いながら走り寄ってくる




「シュリ様だ! なんということだ!」

「本当にシュリ様だ!」

「なんとお美しい!」

誰もが皆、驚きを口にし、何度も何度も頭を下げた



それまで 抜けきらない体のだるさで口数も少なく
表情も辛そうにしていたシュリが
その輪に囲まれるとニコリと微笑んだ




「ああ・・・ シュリ様! 我が国の救世主よ!」

その微笑みに歓声が上がる





「あ・・・ あの・・・ もしよろしければ・・・・」

終い(しまい)には神のご加護をと、
恐る恐るながらに握手を求め 手を差し出す者まで出始めた

一瞬、シュリの表情が曇る
それは本当に僅かで、刹那の事だったがラウは見逃しはしなかった




「おい、さすがにそれは・・・」

「ラウ・・・ 構わない」

使用人を止めようとするラウの声を シュリが小さく制した
そして差し出される一人一人の手を
丁寧に握り返し、声をかけた



そんなシュリの姿を見たい、声を聞きたい、触れたいと
集まる者は増える一方で、
次から次へと途切れることの無い人垣が 幾重にも出来上がっていく






「シュリ様、そろそろお時間です
 お部屋に戻って 午後からの支度をしなければ・・・
 悪いがダルク、みんなを引き上げさせてくれ
 もう時間だ
 お前も仕事があるだろう」


ラウが困惑気味に、ダルクと呼ばれた・・
最初に声を掛けた責任者らしき男に助けを求める程
シュリを囲む人間は増えていた




「・・・ああ! そうだ、そうだな!
 興奮してしまって・・・つい・・・
 
 シュリ様、本当に、本当に!ありがとうございました!
 ・・・おい! みんな時間だ! 仕事に戻れ!
 陛下とシュリ様の為の宴の準備だ!
 しっかりと準備してくれ!」


ダルクが大声でそう叫び、皆を持ち場へ戻らせるまで、
シュリはずっと使用人達の手を取っていた








地下から上がると、シュリは壁に体を預け
一つ大きく肩で息をした


「大丈夫ですか?
 まさかあれほど集まって来るとは思いませんでしたので・・・
 ご無理を言いました、申し訳ありません」

ラウが頭を下げる


「大丈夫だ、私が行きたいと言ったんだ
 熱気には少し驚いたが・・・」




そして、もう一度深く息をしてシュリが呟いた



「・・・・・・私は・・・ 
 本当に救いの主だと思われているんだな・・・」

「はい、シュリ様の存在こそが 今の皆の拠り所なのです」

「でも・・・・ 私には・・・ もう神である資格はない・・・・
 ガルシアの・・・ あの手で触れられたこの体にもう神は・・・・」



昨夜の事を思い出したのか、シュリの体が小さく震える
皆の手を取る事に、一瞬躊躇したシュリの理由だった



「いいえ、皆のあれほど嬉しそうな顔、長いこと見た事がありません
 ありがとうございます」



下げた頭を戻しながらラウが続けた


「・・・しかし、さすがでいらっしゃいますね
 人前に出られると、どれほどお体が辛くとも笑顔で応対される
 これから行われる宴でも、その様に・・・・」


「わかっている・・・
 私は ”自らやって来た この国の幸せな跡継ぎ”を演じる・・・  
 ・・・ だろ・・・」






華燭の城 - 28 に続く
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華燭の城 - 28

披露目の宴は 身分が高く、国の中でも重要と位置付けされる者・・・
いわば国への貢献度、有益性の高い者が招かれ
幾日にもわたって執り行われるという


初日の今日、この城へ呼ばれた者達も
数多くの 近隣各国要人をはじめ、 
国内官吏でも最高位と言われる重役達ばかりで
その家族までもが招待されていた





「始まるぞ
 今日、閣下がお見えにならないのは残念だが・・・・
 わかっているだろうな? シュリ・・・・・」

正面扉の中央に立ち、入場を待つガルシアは
自分の後ろに居るシュリにそう呟いた







そしてその扉は開かれた




華やかな管弦の演奏が一段と大きくなり
自国の高官は深々と頭を垂れ、将校・士官達は最礼を尽くし
他国からの招待客は割れんばかりの拍手を送った



漆黒の装いに、左肩からは純白のストール、
銀の飾りを身に纏い、
腰に王位継承の証とされる奉剣を携えたシュリが場内へ足を踏み入れると
一同からは その美しさに、ため息ともとれる感嘆の声が上がった





「あれがシュリ様・・・」

「なんと美しい皇子でしょう・・・」


招かれた要人の妻達は、
室内に充満する化粧と香水の匂いの中で
うっとりとその視線を送った






シュリは、そんな視線を気にも留めず
約束通りその華やかな祝宴の場で
主役としての役目を立派に果たしていた


ガルシアの一歩後ろに控え
次々と紹介されていく高位の官吏やその家族に
穏やかな笑みで応えていく


その立ち居振る舞いは 凛として非の打ち所がなく
王族として、神として生まれ持った真の気品があった




当初は、シュリが要らぬ事を話し出すのではないか、と
内心穏やかでなかったガルシアも
宴が進むにつれ そのシュリの態度と姿に安堵し、
上機嫌になっていった


祝いにと 皆が差し出す各国の豪華で珍しい品々も、ガルシアを喜ばせた





だが多くの人間が集まれば、
その全ての者の意志が1つ・・とは行き難く
中には何か 謀(はかりごと) あってなのか
シュリを試そうとしているのか、
あえて外国の言葉を用いて話し掛けたり、
異国の文化や歴史、果てには数学や物理学、天文にまで
皇子殿のご意見伺いたい・・・・ と話を持ち掛ける者さえもいた



そんな時、ガルシアは止めもせず
ニヤリと笑って 冷たい目でシュリを見る


シュリがどれほどの才を持っているのか、
どう答えを返すのか・・・・

それを試しているかのようであり、
またそれに対するシュリの返答にも 十二分に満足していた






人々が美味い酒と料理、
奏で続けられる音楽と、美しき皇子の姿に酔い
宴も最高潮に達した頃・・・・・


「おい、道を開けろ・・・!」


人波をかき分ける様にして
一人の高官がガルシアの前へと歩み出た




それは葬儀の日、長老に続いて声をあげたあの赤毛の男だった
隣には、年こそ違うが顔立ちのよく似た若い男を連れている




「陛下!シュリ様! この度はお喜び申し上げます!」

大きく腕を広げた後、過剰にも見える振る舞いで
深々と腰を折りながら、胸に手を当て挨拶を述べた後
男はシュリの方へと身を向けた






華燭の城 - 29 に続く
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華燭の城 - 29

「シュリ様! お目に掛かれて光栄でございます!

 私はこの国で もう数十年、
 陛下の一番のお側にお仕えして参った重臣
 名をヴェルメ!と申します!

 20代で爵位を拝領致しましてから、陛下の覚えもよろしく、
 これからは今まで以上に!シュリ様にもお仕えしたく
 本日ここに参上致しました!
 そして、これはうちの愚息でございます!」




隣で身を固くし、首をすくめる様に頭を下げる男の背中を
ヴェルメはグイと押し出した




「年もシュリ様の2つ上と近こうございますので
 これからはシュリ様の良き話し相手・・・・
 いやいや・・兄同然として!
 何かとお力になれるかと存じます!

 生まれも育ちもこの国ですので
 わからない事は何でもこの息子に!
 どうぞ、御見知り置きを!」




「・・よ・・・・ よろしく、お願いします・・・」




息子の方は 父親の勢いにかなり押されてはいたものの、
少々甲高い声で、父親そっくりの赤毛の頭を深々と下げると
握手を求め おずおずとその手を差し出し・・・ 出そうとした






「シュリの話し相手だと・・・?」

それをガルシアの低い声が止めた


「兄!?
 ふざけた事を言うでないわ!」



その芝居がかった挨拶に 初めから辟易(へきえき)していたのか、
ガルシアの一喝に 一瞬で場内の空気が張り詰める


この国王の怒りを わずかでも身を持って知っている自国の者は、
要らぬ火の粉を浴びぬ様、
他国の来賓には気づかれぬ程の静かさで
ほんの数歩だけ、そっと身を引いた




そんな人垣の中央で、ガルシアは益々その声の音量を上げていた




「おい! 我が息子シュリは 神の子ぞ
 お前の子などと同じにするでない、格が違うわ!」


「・・ひっぃ・・・」

ガルシアの怒声に ヴェルメはビクンと身を震わせる





「も・・・・ 申し訳ございません・・・・・!!!
 で・・・でも、陛下・・・ しかし・・・・・」



「うるさい!
 覚えよろしくだと? 
 お前の事で覚えているのは、
 長年仕えている割には 一人では何も出来ず、
 一つの功も挙げられぬ 役立たずという事だけだ
 ああ、そうだ・・・
 人一倍 口うるさい のはハッキリと覚えているがな
 そもそもだ、今日、お前を呼んだ覚えはないのだが?」



「・・そ ・・・それは・・・その・・・・
 何かの・・・・手違いではないかと思い・・・・・」



言いかけ、垂れた頭をチラリと上げたが、
上からじっと見下ろすガルシアの鋭く冷たい目に気がつくと、
すぐにその視線は 助けを求める様にキョロキョロと床を這った


だがそこに 助け船を出す命知らずな者など在りはしない




「あの・・・・・ 父・・ 上・・・・?」


シンと静まり返った場内で
赤毛の息子も ただオロオロと父親を見つめる
その視線に報い、何か反論しなければ・・ とでも思ったのだろうか
ヴェルメは息子の手前、必死に口を開いた



「しか・・・・ しかし・・・・・・
 あっ・・・・・・   いや・・・
 きょ・・・  今日は・・・・  こ・・・・・これにて・・・・・
 ・・・・・・・ おい・・・ 帰るぞ・・・」



だが言葉になったのはこれだけだった




ついに居たたまれなくなったのか
半音高い声でそれだけ言うと、
髪と同じ赤に染まった顔のまま、唇を真一文字に結び
差し出したまま宙に浮く息子の袖を引いた



「は・・・ はい・・・父上・・・」

二人はコソコソと頭を下げ、体裁悪そうに後退って行く





「可愛そうに、あの方はもう終わりだな・・・」
そんな声が広間の隅でボソボソと聞こえていた


ガルシアはその姿を見ながら
周囲の目も気にせず、豪快な笑い声を上げた


「あいつはな、
 いつもワシに 世継ぎ、世継ぎと口うるさく言っていたのだ!
 やっと鼻を明かす事ができたわ!!」



咆哮するガルシアの隣でシュリは、
その高慢な声に僅かに眉を顰め(ひそめ)、目を伏せた

が、場内は機嫌を直したガルシアの様子に
複雑ながらも安堵の空気が流れ、
そして、それはいつの間にか 元の祝宴の歓喜へとすり替わり満ちて行く


再び華やかな管弦が鳴り響いた







宴が終わりを迎えたのは、城の背にすっかり陽も落ちた後だった

シュリを従え、上機嫌で広間を出たガルシアは
扉が閉まると同時に振り返った



「よくやったシュリ、合格だ 
 今日はまったくもって愉快、気分がいい! 祝杯をあげるぞ!」


そう言うと、廊下に控えていたラウに
「今日も必ず連れて来い」  そう小さく言い残し
大きな体を揺らしながら 側近達と共に廊下へと消えて行った






また・・ あの部屋へ・・・・


シュリがラウの方を振り返る
が、ラウは無言のまま頭を下げたままだった






華燭の城 - 30 に続く
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華燭の城 - 30

深夜、シュリがあの部屋に入ると
ガルシアは昨夜と同じ様にソファーの中央に両腕を広げて座り
酒の入ったグラスをくゆらせていた


昨夜と違うのは、組んだ脚をブラブラとさせ
昨日以上に上機嫌なことだった




「おお 来たか、我が息子よ!
 見たか?! 
 今日のあの、いつもうるさい官吏共の驚いた顔を!
 完璧なまでの お前の見事な返答に何一つ言い返せず
 オロオロとしておったわ!
 全く愉快!  明日からもその調子でやるのだぞ!」



既にかなり酔っているのか 赤くなった顔を向けた




「どうした! 突っ立ってないでここへ来い! 座れ!」

背もたれに広げた手で 自分の右隣りをトントンと叩きながら 
扉の前から動こうとしないシュリを呼ぶ



シュリは小さく唇を嚙んだが、一つ小さく息を吐くと、
意を決したかのようにゆっくりと歩み寄り
ガルシアの横へ浅く腰を下ろした





「ほう、今日は素直だな
 自分の立場がわかってきたらしいな
 ・・・・だが、呼ばれたらワシの顔を見ろ」


ガルシアはそう言うと広げた右腕でシュリの頭を抱くようにして
グイッと自分の方へと向かせ、顔を引き寄せる



「ンッ・・!」

強烈な酒の匂いに 思わず顔を背けた
が、ガルシアの太い腕から逃げる事は出来ず、
シュリは黙って目を閉じ、その酒臭い息に耐えていた


「フン・・・ 強情なヤツよ」

その首筋にいきなりガルシアの ざらついた舌が這った





「・・・・・!!」

反射的に首をすくめた
膝の上で握り締めた拳に力が入る




「ほら、どうした・・・・ こっちを向けと言っている」

ガルシアの腕で、抱え込まれる様に頭を抱かれ 
顔を上げさせられると
シュリの きつく結んだ唇を割る様にガルシアの指が触れる


「んっ・・・」


わずかに首を振る顎が強引に開かれ 口が開くと
そこへガルシアの舌がヌルリと差し込まれた



「ンッ・・・っ・・・・!」


口中をまさぐるガルシアの 生温かく酒の味のする舌に
シュリが顔を歪ませる



ガルシアの長い舌が シュリの口中をまさぐり
舌を追いかけ、捉え絡み付く
陰湿な音を立てながら貪る(むさぼる)様に吸われ、
話す事も口を閉じる事も出来ないまま
呼吸すら苦しくなっていく




「くる・・・・・ し・・・・・  やっ・・・やめ・・・・・っ・・・」

両手でガルシアの体を離そうと押し返し
やっとそれだけの言葉を放った




ガルシアは シュリのそんなささやかな抵抗を
楽しむ様にニヤリと笑うと、一度、唇を離し
左手に持っていたグラスの酒を一気に煽(あお)った



そして それを飲み込まぬうちに 再びシュリの口を塞いだ



ガルシアの口から ぬるい酒が無理矢理に注ぎ込まれる




「・・・!  ・・・・・ んっ!!!」

驚いたシュリが必死に顔を振った





口の中が 強い酒で一杯になっていく


塞がれたままの口で 
吐き出す事も・・・ 呼吸さえも出来なくなり
ググッと無理矢理 喉の奥へ押し込むしかなかった


喉の焼ける感覚と同時に 熱い液体が体内へと流れ込んだ






華燭の城 - 31 に続く
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華燭の城 - 31

グッ・・・ ゴホッ・・・
ゴホッ・・・・・・!


むせ返り、息苦しさと 胸の熱さに 咳き込み、肩で息をした
わずかに唇端から漏れた酒が喉を伝う



これがどれほどの強さの酒なのか、シュリには見当もつかない
が、初めての酒は 一気に体が燃え上がる感覚がした

指先、足先までが熱を持ち
心臓の鼓動が早くなり、早鐘の様に鳴り響く




ハァ、ハァ・・・・


ガルシアは 喘ぐシュリの頭を嬉しそうに腕で押さえたまま
それから何度も 口移しに酒を注いだ




その酒を拒否しようと シュリが頭を振る


「も・・・・・・ 無理・・・・・やめ・・・・っ・・・・・」

「ん? もう、酔ったか?
 本当に 何と初い・・・
 可愛いな・・・・・・・・」



ガルシアは抗う(あらがう)シュリのその姿に満足気に笑い、
零れ(こぼれ) 喉を伝う酒をペロリと舌で舐めとった


そして左手のグラスをテーブルに置くと
その空いた手で シュリの顎から首・・・・ 胸元へと這わせていく





「やっ・・・  やめっ・・!」

シャツのボタンを外していくガルシアの手を
シュリが両手で抑えた
こめかみで判る程 心臓がドクドクと脈打っていた



ガルシアは 抵抗するシュリの両手を 
頭を抱いたままの右手一本で 慣れた手付きで押さえ込む

はだけた胸元から シャツの中に手を入れ
苦しさで激しく上下するシュリの胸を 無骨な手で撫でまわし
先端の突起を 指で強く摘み上げる




「ん・・・・ っ・・!」

昨夜、噛まれた時に付けられた傷を指で潰され
シュリは痛みに呻いた




「どうした・・・ ここが感じるのか・・・・?」

ガルシアは呻くシュリの顔を眺め 
再び口移しで強い酒を飲ませていく



「・・んっ・・・・・ん・・・っ・・・・」

強引に流し込まれる酒で熱くなる体と
握り潰される胸の痛みにシュリが声をあげる




ガルシアはシュリの下半身に掌(てのひら)をあてがうと
衣服の上から動かし始めていた
その刺激にシュリが思わず身を捩る



体が燃えるように熱かった
頭の中に自分の鼓動が響き
胸の痛みと、刺激される下半身の感覚に 意識がおかしくなる



「・・・・・・・やめ・・ろ・・・・・・・」

両腕を押さえ込まれたまま、
額に大粒の汗を浮かべ首を振る





シュリの着衣を緩め始めていたガルシアがニヤリと笑った


「どうした・・・ こんなに汗をかいて・・・・ 暑いのか・・?
 ここも・・・・・」


ガルシアはシュリの顔を眺めながら、下に伸ばした手を動かし続ける






「昨日は邪魔が入ったからな
 今日は、官吏共を黙らせた褒美だ
 存分に楽しませてやるぞ・・・・」


ガルシアの手が 胸から下腹部を撫でながら、
緩んだ衣服の隙間からスルスルと滑り込む

その太い指先が、体を捩り(よじり) 逃れようとするシュリのモノに
直に触れた





「・・!!  ・・・やめっ・・・・・・  離せっ!」


渾身の力で、捕らわれた両腕を振り解き
衣服の中で手を動かしながらも
徐々に自分に伸し掛かってくるガルシアの肩口を
シュリは震える拳で殴りつけた



「それで精一杯か・・・・?」


ガルシアは薄く笑うと
その唇で はだけたシュリの胸に噛み付いた






華燭の城 - 32 に続く
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華燭の城 - 32

「んっッ・・・・! ・・クッ・・」


シュリが思わず声を上げると 
直に触れたガルシアの太い指は その声に喜び
踊る様に動き、握り締め、そして丹念に根元から先まで 何度もなぞり始める





「どうだ・・・・神の子よ・・・・・
 感じるか・・・?
 ここか・・・? それともここか・・・・?」


チラと目線を上げ、シュリの苦痛の表情に薄笑しながら
ガルシアの指には益々 力がこもり、
体を仰け反らせ、両手で必死に抵抗するシュリを煽(あお)りながら 
ゆっくりと弄んでいく





「んっ・・・!  や・・・・・・・やめ・・・・・・・っ・・・」

 
動きに強弱をつけながら、
巧みに速度を増すガルシアの手指
刺激だけの執拗な責め・・・・
無理矢理に口内に運ばれ飲まされ続ける酒と這い回る舌・・・


ガルシアの太い腕から逃れる事も出来ず、
シュリは屈辱の中で顔を歪めた



「良い顔だ・・・・ 
 宴では あれほど美しく聡明に振舞う神の子が
 まさかワシの腕の中で、こんな顔をして、ヨガっているとは・・・ 
 さあ、我慢することはない
 ワシの手でイってみろ」


「っ・・ぁああ・・
 や・・・ いや・・・・・・・・だ・・・・やめ・・・・ろ・・・・」


一気に激しくなったガルシアの手に、シュリが腰を捩り
小さく声を上げる 






「ほらほら・・・・・
 どうした? ・・・神の子よ・・・・・」


「・・・ぁっ・・・・・・ぃ・・・やだ・・・・
 ・・・・んっぁ・・・  や・・・ やめろ・・・    ・・・やめっっっ!!」


仰け反っていた白い身体がピクンと跳ねた





「・・・・っ!」


直後、息を詰まらせたまま、
シュリはガルシアの手の中に自身を吐き出していた




「よしよし・・・・
 所詮、神の子も・・・・ ワシの前では抗う事も出来ぬ」

ガルシアは満足そうに 紅潮するシュリの顔を眺めると
まだ小さく喘ぐその口を自分の唇で覆う




「・・・・んっ・・・!」

嫌がるシュリの口中を 舌でまさぐりながら その手を衣服から抜き出した


掌の真新しい粘液・・・

「これからは お前の全てがワシのモノだ
 神はもう ワシの手中に堕ちたのだ」

そう言いながら 自分の濡れた舌でその手を舐め取り
ニヤリと笑って見せた







 「おい、ラウム! こっちへ来てシュリを立たせろ」
入り口横で黙って立っていたラウをガルシアが呼び寄せた




・・・!!  ラウ・・・・

その声で、シュリはラウが居た事を 改めて思い出した





見られた・・・!
こんな姿を人に・・・・・・・・・・・ 
嫌だ・・・・!




思わず唇を噛み 両腕で顔を覆った




その腕を、近付いてきたラウが 立たせようと引き上げた

「シュリ様、立ってください」

「・・・・・・ 側に 寄るな・・・・!
 離せ!・・・  こんな姿・・・・ 見るな・・・・・・・!」





ラウは 首を振るシュリの腕を掴み
ガルシアに押し倒されたシュリの上半身を グイッと引き起こすと
ソファーへと座らせた


そして両手でガシリと両肩を掴み
目線が同じ高さになる様に 側に跪くと
まるで親が幼子に言い聞かせるようにじっと目を見つめた




「シュリ様、もうお判りのはずですよ」

冷たい声だった




それは もういくら抵抗しても無駄だと・・・ そう言っていた
ガルシアの言いなりになれと・・・・ 




「・・・・・・・・ぃや・・・・・・だ・・・・」

シュリの唇が小さく動き、わずかに首を振った

が、それだけだった





自分は逃げる訳にはいかないのだ・・・
それはもう判っていること・・・・

諦めたように視線を落とし 目を伏せたシュリを
ラウの腕が引き、立ち上がらせる





「おい、早くしろ」

ガルシアが二人の後ろで苛立ちの声をあげた






華燭の城 - 33 に続く
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華燭の城 - 33

「・・・裸にしろ
 服を脱いで そこの壁に手をついて足を開くのだ
 ・・・ラウム、早くさせろ!」


グラスに入れた新しい酒を一気に飲み干してから
ガルシアも自らの服を脱いでいく




ラウに腕を取られたまま
促される様にしてシュリが数歩 前へ進み出た

ラウは黙って小さく頷くと、シュリの乱れた衣服に手をかける


ボタンを外しベルトを外し・・・・・・・・

シュリは震える手で目の前のラウの肩に手を置き
ただじっと目を閉じていた





「シュリ様・・・足を上げてください」

そう言われ それが最後の着衣だと気付く




片足ずつ衣服を抜かれると 全裸のまま、
引かれるままに正面の壁まで歩かされ、そこに両手をついた



石のひんやりとした冷たい感触


蝋燭の灯りだけの薄暗い部屋で 周囲はよく見えなかったが
ここは他の部屋とは違い、
壁も床も 全てむき出しの石のままらしかった



足をわずかに開き、その冷たい壁に両手を付き頭を下げる



そこへ後ろから近付いてきたガルシアの足が
シュリの内膝へと入れられた




「もっと開け」

そう言われズズッ・・・ と外側へ
足を引きずられるように開かれる





足を開いた分、低くなったシュリの背中から
ガルシアが覆いかぶさるように腕を回した


腹の筋肉が シュリの腰に密着する


既に意気っているのか、ガルシアの硬いモノが尻にあたる



「クッ・・・・・・」

シュリは唇を噛んでその感覚に耐えていた



ガルシアの左手が 後ろから抱き締めるように回され
裸のシュリの胸を撫でていく

右手も前から下腹部をまさぐり、そのままシュリのモノを覆った





「んっ・・・」

小さく声を上げたシュリの肩口にガルシアが後ろから噛み付き歯を立てる

うなじから背中へ ザラザラと舌を這わせながら
ガルシアの手は動き続けた





「んっ・・・ぁあっ・・・・・」

虫が這い回る様な気持ち悪さに 全身が総毛立つ
悪寒が走り、首を振って抵抗の意思をみせる
・・やめろ・・・・・・・・  そう叫びたかった


だがその身体は すでに力が入らなくなっていた
立っているだけで膝がガクガクと震える


気を抜くと背中にのし掛かるガルシアの重さで
崩れ落ちそうになるのを
壁の、石の繋ぎ目の隙間に指を掛け 懸命にその体を支えた





胸を撫でまわされ、指で先端を摘み潰され・・・
自身のモノを握られて背中に歯を立てられる
胸も下半身も背中も・・・  体中を一度に責められ
どこで息をしていいのかさえ分からなくなる


それでも二度と言い成りにはなるまいと 必死に耐えていた



正気を失わぬ様、苦しさに喘ぎながら
石の間に自らの指先を喰い込ませ 痛みを作った
爪が割れ、指に血が滲む




だが ガルシアの無骨だったはずの手は
シュリのモノを激しく握り締め擦り上げたかと思うと、
繊細にも指の腹で先の穴を細かく探る




「・・・っ・・・ぁ・・・・ んっ・・・!」

思わず抵抗とは違う種の声を発しそうになり、唇を噛んだ






いつ終わると無い、その巧みな責めに
頭の中が真っ白になっていく


酒のせいもあってか、
痛みとも快感ともわからない、痺れるような感覚が体を支配し
立ってさえ居られなくなる


とうとう2度目の絶頂を迎えようとする寸前だった



ガルシアの手が不意に離された






華燭の城 - 34 に続く
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華燭の城 - 34

「・・んっ・・・・」

小さく声を上げ、壁に両手を付いたまま 一瞬 天を見上げた
ゴクリと息を呑む

そしてすぐに頭を下げ、今のうちにと必死で肩で息をした
額から頬を伝った汗が ポタポタと床に滴っていく


その水滴を見つめながら
・・・・やっと終わった・・・・ そう思った



が、数度呼吸をした時、いきなり腰を掴まれた

グイッと尻を突き出す形で
背中を強く押さえ付けられる



「・・・・んっ! ・・・ま・・・ だ・・・  これ以上何を・・・!
 これだけ・・・・ 辱め(はずかしめ)れば・・・ もう気が済んだだろっ・・・・!
 もうやめっ・・・・!」


思わず叫んでいた



「もう・・・ だと?
 お楽しみは まだまだこれからだぞ?シュリ・・・
 お前は、男が男を犯すという事・・・・ 知らんのか?」


シュリの腰を掴んだままガルシアが鼻で嗤った


「なっ・・・・・!」

驚き、声を上げ振り返ったのと同時だった






露わになった後ろ・・・・
自分のその場所へ 何の前触れもなく
ガルシアの太い指がズブリと突き立てられた



「んっっぁ!!! ぁああぁっっ・・・!!」

思いもしなかったその行為と痛みに体が仰け反る




「やっっ・・・・  めっ・・・・ろ・・・・・!!!
 な・・・ 何・・・を・・・・ ・・・・・・・離せっ・・・・・!」


「どうした・・・? 
 ・・・・男はここを使うのだ
 ああ、そうか・・・・ 
 お前は清浄にして醇乎(じゅんこ)たる存在・・・ 神の子であったな
 こういうモノを知らなくて当然か」

ガルシアがニヤリと片唇を上げ、突き込んだ指をグイと捻る



「・・・っ・・・・・!!!」



嘲笑う(あざわらう)様なガルシアの声とその痛みに、
壁に手を付いたまま首を振って抵抗し、
自分の体内に突き挿されたガルシアの指を引き抜こうとした

が、大きな筋肉の塊のようなガルシアの体はビクともせず
壁とに挟まれ、わずかに体を動かす事も
ましてその指を抜く事など 出来はしなかった



そうしている間にも ガルシアの指はさらに奥へと動いていく





「・・・んぁぁっ!!!・・ 痛っ!!
 ・・・や・・・・め・・・ ろ・・・・・・んっっ!!!!」



痛みにもがき、それでも
自分の体を抱え込む太い腕を引き剥がそうと 
壁から片手を離し、思い切りガルシアの左腕に 血の滲む爪を立てた

上体を支える腕が片手だけになり、グラリと体が揺れる





「・・・ツっ!!!」

ガルシアの太い腕に
見る見る赤いミミズ腫れが盛り上がっていく




「・・・・ くそっ!!! じっとしていろ!!!!
 すぐに気持ち良くさせてやる!
 おいっ!ラウム!!!  
 こいつの手を縛れ!」




右手指をシュリの体内に挿し入れ、
左腕でその白い身体を抱え込んだまま
側に落ちていた自分の革ベルトを
横に立っていたラウの足元へ蹴って寄こした




二人の姿を黙ったまま見つめていたラウは シュリの横へ来ると
ガルシアの左腕に爪を立てたままのシュリの右手を引き剥がす

同時に、石の隙間に掛けやっとの思いで体を支えていた左手の指さえも
易々とその壁から外し取った




「・・・っ!・・・」


支えを失い、ガルシアの重さで前のめりに倒れそうになったシュリは
咄嗟に目の前のラウのシャツを掴んでいた



ラウはそのシュリの両腕・・・・・
手首と肘の中間辺りを 拾ったベルトで1つに縛り
シュリの両脇を抱える



シュリは両腕を1つに縛られたまま、
ラウにしがみつき 抱き締められる格好で
ガルシアにその後ろを差し出していた




「手首は避けたか・・・・
 さすがに お前も慣れたものだな・・・ っ・・・!」


言い終わるか終わらないかのうちに
ガルシアは指をさらに奥まで突き込んだ




ビクンとシュリの体が跳ねる


「んぁっっ・・・・・!!!
 いやだっ!!  ラウ!!!  こんなっ・・・・!!
 離せ・・・・・・・・・・ラウッ!!」








華燭の城 - 35 に続く
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華燭の城 - 35

叫び声を聞き、満足そうに嗤うガルシアの太い指が
シュリの体内でそのままカギ状になり、中を強引に掻き混ぜる




「んっ!!!!!! 
 ・・・・・ぁあ・・・・ッッ!! 痛っ!!! ・・・・・・・んっあぁあ!!」



その痛みと、行為そのもののおぞましさに、体が震え
崩れ落ちそうになる

が、挿し込まれた指が 体の内側からシュリを引き上げ
前からはラウの腕が抱え込み、倒れる事を許さなかった




太い指は何度も抽挿を繰り返す



「ぁ・・・・・ぁっ・・・・・・・・・!!!!
 ・・やめ・・・  ろ・・・・・・・・」


嫌悪という忌まわしい痛みに支配され
自分の内部を掻き混ぜるガルシアの指の感覚も
その痛みそのものの感覚すらもわからなくなっていく


ぐったりと抵抗の声もかすれていく頃
「もういいだろう・・・」
シュリの耳にガルシアの声が聞こえた




・・・終わる・・・

そう思った



が、次の瞬間、シュリは更に大きくその体を仰け反らせた






指が引き抜かれたばかりの場所・・・・
自分の粘膜に
ガルシアの大きく硬く猛ったモノの先端が触れていた



それは何度かヌルヌルと周囲をなぞった後
穴を押し広げ、自分の体内に突き込まれようとしてた



挿れ・・・ られる・・・・・


悪寒が走った


・・・・やめろっっ・・・・!







が、それは恐怖で言葉にならなかった







・・・ グッ・・ ググ・・・・・・・


「・・・んっ・・ぁあっぁああああああああああっっ!!!!
 ・・・・・・・・・・んっっっ!!!!」





指などとは比べ物にならなかった
言葉を作る事さえできない




「クソッ・・・・ なんて狭さだ・・・・・・・!」


シュリを後ろから押さえつけたまま、
ガルシアは乱暴に 自身のモノを捻じ込んで行く





「んんんぁああああああっっっ!!! 
 ・・・ や・・・・  め・・・ろっ・・・・・・・・!!!」


シュリはラウにしがみつき
裂かれる痛みに頭を振り叫んだ




だがそれが止まる事はない
ジリジリと確実に自分の内部をこじ開け奥へと圧し入って来る

言い難い不快感と、激しい痛み
肉を切り、骨を割り、止まる事の無いその弩張したモノの圧迫感で
心臓が・・・ 内臓ごと圧し上げられる感覚で、呼吸が出来なくなった

・・・ンッ・・・ン・・・・・ンッ・・・・・・・・!

息を詰め、必死にガルシアのモノを排除しようとした



「・・・もっと・・・・力を抜けっ・・・・!」

怒声と共に、尻がガルシアの手で割り広げられる

「・・・・・・ぃ・・・やっ・・・・ やめろっ・・・・・・・・・  ンッ・・・・・ンッ・・・」




やがて突き上げ続けたガルシアの脚が
自分の身体とぶつかる所まで密着すると
今度はゆるゆるとギリギリまで引き抜かれ、
そして再び最奥まで一気に挿し貫かれた





「・・ンぁっ・・!!!! んっ・・っっ・・・・・・・!!!!」

その衝撃と痛みにシュリが叫ぶ






華燭の城 - 36 に続く
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華燭の城 - 36

腰をガシリと掴まれたまま、その抽挿は何度も 容赦なく繰り返された

ガルシアの肉先からは汁が滲み出し、
密着した体内からは、湿った音がし始めていた





「・・・・・ああぁぁ・・・ シュリ・・・  いいぞ・・・ いい器だ・・・・・・
 さすが・・・・・・ んっ・・・・! 
 ・・・・初めての事だけはある・・・・・・
 
 ねっとりと吸い付き、締め上げてくるわ・・・・・
 こんな上物が・・・  
 ・・・・・ んっんっ!  ・・・・・ワシのモノになるとは・・・・・」




耳元を舐める様なガルシアの声も上ずっていく


   


骨も肉も粘膜も無理矢理に引き裂かれ
体中が内側から張り裂けそうな痛みに喉が塞がり、
叫ぶ事さえできなくなっていた




「んっっ・・・・  んっっ・・・・!!!!!」


ただただ痛みに耐え目を閉じ
目の前のラウに 縛られた両腕で必死でしがみついたまま
呻きながら首を振る





それを支えるラウの腕にも力が入っていた

両腕でシュリを支える為に杖が使えず
ガルシアの激しい突きに、
ともすればシュリ諸共 倒れてしまいそうになる



だが、しがみつくようにして 後ろにガルシアの責めを受け
既に満足に声も出ないシュリを支えられるのは自分だけ


ラウはただじっと呻くシュリを見下ろしながら
抱え続けていた








「・・・ンッ、、んぐ・・・! 
 ・・・でる・・・」


その声に意識も朦朧としていたシュリが ハッと顔を上げた


「・・・ や・・・・・や・・ めっ・・・!!」

言いかけた時、小さく呻くガルシアの声がした
直後、最奥まで突き込まれたモノの動きが止まった




ハァ・・ ハァ・・・
ガルシアの息遣いだけが、耳元に聞こえる





霞んでいく意識の中で 
シュリの体内でドクドクと脈打つガルシアのモノの感覚だけが
ハッキリとあった

それは最後の一滴まで注ぎ込む様に
何度も何度も繰り返し 波の様に打ち寄せた







犯されたのだ・・・・・

神の子として生きて来た自分が・・・・

その身体にガルシアの精を・・・・・

穢され(けがされ)た・・・・・



その時シュリは その現実を受け止められずにいた
ただ悔しさに強く目を閉じ、唇を噛む




そのモノは暫く脈動を続けた後、
ヌルヌルと自分の体内から引き抜かれていった

貫く芯を無くしたシュリの身体は
崩れ落ちる様に ガクンと床に膝をついた





「ぁぁ・・・・・・よかったぞ、シュリ・・・・・
 こんなに良いのは久しぶりだ・・・・」



ガルシアは裸のまま、テーブルに寄ると汗を拭い
満足気に再びグイと酒を煽った






「ラウム、次からはワシが来る前に脱がせておけ
 手間がかかる、わかったな?」


ラウは崩れ落ちたシュリを縛る腕のベルトを外し、抱き起こしながら
「はい・・」 とだけ答えた




ラウに抱き起こされても、震える体は一向に止まらなかった
そのシュリの腿を自身の血なのか、
それともガルシアの精なのか・・・
生温かいモノが伝い落ちて行く



その感覚と同時に シュリは気を失い倒れ込んだ






華燭の城 - 37 に続く
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華燭の城 - 37

・・・・・・  ここは・・・・・・・



ガルシアに無理矢理に飲まされた大量の酒のためなのか
それ以上に 想像もしていなかった醜行のショックか
部屋までどうやって戻って来たのか、
その記憶さえ定かではなかった



だが、暗い部屋でぼんやりと見える濃紺と白の
ゆったりと豊かなドレープの天蓋は
自分の部屋に間違いなかった





自分はあの部屋で・・・
・・・・・・ ガルシアに・・・・・
   

・・・・あれは・・・ 夢・・・


・・・そう思いたい





だが身体の奥底には確かな痛みがあった




そっと右手を天井へ伸ばしてみた

その手は自分の意思とは関係なく 小刻みに震え続け
腕には縛られた痕が、くっきりと残っている





・・・ 現実・・・・




おぞましさに体が震えた
 



その時だった
震える手を、ふいに握られた


・・・・! ガルシア・・・・・!


反射的に身体が拒絶の反応をし、
手を引きながら首を振り、その手の主を見た



そこにはベッドの端に腰掛け
シュリの手を 両手で包み込む様に握るラウが居た





「・・・ ラ・・ ウ・・・・・」 

その手がガルシアでなかった事に安堵し
小さく息を吐く




「気が付かれましたか?
 気を失っておられました 
 腕に痕が残ってしまいましたね
 指先もこんなに・・・・」


爪が割れ、血が滲む手と
伸ばした右腕に残る 縛られた赤い痕を見ながらラウはそう言うと
シュリの額にかかる髪をそっと撫でた



触れられ、ピクンとわずかに首をすくめたが
ラウの繊細な指の感覚に 何故か胸に熱い物が込み上げてくる


シュリは思わず左腕で顔を覆い隠していた
そうしなければ 今にも感情が零れ落ちそうだった






「大丈夫ですか?」

ラウが右手を握ったまま視線を向ける




その視線が苦しかった
ガルシアに汚された自分を見られまいと
ただ小さく首を振り、握られた手を振り解き背を向けた




「・・っ・・ クッ・・・!」

途端にギシッ・・と軋むような 体の奥からの痛みに襲われ
思わず声を上げた

長時間縛られた上に激しい責めを受け続けた代償だった





「・・・・ 痛みますか?」

ラウはそう言うと 掛けられていた上掛けをおもむろに剥がし
全裸で背を向けているシュリの脚を  「失礼します」  とだけ言い
体を丸めさせるように膝を折った



「ンッ・・・やめろ、ラウ・・・!  触るな・・・・・!」

剥がされた上掛けを取り返そうと抵抗する




「放っておいてはいけません」

身体を丸め背を向けるシュリの顔を
ラウは覆い被さるようにして覗き込んだ



「今、きちんと手当をしておかなければ これからもっと痛みます
 さ・・・ 膝を抱えてじっとして・・・・・・
 少しだけ我慢して下さい
 ・・・薬を・・・・」




ラウの左腕が
膝を抱え 小さく丸まったシュリの身体を
抱え込む様に押さえ付けた



「・・っ ・・・・何を・・・」

痛みに耐えながら ラウを振り返ろうとした時・・・・
ガルシアの激しい責めを受けた自身の後ろに 
何か冷たい物が触れた


痛む体がビクッと動く


「っ・・・!  ラ・・・ラウ・・・  ・・・・・やめっ・・・・・・!」


指先に薬をつけているのか
冷たいラウの指が ヌルリとシュリの後ろに滑り込んだ



「っんっ・・!」 

思わず強く目を閉じ、膝を抱えたままシーツを握り締める




「シュリ様、もっと力を抜いて下さい
 これでは薬が・・・・ 
 少々痛むかもしれませんが・・・・・・・」






華燭の城 - 38 に続く
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華燭の城 - 38

ガルシアとは違う細い指だった

その細く繊細で冷たい指が ゆるゆると自分の体内に入り込み
粘膜を這うようにゆっくりと動き 内部に薬を塗りつけていく



「ぁぁっ ・・・・んぁっ・・・・! やめ・・・・・・・・」

切ない声をあげ、シュリの体が震えた



それは傷に薬を塗り込まれる痛みのせいでもあったが
執拗に弄ばれた体が、まだその記憶を・・ 感覚を失っていなかった


自分の意思に反し、反応を示すそれを見られまいと
シュリは強く脚を抱え込んだ





「これほど狭いとは・・・・・・・
 辛かったでしょう・・・・・」

ラウは呟く様に言うと、
何度も薬を付け直しては指を抽挿させていく




「ぁ・・・んっ・・ ん・・・」

その度に、鼓動が激しくなった
自分の握った拳に歯を立てて、必死に声を堪え(こらえ)た



だがやがて、ガルシアに犯された時と同じように
部屋に湿った音がし始めていた
その音はシュリの耳にも届く




「もう・・・・ もう、いい・・・・  ラウ・・・・・・・ やめろ・・・・っ・・」

痛みと羞恥で顔を隠したシュリが 膝を抱えたまま制止する




ラウは黙ったまま 薬を塗り終えると
入ってきた時と同じように それは滑らかに引き抜かれた


「ンッ・・・ッ・・・・・・」
 
やっとラウの指から解放され
ホッとした様に肩で1つ 大きく息をする






「シュリ様・・・・ もう一度、上を向いて下さい」
ラウが背中越しに声を掛けた


「・・・・・!  ・・・・・・ もういい・・・下がれ・・・・」
シュリが首を振った



が、シュリの言葉を最後まで聞かず
ラウは蹲る(うずくまる)シュリの身体を簡単に仰向けに返していた



「・・っ・・!」

自身の反応を見られまいと、
咄嗟に上掛けを引き上げようとするシュリの手を ラウが掴んだ




「そのままでは ご自身がお辛いだけです」

ラウはベッドの横に腰を掛けたまま
じっと 何かを諭すようにシュリの顔を見つめ
掴んだシュリの手にそっと自分の左手を重ねた

そして腰まで引き上げた上掛けの中に自分の右手を入れ
昂ぶっているシュリのモノに手を添えた



「・・クッっ・・・」 

シュリが 思わず小さく声をあげる




「ラ・・ウ・・・・ ・・ やめろ・・・  もう・・・ 放っておいてくれ・・・・・・」

首を振りながらラウの手を止めようと押さえた




「恥かしがる事ではありません
 寝具の中です、私には何も見えません」

そう言うとラウは側で灯っていた蝋燭の火を フッと吹き消した




部屋が暖炉からの灯りだけに包まれると
ラウの細い指がシュリを促し始める



「やめろっ・・! ラウ・・・・
 ・・・ぁぁあ・・・・ っ・・・ ぃや・・・・  やめ・・・ ろ・・・」

静かにゆっくりと上下するラウの指に
小さく体を震わせながらも脚に力が入り、
わずかだが腰が上がって身体がのけ反る



「シュリ様・・・ 我慢なさらず・・・・」

「・・・ ンッ・・・ンッ・・・・・・・・!」

「気持ちを楽に・・・・」

「やっ・・・ め・・・・ ラウ・・・・っ・・・・」

「・・・・・・」





「・・・ぁっ・・・・  んっ・・んっ・・!
 ・・・・・・・・・ もう・・・ラウ・・ ・・・ンッッ!!」


暫くは耐えていたものの、
幾度目かの指の動きで シュリは上掛けを握り締めたまま小さく喘ぎ
痛みと自制と羞恥の中でラウの手のひらにトクン。と精を吐き出した

両手で顔を覆い隠したシュリの
今にも泣きそうな息遣いがかすかに響き続けた





「少しは楽になられましたか?」

ラウはいつもと変わりない静かな声で
顔色一つ変えず シュリの身体を拭い終えようとしていた





「起き上がれますか?
 さあ、これを飲んで・・・・・・ 落ち着きます」 

そっと抱き起こした



全裸のシュリをベッドに座らせ、夜着を着せると
昨夜と同じ薬湯を差し出し、顔を伏せたままのシュリの手の中に 
カップを握らせる



昨日の薬湯・・・・
シュリは両手でカップを握ったまま深呼吸をし
酷く苦いそれを一気に飲み干した
一瞬でもいい、全てを忘れ眠りたかった





ラウにカップを差し出す時には 既に急激な眩暈に襲われていた
天井が回り、心臓がドクドクと鳴り始める

その苦しさにシュリは喘いだ
昨夜と同じだった


だが、それは 今のこの気持ちの苦しさに比べれば耐えるなど容易い

ハァハァと肩で息をするシュリを静かに見下しながら、
ラウは立ち上がり暖炉に薪を放り込んだ



「暫くの我慢ですよ」

遠くでラウの声がしていた






華燭の城 - 39 に続く
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華燭の城 - 39

意識を失う様に堕ちたシュリはガルシアの夢をみた
大きなあの体が自分の上に圧し掛かってくる

卑猥な舌が体中を這いまわり
縛られたまま貫かれ凌辱される・・・ 




「・・・・・・やめろっ!!!」

叫ぶ自分の声で目を覚ました



「シュリ様」

側でラウの声がした


「・・・ 夢・・・・・」

早かった呼吸が徐々にゆっくりになり
シュリが大きく息を吐く


「大丈夫ですか?」

ラウは暖炉の火をベッド脇の蝋燭に移すと
シュリの元へと寄せた



「・・ラウ・・・」


明るさを取り戻した部屋で ラウがベッドの端に腰掛けていた

シュリが小さく答え、身体を向けようとするのを
ラウの腕が支える



あの薬湯の効用か、相変わらず気分は悪く苦しかったが
先程まで寝返りを打つのさえ辛かった体の痛みは
嘘の様に軽くなっていた





「動けますか?」

「ああ、大丈夫だ・・・
 この薬が無かったら・・・・ 
 ラウが居なかったら・・・・ 私はどうなっていただろう・・・・
 この酷い痛みと・・・・ ・・・・  あんな・・・・・・・・・・・」


ガルシアに犯されたという事実を改めて認識し シュリが言葉を詰まらせる




「・・・少しでも 私の薬がお役に立てたなら幸いです」

胸元まで下がった上掛けを肩まで直すと
ラウはシュリの額の汗をそっと拭いながら微笑んだ






「・・・この薬・・・・ ラウの家の物だと言っていたが
 今は?  ・・・・ラウが自分で作っているのか?」

横になったまま 暖炉の炎に照らされるラウの顔を見ていた
静かで丹精な整ったその顔立ちは、
今夜の事など何事も無かったように思わせてくれる




「はい、今は私が部屋で調合し、作っております
 私の養父は街で薬師をしていますので、それで私も薬の・・・・」


薬師・・・・!
その言葉にシュリが ガバと起き上がった




「ラウ・・・!
 お前は薬師なのか!?
 もしそうなら・・・ 薬師なら・・・・・・
 弟を・・・・ ジーナを診てはもらえないか!!」

横に腰掛けたラウの服を思わず掴んでいた





「シュリ様、そんなに興奮されては まだお体に障ります」

ラウがシュリの肩をそっと押さえる



「私はいい!
 弟を・・・・・!  国にいる私の弟だ!
 小さい頃から病で・・・ 今もあまり良くはない・・・・
 私の国には治せる医者も薬師も居なかった
 この国なら・・・ 
 この大国なら、もっと優秀な医師もたくさん居るはず・・・・!
 お前が弟を・・・ いや直接が無理なら、父上殿・・・・・
 知り合いの医師でもいい・・・
 誰か、誰かジーナを・・・・」

シュリの手が、ラウの両腕をすがる様に強く掴む



そのシュリの手に ラウが自分の手を重ねた


「ここは帝国一の大国
 優秀な医師・薬師も大勢おります
 もちろん養父にも、その知り合いにも
 弟君の事を頼む事は出来るでしょう
 ですが・・・・」

一度 言葉を切ると、ラウは真っ直ぐにシュリを見つめた



「・・・・・・ですが
 それを神国に出向かせる事が出来るかどうかは
 陛下の御心次第・・・・
 陛下のお許しが無ければ、到底無理な事・・・・
 ・・・申し訳ありません」

小さく頭を下げるラウを 今度はシュリが見つめる番だった




「ガルシアの・・・ 許可・・・・・・・・」

これだけの辱しめを受けながら、
まだガルシアに頭を下げなくてはいけないのか・・・・
「クソッ・・・」  ドンッと自分の腿を拳で叩き付けた




だがプライドなどと言ってはいられなかった

自分が迷っているうちにも、弟は病に苦しんでいるのだ・・・
まして手遅れなどになったら・・・



「わかった・・・
 ガルシアの・・・・・ ガルシアの許可さえあれば・・・だな・・?」

「・・・はい」 

ラウの返事にシュリはキリと唇を噛んだ




そのまま何かを思い、黙って一点を見つめ
ラウの腕を握ったまま じっと動かないシュリの体にラウが手を添えた



「シュリ様、今日はもうお休みになってください
 薬が効いているうちに・・・
 弟君の事は夜が明けなければ、今いくら お考えになられても・・・」

シュリの身体をベッドへと横たえた






華燭の城 - 40 に続く
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華燭の城 - 40

翌日の体調はやはり最悪だった

薬湯を飲んだ後は必ず酷いだるさと息苦しさ
そして最悪の気分に襲われる

それでもラウに促され、用意された朝食をほんのわずかな量
無理矢理に飲み込んだ

やっと動ける様になってから シュリがラウに声をかけた





「今日は宴は無いのだろ?
 だったら・・・・ また少し城内を歩きたい」

「ええ、今日から3日間、陛下は公務で国外ですので
 それは構いませんが・・・・・ お体は・・・?
 あまり無理をされず、今日はお休みになられた方が
 よろしいかと思いますが・・・」



その声にシュリは首を振った



「この前の様に・・・・ また皆に会いたいんだ・・・・・
 出来るだけ多くの人に」



ラウは小さく首を傾げ、シュリを見つめたが

「わかりました
 シュリ様個人への 国外からの謁見の申し込みも
 殺到していると聞いていますし、
 側近の方にその辺りの事を聞いてみましょう
 陛下と連絡が付くかもしれません
 お返事が頂けるまではとりあえず・・・・
 今日は雨も上がっていますし 少しだけ散歩などはいかがですか?
 先日は ダルクの所で時間をとってしまい、外には出られませんでしたから
 城の敷地内だけですが 風に当たられては」










城の造りは自分の部屋から見たよりも遥かに複雑な構造で
廊下で繋がった棟や館が いくつも連なった形になっており
その棟ごとに用途が決まっていた


ガルシアの居る、あの黒扉のある館は 主棟と呼ばれるだけあって
城の中でも一番大きく、高くそびえている
シュリの部屋は主棟に隣接した館にあった


初めてこの城に来た時、皆が出迎えたホールや
宴が行われた大広間は公用の館にあり
そこには官吏達の執務室もあるらしかった




その公用の館の正面扉を開いて二人は外に出た





広い庭だった
が、庭と言っても美しい庭園があるわけはない
ただただ石畳が敷き詰められただけの広場だ


そこを並んでゆっくりと歩いた
少し冷たい風が まだ熱っぽい身体に心地良い





「・・・ 緑の木は・・・・ 本当に一本も無いんだな」  

何も無い石だけの道を歩きながら シュリが呟いた



「・・・・・木・・・・・ ですか?」

ラウが不思議そうに返事をした時
広場の奥から快活な声が聞こえてくる



「・・・・ あれは・・?」

何気なくそちらへ足を向けたシュリの後を、ラウがついて行く






通路を抜け再び開けた場所に出ると
そこでは兵士達が、一列に整列し剣の稽古をしていた


兵士と言ってもまだ皆 年若く、
最年少と思われる背の低い小さな子は 握る剣の方が大きく見える

そのため剣を振るうというより
振った剣の重さに自分が振り回されている感じだ

その横で士官らしき男が 号令をかけていた




「あんなに小さい子も兵士なのか?」

足を止めたシュリが尋ねる



「ええ、あれは訓練兵です
 まだ実戦には出ませんが、毎日こうして訓練をしているようです
 剣の他にも武道や、銃火器の取り扱いも学びます」

ラウは 近くの石造りのベンチをシュリに勧めながら答えた



が、シュリはベンチに腰掛けようとはせず
掛け声とともに剣を振るう兵士達をじっと見つめていた




「あれほど幼い時から・・・・」

しかし、心配そうなシュリの顔とは逆に
皆の顔はどれも生き生きとし 楽しそうに剣を振っている 

訓練といっても、小さい者は大きい者に負けじと、
そして大きい者は小さい者の手本になろうと
互いに思い遣っているのが見てとれた



「大丈夫・・・・そうだな・・・・・ 楽しそうだ
 私も久しぶりにやろうかな
 剣術、好きなんだ・・・・」

安堵の表情を見せると いきなりそう言って
シュリが兵士達の方へ歩き始める



「あ、シュリ様! しかし、まだお体が・・・」

驚いたラウが慌てて後を追った






華燭の城 - 41 に続く
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華燭の城 - 41

二人が兵士達の側まで行くと、誰となく
「シュリ様だ・・・・・!」  と声がして
皆が素振りの手を止めた



シュリが 一緒に稽古をしたい と声を掛けると
士官は驚いた表情を見せたが
一番近くに居た まだ14、5歳の若い兵は
「・・・・で ・・・・・ではこれを!!!」  と
深々と頭を下げ、嬉しそうに自分の剣を差し出した




「シュリ様・・・・!」

お体が・・・ と続けそうになってラウは慌てて口をつぐむ




そんなラウの声も聞かず、シュリが列の一番端に並び
一緒になって剣を振り始めると 広場に歓声が上がった





借りた剣は 実戦用の真剣ではなかったが
重さや扱いに慣れる為の訓練であり、
刃が斬れないだけでそれなりの重さもあり
真剣と何ら遜色(そんしょく)ない



その剣を嬉しそうに握るシュリの側で 諦めた様に
「お体は・・・・ 大丈夫ですか?」 
とラウが耳元で小さく声を掛けた




「ああ、薬湯が効いてるみたいだ  ・・・・ずいぶんと楽になった」

手を止める事無くシュリが答える





「それは良かった・・・・
 それでは・・・・  少しお相手を、お願いできますか?
 素振りだけでは物足らなそうなので」 
と微笑んだ



「・・・・ラウが?
 でも、お前は脚が・・・・・・」

シュリが言い終らぬうちに 
ラウの杖が空を斬り、鋭い風音が一瞬 低く鳴った





それは、いきなりの出来事だった






その場に居た全員が  「・・あっっっ!」  と息を呑み
一瞬で 空気が凍りつく



一介の使用人が皇太子の頭上に物を・・・
まして杖を故意に振り下ろすなど前代未聞
あってはならない事だった




「・・・・きっ・・・ キサマっ!!!  何を無礼な事をっ!!」

士官の男が慌てて走り寄り
怒りに任せ、手に持つ剣をラウの頭上に振り上げた 




「待てっ!」

だがシュリは、そのラウの不意の一撃を軽々と剣で受け止めると 
「構わない」  一言そう言い、
左手で軽く士官を制止する






「し、しかしシュリ様! こんな事が陛下に・・・・!」

「ガル・・・いや、陛下には黙っておけばいい」



ラウの顔を見ながら クスリと笑った
 


「脚は心配なさそうだな、 じゃあ・・ お願いしようか」

「ええ、では遠慮なく・・・!」



言い終わるが早いかラウは金属の杖を
まるで自身の体の一部の様に使い シュリに向かってくる
脚を引きずってはいるものの、それは健常者と変わりないどころか
相当の使い手である事は間違いなかった

それでいて 全く手加減も、躊躇もない



そんなラウの杖・・・ 剣をシュリは本当に楽しそうに
真っ直ぐに受け止めていた



そして徐々にラウの剣も激しさを増す

お互いに殺傷力の無い剣とはいえ、
その攻撃をまともに体で受ければ 重度の打撲や骨折程度なら
十分に在り得る程だ

それを見守る一同の意識も完全に呑み込まれていた





「士官殿!」

その観衆の中に シュリがふいに声を放った
以外にも楽しそうで 笑っているかの様に聞こえるその声で・・・



急に呼ばれた士官は驚いた

この真剣勝負と言ってもいい程の 戦いの中で
話しかけられるとは露にも思っていなかったのだから・・・・

ビクンと体を震わせ 剣を握る自分の右手に思わず体に力が入って
そして、気が付いた




「・・・シュリ様!」

自身の剣を絶妙ともいえるシュリの間合いに放り入れる




皆がその美しさに半ば惚け、ただただ見つめる中
その一挙手一投足に目を向け、理解し
そのシュリの言葉の意味を正しく理解できた士官は
さすがと言うべきだった


放り込まれた剣、それを宙で・・・ 左手で受け取ったシュリは 
投げ入れた指揮官に軽く微笑み、目礼をし
一度 ラウから体を引いた


その剣の重さを確かめる様に 掌で剣を一回転させ握り直し
右手の剣を逆手に取り直すと胸の前に置く
左手の剣は自然体で下ろし、
右足を一歩引くとラウを少し斜めに見ながら立った


そうして シュリの手に・・・ 神の双剣が握られた






華燭の城 - 42 に続く
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華燭の城 - 42

そのまま時が膠着(こうちゃく)する
シュリのその姿には 余分な力みも何もない


見ていた少年兵には、シュリは ただじっと立っているだけ
ラウもまたそれを眺めながら休んでいる、としか思えず
次第にザワザワとし始めていた


1人の少年が痺れを切らし、士官の方を向いた




「どうしてラウは打ち込まないのですか?」

シュリが双剣を握ってからというもの、
ラウも一歩も動いていない



「いや、ラウはもう頭の中では打ち込んでいるのだ
 何度も何度も・・・
 だか全て失策
 だから実際には打ち込みたくても、打ち込めないのだ
 シュリ様には一分の隙もない・・・・・」


士官は緊張で乾き切った喉から掠れた(かすれた)返事をし、
それを聞いた少年はゴクリを唾を飲んだ






数分が経った時、ラウが動いた
どこかに小さな勝機を見出したのかもしれない
もしくは、イチかバチかの勝負に出たのか・・・・
そうして再び始まったラウの攻撃


カンカンと3本の剣がぶつかる高い音が広場に響く





「これがあの噂に聞く シュリ様の双剣・・・・」

無駄のない体術と素早い双剣の捌きで、
シュリはその場からほとんど動いていない

それは 舞台の上で、いつかの神儀を舞っているようでもあり、
強くしなやかで美しかった






「・・・ す・・・ すごい・・・・
 ・・・重い剣を・・・しかも二振り・・・ あんなに軽々と・・・」

「こんなの、師範様の御手合わせでも見た事ないよ・・・」

「シュリ様が こんなにお強いなんて・・・」



皆、二人の勝負に目を奪われ 釘付けになっていた







”王となる者”として生まれた者は
幼い頃より帝王学と共に学問や馬術、そして剣も教え込まれる

それはやがて神国の王となるはずだったシュリも例外ではなく 
修練は務めだった

そして何よりも 重い二双の剣を自在に扱う神儀を舞う為の
シュリの日常でもあった



そして・・・ その側にはいつも 大好きな兄を憧れの眼差しで見つめ
応援する弟がいた




・・・兄様 頑張って! 
・・・兄様・・・・ 兄様・・・・


シュリの頭の中に 優しい弟の声が響いていた


・・・ジーナ・・・・








長い攻防が続き、その時はいきなり訪れた


ラウの突きをかわし、体を回転させながら
わずかに一歩踏み込んだシュリの右剣が ラウの真正面から入り
その喉元に触れる寸前でピタリと止まる




・・・・・クッ!!

ラウの体が一瞬 驚いた様に硬直し、その剣先を見つめた





「・・・・参りました」 

ラウが ガクンと膝を付き、頭を下げた




途端に 固唾を飲んで見守っていた兵士達から
「おおーーーーーっ!」  と歓声が上がる




シュリは微笑みながら ひざまずくラウに手を差し伸べた




「最後、手加減しなかったか?」

そう微笑む


「いいえ、とんでもない・・・ 
 本気で打ち込ませて頂きました
 久しぶりに 本当に気持ちの良い時間でした
 ありがとうございます」

「私もだ、楽しかったよ
 ラウは強いな」



シュリに手を引かれ、ラウが立ち上げる
どこからともなく拍手が湧き起こり
それに少し驚きながらも シュリも微笑んでいた





「ありがとう、稽古の邪魔をしたね」 

「いえ、素晴らしい物を見せて頂きました! また、いつでも!!」



借りた剣を返しながら  シュリが言うと
若い兵は興奮した様子で頭を下げた






華燭の城 - 43 に続く
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華燭の城 - 43

広場を後にし、並んで歩きながら 
ラウが前を向いたまま口を開いた


「先ほどの手合せ・・・・ 本当に楽しまれましたか?」


その言葉に シュリがふと足を止め
黙ったまま隣のラウを見つめる



「途中から 何を考えていらっしゃいました?
 心、ここに在らず・・・・ でしたよね」

「さすがだな、ラウ・・
 あれだけの剣を振るいながら、それに気が付くなんて・・・・・」

「いいえ・・・・ 
 考え事をされながらのシュリ様にさえ 私は負けたのですから
 大した事はありません」




大きく息をつくシュリの横で ラウが静かに頭を下げる

だがそれは謙遜ではなく、
シュリが本気を出せば実力に大差があることは
誰の目にも明らかだった




「弟を思い出していた・・・・・」

「ジーナ様・・・でしたね」

「ああ・・・私の宝だ
 そして、神国の宝でもある・・・ 
 何としてもジーナを、元気にしてやりたい・・・・
 ジーナの病を治せる医師さえいれば
 これからはジーナが私の代わりに・・・・
 立派に神儀の責務も果たしてくれるはず・・・・」

「・・・・しかし・・・」


何かを言いかけてラウが言葉を止めた





「・・・しかし・・・・ 何だ?」

問われたラウは頭を下げたまま、言い難そうに続けた



「神国の神儀は、神の子とされる者だけに受け継がれる
 一子相伝と聞いた事があります
 シュリ様がその一子であるなら、ジーナ様は・・・」


「ラウは何でも良く知っているな・・・・」


シュリの目が再び遠い空へと向かう
そこは青空ではなく、暗い雲がどこまでも広がっていた






「ラウ・・・・ 
 通常、年に1度 あるはずの神儀は 
 ある年を境に数年行われなくなるんだ
 それは世代が代わる時・・・・ 
 その数年間、神は不在となり、
 疫病や不作、恐慌が続く凶年と呼ばれる事を知っているか?」


「いいえ、それは初めて聞きました」


「私の父王も皇后と結婚するまでは ”神”として
 その責を忠実に務めた

 王の結婚は、普通ならば国を挙げての祝事だ
 だが神国では、皮肉にもその年から凶年に入る

 皇子・・・ 私が生まれ、
 父の跡を継いで 私が神儀を初めて行ったのは6歳の時

 ・・・・ではどうして6年もの間、
 父王は凶年と判っていながら神儀を行なわなかったか・・・
 ・・・わかるか?」



その問い掛けはラウに答えを期待したものではない




「躰(からだ)が穢れて(けがれて)しまっては
 神の器には成れないと言われているからだ

 神儀とは・・・
 ”神”が私のこの身体を依代(よりしろ)にし
 世の人々に災いをもたらす”百鬼悪魔”と戦い 祈る事・・・
 神儀を行う・・・・
 つまり百鬼と戦い、人を守る事が出来るのは、穢れ無き者のみ

 他者と交わることはどんな形でも許されない
 それが結婚という形であっても、だ・・・・ 
 だから父王は結婚と同時にその資格を失った
 
 その為に、生まれた子は ものごころ付いた時から・・・
 やっと歩けるようになった頃から、厳しい修練を受ける
 一刻も早く神儀を行い、皆を救えるようにと・・・・」




「結婚さえも・・・・ ですか・・・
 それほどまでとは・・・・ 存じ上げませんでした」



「それほどに 厳しい掟があるんだ
 躰を穢がしてはならぬ、という・・・・
 
 祖父の代までは、実母である皇后でさえも
 産まれた我が子を育てる事は疎か(おろか)、触れる事さえ赦されなかった
 さすがに、今は皇后が自身の手で育てられる様になったが・・・
 
 そういう意味で・・・・
 そういう・・・・ ”身体”の事に関しては今でも・・・・
 神の子と成るべくして生まれた皇子の世話が出来るのは、
 俗世から隔離された聖職者と、父王のみ・・・
 中でも侍従長と呼ばれる特別な資格を持った者は
 一生を一人の皇子の為のみに捧げ生きると言われている」




「侍従が・・・ 生まれた家の、代々の家職として付き添い
 その一生を捧げるのは判ります
 近衛でもそういう家柄はありますし・・・・
 ですが・・・・
 シュリ様はそれでよろしいのですか?
 たったお一人で、世界中の信仰を背負い
 幼い頃からその様に厳しい掟に身を置く事・・・・
 ・・・・もっと自由になりたいと思った事はないのですか?」



「もっと自由に・・・・・か・・・・
 幼い頃は、他の子と同じ様に遊びたいと泣いた事もあったそうだ
 ・・・・・もう忘れてしまったが・・・・

 でもそれが私の生まれ・・・・ 運命(さだめ)・・・・」



「そんな・・・・・」



「正確には・・・・・・運命(さだめ)だった・・・
 ・・・・・・・・だが、私には・・・
 ・・・穢された私には・・・ もうその資格もない」




その言葉に一瞬 顔を上げたラウだったが、
すぐにまた目を伏せる
そんなラウを視界の端に捉えながら、シュリはゆっくりと息をついた





「お前の言う通り・・・・・
 私の思いは一子相伝の教えには背くかもしれない
 永い神国の掟には沿っていないかもしれない
 だが、このままにはできない・・・・
 
 これからはジーナが私の代わりを果たしてくれる・・・
 きっと・・・ 
 ・・・・そう信じてる」






シュリの言葉を、ラウはじっと下を向いたまま聞いていた

この年頃の青年が いきなり同じ状況に置かれたならば、
暴れ、悪態を付き、呪い叫ぶのが本当だろう

吐き出してしまいたい思いは溢れているはずだ



だが、淡々と静かに話すシュリが、ラウには返って傷ましかった






華燭の城 - 44 に続く
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華燭の城 - 44

シュリの願い、想い・・・・
それは自身の為ではなく、全てが世界中の国の為、信仰の為・・・
シュリの背負ってきた運命の重さを知って 「そうなる事を私も祈ります」
ラウはそう返すのがやっとだった



場の音が冷たい風だけになる




「それで・・・・・」 重い沈黙を嫌う様に、ラウが口を開いた





「それで、シュリ様はあれほどにお強いのですね」


「さっきの・・・ あれか・・・・」


「はい
 幼い頃より修練されたシュリ様に、私が身の程知らずでした」


「確かに、先のあれは神儀の双剣術だ・・・
 普段の戦さに使う物ではないが
 百鬼と戦う為に実戦的にできているからな・・・
 ・・・そしてあれは・・・・
 ・・・神儀以外で表に出すことも禁じられている神国の秘匿・・・・」



そのシュリの言葉にラウが驚いたように顔を上げた



「でしたら・・・
 そうであるなら、あの様な場で他者に見せるのは・・・」


「そうだな・・・
 何故あの場で双剣を握ったのか、と聞かれたら・・・
 純粋な目で真摯(しんし)に剣術を学ぶ者達に、私の剣技が・・・
 何か少しでも役に立つならと思った・・・・・

 ・・・・と言えば聞こえが良いかもしれないな・・・・」


「・・・シュリ様?」




ふっと自嘲の笑みを浮かべたシュリの顔を
ラウが心配そうに見詰めた





「何故だろうな・・・・
 急に虚しくなった・・・・
 幼い頃から血の滲む思いで修練してきた剣術が、もう無用になった
 私の存在その物が無意味になった
 私の行ってきた事、全てが・・・・

 そう思うと・・・・
 最後に誰かに見て欲しいと・・ 思ったのかもしれないな・・・・

 神の子としての 不可侵不犯の掟を破ってしまった私には
 もう何一つ許されないのだから・・・」



そこまで言うとシュリは再び笑みを浮かべた
それは全てに絶望した悲しい微笑みだった





「その様な事は・・・・・
 ・・・・シュリ様ご自身の望みは・・・ 何か無いのですか・・・?」


小さく息を吐くシュリの横顔に、ラウが慰めの様に問いかける
国の為ではなく、自身の為の望みをと・・・

だがシュリは、柔らかく笑んで、ラウに顔を向けた



「私に、何かを望むなど・・・ もう許されはしないだろう?
 だがもしできると言うなら・・・・・・
 できれば・・・ せめてもう一度ぐらい神国へ戻り
 皆の元気な顔を見たいと・・・そう思うだけだ・・・」




ラウは言葉に詰まり、もう何も言い返せなかった

その場凌ぎの慰めで、望みを聞いておきながら
そのささやかな答えさえ、自分は叶えてやることが出来ないのだ



「申し訳、ありません・・・・」

頭を下げる事しかできなかった




「ラウが悪い訳じゃない
 謝らなくていい
 それに少し、話し過ぎた・・・・
 ・・・・・・ごめん・・・今のは忘れて・・・・・」


「シュリ様は、どんなお姿でもシュリ様です
 私は神国の掟は存じませんが
 この国においてのシュリ様が
 皆の希望であることには間違いないのです
 だから・・・・・・」
 


「ありがとう、ラウ・・・」


悲し気なその笑みにラウはそれ以上は何も言わなかった
再び静寂が訪れ 冷たい風音が二人の間を走り抜けて行く








「・・・寒くなったな、部屋へ戻ろう」

その空気を払拭するように、シュリがラウの顔を覗き込み、
棟の方へ小さく首を傾げながら微笑んで見せた

それはもう、いつもの穏やかなシュリのものだった




「はい」
ラウも顔を上げた

 

「そういえば・・・・
 シュリ様への謁見の件ですが ・・・許可が下りたそうです」


「・・・それは本当か?」

話をしたのは今朝の事だ

その回答の早さと
何よりも外の人間との交流を許された事に驚いたのだった




「あれほど情報が漏れるのを恐れていたのに・・・・」


「はい。
 ですが勿論お一人では・・・
 必ず陛下付きの側近の方が3名以上、お側に・・・・
 というのが条件との事です
 陛下としても外国からの来賓を
 そう無下にお断りもできないのではないかと」


「ガルシアの側近は、そんなにたくさんいるのか?
 公務に同行して行った者もいるんだろう?」


「側近の方は、名は側近ですが 言わば陛下の私兵
 その人数・構成とも 正確には公表されておりません
 噂では、10人とも20人とも・・・・」


「私兵か・・・ 確かにその方がピッタリだな」


シュリの脳裏に あの車で一緒だった黒服の
屈強なオーバストの姿が蘇っていた






華燭の城 - 45 に続く
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華燭の城 - 45

その日の午後からすぐに、
シュリは多くの謁見公務を果たしていた

ラウが少し休まれた方が・・・と言う程
食事の時間さえ惜しみ、諸外国からの要人達に逢っていく





使用人であるラウは謁見の間に入る事は許されなかったが、
ラウの言葉通り、ガルシアの側近が3名、常時側にいた


その側近が 
「次は○○国の外務大臣でございます」等と 小さく教えるので
シュリは何も戸惑うことなく謁見を進める事ができていた




3人の、黒服を着たガルシアの側近・・・私兵達は
今回の神国の一件も、ガルシアの意も良く理解している様で
忠実にシュリの見張りを続けていた

その証拠に 話題が神国に及ぶと
もう時間ですので・・・と、
あっさりとそして見事に謁見は打ち切られた




だが、車にいたあのオーバストという男は一度も姿を見せる事はなかった
おそらくガルシアの最も近くに居る存在で、
今回も同行して行ったのだろう

あれが側近長・・・・ 
私兵の中でも 大佐と呼ばれるからには あれが隊長だったのか・・・
各国の外交と話しをしながら シュリはそんな事を考えていた









3日後の夜、帰国の一報とほぼ同時に
ガルシアはシュリをあの部屋に呼んだ

それは一刻も早くシュリの体を貪りたいという
意の現れでもあった




その事を判っていながら
シュリは長い廊下をラウと並んで歩いていた





「今夜、弟の件 ガルシアに頼んでみるつもりだ」

真っ直ぐに前を見つめて歩くシュリの声に
ラウの返事はなかった






黒い扉を抜け、部屋に入ると
まだそこにガルシアの姿は見えなかった


シュリは部屋の中程まで進み、じっと壁を見つめた
ここで犯された記憶が蘇る



たぶん、今夜も・・・・ いや、たぶんではなく それは確実・・・
・・・・無意識に拳を握り締めていた







暫くするとガチャリと後ろで音がした

扉が開き、
入口の横に立っていたラウが頭を下げる気配がする



その主は部屋に入るなり

「どうした、ラウム!
 ワシが来るまでに 準備しておけと言ったはずだぞ!」


まだ衣服を身に付けたまま 部屋の中央に立つシュリの後ろ姿に
ガルシアは不満の声をあげた
 
その不意の大声にも、シュリもラウも微動だにしない






「・・・・ ほう・・」


そんな2人を怪訝そうに見ながら
ガルシアはシュリの真横を通り
キャビネットから一本の酒瓶とグラスを握る

腹の底を探るように、一度もシュリから視線を外すことなく
乱暴にソファーに腰を下ろした





「ワシの居ない3日間、謁見を一人でやったそうだな?」

先の大声とは打って変わった静かな声だった



「首尾は上々だったと聞いているが
 急に謁見を受けるなどと言うからには
 助けでも呼ぶつもりだったのだろうが・・・・残念だったな」

先制攻撃とばかりに皮肉を乗せた言葉を浴びせ掛け
片方だけ唇を上げた



だが、そのガルシアを前にして
シュリは少しも怯む(ひるむ)事無く、立ったまま小さく頭を下げた



「お願いが・・・・ あります」



ガルシアは酒を注ぎながら、ジロリと目だけをシュリに向けた
反撃を想定していたその目には一種の意外感が宿っている



「願い・・・・・・  だと?
 謁見を一人でこなしたからと言って、思い上がるなよ?
 お前はいつからワシに頼み事が出来る立場になった?」



鼻で笑う仕草を見せ グラスの酒を一気に飲み込んだ



再び酒瓶に手を伸ばすガルシアに シュリが言葉を続けた



「この国には、優秀な医師や薬師がたくさん居ると聞きました
 その者を、私の国へ・・・・・・
 ・・・・・・・ 神国へ・・・・  
 ・・・病の弟の元へ遣わせて欲しいのです」






華燭の城 - 46 に続く
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華燭の城 - 46

いきなりの話に ガルシアは頭をわずかに傾け 顔を歪めると
露骨に面倒そうな顔をした



「聞いた・・・?
 ラウムが何か吹き込んだか・・・・?」


ジロリと扉の横に立つラウへも、冷たい視線を送った
が、ラウもそれに臆する事無く、ただじっと前を向いて立つだけだ





「ふん・・・」

ガルシアはこの視線一つ、言葉一つで
多くの臣下を恐怖に慄かせて(おののかせて)きた

先日の赤髪の高官、ヴェルメがいい例だ

だがこの二人は全くそんな素振りを見せない
そのことが面白くなさそうだった





 
「ああ、確かに帝国一の我が大国には、優秀な医師は大勢いる
 が、お前の弟を助けて ワシに何の得がある?
 お前の弟がどうなろうが、知ったことでは無い
 そんな話なら・・・・・・」


「もし、弟が死ねば・・・!」

シュリの強い声がガルシアの言葉を遮った




「もし、弟が死に・・・・
 私の守る者が一つでも欠ければ・・・・ 
 先日言った通り、私も即刻自害します」

シュリは立ったまま じっとガルシアを見下ろす




グラスを口へ運ぶガルシアの手が止まった

「・・・・それで?
 ・・・・だからどうした?」



「先日の披露目の宴でも この城の中でも、謁見公務でも
 私はもう数え切れない程 多くの者と顔を合わせた
 
 私は既に 近隣各国・・・ いや・・ 世界が認めるこの国の皇太子
 その私の死は、もう秘密に出来るものではない
 
 しかもこの国を救うはずの私が こうも早く死んだとなれば
 その動揺も、国外へ及ぼす影響も大きいはず

 弟がどうなろうが知った事ではないのなら・・・・
 アナタに関係の無い どうでもいい事だと言うのなら・・・・・
 ならば、許可を下さい 
 わかったと、一言・・・・
 そう言うだけで・・・・
 この国もアナタも 要らぬ憂いを避ける事ができる」



「ワシを脅すのか・・・?」

ガルシアの細い目が一層薄くなり、冷たい色を放つ




「どう思われようが、事実です」

その冷たい目をシュリはじっと睨み返した



「いきなり謁見だのと言うから、何かあると思ったが・・・
 なるほど、そういう意図あっての事か」





ガルシアはグラスを置くと ふう・・・ と
わざとらしく大きく息を吐いた

そして目を閉じ、テーブルを指で叩き始めた
コツコツコツコツと 忙しない音が響き続ける




そうして暫く考えていたが


「まぁいい、勝手にしろ」  




考える事さえ嫌になったのか、
それとも 弟は生かしておいて損はないと、そう思ったのか・・・
面倒そうに二人を一瞥(いちべつ)した後そう言った





「・・!!」

その言葉に シュリの目が輝いた
そしてやっと安心したように肩の力を抜いた




「・・・・だが!!」 

ガルシアが バンッ! とテーブルに手を突き、立ち上がる
シュリの眼前まで行き 仁王立ちになると顎に指を掛けた


「言っておくが、今回上手くいったからと言って調子に乗るな
 これは取引だ
 面倒なお前の頼みを聞いてやるのだ
 お前もワシの言う事を聞くのだ ・・・・・なんでもだ! いいな?」


そう言ってグイと自分の方へ顔を向けさせる



シュリは顎を持ち上げられたまま
酒の息を吐くガルシアの目を グッと睨んだまま小さく頷いた



「わかっている
 何でも言う事を聞く・・・・
 ただ・・・・ 本当に医師が遣わされたかどうか・・・・
 約束が守られているかどうか・・・・
 定期的に 弟の様子を、アナタではなく 直接、ラウから聞きたい」



ガルシアの シュリの顎を掴む手に一層 力が入る

「生意気な・・・・・
 だが・・・ まぁよかろう
 おい! ラウム! こっちへ来い」


シュリを見下ろしたまま、ガルシアがラウを呼ぶ





「話は聞いた通りだ、手配してやれ」

「はい」

側へ来たラウが頭を下げた





そのラウの返事に、ガルシアは フッと薄い笑いを浮かべた 



「ああー・・・ そうだ・・・・ラウム
 ・・・・・・例の鍵を出せ」

そう言って左手を差し出した






華燭の城 - 47 に続く
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華燭の城 - 47

「・・陛下・・・!」


ラウが驚き、顔を上げた
戸惑った表情を見せ、すぐに顔を伏せる



「ん? どうした?
 今日からはシュリに持たせる
 いつもお前が持っていろと、そう言ったはずだ
 早く出せ!」


「・・・・  はい・・・」

ラウは呟く様に答え、杖を床に置くと
ゆっくりと自分の首の後ろに両手を回し、掛けていた細い鎖を外した



その鎖の先には古い形の鍵がついている




「よかったな、ラウム
 これでやっとお前も解放だ、嬉しいだろう?」

ガルシアは ラウにそう言うと
その鍵を受け取り それをそのままシュリに差し出した




「・・・ これは・・・・・・」

「あの部屋の鍵だ」



ガルシアが顎で指す





ガルシアの視線の先
薄暗いが 今居る部屋の一番奥にもう一つ
鉄製の古い扉があるのが見えていた

その扉には大きな錠前が掛かっている





「これからは毎日、いつでもどこでも、いかなる時でも
 ずっとこのカギを身に着けていろ
 そして ワシが開けろと言ったら、すぐに自分で開けて中に入るのだ
 何でも言う事を聞くと言ったのだからな・・・・
 愛しい弟の為だ、できるのだろう?」

そう言ってニヤリと笑った




「では、早速行こうか・・・・」





「ラウ、 あの部屋はいったい・・・・」

シュリが傍らのラウに尋ねかけたが
ラウは黙ったまま静かに下を向いた




「行けばわかる」

ガルシアは グイと引っ張る様にシュリの腕を取り
部屋の前まで連れて来ると


「・・・・開けろ」

腕を掴んだまま 鍵を指し示した





シュリは渡されたばかりの鍵で その錠前に手をかけた
かなり古い物なのか、所々で金属が剥げ サビも浮き出ている

ザラザラと冷たい大きな鍵は
ガチャリ・・・・ と金属の音を響かせ その口を開いた


ガルシアが扉を押すと ギギギ・・ と軋んだ音がして鉄の扉が開く





ひどく古い 澱んだ空気が
やっと出口を見つけたかの様に一気に流れ出し 3人を包んだ




「・・・・んっ・・」

シュリは入口に立ったまま、そのカビ臭い空気に顔をしかめる





そのまま グルリと部屋を見渡した




そこは狭い部屋だった





壁の石が剥き出しなのは、今までの部屋と同じだったが
床も石のままで、照明も、窓もない

あるのは 薪の燃え屑が残った小さな暖炉の様な窯と
壁や天井から下がった滑車の付いた鎖

大きなテーブル程の木の台と、簡素な椅子が2脚
その台上に置かれた木箱と、そこに並べられた様々な道具の様な物
箱の横には蝋燭を立てる為の多くの燭台

水が出るのか、蛇口も壁から無造作に突き出ている




そしてわずかに残る血の匂い・・・・





「何・・・ なんだ・・・ ここは・・・・」

シュリはその血臭に 思わず口元を押さえた






華燭の城 - 48 に続く
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華燭の城 - 48

「ここはワシの快楽の部屋・・・・ 興を愉しむ部屋だ
 ここに入ったらまず窯に火をおこせ
 そして蝋燭に火を点けるのだ
 わかったら早くしろ」



ドンッ・・ とガルシアに背中を突かれ
シュリが部屋へと一歩、足を踏み入れた


が、無意識のうちに体が拒否しているのか それ以上、足が前に出ない



「どうした? 神の子よ
 怖いのか?
 ラウム、手伝ってやれ」

薄嗤うガルシアの声がラウに向けられた



ラウは無言のまま小さく頷くと、戸惑うシュリの後ろに歩み寄った



「シュリ様・・・・・こちらです」

促す様に一言だけ言うと、部屋の中へと進み
小さな暖炉様の窯の前で膝を付く




側にあった火掻き棒で 燃え残っていた古い薪を退け
床を作り、細い薪を積むと火を点けた

初めはくすぶり、煙だけを吐き出していたが
薪から やがてチラチラと炎が見え始めると
ラウは慣れた手つきで台の上にあった蝋燭へ次々と火を移し
燭台へと立てていく




ガルシアは ラウの動きを見ながら  ゆっくりと台に歩み寄ると
その上にあった箱の中から 細く黒い革鞭を手に取った

そして長年の埃を払うかのように それを振り上げると
小さく床を叩いた




・・・・・ビシッ・・・



ラウと、その作業を無言で見つめるシュリの後ろで
革の鞭がしなやかな音を立てた

ラウの背中が一瞬、ピクリと震える





「ラウム、それが終ったら・・・・ わかっているな?」

ガルシアの声に ラウがコクンと小さく頷く




作業が終わると ラウは小さく息を吐いた



蝋燭の灯りで照らし出されたその部屋は まるで牢の様だった

囚人を繋ぐ為の鎖、拷問するための器具・・・ 
そして、血の匂い・・・・

ガルシアの言う 興とは・・・・
シュリが思わず息を飲む





ガルシアはそんなシュリの後ろ姿を眺め、嬉しそうに笑うと
ラウに  「早くしろ」  と顎で指図する


ラウは黙ったまま シュリの手を取ると、
箱にあった鉄の腕輪・・・・ 幅広の手錠の様な物を
シュリの右腕のアザになっていた場所と同じ辺りに掛け
キリキリと締め付けた




「なっ・・・・ 何を・・・・ラウ・・・」

その冷たさと異様な感覚に シュリが嫌悪感を露わにする





「シュリ様・・・・ 辛抱してください」

ラウはシュリの左腕も同じように締め
部屋の中央に連れて行き立たせると
天井に付いた滑車から下がった鎖を下ろし始めた


ガラガラと音を立て下りて来た太い鎖の先には
フックの様な鉤状の金具が付いていた


その金具にシュリの腕の鉄輪を引っ掛けると
再びガラガラと鎖を引き上げる




「んっ・・・!」

シュリが驚いて天井を見上げる





徐々にシュリの両腕は持ち上げられ 
天井から吊るされる形になっていく


滑車の音が止まった時には、両足はつま先立ち 
やっと床に届いている程度だった
足の力を抜けば、両腕に体重がかかる

必死で立とうとするシュリのその足首にも
ラウの手で 腕と同じように鉄の輪が巻かれ
それは左右に開かれて、
少し離れた床から突き出た鉄輪に固定された




「・・・クっ・・・・・・!!!」

シュリが不安定に揺れる体を保とうと唇を噛む
天井から鎖で吊るされたシュリが ガルシアの目の前にあった






華燭の城 - 49 に続く
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華燭の城 - 49

「・・・どうだ? 
 この部屋がどういうものかわかったか?」


ガルシアは、吊るされたシュリの周りをゆっくりと歩きながら
上から下まで、その全身を舐め回すように眺めた
バランスの取れた、手足の長い体は、鎖で吊るされていても
その美しさを損なうことは無い

ガルシアは満足の表情を浮かべた

そして、大きな肉厚の手で シュリの身体を抱き寄せ
衣服の上から撫で始める






「まだまだ披露目が続くからな・・・」

ガルシアはシュリの耳元でそう囁くと 
耳朶を舐め、舌を差し入れた



「顔や・・・・ 見える場所は勘弁しておいてやる」

耳の中で湿った声が響く

その不快感にシュリは強く目を閉じ首を振った
体を捩り、逃れようとするが 
吊るされ、揺れて不安定な身体は思うようには動かない




「どうあがいても、無駄だ
 ここからは逃れられん」

再びガルシアの囁くような小さな声が耳の中でした




ガルシアはシュリの耳から首筋に舌を這わせながら、
シャツの隙間から胸元へ手を差し入れる
指で胸の先端をつまみ、ギリッ!と捩じり上げた



「んっ・・クッ・・・・」

痛みでシュリが天井を仰ぐ
それでも声を上げまいと唇を噛み締めた





「ほう・・・・ 耐えるか・・・・・
 どこまで我慢できるか・・・

 言っておくが、この部屋での我慢は 身を滅ぼすぞ
 ラウムの様に脚一本・・・・ で、済めばいいがなあ・・・・」





その言葉にシュリが驚いた様に目を開けた




・・・ ラウ・・・・!!?






ガルシアの少し後ろ・・・・ 自分の正面にラウが居た
俯いたまま左手でグッと杖を握り
右手は小さく拳を握り締めている




ラウの・・・・ 脚・・・・

部屋の鍵を持っていたラウ・・・・・・・

でもあの脚は 子供の頃からだと・・・・・・




子供・・・・ 

まさか・・・・   

まさか ラウも・・・・・・ 

・・・・しかも・・・ 

・・・ そんな頃から・・・・?



シュリはラウの子供時代など何も知らない
だがその頭の中で 今の自分と、
そしてまだ子供の、小さなラウの姿が重なり合っていく

鎖で吊り下げられた男の子・・・・
泣き叫び、暴れ、やめてと懇願する声は既に絶叫・・・・
それは国に残してきた弟とも重なり、
想像を遥かに超えた恐ろしい映像だった




「・・・まさか・・・・・・
 ・・・・・・・  ガルシアっ!!!  貴様っ!! 
 ・・・・ ラウに・・   ラウに何をした!!!」

体の底から湧き上がる怒りで シュリが叫ぶ




ガルシアに掴みかかろうと 渾身の力で繋がれた腕を振り解こうとした
冷たい鉄輪が腕に、足首に食い込み、
ガシャガシャと鎖と滑車がぶつかり、うるさく音を立てる




「・・・お前だけは・・・・!
 お前だけは絶対に許さんっ!!!!
 何があっても、お前だけは・・・・・!!」



「・・・・・ いけませんっ!!!」

その叫びを遮ったのは ラウの声だった



「シュリ様、いけません!
 ここでは・・・ 抵抗してはなりません・・・
 大人しくしていてください・・・・・」


絞り出すような そのラウの声に、ガルシアの大きな笑い声が響いた




「さすがだ!ラウム!  お前はよく判っている
 それでこそ 幼い頃より躾けた甲斐があったというものよ
 縛った痕が見えぬ様に、手首を避け腕を縛る辺りは 手慣れたモノよなぁ

 シュリ、お前も口の聞き方に気をつけろ
 そして、このラウムの様に従順になれ
 ワシを存分に愉しませるのだ」






ガルシアの、鞭を握った右手が
見せつける様に大きく振り上げられた

細く黒い革製の影がしなやかにうねる 
その姿は 暴れる蛇が獲物に飛びかかろうとする様に似ていた




---- ビシッッ・・・・・!! 



床を叩く乾いた音にラウは思わず目を背ける





15年前・・・・ まだ12歳だったラウの記憶が蘇る
ここで起きた事・・・・・
ここで受けたガルシアの行為・・・・・・
歩けなくなった日の事・・・・・・



そして悟ったのだ
ガルシアには逆らうな、、、と・・・・・






華燭の城 - 50 に続く
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プロフィール

凛

Author:凛
BL・MLを日々妄想してる腐女子

しかもかなりハード目が好きな壊れかけ

SM・拷問等の酷い描写が苦手な方は、ご遠慮ください

1作目 『刻印』
2作目 『華燭(かしょく)の城』 
完結しました。
ブログタイトル下のマップより全話読んで頂けます。
『刻印』の簡単な解説はこちら から


まだまだ初心者故、描写の至らない点
設定の矛盾は笑って見てください 

読みやすく・・と思っているので、長編小説ですが、各回短く、短文、1日1回UP予定です


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